ホスト異世界へ行く

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第十一章 深淵

治療初日

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夜に報告会議をした翌日。
午前中はアルク国王の体調管理に携わる随行医と魔法医療師と師団長と俺で集まって今後の治療計画をたてた。

午後からは俺が滞在中にアルク国で行う公務を決める会議。
元から決まっていた大聖堂への訪問はそのまま予定通り翌日に行い、その際に残りの負の気の浄化を行うことについては師団長が教皇に話を通しておくということで決定した。

大聖堂に訪問した翌日は教育機関の訪問。
このアルク国の王都にある訓練校と魔導校に行く。
その翌日の予定は俺の希望で孤児院への訪問が決定した。

いざ治療をしてみないと滞在期間の目処もたたないから決定したのは直近の予定だけではあるけど、日中は公務に出て夜には治療をする生活が少なくとも数日間は続くことになる。


そしてその日の夜。

「陛下。お加減はいかがでしょうか」
「体力はやはり少し衰えていると実感したが、食事もしっかりと摂って動くことも出来ている。体力以外は健康そのものだ」
「左様でございますか。今はご無理なさらずお休みになって体力の回復を優先していただければ」
「ああ」

寝室にはアルク国王と俺の二人。
隣室の控え室には休憩中の護衛騎士が数名、廊下にも護衛中の騎士二人が立っているけど、寝室の中は人払いされていて防音魔法もかかっている。

「では早速ですが治療を行いたいと思います」
「よろしく頼む」

治療と言ってもやることは一つ。
ここに来る前に入浴も済ませて着替え易い軽装できた。

「本日は治療初日ですので様子を見ながらにいたします」
「承知した」

雌性体になってから体が縮んで緩んだ服を脱ぐ。
初日の今日やってみてアルク国王の体が反応しない場合は何か方法を考えないといけない。

「……本当に女性の身体になっているのだな」
「はい。ただ一つ、受胎はいたしません」
「胎児を宿す器官はないということか?」
「ございますが、この恩恵は長くて二日しか持ちませんので」
「ああ、女性のままでは居られないということが理由か」
「左様にございます。ですのでこの治療を行っても陛下の御子を授かることはございませんのでご安心ください」

国王の子供=王位継承権を持つ者。
王妃でも側室でもない者が懐妊したとなれば一大事になる。
俺のように不妊なら別として既に子供が居るアルク国王は少なくとも不妊でないことは間違いないから、やるとなればそれも頭を過ぎるだろうと思って先に話しておいた。

「それは残念だ。その時には寵妃として迎えたのだが」
「え?」
「冗談だ。閨を共にする際にまで言葉や態度を取り繕う必要はない。不敬罪になど問いはしないから英雄エローらしく気楽に振舞ってよい。私もこのような時にまで普段の国王の顔は保てんぞ」

フッと笑われ苦笑する。
冗談を言えるだけの心の余裕ができたことはいいことだ。

「では私のことはシンとお呼びください」
「なんのために?」
英雄エローの時には英雄エローの顔がございますので。私らしく振る舞うには名前でお呼びいただかなくては」

広いベッドに乗ってアルク国王の寝衣に手を伸ばす。
俺が入浴を済ませてから来たように、この時間とあってアルク国王も入浴を済ませてあるようだ。

「それで言うと私のことはカミロと呼ぶのか?」
「陛下は陛下にございます」
「私にだけ呼び方を変えさせるのは不公平であろう」
「一国の王をご尊名でお呼びする訳には」
「ブークリエ国王を名前どころかと呼ぶ者がか?」

なぜそれを。
もしかしてもしかしなくても俺がポロッと洩らしたのか。
アルク国王の前では絶対に言ってないという自信はない。

「貴殿の意図するところは、閨の最中には英雄と国王という身分を忘れた方が互いにやり易いということだろう?」
「ご明察の通り」
「では私のことはカミロでよい。私も貴殿をシンと呼ぶ」
「承知しました」

国王を相手にすれば否が応でも気を遣う。
逆にアルク国王も保護法に守られた俺には気を遣うだろう。
だから、不敬罪に問われないなら閨の最中だけはフラットな関係でいた方がお互いにやり易いんじゃないかと思った。

