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第九章 魔界層編
星の営み
しおりを挟む魔界層に来て数ヶ月。
慌ただしく過ぎて『もうそんなに経った?』と思うほどの早さだったけど、魔王城での生活リズムや魔王の半身としての仕事にも慣れてきた。
「シン一旦休憩!これ以上は死ぬ!」
「は?やっと身体が温まってきたのに」
「体力差を考えてくれよ!」
今は城の外でエディやラーシュと訓練をしているところ。
先に泣き言を口にしたのはエディ。
「無駄な動きが多いんだよ。だからすぐバテる」
「シンのすぐは凡人には全然すぐじゃないから。もう何時間やってると思ってるんだ。腕も脚もパンパンだし」
「え?何時間もやったか?集中してて気付かなかった」
「経ってるから」
地面に転がっているエディとラーシュ。
あの日俺と『人の倍努力して早く専属になるから』と約束してくれた二人は仮面と山羊さんに頭を下げて補佐のあれこれを叩き込んで貰って、まだ二人一組の条件付きではあるけど山羊さんの試験に合格して俺の専属補佐官になった。
山羊さんの試験にはもう合格したから今やってる特訓は専属補佐官になるための試験とは直接関係ない。
ただ二人は魔王が求める文武両道の専属補佐官を目指したいらしく、手の空いた時間でいいから文武の武を鍛えて欲しいと俺に頭を下げてきたからこうして鍛えている。
「じゃあ剣の訓練はこのくらいにして、いつも通り庭園で少し休憩した後は魔力の強化訓練しよう」
「うん」
「よろしくお願いします」
俺は戦闘狂軍人から休憩なしで気を失うまで戦わされたけど、あれは極限状態までやれば体力が超回復する俺だから出来たことで二人に同じ訓練のやり方は出来ない。
それに専属補佐官の仕事をしながら合間で訓練をしているから仕事に響かないよう休憩はしっかりとらせないと。
「城門前まで転移するぞ」
「はい」
「よろしく」
遠く見えている城門まで転移魔法を使って移動する。
「お帰りなさいませ半身さま、ラーシュさま、エディさま。本日も随分と加減なく鍛えられたようで」
「こちらから見ておりましたがお強くなりましたね」
「まだまだ。二人ならもっと強くなれる」
「……死ぬのが先か強くなるのが先か」
「半身さまと戦うと強くなってる実感がない」
門前に立っていた門番たちがヘトヘトのラーシュとエディの様子に笑いながら門を開けてくれた。
「お疲れさまでした。お飲み物をご用意いたしました」
「いつもありがとう」
「勿体ないお言葉を」
門から入って待っていたのは庭師数名。
ありがたいことに俺たちが訓練をする日はいつも庭師たちが飲み物やタオルを用意してくれている。
【白……の……よ】
庭師からタオルを受け取るとボソッと聞こえた声。
【聞こえるか。白銀の神魔よ】
「デザストル・バジリスクか。聞こえてる」
「誰と話してるんだ?」
「シッ。ちょっと待ってくれ」
「うん」
今度はハッキリ聞こえた声。
俺に直接語りかけているから他の人には当然聞こえておらず不思議そうに聞いたエディに静かにするよう促す。
【我は城内には入れぬ。出て来れるか】
「城の前に来てるってこと?」
デザストル・バジリスクの方から来るのは珍しい。
しかもわざわざ魔層から出て来たということは魔層で何かあったんだろう。
「ごめん来客だ。もう一度門を開けてくれ」
「え、来客?……はい」
すぐに踵を返して門を開けるよう話すと門番は一度閉めた門を開ける。
【ようやく声が届いたか】
俺が門から出ると八つの頭と尾を持つデザストル・バジリスクの白銀の巨体がスーッと姿を現した。
