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第十二章 邂逅
実技講義
しおりを挟む「美味しい。濃厚なのかと思えばさっぱりしてる」
注目を浴びながらもスルーして席につき、アリアネ嬢から先に飲むようおすすめされてシエルの実のジュースから飲む。
メロン味のジュースと聞いてドロリとしてる濃厚な感じかと思えば、果実水のように水で割ってあるらしくサラリと飲める。
「濃厚タイプと果実水タイプのどちら派ですか?」
「濃厚も好きですが、量が多いと途中で飽きてしまって」
「ああ、飽きるのは確かに」
「水分補給をするなら果実水タイプですね」
濃厚タイプは味が濃いから満足感はあるけど、あまり量が多いと後半になるほど嫌々飲むことになる。
反対に果実水タイプはさっぱりしていてゴクゴク飲めるから、喉が渇いている時には果実水がいい。
「こっちのジェネルーはどうだ?」
「失礼して」
レオポルトが持っているジュースに顔を近付けて一口貰う。
「え、美味しい」
日本にもあったミカンジュースだと侮っていたけど美味い。
ストローを通って口に入った大きめの粒も美味い。
しっかりミカンジュースなんだけど、くどさや渋みなどは一切ない。
「ラクの実のドリンクもどうぞ」
「ありがとうございます」
アリアネ嬢からも一口貰って飲む。
ラクの実は王城でも出てくるシャインマスカット風の葡萄だ。
「そのまま食べる時とはまた違う印象ですね」
「あれ?ラクの実は食べたことがあったんですね」
「アルク国に来て初めて食べました。一粒が大きくて果肉もぎっしり詰まっていて皮ごと食べても美味しかったです」
来賓室に用意されていた果物はどれも美味しかったけど、一番美味しいと思って手を止めたのがラクの実。
「あ、それで」
「それで?」
「メテオールが食べたラクの実は恐らく最高品質の商品だと思います。ドリンクに使うのはそれより少し品質の落ちる皮が固めのラクの実ですから印象が違うんじゃないかと」
「そうなんですか」
なるほど。
王城で出てくる果物だから最高品質で間違いない。
皮ごと食べてもという情報で即座に品質が分かるのが凄い。
「好きな味を選ぶといい」
「よろしいのですか?」
「私とアリアネは毎日のように果物を食べているからな」
「ではありがたくジェネルーをいただきます」
「どうぞ」
レオポルトからジェネルーのジュースを受け取る。
アリアネ嬢は自分が選んだラクの実のジュースを選んで、残ったシエルのジュースをレオポルトが飲むことになった。
先に女性に選ばせて自分は残り物とかレオポルト紳士だな。
俺も中身は男だから少し申し訳ないけど。
皿にとってきた果物も三人で分けて食べる。
アルク国の領域の方が果物を育てるには適しているのか、ブークリエ国にもある果物でも大きさや甘さに差がある。
「メテオール?」
「あ、すみません。考えごとを」
人族の口に合うかどうかを知りたいと言っていたアリアネ嬢に果物を食べて感想を言ってと繰り返している内に、この果物はケーキに合いそうとかゼリーにしたら良さそうとかフレーバーティーならこれとか、カフェメニューのことを考えていた。
「満腹なのではないか?体が小さいのだから少食だろう」
「だから兄さま言い方」
「大丈夫です。自分でも小さ目だと思っていますから」
雌性体の俺の身長は同じ歳のころの人族女性と比べて小さ目。
元の姿の時は反対に精霊族の中でも背が高いんだけど。
「果物を育てている方からすると加工するのは邪道ですか?」
「加工?」
「例えばですがお菓子の生地に混ぜたり。生産者としては精魂込めて育てた果物はやはりそのまま食べて欲しいのかと」
「全く気にならない。美味しく食べてくれればいい」
「そうですか」
気にならないと聞いて安心した。
もちろん生産者の中には下手なことをせずにそのまま食べて欲しいと思う人も居るだろうけど。
「生産者として悲しいのは廃棄されることです。うちの商会は現状で生産量を減らしていますから、ブークリエ国に進出した際には美味しく召し上がってくれたら嬉しいと思っています」
ああ、分かる。
俺は生産者じゃないけど、料理を作っても話に夢中で食べて貰えなかった時の料理人のガッカリした姿も見たことがあるし、加工することより廃棄される方が悲しいというのは分かる。
「生産量を減らさなくてはいけない状況にあると」
「うちから購入してくださる貴族家は少ないですから」
よほど根強い嫌悪感があるのか。