振る舞う許可を出したことを後悔なさいませんよう」

それだけ言って寝衣をはだけさせた胸元に唇を寄せた。





「体調はいかがですか?痛みはありますか?」
「ない。が」
「が?」

一通りのが終わってまだ横になったままアルク国王に確認すると、と付いたまま会話が止まる。

「異世界はあのようなことをしたりされたりするのが通例なのか?それともシンが特殊なのか?もしくは私が無知なのか?」
「あのような?……ああ」

カルチャーショックを受けているアルク国王。
王家の性行為はが常識らしく(ブークリエ国の王家はどうなのか知らない)、しかも積極的に行動してくれるビッチにも耐性がないようで最中もあらゆる面で驚いていた。

女性は最後まで慎ましく美しく従順に。
男性は女性を優しく扱いタイミングを見計らって子宝を残す。
性行為の目的が〝王位継承者を遺すためのもの〟として扱われている王家ならではなのかも知れないけど、王家の王子も妃になる人も一定の歳になってから性行為を学ぶ時にそうとしか教わらないというんだから驚き。

それが常識だけに、自分から積極的に行動したり体液を摂取させるためあらゆることを俺に驚くのも当然。
俺からすれば性行為なら誰でも当たり前にするだろうことをしただけなんだけど。

「貴族家のご令嬢として慎ましく生まれ育った王妃殿下は別として、王宮妃にもあのような行為をする者は居ないのですか?彼女たちは一般国民だと二妃から教わったのですが」
「ああ、以前に会ったのだったな。その節は二妃の許可なく宮殿へ押しかけシンにも迷惑をかけたようですまなかった」
「構いません。話して分かってくれましたし」

彼女たちを責めるつもりはない。
あれからどうなったのかは知らないけど、王宮に暮らしている者としての礼儀をしっかり学んでいればいいけど。
色々と苦労していそうな王妃たちのために。

「王宮妃は寵妃とされているが、貴族家に使用人として務められるよう正しい礼儀作法を学ぶ場としての意味合いが大きい」
「え?では肉体関係はないということですか?」
「いや。そこは正直に話すが中には居る。だがそれは数名で、殆どの者は手付きにならないまま期間が終われば宮殿を出る」
「そうなんですか」

寵妃と聞いて肉体関係があるものと勝手に思ってたけど、全員が全員アルク国王のお手付きではないらしい。
何十人も居るんだからそれもそうか。

「そもそも私は正式な寵妃を迎えていない」
「王宮妃が寵妃なのですよね?」
「形式上は。国の政策とはいえ王宮に外部の者を入れるのは理由が必要なため寵妃としているだけで、王宮妃の面接は国の機関が行い私は後から紹介を受けるだけで一切関わっていない」
「本当に政策」

寵妃と聞くと国王の好みが揃ったハーレムな印象だけど、国の機関が面接して決めると聞くと一気に政策の一つっぽくなる。
たくさんの寵妃を抱えて元気(主にシモが)な国王だと思ってたけど違ったようだ。

「寵妃とは国王自身が何かしらの意味合いで選び迎えた者。もし私が正式に寵妃を迎え入れた際には、王宮妃たちの暮らす宮殿ではなく王妃と同じ待遇の個別の宮殿で暮らすことになる」
「そう聞くと寵妃とは全くの別物ですね。王宮妃は礼儀作法を学べる学校に入って寮で暮らしている学生のような印象に」
「その通り。だから私も寵妃になりたいのではなく礼儀作法を学ぶことを目的に入った者を手付きにはしない」

国の政策で礼儀作法を学びに来ている王宮妃に権力はない。
だけど寵妃は王妃ほどではないものの個別の宮殿が与えられて特別に扱われるんだから、全くの別物といえる。

「話が逸れたな。先ほどの問いに答えると、居ない。少なくとも私と閨を共にした数名の中には居なかった」
「みんな慎ましいのですね」

そもそも精霊族は魔族と比べても肌の露出すら控える人が多い人種だから、性行為も消極的な人が多いのかも知れない。
そう考えると俺に堂々と性奴隷にしてくれと頼む例の超絶変態はかなり貴重な存在。

「慎ましい女性の方がお好きでしたら合わせますよ?」
「いや、ただ初めてのことに驚かされただけだ。それしか手段が無かったとはいえ年の離れた私の相手をさせているのに不満などない。むしろ知らなかった頃に戻れるのかの方が不安だ」

そんな話を聞いて笑う。
こうして話しているとアルク国王も一人の男。
経験したことのない行為に驚きはしていたものの決して嫌がっていなかったことは、いや、むしろ気に入ったと知っている。
ちなみに積極的なビッチは俺も好き。