「……厄災の王!?」
「「シン!」」
「半身さま危険です!お下がりください!」
「待った!俺の従魔だから攻撃しないでくれ!」
白銀のヤマタノオロチが突然城の前に現れて門番たちやラーシュやエディが剣を構えるのを見て慌てて止める。
「厄災の王が半身さまの従魔?」
「厄災の王?っていうのは」
「魔物を統べる魔層の王です。私も実際に目にするのは初めてですが、あらゆる厄災を生むと言い伝えられています」
「え?その魔物がシンの従魔?」
門番から聞いて唖然と見上げるエディとラーシュ。
そりゃこの巨体が城の目の前に現れたら城を守る門番たちが攻撃しようとするのも仕方ない。
庭師たちは怖がって小さくなっているし、庭園にいた警備兵たちまで武器を手に集まって来る。
「強い力を感じたと思えば厄災の王か」
『魔王さま!』
転移して来た魔王と四天魔。
とんでもない騒ぎになってしまった。
「みな武器を下ろせ。厄災の王は半身と契約を結んだ従魔だ。半身が居る限り魔王城に攻撃はしない」
魔王から言われてみんなも武器を収めてくれてホッとする。
四天魔まで武器を構えてたからさすがに焦った。
「どうして魔王城に?半身に会いたくて来たのか?」
【二日前から語りかけていたが城内に居られては声が届かぬ。外に出た気配を感じて魔層を出て来た】
「それはすまなかった。この城の魔物避けの結界は魔物が使う能力も遮断してしまう。従魔の声は届くようはり直そう」
翼を出して空に飛んだ魔王が城に手を翳すと今まで目に見えなかった結界がパリンと音をたてて割れる。
そのあと闇色の魔力が魔王城を含む敷地一帯を包みまた透明になって目には見えなくなった。
「……さすが異世界最強。チート( ˙-˙ )スンッ」
俺TUEEEEを地で行く魔王さま。
地上層なら術式をはらないと出来なさそう(そもそも魔王しか出来なさそう)なことをサラっとやってのける。
「これで念話は届くようになった。半身が城に居るのに先に気付かず手間をかけさせてすまなかった」
【感謝する】
あれだけのことをやっておきながら平然とした顔でデザストル・バジリスクと話しているんだから恐ろしい。
それは魔王一人VS勇者四人というハンデ戦にもなるはず。
「あ。二日前から語りかけてたって言ってたよな?わざわざ出て来たってことは魔層で何かあったのか?」
魔王の魔力量や能力にチート味を感じてる場合じゃなかった。
【近頃魔層の魔物たちが少々騒がしい】
「え?魔物が?」
【我の核に額をあてよ。見てきた物を見せよう】
「うん。あれ?フラウエルは見ないのか?」
「記憶は従魔契約をしている者にしか見れない」
「そうなんだ。じゃあちょっと見てくる」
「ああ」
デザストル・バジリスクを通して見れるのは契約を結んでいる人だけらしく、〝大天使の翼〟を使って顔の高さまで飛んで額にある核に額を重ねる。
「……本当だ。少し落ち着きない」
道として使う魔層から奥に入った深部の映像。
デザストル・バジリスクの視点で見えている魔物たちは、座っていても尻尾を地面に叩きつけたり突然立ち上がってはまた座ったりと落ち着きない様子を見せている。
「ソワソワしてる感じ」
【数日様子を見たがこれが続いている】
「うーん。デザストル・バジリスクは何ともないのか?」
【何も。従魔になって効かなくなったものはあるが】
「効かなくなったもの?」
【仮にあの時のように呼び寄せを遣われようと従魔の我には抵抗せずとも効かぬようになった】
その話を聞いて額を離す。
「……また誰かが呼び寄せてるのか?」