いや、見方を変えれば、嫌悪感などではなく貴族家が購入するような品質に達していないという可能性もあるけど。
買うなら美味しい方がいいのは貴族も一般国民も同じだ。
「あ、チャイム」
「私たちもグラウンドに行こう」
「はい」
授業開始の十五分前を報せる予鈴が鳴って、カフェの中やテラスに居た生徒たちもまだ会話を楽しみながらも立ち上がる。
体験入学の俺たちもジュースを飲み干して残りの果物も食べきってから返却口にトレイを返してカフェを出た。
「そういえば話題を蒸し返すようで申し訳ないのですが、先程の方々とお二人は相識の間柄なのですよね?」
「初級科の時に私と同じ科に居た三人だ」
「級友だったのですか。その頃からあのような態度を?」
「ああ。私は家庭の事情で一年休学してアリアネと同じ年に卒業したが、一足先に卒業していたあの三人もアルク校に入学していたようだな。初級科の頃にも下賎貴族と罵られていた」
グラウンドに向かいながらもさっきの三人組の話を聞く。
思い返しても、アリアネ嬢が先にトレイを置いたのに図々しく座って席を横取りするとは太い野郎たちだった。
「人族にも貴族が一般国民を見下したり爵位が下の者を見下したりと身分での差別はありますが、親ではなく子が集まる学び舎の中でさえも身分での差別がおきるのですね」
爵位を持ってるのは親であって子じゃないんだけど。
種族間の差別と同じく簡単に無くなることはないんだろう。
親を見て子は育つ。
親の悪い部分を反面教師にできる子供の方が稀。
「わあ。広い」
「立派なグラウンドですね」
整備の行き届いた広いグラウンド。
体操服(この世界では活動衣と言うらしい)の生徒の姿も既にちらほら見られる。
「合同実技と言っていましたよね」
「解放日は体験入学者がどちらの実技も見れるよう合同で行うらしい。とは言え全生徒が集まっては人数が多すぎるために魔法塔や闘技館で別々に実技を行うクラスもあるようだが」
「お詳しいのですね」
「体験入学に来ることを決めて卒業生の両親から教わった。卒業して何十年と経っているが基本は変わらないだろうと」
カフェテリアのこともそうだったけど、体験入学に来る前にここの卒業生の両親が二人に色々と教えてくれたからパンフ(らしきもの)に載っていない内容のことでも知っているのか。
「素晴らしいご両親ですね」
「ありがとう」
思春期の男子なら両親を褒められたら照れ隠しでわざと悪口を言いそうなものだけど、微笑と「ありがとう」という感謝の言葉だけでサラリと返すところがスマート。
二人にとっても自慢の両親なんだろう。
本鈴が鳴るまで待つ間にも続々と在校生が集まる。
合同の実技は気になる人が多いのか、制服姿(今通っている学校の制服)の体験入学者も集まってきた。
これはアリアネ嬢やレオポルトと一緒に来て正解。
また家族と一緒の体験入学者の中でぼっちの状況に心を抉られるところだった。
集まった在校生や体験入学者やその家族から注目を浴びる。
英雄色の髪と瞳をしたあの娘は誰なのか、この世界で唯一のはずの英雄色をしているということは親族なのか。
英雄と共に異世界から召喚された親族が居たのだろうか。
というように、今頃みんな頭の中では俺の正体が何者かの様々な可能性を考えているんだろう。
その中で俺が英雄本人だと気付く人は何人居るのか。
精霊族に性別を変えられる魔法はない。
その常識をまず壊さない限り永遠に答えには辿り着けない。
「メテオール嬢。大丈夫か?」
「お辛ければ他の講義に変更しましょう」
心配そうに俺を見たレオポルトとアリアネ嬢。
何が大丈夫なのかと思って気付く。
興味本位でジロジロ見られて不快なんじゃないかと心配してくれているんだと。
「大丈夫です。私は今のこの髪と瞳の色を気に入っておりますから。銀糸のようで美しいでしょう?」
髪を手にしてサラサラとして見せると二人はくすりと笑う。
「確かに美しいな」
「メテオールによく似合ってます」
人のいい兄弟。
俺と行動を共にしているんだから少し踏み込んだことを聞ける状況にありながら何も聞いてこない。
そして興味津々な人の視線から俺を隠してくれている。
もし本当に俺が学生だったなら、この二人とは友達として仲良くできただろう。
「かなりの人数になりましたね」
「実技自体はクラス毎にやっていて他の時間でも見れるが、魔導科と訓練科で行う合同実技の時間は決まっている。だから見学に来た体験入学者が多いのだろう」
「なるほど」
三人で話している間にも講師だろう大人たちも集まり、在校生と体験入学者と保護者でかなりの人数になったグラウンドを見渡しているとレオポルトがそう教えてくれる。