「陛下。体調が問題ないようでしたらお背中を流します」

治療初日であることと体力が落ちていることを考え情事後も少し様子を見たものの具合が悪そうな様子もなく、大丈夫そうだと思って背中を流すことを話しながら体を起こす。

「もう名前で呼ぶのはやめたのか?」
「本日の治療は終わりましたので」
「寝室を出るまで治療中だろう。護衛たちはそう思っている」

たしかに護衛は治療中だと思ってるけど。
からかっただけらしく振り返った俺を見てアルク国王は笑うと体を起こす。

「私は後にしよう。先に流してくるといい」

そう言いながら肩にストールをかけてくれた手が体に触れる。

「……熱い?」

ハッとそのことに気づいて額に手のひらを重ねると温かい。
熱があるようだ。

「横になってください。いつから熱が」
「体が熱くなり始めたのは終わって話している最中だ」
「異変を感じた時には言ってください。魔法検査をかけます」
「また手間をかけてしまうな」
「治療の影響でしょうから」

高熱というほどではないけど体が熱い。
アルク国王に寝衣を羽織らせてから俺もベッドから降りて体にシーツを巻いて魔法検査をかける。

「肌の露出はお目こぼしを。熱の原因を調べたいので検査を優先させてください」

王家の前で肌を晒すことは不敬と言われているけど、今は熱の原因を知ることの方が優先だから見逃してほしい。

「今更だろう。今の今まで全て晒していたではないか」
「今までは閨の最中でしたから。不敬をお許しください」
「そのヒトとは思えぬ美しい姿を見せられて不敬などという言葉が真っ先に思い浮かぶほど私は出来た国王ではない」

美しい云々は別としてヒトでないことは確か。
俺の種族に『人』の文字はもうないから。
同性には一切興味がなさそうなアルク国王が女体化しただけの俺でもすんなり反応できたのは、俺が『ヒト』という括りを超えた神魔族であることが関係しているのかもしれない。

「お顔に出されないので不調に気付きませんでした」
「こう見えても国王なのでな。表に出さないよう振る舞うことには慣れている。尤も、武闘本大会で魔素に振り回され正常を保てない失態を見せておきながら言っても説得力がないが」
「あの時は例外だったことはもう理解しております」

国王のおっさんも大会中のアルク国王の様子に疑問を持っていたようだし、第一妃も病の兆候としてその時のことをあげた。
魔素の影響で正常を保てない時と何とか踏みとどまっている時があって、絶対におかしいとは確信がもてなかったんだろう。

【ピコン(音)!検査結果が出ました】
「結果が出ました。確認しますので少しお待ちください」
「ああ」

中の人がお知らせしてくれて、アルク国王には少し待ってくれるよう話して二枚出ている画面パネルを確認する。

『中の人。発熱の原因は?』
【ピコン(音)!魔力神経を干渉されたことでおきた症状です】
『干渉されると熱が出るのか』
【魔力神経に異常がなければ発熱しません】
『アルク国王が魔力神経硬化症だから熱が出たってこと?』
【はい。X線画像では変化を確認ができませんが、僅かに魔力神経が軟化したことで魔力の流れが変化しました。そのため体が異変と判断して発熱を起こしていますが一時的な症状です】
『一時的?すぐ下がるってこと?』
【数時間ほどで下がります】
『じゃあ良かった』

拒否反応とか深刻な問題じゃなくて良かったけど、体力が落ちている時に発熱が続くのは辛いだろう。

回復ヒールをかけても大丈夫?』
【魔力神経に干渉する魔法ではないので問題ありません】
『教えてくれてありがとう。助かった』
【お役に立ちましたなら幸いです】

魔力神経に干渉する魔法もあるってことか?
ふと気付いたもののアルク国王を待たせたまま聞いている場合じゃないから後で聞くことにしよう。

「お待たせしました。お見せします」

横になっているアルク国王にも見えるよう検査結果の画面パネル二つを拡大する。

「うむ。発熱と増えただけで特に変化はないようだな」
「治療初日ですのでこちらのX線ではまだ確認できるほどの変化ではありませんが、魔力神経が少し柔らかくなって魔力の流れが変化したことで一時的に発熱を起こしたようです。治療の効果が出ている証明でもありますのでご安心ください」
「柔らかく……そうか」

安心したようでアルク国王はふぅと息をつく。
俺もひとまず安心して画面パネルを消してベッドの端に座り回復ヒールをかける。

「閨を行い体液を摂取することが治療になるとは先に聞いていたことだが、実際に効果があったと聞くと安心するな」
「冗談のような話ですからね。体液に魔力が含まれていて摂取することで治療ができるなんて」