【従魔になって変わることの例えを一つあげただけだ。心配せずとも呼び寄せを遣われれば効かずとも感じとることくらいはできる。今は呼び寄せられていないと断言できる】
「そっか。吃驚した」
良かった。
また地上層で誰かが人為的にスタンピードを起こそうとしているのかと思った。
【まだ続きがある。再度核に額を】
「うん」
もう一度額を重ねると次に見えたのは魔界層。
【魔界ではあれ以来変化は見られない】
「うん。魔物たちもいつも通りだな」
姿を消して魔層近くを調べて回ったのか、出かけるとよく見かける魔物たちの普段と変わらない生活が伺える。
中にはファイアベアも居て狩りをしていた。
【次は地上だ。こちらは少し変化が見られた】
切り替わったのは森の中。
どこの森かは分からないけど、変化と言うほどのおかしな様子は見られないけど。
「ん?なんだこれ」
地面に入っていた亀裂。
そこから魔層のような黒いモヤが出ていて虫型や獣型の魔物たちがその亀裂の傍に集まっている。
【魔素溜まりだ。亀裂から微量だが漏れている】
「魔素溜まり?初めて聞いた」
【亀裂から魔素が漏れ出した場所を魔素溜まりと呼ぶ。放っておいても時間の経過で自然に塞がるが、その間は魔素を好む魔物が集まってしまう。念のため塞いでおいた】
「気が利く。ありがとう。助かった」
話の通り亀裂から出た魔素が魔物の集まっていた原因らしく、デザストル・バジリスクが塞いでくれた後の映像には魔物の姿は見られなかった。
【気になるのは魔層でも亀裂が見られることだ】
「魔層は元々魔素で出来てるから漏れても大丈夫だろ?」
【魔素が増えるのはいいが亀裂が塞がらないことが気になっている。魔層内は濃度が高い魔素で覆われているために、例え魔物が暴れ地に穴を空けようともすぐに塞がる。自然に入る亀裂も同様に。ゆえに亀裂を見かけること自体が珍しいのだ】
「……そういえば魔界でも魔素が濃い場所はすぐに戻るってフラウエルが言ってたな」
武闘大会の期間中に俺の気晴らしと言って魔界層へ連れて来られた時、地面が世紀末な状況になってると言った俺に『魔素が濃いからすぐ戻る』と話していたことを思い出す。
「前回は地上の魔封石を使って魔物を呼び寄せたけど、今回は亀裂を空けて呼び寄せてるってことは?」
【それは無理だろう。魔素は星の核にある。この星の中心部まで続くほどの亀裂を開けられる者が居るというなら魔王すらも凌駕するだろう。星を破壊できるのだからな】
「無理だな。そういうことなら確かに無理」
地球で言えば、地殻、上部マントル、下部マントル、外核までもぶち抜いて核まで到達させるということ。
この星の造りは知らないけど、魔法を使おうと地殻が抉れる以上に亀裂を入れるなんて無理だろう。
「そうなると自然に亀裂が入ったってことか」
【ああ。自然災害の起きる地上や魔界では亀裂も珍しい物ではないだろうが魔層で見かけるのは珍しい。数千年生きて来た我でも眺めていて塞がらなかった亀裂を見たのは初めてだ】
地上層と魔層に入った亀裂。
もしかしたら魔界にも魔層から離れた場所に亀裂が入っている可能性はあるし、何となく嫌な感じがしてしまう。
「この星に何か起きてる……とか?」
【それは分からないが、自然の中でありのままに生きる我ら魔物は星の営みと神の導きに従うのみ】
「その神が俺の両親なんだけど。聞けば教えてくれるかな」
【神は万物の創造主。判断は我々生命に委ねられている】
「どういう意味?」
【言葉のままだ】
「ん?」
聞いても分からないその返事。
神に聞いても教えてくれないだろうってこと?