たしかにどちらの科を希望するにしても両方の実技講義を見れるこの時間は体験入学者にとって貴重な時間か。
納得したところで本鈴が鳴り、集まっていた講師陣の中から三人が指揮台(朝礼台)にあがった。
「本日の講義の前半は魔導科と訓練科に分かれ各々の実技講義を行い、後半には魔導科と訓練科合同での練習試合を行う。体験入学者は見学も参加も自由。不明な点は補佐のビオ講師に」
体験入学者の保護者へ軽く挨拶をしたあと早速本題。
体育教師っぽいガタイのいい男性講師が拡声石を使って話す。
指揮台に上がった三人の中の一人は俺を学長室へ案内してくれたビオ講師だった。
「メテオール嬢はどちらの科の見学を希望する?」
「私は魔導科の実技講義を」
さっきの講義で知った魔力点というものを探ってみたくて実技を見学に来たから、俺が選ぶのは当然魔導科の実技講義。
「魔導科でしたら私と同じです。一緒に見学しましょう」
「私も最初は魔導科の講義を見学する」
「兄さまは訓練科の入学を希望しているではないですか」
「ああ。途中からは訓練科の実技講義を見学するつもりだ。どちらの科の実技講義も見れる機会なのだから両方見学する」
今の会話から判断するなら、レオポルトは訓練科、アリアネ嬢は魔導科の入学を考えてると言うことか。
初等科は基礎を学ぶ学校だから科が分かれてないけど、今後は別々の科に入学して学んで行くことになる。
尤もアルク校は一つの巨大な敷地内に魔導科と訓練科があって棟が分かれているというだけだから、一緒に登校したり食事をしたりも出来るけれど。
「魔導科の実技講義を希望する体験入学者はこちらへ」
そう声をかけたのはビオ講師。
訓練科の見学を希望する体験入学者にはまた別に男性講師が声をかけ、広いグラウンドを半分に分けて行うらしく先に移動する生徒に続いて俺たち三人はビオ講師の後を着いて行った。
「本日の講義では命中率をあげる実技を行う」
前に集まっているのは在校生。
体験入学者(保護者含む)はその後ろで講師の話を聞く。
魔法塔や闘技館で別に実技を行うクラスもあるとレオポルトが言っていたように在校生の数はそれなりだけど、保護者同伴で来てる子が多いとあって後ろの体験入学者の集団の方が多い。
「まずは基礎から。十名ずつ的に向かって魔法を撃って貰う」
男性講師が指さしたのはダーツのような的。
それが十個、等間隔で横一列に並んでいる。
在校生にとっては普段からやっている実技なのか、すぐに十列に分かれて並んだ。
列のそれぞれにバインダーを持った講師がついて実技開始。
既に学んでいる在校生だけあって難なく魔法を使う。
使う魔法の種類は自由でいいようだ。
「あの的には耐久力をあげる魔法をかけてあるのですか?」
「ん?人族の訓練校ではあの的を使わないのか?」
「初めて見ました」
だって訓練校に行ったことがないから。
俺が初めて見ただけで人族の訓練校でも使ってるのかも。
「あの的は魔法や剣の攻撃でも壊れないよう元から強い材質で作られていて、講師の物魔防御もかけられている。アルク国では初等科でも使われている的で特別珍しい物でもない」
「そうでしたか」
やっぱり物魔防御がかかってるのか。
火魔法を使っても燃えないからもしかしてと思ったけど。
「ブークリエ国では違う的を使っているのですか?」
「私は訓練校に通っていないので分かりません」
「え?そうなんですか?」
「アルク国は裕福ですから初等科から通う人も多いのだと思いますが、ブークリエ国で初等科に通うのは金銭的に余裕のある貴族家や商家だけで、大抵は中級科や上級科に入学します」
ってロイズが言ってた。
初等科は基礎の基礎しかやらないからあえて行かず、自分で力をつけてから中級科や上級科に入学する人も居るらしいけど。
「アルク国でも上流貴族の子どもは家庭教師を雇い入れて個人で学ぶ者も居る。メテオール嬢もそれではないか?」
「ああ、それで」
やっぱりアルク国では初等科から学ぶ人が多いのか、それが訓練校に通っていない理由かと納得した様子のアリアネ嬢に微笑んでごまかした。
それにしてもお綺麗な魔法を使う人が多い。
あのザコ虫たちの魔法士と同じ。
形は物凄く綺麗だけど中身がスカスカだから威力がない。
正直、威力だけで言えばガルディアン孤児院の子の方が強い。
「みなさん加減をしているのでしょうか 」
そう口を開いたのはアリアネ嬢。
「ああ。講義中は危険のないようそうしているのかもな」
レオポルトもアリアネ嬢にそう答える。
「つまりお二人には加減しているように見えていると?」