冗談のような本当の話。
アルク国王が信じてくれたから治療ができたけど、下手をすれば不敬罪で罰せられてもおかしくなかった。

「体液という括りではないが、魔力を持つ者の血液には魔力が含まれていることは既に知られている」
「え?そうなんですか?」
「貴殿は様々な難しいことを知っているというのに訓練校で習うような基本的なことだと知らないことも多いのだな」
「お恥ずかしながら。この世界の教育は受けておりません」
「ん?召喚後に国が教育の機会を設けたはずだが」
「勇者は受けておりますが私は勇者ではありませんので」

血液に魔力が含まれてることも常識だったらしい。
ただ俺が知らないだけでこの世界では常識ということも割とあるなと実感する。

「……勇者ではないから同じ待遇を受けられなかったのか」
「勇者にかかる費用は全て両国の予算から賄われているものですから。勇者以外には使えなくて当然かと」

勇者の予算は両国が出し合っている。
ブークリエ国が勇者召喚と勇者を保護する役目を担うぶん、アルク国は勇者にかかる費用を多く出すというように。
あくまでとして予算を組んでいるのに勇者じゃない俺に使えばおかしなことになる。

「そうか。ブークリエ国も両国で取り決めた予算を貴殿に割く訳にはいかなかったのだな。すまない。勇者ではない異世界人が召喚されたと報告を受けた時に私が気付くべきだった」
「いえ。私自身が納得していましたから」

勇者のための施設や予算を俺に使えないことは当然。
召喚される前から社会に出て働いていたからそのくらいは理解できるし納得もしていた。

「それに私が生きられるよう陛下が個人的に援助をしてくれましたし、住む場所も与えてくださいました。役立たずの異世界人など無一文で国から追い出されてもおかしくなかったのに。お蔭で私を主として仕え支えてくれる二人に出会えましたし、一人でもこの世界で生き残れるようにと身を守るための力の使い方を教えてくれる師にも出会えました。その他にも沢山の大切な人たちと出会えました。陛下には今も感謝しております」

国王のおっさんは最初から異世界から召喚したことを申し訳なく思っていて、勇者じゃなかった俺のことも気遣ってくれた。
英雄や貴族になって給金が出るようになった今でも俺を見捨てずにいてくれた国王のおっさんには感謝している。

「私が知っている貴殿は既に英雄となった後の姿。同じ異世界人の勇者たちと共に宿舎で暮らし質の高い教育や訓練を受けたのだろうと思っていたが、そうではなく自身の才能と努力でこの世界を生き抜く術を掴み取り這い上がってきたのだな」

そう話したアルク国王の手が俺の頬に伸びる。

「……あれ?」

雫がぽつり。
自分から落ちたそれに声を洩らす。

「え。恥ず」

自分でもなぜ落ちたか分からない涙を手の甲で拭いながら呟くとアルク国王も俺の涙を手で拭う。

「先ほどの表情を見る限り、どうやら貴殿は自身が勇者ではなかったことに負い目があるようだな」
「それはそうかと。この世界の人が必要だったのは勇者です」

必要だったのは魔王を討伐してくれる勇者。
ではない。

「たしかに勇者召喚で求められる人物は勇者だろう。そのための儀式なのだから。だが貴殿は勇者ではなくとも民から愛され慕われているではないか。私やブークリエ国王の方が身分は上ではあるが、民の支持は圧倒的に貴殿にある。仮に貴殿が新たな国を作ると言えば民は賛同して革命に協力するだろう」
「そのようなことはいたしません」
「分かっている。今のは例え話だ」

否定した俺にアルク国王は苦笑する。

「民が求めているのは勇者ではなく希望。自分たちを平和に導いてくれる希望の星を求めている」
「希望の星」
「今まで召喚された異世界人は全て勇者だったのだから、世界を救える偉大な力を持つ者は勇者だけというのが常識だった。だがな、民も決して莫迦ではない。もう気付いている。自分たちに希望を与えてくれる者は勇者だけではないということを。勇者たちだけでなく貴殿という希望の星も召喚されたことを」

そう話しながら再び体を起こしたアルク国王はストールで俺の顔をそっと拭う。

「勝手に召喚され勝手に希望を持たれるのだから貴殿にとっては嘸かし迷惑なことだろう。そこは私も少しは理解できるぞ。ただ王家に産まれたというだけで期待されるのだからな」