【地に降りた白銀の神魔よ。また会おう】
「おい!意味不明なまま消えるな!」
【報告に来ただけだ。用は済んだ】
亀裂の謎を残してデザストル・バジリスクは景色に溶けるように姿を消した。
「魔層の魔物が騒がしい原因は分かったのか?」
「ハッキリした原因は不明。少し二人で話できるか?」
「ああ。魔層の異変は魔界にも無関係ではない」
「うん。デザストル・バジリスクから見聞きしたことを話すから助言が欲しい。どういうことなのか整理したい」
「分かった。俺の部屋で話そう」
地面に降りて翼を消すと魔王から聞かれて、まだ自分でもいま見聞きしたことの整理が出来てないから二人で話して考えを纏めたいことを話す。
「ラーシュ、エディ。悪いけど今日の訓練はここまで。公務の予定はないから呼ぶまでは自室で休んでてくれ」
「「承知しました」」
みんなの前だからしっかり胸に手をあてて敬礼する二人。
この数ヶ月でオンオフの切り替えにも随分慣れたものだ。
「みなも自らの務めに戻るよう」
『はっ』
集まっていた四天魔や城仕えには魔王が指示を出して二人で魔王の部屋に転移した。
「あまりいい報告ではなかったようだな」
「聞いて楽しい報告じゃなかったことは確か」
先にカウチソファに座った魔王に訓練で汚れた服を脱ぎながら答えて苦笑する。
「魔素溜まりって知ってるか?」
「ああ。亀裂から魔素が漏れている場所のことをいう」
「それ。その魔素溜まりが地上と魔層で見られた」
この世界の一般常識を学んでいない俺には知らない言葉だったけど、この世界の住人なら知っている言葉なのか。
「魔素溜まりは珍しい物ではない。星の核が魔素で出来ているのだから地上や魔層で見られたとしても何らおかしいことではない。魔界にも多数ある」
「魔素溜まりが出来ること自体は。ただ、魔層で自然に塞がらない魔素溜まりの亀裂が見つかったって」
デザストル・バジリスクのあの言い方だと亀裂が入ること自体は魔層でも有り得る話なんだと思う。
ただ問題はそれがすぐに塞がらなかったこと。
「魔素の濃い魔層で塞がらないだと?」
「記憶を見せて貰った限り後々には塞がってたけどな。魔層は魔物が地面に穴を空けてもすぐに塞がるくらいだから滅多に亀裂を見かけないんだと。数千年生きて来たデザストル・バジリスクでも眺めてて塞がらない亀裂を見たのは初めてらしい」
部屋着用の浴衣を着て対面のカウチソファに座りながら説明すると魔王は難しい顔をして黙りこむ。
「……たしかにそれは気になるな。亀裂の大きさでも多少の差はあるが、魔素が濃い場所ほど早く塞がる。自然に任せると地上で数百年、魔界では数十年ほど。月喰のような自然災害で亀裂が入ることは珍しくないが、魔素が充満した魔層で塞がらない亀裂が入ったとなると一体何が」
魔王もデザストル・バジリスクと同じく魔層で塞がらない亀裂が入ったことが気になるようだ。
それだけ魔層内はすぐに塞がる認識なんだろう。
「魔物たちが落ち着かないのも何かを感じとってるのかも知れない。最悪の話として星に何か起きてるとか?って聞いたけどデザストル・バジリスクにも分からないって。魔物は星の営みと神の導きに従うって言ってた」
人の手によるものならまだしも自然に対抗するのは難しい。
もし災害級の何かが起こるのだとしても生命にはそれから逃れる術はない。
「魔物はそうだろうが神から知恵という特別な力を与えられた種族はそれでは駄目だ。神の導きに従うのはやれることをやった後。実際に星に暮らしている住人が何もせず運に任せるなど神への冒涜だろう。星を造り与えてくださったのは神でも、その星をどうするかは俺たち生命に委ねられている」
……なるほど。
デザストル・バジリスクの話の時は一気に色々な情報を得て頭が一杯だったからピンとこなかったけど、そういうことか。
神はあくまで星を造った創造主の立場なだけで、与えられたその星を生(活)かすも殺(壊)すも住人次第。
「痛っ!」
「どうした!?」
「……耳鳴りと頭痛が。ごめん。驚かせて」
一瞬の耳鳴りと頭痛。
驚いた魔王は俺が座っているカウチソファに座ると激痛がした場所を押さえる俺の手の上から手のひらを重ねる。
「脳に異常は見られないが……大丈夫か?」
「うん。一瞬だけでもうおさまってる」
特殊恩恵の〝神官〟を持つ人が使える魔法検査を使える魔王は脳に異常がないか調べてくれたらしく、心配そうな表情で俺を見る。
「ありがとう。やっぱ便利だな。魔法検査が使えるの」
【ピコン(音)!神魔シン・ユウナギも使用可能】
「え?」
「ん?」
「何かいま中の人が凄い新事実を言ったような」
「中の……ああ。異世界人に与えられた口語機能か」
「うん。そうなんだけど」
中の人とだけで伝わったのが凄いけどそれは一旦置いといて、気の所為じゃなければ俺にも使用可能って言った?