「え?はい」
「メテオール嬢は違うのか?」
「いいえ。私も形ばかりお綺麗な魔法だと思っております」
この二人、もしかして。
「私たちも参加しませんか?参加自由と言ってましたし」
「そうですね。せっかくの機会ですから」
「私は魔法はあまり得意ではないんだが」
「使えない訳ではないのですよね?」
「火と風の適性は持っている」
「じゃあ是非一緒に」
加減しているように見えている二人の実力が見たい。
二人の手を繋いで体験入学者の集団の中から出る。
「ビオ講師」
「メテオールさん」
不明な点はビオ講師までと体育会系マッチョの講師が言っていたから、集団から出て真っ先に声をかける。
「私たちも参加したいのですがよろしいですか?」
「もちろんです。自主的に希望してくれて嬉しいです」
体験入学者には後で希望を聞くつもりだったのか?
たしかに遠慮して言い出せない人も居るだろう。
「お二人はレオポルトさんとアリアネさんでしたね」
「「はい」」
レオポルトとアリアネ嬢もビオ講師が案内したのか、名簿を見て二人にもニコリと微笑む。
「並ぶ列はどこでも構いませんか?」
「私はどこでも」
「私たちもどこでも構いません」
「では目の前の列に並んでください。講師に話してきます」
「よろしくお願いします」
左から6列目。
講師のところにビオ講師が走って行ったあと俺たちも並ぶ。
「お二人が先にどうぞ」
「メテオール嬢が先に」
「私は最後にします。お二人の魔法を見たいので」
顔を見合わせるレオポルトとアリアネ嬢。
「ふふ。メテオールは魔法が好きなんですね。楽しそう」
「迷わず魔導科の実技を希望したくらいだからな」
いや、二人の実力を見るのが楽しみなんだけど。
そんな本音は隠して笑って返した。
「お名前を伝えて来ました」
「ありがとうございます」
戻ってきたビオ講師にお礼を伝える。
「魔法であれば属性は問いません。障壁をかけてありますから的から外れても大丈夫ですので気にせず参加してください」
「はい。ありがとうございます」
そういえば命中率の実技講義だったな。
だから加減して魔法を使っている生徒も居るんだろうか。
「私たちも加減した方がいいでしょうか」
「加減?」
「はい。威力より命中率を重視した方がいいのかと」
そう聞いたのはアリアネ嬢。
ビオ講師はアリアネ嬢と魔法を使っている生徒を交互に見る。
「講師はどちらを重視するようにとは指導しておりません。もちろん威力のある魔法を命中させることがベストです」
どうするかは生徒の自由と言うことか。
この中に加減してる生徒が居るんだとしても、それは生徒自身が考えて命中率を優先していると言うこと。
「分かりました。頑張ります」
「ふふ。テストではありませんから気負わずに」
ビオ講師も気付いたんだろう。
加減して見えていると言うことは、少なくともそれ以上がアリアネ嬢の普通であることに。
そして得意ではないと言ったレオポルトも同じく、これ以上の威力であることが普通の認識。
「緊張してきた」
「いつも通りにやればいい」
準備が近くなって緊張してきたらしいアリアネ嬢にレオポルトは苦笑する。
「お二人は普段から魔法を使っているのですか?」
「果樹園や畑を荒らす魔物を倒さないといけないので」
「うちの経営状況では警備を雇って常駐させるのは厳しい。家族で協力しあわなければ魔物から果物を守ることが出来ない」
「なるほど」
小声で教えてくれたそれを聞いて納得。
二人とも学生ではあるけど既に魔物との実戦経験があるから、形ばかりお綺麗な威力のない魔法がわざと加減しているように見えているんだと。
それから数人が終わって俺たちの番。
「君は体験入学の……レオポルト君かな?」
「はい」
一番手はレオポルトから。
ビオ講師から先に名前を聞いていた男性講師が声をかける。
「初等科に通っていたようだが、魔法は使えるか?」
「はい」
「では基礎を教える必要はないな」
そう話して男性講師は地面に引かれている白線よりも数歩前に足で線を引く。
「大体このくらいが初等科で行っている実技講義の位置だ。体験入学の君たち三人はこの線からでいい」
「講師。私たちも在校生と同じ白線からでお願いします」
的に近く引き直した男性講師を止める。
まだ初等科を卒業しただけの体験入学者への気遣いだとは分かっているけど。
「ほう。君の名前は?」
「メテオールと申します」
「上級科が行う実技の位置でも届く自信があると」
「こちらの列は上級科だったのですか?」
あえて上級科の列を選んだな?