溜息混じりに言ったそれについ笑う。
たしかに産まれた時から進む道が決められている王家の人こそ『勝手に』と愚痴の一つや二つ言いたい立場ではあるだろう。

「負い目に思う必要などない。貴殿は十分すぎるほど民たちに希望を与えてくれている。たくさんのものを失わせ重荷を背負わせていることはすまないと思っているが、同時に、国や民を護るために存在する国王として勇者や貴殿には感謝している」

まさかアルク国王から慰められる日がくるとは。
腕の中におさめられて宥めるように背中を摩られながらそんなことを思って苦笑する。

「失礼した」
「失礼?」
「治療中も不快な思いをさせていただろうに、治療でもない時にまで同性から触れられて不快にさせてしまっただろう」

突然謝りながらパッと離れてどうしたのかと思えば、触ったことで不快にさせたと思ったらしい。
そういえば俺の性癖をアルク国王は知らないんだった。

「陛下。私はパンセクシャルです」
「パンセクシャル?」
「全性愛者と言えば伝わりますか?」
「……すまない。それはなんだ?」
「あらゆる性別の人が恋愛対象になる人のことです。好きになる相手の性別は関係なくて、好きになった人が好きという考えを持つ人のことを私が居た世界でパンセクシャルと言います」

俺は俺で異性愛者ノーマルのアルク国王が女体化しただけの男の俺で反応できるかと考えていたけど、アルク国王はアルク国王で治療といえ男の相手をするのは不快だろうと思っていたようだ。

「同性にも恋愛感情を抱くと?」
「この世界にも同性に好意を抱く人は居ると聞きましたが」
「たしかに居るが貴殿がそうとは気付かなかった。どちらかと言えば女性との艶聞の印象が強かったのだが」
「パンセクシャルですからもちろん女性も好きです。ただ女性以外も恋愛対象や性の対象になるというだけで、普通の人と同じく好みもありますし誰でもいい訳でもありません」

俺を無類の女好きだと思ってたから余計驚いたんだろう。
この世界では(地上では)近寄ってくるのが女性が多いというだけで、性別は関係なく好みであれば据え膳はいただく人間だ。

「ですから同性だからという理由で私が陛下を不快に思うことはありませんので治療に専念いただければ」

俺が不快なんじゃないかと思って治療に専念できないと困る。
治療をするために雌性体になれることを明かしたんだから。

「そうか。それを聞いて少し気が楽になった」
「先にお伝えしておくべきでしたね」
「誰でもいい訳ではないのに歳の離れた壮年者の私の相手をさせている事実は変わらないがな。何を以てしてもその代償にはならないだろうが、その分の礼もさせてくれ」

やっぱり年が離れてることを気にしてるようだ。
俺と歳が近そうな第三妃や王宮妃と肉体関係を持っていてもそこは別なんだろか。

「そのお礼は結構です。嫌々治療した訳ではないので」
「ん?」
「代償という言葉を使われたということは私が治療だからと泣く泣く陛下と閨を共にしたと誤解されてるのでしょうが、私は陛下との行為を不快に思っておりませんのでお礼は結構です」

まるで俺に嫌なことを強要させてしまったかのように代償という言葉を使ったけど、俺は別に我慢してやった訳じゃない。
だって俺はパンセクシャルなうえ性に解放的なビッチだから。
アルク国王が全く好みにもかすらないタイプなら苦行でしかなかっただろうけど。

「陛下はご自身の容姿や年齢にマイナスの感情をお持ちなのでしょうか。私から見ると陛下は容姿も整っておりますし、魔素が落ち着いてから知ることができた本来のお姿は、冷静で落ち着いていて包容力も決断力もある人という印象です」

この世界には美男美女が多い。
そんな話をヒカルともしたことがある。
人によって好む容姿の違いはあるだろうけど、異世界人の俺たちからすればそう感じるくらい美男美女率が高い。

性格も大会の時のイヤイヤ期のままだったら嫌だけど、実際には国王に相応しく冷静で落ち着いていて決断力もある人。
国王の身分を少し外れて二人で話していた時は包容力も垣間見えたし、そんな風に自分との性行為を嫌々させていると卑下しなくともアルク国王を好む人は少なくないと思う。

「光栄なことだが35ともなればそれなりの歳だぞ?15で成人を迎えるのだから。貴殿は今幾つだ?」
「22歲です」
「三妃よりも歳下ではないか。貴殿が私の伴侶である王妃や寵妃になりたいと望んで私と閨を共にする王宮妃だというならまだしも、治療のためだけに一回り以上歳の離れた私の相手をさせることを忍びなく思うのも当然のことだろう」