もしかして〝神官〟の特殊恩恵が増えたとか?
《特殊恩恵》
神魔に愛されし遊び人 evolve!
不屈の情緒不安定
魔刀陣
賢者様の寵愛児♡
魔王様の寵愛児♡
神罰
大天使
始祖 new!
いつの間にか特殊恩恵が増えてたのかとステータス画面を出して確認したけど、残念ながら〝神官〟の文字はない。
「増えてないな」
「急にどうした」
「中の人が俺もフラウエルと同じ魔法検査が使えるって言うから神官の特殊恩恵が増えたのかと思ったのに」
「俺もそんな特殊恩恵は持っていない」
「え?でも魔法で体内を調べられるよな?」
「俺のは魔祖を使った魔法だ」
ど、どういうこと?
ポーションを作ったり魔法検査ができるのは特殊恩恵の〝神官〟を持ってる人だけってエミーから聞いたんだけど。
『簡単な話だよ。君たちは祖の力を持ってるから使える』
「精霊神」
聞こえてきた声と変わった景色。
木々が生い茂る森の中に噴水があって白い発光物が数個飛び回っている。
「……ここは?」
『神界だよ』
「神の世界に来たのか!?」
『偽物だよ。本当には連れて来れない』
「偽物の割にはリアルだな」
「ああ。風も感じる」
椅子に座ったまま大自然に放り出された感じ。
魔王が言うように偽物のはずなのに風も感じるから不思議だ。
「この飛び回ってる光は?」
『祖の子供。君たちのいう妖精』
「これが?」
初めて見た妖精は丸い発光体。
俺が知ってる知識の羽の生えたティンカーベルではない。
「子供ってことは親の祖っていうのは?」
『大妖精かな。ボクたちは祖としか呼ばないけど』
「呼び方はこの世界の人が付けた名称ってことか」
魔王と俺の周りを飛び回る発光体。
幻想的な光景だ。
『特殊恩恵の大神官や神官は祖の能力の種類や威力を他の人よりも多く扱える者のことをいう。回復や魔回復のような回復魔法も祖の力の一部だから誰にでも使える訳じゃないんだ』
「へー。だから回復魔法を使える人は珍しいのか」
武闘大会では地上の全種族から回復を使える人が集められてたから沢山の人が使えるような錯覚をしたけど、人族の六割が暮らす王都でも回復を使える人は多くないことを考えると恐らく地上の人口の一割、多くても二割程度しか使えないだろう。
「フラウエルや俺も祖の力の一部を持ってるってことか」
『君たちは一部じゃなく祖の力全てを持ってる』
「は!?大神官や神官ですら珍しい特殊恩恵なのに!?」
『うん。祖を持つのは今この星で君たちだけだよ』
とんでもない能力を与えたな!
ただの元ホストに与えていい能力じゃないだろ!
「もしや祖の力とは〝魔祖〟のことですか?」
『そう。君の〝魔祖〟とボクたちの愛しい子の〝始祖〟』
魔祖、始祖。
なるほど確かに祖が付いてる!
『魔王フラウエル。君は博識だけど気付いてるかな。君の持つ魔祖は歴代の魔王には発現しなかった力だって』
「魔王の特殊恩恵を持つ者には発現すると聞いています。現に私を作った先代魔王も魔祖を使えました」
初めて驚いた表情を見せた魔王。
俺も魔王や山羊さんからそう聞いてるし、城の書庫で厳重に保管された歴史書にもそう書かれていた。
『魔祖については魔族を創造した私が話そう』
「魔神さま」
聞こえてきたのは魔神の声。
精霊神も魔神も姿は見えないけど。
『精霊神が話したように神官や大神官といった特殊恩恵は祖の力の極一部を与えた者に過ぎない。歴代の魔王が持っていた魔祖はそれと同じく一部の力しか使えなかった。真の魔祖を発現することが出来たのは今代魔王のお前だけだ』
ぇぇぇぇえええええ!!!