付き添ってるビオ講師を見るとニコッと笑みが返ってくる。
まあ気持ちは分かる。
俺もこの二人の実力を知りたい。
「レオポルトさま、アリアネ、届きますか?」
「ああ。問題ない」
「私も大丈夫です」
「ということですので、どうぞよろしくお願いします」
スカートを少し摘んで男性講師にカーテシーすると笑い声をあげられる。
「いいだろう。やる気のある者は大歓迎だ」
生徒の自主性を優先してくれるいい講師だ。
レオポルトが白線の手前に立って、アリアネ嬢と俺は少し後ろに下がった。
「上級科が的を狙う回数は十回。使う属性は問わないが、魔力が尽きないよう自分の魔力量には注意して魔法を使うように」
「分かりました」
なるほど。
それで加減して魔法を使っている生徒も居たのかも。
魔力量の少ない人なら十回は結構な消費量になるから。
「よろしくお願いします」
レオポルトが使ったのは火属性魔法。
野球ボールサイズの火の玉を連続で的に撃ち込む。
「うん。効率がいい」
必要以上の魔力は使わないよう狙って野球ボールサイズに限定してるし、発動もなかなか早く、小さくとも威力がある。
お綺麗なだけじゃない実戦型の魔法だ。
「終わりました」
「つい先日まで初等科だった者が全て命中させるとは」
「素晴らしいです」
十回撃ち終えて男性講師は唸りビオ講師は拍手する。
たしかにまだ中級科にも入学していない若者の命中率や威力とは思えない。
「素晴らしい実力だった。君なら最初から上級科の入学を目指してもいいだろう。もし座学が心配であれば一度中級科に入学して、必要なことだけを学んで飛び級制度を使うのも手だ」
「ありがとうございます。両親と話し合ってみます」
男性講師はそう話してレオポルトの肩を叩く。
他の生徒たちが魔法を使う姿も見ていたけど、実技だけで言えばレオポルトは間違いなく上級科で通用するだろう。
「では次は私が。頑張ってきます」
「はい。頑張ってください」
両手を握られて笑みで答えると、アリアネ嬢も満面の笑みで返してきた。
「魔法が得意でないとは謙遜し過ぎでは?」
「事実だ。両親やアリアネのようには使いこなせない」
アリアネ嬢と交換で戻ってきたレオポルトに言うと、そんな返事が返ってくる。
「君は何の属性魔法を使う?」
「私は水属性を使います」
「よろしい。では自分のタイミングで始めてくれ」
「はい」
男性講師と会話したあとアリアネ嬢は深呼吸をする。
そして右手で水球を作ると的に向かって撃った。
「なるほど」
レオポルトが言ったことを理解する。
たしかに妹の魔法を見れば自分が劣っていると感じるだろう。
的が傾くほどの威力がある水球の連続に在校生まで手を止めて見ている。
「彼女は一体」
名簿を確認する男性講師に耳打ちするビオ講師。
「ああ、彼女がそうだったのか」
何か事前に情報が入っていたのか男性講師は納得する。
「アリアネは初等科の実技テストを満点で卒業した」
「そうでしたか」
ビオ講師が耳打ちしたのはそれか。
だから実力があることにも納得できたと。
と言うことは最初からビオ講師は二人の実力を知っていて上級科の列に並ばせたと言うことだ。
「君たち兄妹の実力を知らず初等科の位置からと言ったことを詫びよう。まだ荒削りではあるが君たちの才能は素晴らしい」
「あ、ありがとうございます!」
嬉しそうなアリアネ嬢を見てレオポルトも微笑む。
妹思いのいい兄さんだ。
「さて、最後は君だ」
「はい。よろしくお願いします」
「そちらの二人と違って君の情報は一切ない。その理由は問わないが、白線の位置は変えた方がいいかな?」
「届くと思います。恐らく」
そう答えるとまた声をあげて笑われる。
「もっと遠くていいと言われるかと思ったが謙虚だな」
「あら。的を壊さないよう頑張ります」
「構わないよ。どちらにしても講義が終われば捨てるものだ」
「そうでしたか。安心しました」