なるほど。
この世界では成人年齢が15歲だから成人して20年。
平均寿命もこの世界の方が短いから35歲の壮年が40・50の中年かのように大袈裟なのか。

「この世界の平均寿命で言えばそういう感覚になることは理解できましたが、陛下は怠けずお体を鍛えておられるようで引き締まっておりますし、充分に魅力があると思いますよ?」

エルフ族は剣より魔法が得意な種族というだけあって体は人族よりもほっそりとしている印象だけど、アルク国王は服(寝衣)を脱がせたらしっかり筋肉がついた細マッチョだった。
この世界では体を鍛えている男性を好む女性が多いと以前衣装屋が言ってたから、折れそうなヒョロヒョロな体でも中年太りでぽよよんな体でもないアルク国王は充分モテるだろう。

そもそもこの世界の平均寿命が短い理由は環境のせい。
地球人より老化が早いとか病にかかりやすいとかではなく、健康でも魔物に襲われて亡くなる人の数が圧倒的に多い。
肉体だけ見れば35歲はまだまだ働き盛りの健康的な体。

「怠けずか……単に鍛えるしかなかったのだがな」
「好きで鍛えた訳ではないと?」
「最初は嫌々だった」

そう話してアルク国王は苦笑する。

「私の情報を見た貴殿には隠す必要もないから話すが、私はエルフ族でありながら魔力系の数値が低い。だが国王である限りいざという時に民を護る手段となる弓の王の能力だけは使えなくては困る。そのために少しでも増えるよう体を鍛え始めた」

パラメータは体を鍛えることで上がるのは確か。
魔力系の数値を上げたいなら魔法を使うことが一番だけど、魔力系の数値が低いアルク国王が使える魔法の回数は限られているだけに体を鍛えることでの底上げを狙ったんだろう。

「陛下。一度ステータス画面パネルを確認していただけますか?」
「今か?」
「はい。画面パネルの確認は回復ヒール中でも出来ますので」

さっきの二枚の画面パネルは今回の検査結果だけで、アルク国王の基本情報の画面パネルはなかった。
もしかしたらとふと思って確認して貰う。

「開いたが…………ん?」
「魔力系の数値が上がっているのでは?」

すぐに画面パネルを開いて少し眺めたアルク国王は短い声を洩らし、聞いた俺に大きく一度頷く。

「逆です、陛下。陛下は硬化症が原因で魔素を魔力に変換させることや神経に魔力を流すことが上手くいかないだけで、むしろ魔力量が多いために過多や過少の症状が強く出るのです」
「そ、そうだったのか」

生き字引の魔王がそう言ってた。
精霊族には珍しいことでも魔力量が多い魔族には珍しくもなく対処法(予防策)まであるくらいだから間違いないだろう。

「では数値が上がったのは治療によって改善されたからか」
「はい。まだ初回の治療をしただけですので大きな変化ではなかったかも知れませんが、このまま治療を続けて病名が消える頃には陛下本来のお力を取り戻せるでしょう」

そう説明した俺をアルク国王は腕におさめる。
力加減が出来ていなくて雌性化している体には少し痛い。

「魔法を得意とするエルフ族の王家に生まれながらなぜ私だけ魔力が少ないのかとずっと思っていた。両親や兄弟からも王家の恥と呆れられ、その悔しさを糧に魔法以外のことは全て親兄弟以上になってやると必死に学問を学び体を鍛えて食らいついてきた。だが、私は王家の恥ではなく病だっただけなのだな」

痛いほどの力がこもっている理由はそれか。
事情を知ってアルク国王の背中に手を添えて摩る。

人はそれぞれ何かを抱えているもの。
何もかも手に入る環境にあるように見える国王も一人の人間。
俺たちと同じく悩みもすれば弱音を吐きたくなる時もある。

「全ては病のせい。ですが、家族から呆れられても諦めず何事にも努力してきた陛下は立派な方です。例え病だと分からず魔法が苦手なままだったとしてもそのことは変わりません」

魔力が少ない欠点を抱えて王位を勝ち取ったんだから凄い。
魔王や国王のおっさんもそうであるように、この世界の国王たちはみんな努力家で尊敬できる人たち。

俺は勇者以外の使命を持ってこの世界に召喚された異世界人ではあるけど、そのことが分かって良かった。
 
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

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