またとんでもない新事実!
『お前は私の血を色濃く継いでいると話したな』
「はい。光栄にございます」
『私と精霊神が造った祖という存在は二つ。それが魔祖と始祖だ。それ以降の祖は魔祖と始祖が力を分け与えた複製の祖であり、歴代の魔王が持っていた魔祖はそちらの複製の祖だった』
「そうだったのですか」
同じ〝魔祖〟でも本物と複製で能力が違うってことか。
魔王は魔祖を使ってあれこれ涼しい顔で魔法を使ってるけど、中には歴代の魔王たちには使えなかった魔法もあるんだろう。
『魔法も特殊恩恵も恩恵も適性のある物しか発現させることが出来ない。魔神の私の血を色濃く継いでいるお前には真の魔祖を持てる適性があった。この星の全ての能力には全てを持つ本物と一部だけの複製がある。それが魔法の威力の差や特殊恩恵や恩恵といった能力の差になる』
なるほど。
創造主の神だからこそ知っている話を聞くのは楽しい。
「つまり俺の始祖は本物だから始祖の一部の力を与えられた神官や大神官の能力も使えるってことだな?」
『そういうこと』
きたぁぁぁぁぁあああ!
貰って良かったと思える特殊恩恵きたぁぁぁぁぁ!
『ボクたちの愛しい子』
「ん?」
『魔界ではいいけど地上では考えた方がいいよ』
「なにが?」
『能力を使う時を。だって地上にはその能力を使って生活をしてる人たちが居るよね?君がお金を貰ってやるならいいけど、無料でやっていたらみんな君の所にしか来なくなる。今までその能力を使って生計を立てていた人はどうするの?』
「……そっか」
言われてみればそうだ。
本当なら回復ですら教会や医療院に行ってかけて貰うかポーションを使うかして治療する。
教会や医療院で働いてる人もポーションを作っている人もみんな生きるために必要な生活費のために働いてるのに。
『全く使うなとは言ってないよ?回復系の魔法は生命への救済として与えた能力なんだから。だから体内を調べたり薬を作ったりする極一部の人しか使えないような特別な力は本当に困ってる人にだけ使えばいいんじゃないかな。貧しくて医療を受けられない人とか身近に居る大切な人とか。ね?』
深く考えてなかったことを反省しているのが伝わったのか、慌てたように矢継ぎ早に言った精霊神に少し笑う。
「うん。力の使いどころは間違わないようにする。って言ってもどっちみち地上にはもう戻れないだろうけど」
地上層には俺を怖がる人が居る。
俺が居ることで大切な人たちに迷惑がかかる。
だからもう地上層には戻らない。
「あ!俺のことより聞きたいことがある!」
自分の能力を知れたのは良かったけど、そんなことより気がかりなことがあったんだった。
「本来ならすぐ塞がるはずの魔層に亀裂が入って中々塞がらなかったらしいんだけど、二人は原因を知らないか?」
『ボクたちは何もしてない』
「二人がやったとは思ってないけど原因が分からなくて。地球も自然災害が多かったけど、その知識も手伝って天変地異みたいなものが起こりそうな嫌な予感が拭えない」
たんなる考え過ぎならそれでいい。
むしろそうであって欲しいから安心材料が欲しい。
『ボクたちがすることは星や生命を作り出すことと救済措置を行うことだけ。自然災害を天罰という人が居るけど、ボクたちが何かしてる訳じゃなくて星の営みだ』
森の中の景色から今度は宇宙空間に。
目の前には青い星。
「地球……じゃないな」
『違うね。これはいま君たちが居るその星だ』
「「これが?」」
魔王も同時に星を見て呟く。
地球より深い青色をしたこの星が俺たちの居る星。
「綺麗だ」
「ああ。自分が生きる星を見ることが出来るとは」
「そっか。この星には宇宙ロケットなんてないもんな」
「宇宙ロケット?」
「俺が居た星には宇宙空間に出られる乗り物があったんだ。だから自分の星がどんな物かを見ることが出来た」
「宇宙空間というものが分からないが、星を見ることが出来るとはお前の居た星は素晴らしい力を持っているんだな」
珍しく子供のように興味津々の魔王。
それがちょっと可愛いから困る。
『綺麗って言って貰えて嬉しいよ。この星はボクと魔神が一番最初に造った星だから』
「え!そうなのか!」
『うん』
すげぇぇぇええ!