俺が英雄だとまでは気付いてないだろうけど、二人以上に魔法を使えることは分かっているのだろう。
「私がこの実技に参加したのは魔力点を探るためです」
「ほう。上級科の座学を受けたのか」
「つい先ほど」
「ちなみに私の魔力点はココだ」
手首を指さした男性講師。
「大抵の者は腕であることが多いが、魔法を実際に発動させる手のひらにより近い方が優位だ。止めたあと手のひらまで再び魔力を流す距離が短い方が連続で撃てるからな」
「なるほど」
たしかに連続で撃つなら手のひらに近い方がいい。
流す距離が短い方が当然二発目の発動も早くなる。
「魔力点の位置は訓練次第で手のひらに近付けて行くことも出来るが、君は手のひらで止める意識をしてみるといい」
「最初からですか?」
まずは止められるかの段階だろうにと思って聞くと男性講師が近付いてくる。
「魔法に自信がありそうだからな。つまり普段から使い慣れていると言うこと。君には学生の実技などお遊びだろう?」
そう言われて苦笑する。
まあたしかに使い慣れてるけど。
「では何の属性魔法を使う」
「二人とは別の属性……聖属性にします」
「聖適性があるのか。よろしい」
男性講師がビオ講師の隣に戻ったのを見て魔力を流す。
手のひらで止めるイメージをして魔力を身体中に巡回させるとピタリと手のひらの中心で止まった。
「……これが魔力点か」
本当に魔力の流れが止まった。
今までは手のひらまで流したらすぐに魔法を発動させないといけなかったのに。
「では参ります」
光の矢を連続で作って的に撃ち込んで行く。
効率的には十本一気に作った方が早いけど、たしかに魔力の消費は抑えられている気がしなくもない。
今は講義中だから一気に十本作った時と比べられないのが残念だけど。
「終わりました」
十本撃ち終わって男性講師とビオ講師を見る。
「彼女は訓練校に通う必要はないな」
「ええ。講師の方が教わる立場になってしまいます」
苦笑する男性講師とビオ講師。
周りもシーンとしていることに気付いてハッとする。
かなり加減したつもりだったけど駄目だったか。
「凄い!メテオールは天才です!」
「ああ。本当に物魔防御のかかった的に穴を空けるとは」
後ろから抱きついたアリアネ嬢と笑みで肩を叩くレオポルト。
二人の声で周りも騒がしくなる。
「ただ穴を空けただけではない。全て中心に当てている」
弾き飛んだ的を持ってきた男性講師は中心を指さす。
「命中率、威力、発動の速さ。全てにおいて申し分ない」
「天才と言うことですよね!?」
「天才……そうだな。実技に関して言えば彼女が魔導科で学べることはない。望むなら王宮魔導師の推薦状を書こう」
「王宮魔導師……凄い!」
自分のことのように喜ぶアリアネ嬢に苦笑する。
正体を知らせてない罪悪感が凄い。
「王宮魔導師になるつもりはありません」
「え?そうなんですか?勿体ない」
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「はい」
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そもそも英雄が王宮魔導師にはなれないけど。
「ということでお気持ちだけいただいておきます」
「承知した。望まないことはしない」
「ありがとうございます」
俺は公務として訓練校を見に来ただけ。
生徒や講師たちの素の様子を見るために雌性体で来たのに、思った以上に加減できず大事になってしまってヒヤッとした。
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元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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