ってことは俺は今宇宙(?)で一番最初に出来た星に居るってことだ。
『そういう理由もあってこの星はボクと魔神にとっても思い入れのある星と言える。でもね、思い入れのある星だからってこの星だけボクたち創造主が贔屓することは出来ない。他の星にだって生命は存在しているし、それぞれが独自の環境で生活をしている。地球もそうだよね?』
「うん」
この星にはこの星の生命が。
地球には地球の生命が生活を営んでいる。
『だからボクたちは平等に全ての星の営みの邪魔はしない。星の営みの中で生きている生命がどのように生活をしていても邪魔はしない。造って与えるまではしてもどう生きるかはその星の生命が決めることだ。君たちからすれば造るだけ造って見ているだけの傍観者って思うだろうけど、ボクたちは創造主だからこそ贔屓をしちゃ駄目なんだ』
……うん。分かる気がする。
全知全能と言われる神から贔屓されている星とそうじゃない星があるなんてあったらいけないことだ。
星に生きる人たちに任せることが間違ってると思わない。
『星はそこで暮らす生命の行動次第で変わる。ボクたちが唯一することは、全ての星に同じ数の救済措置を行うこと。その回数が終わればもう後は星の営みに任せるだけ。星が営みを辞めれば生命も終わる』
それを聞いてまた頭が痛む。
さっきのような激しい痛みじゃないけどズキズキと。
生命が終わるという恐怖心からきてるのか?
「半身。また痛いのか?」
「……大丈夫」
興味津々のキラキラした目で星を見てたのに、頭を押さえた俺に気付いたらしく魔王は心配そうな表情で俺を腕におさめると魔回復をかける。
『ごめんね。一気に話し過ぎたみたいだ。途絶えたら治るよ。またね、ボクたちの愛しい子』
『我々の愚かな愛しい子よ。運命を決めるのはお前だ』
精霊神と魔神の声が途絶えると同時に景色も元の魔王の部屋に戻った。
「あ。本当に治った」
「神と交信するのは体に負担がかかるのかもな」
「そうかも。もう何ともない」
嘘のようにスッと引いた痛み。
精霊神が俺たちと会う時は力を抑えるために布で目を隠して体を鎖でぐるぐる巻きにする必要があるくらいだから、声で繋がるだけでも負担がかかっている可能性はある。
恐るべし精霊神の力。
「結局教えて貰えなかったな。原因は」
「いや。星の営みというのが答えだろう。星の営みによって異変が起きたとしても神はその営みの邪魔はせず、唯一行うのは星の何らかの営みが済んだ後の救済措置だけ」
「なるほど。一応答えてはくれてたのか」
その何らかの営みが何かは分からないままだけど。
それが何かを話してしまったら『造ること』や『同じ数の救済措置』以外のことに手を貸すことになってしまうから、全ての星や生命を平等に扱うために言えないってことだろう。
「星の営みだと教えて貰えただけでも充分。原因を調べて対策を考えるのはこの星の生命である俺たちがやることだ」
「うん。魔界にも異変がないか調べよう」
元は地球に居たと言っても今はこの星の住人。
俺もこの星の住人として出来る限りのことはしよう。
それがこの異世界に暮らす人たちの幸せに繋がるならば。
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そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
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取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
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