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第九章 魔界層編
雌性体
しおりを挟む月喰期二日目。
カタカタと窓を揺らす風の音で目覚める。
「……フラウエル?」
真っ暗闇のなか寝惚け半分にベッドを手探りして、昨夜も一緒に寝たはずの魔王の姿がないことに気付く。
「トイレか?」
また手探りでテーブルランプの位置を見つけて魔力を送り淡い光を灯すと、連動して壁の数ヶ所にあるウォールランプにも光が灯った。
「一日夜だと時間感覚が狂うな」
風でカタカタ鳴っている窓の外を見てそんな独り言を言いながら体を起こして背伸びをする。
「凄い雪」
バルコニーに繋がる掃き出し窓の前に行って確認した天候は猛吹雪とあらわすに相応しい白銀世界。
外に出たら凍りついてしまいそうだ。
ただそこは異世界最強が暮らす魔王城。
城の中は外の猛吹雪が嘘かのように暖かい。
「どこ行ったんだ?アイツ」
超VIPの魔王の部屋は風呂もトイレも完備。
トイレにしてはテーブルランプすら灯っていなかったし、山羊さんや赤髪や使用人が居ないから風呂でもない。
つまりこの部屋の中には居ないということだ。
確認した時間はまだ夜明け前(七日間は明けないけど)。
いつもならまだぐっすり眠っている時間。
昨日は伽役(沐浴介助をした四人)が魔王と俺の会話を遮った罰として厳重注意を受け伽役を降ろされたから魔王の夜のお勤めも中止になり二人で呑んでから寝たけど、夜明け前から用があることなど言ってなかったのに。
すぐに戻るかも知れないから下手に部屋から出ることはせず眠気覚ましも兼ねて風呂に入って歯磨きなども済ませる。
「まだ戻ってない」
時間にして一時間ほど。
風呂から出てもまだ魔王は戻っておらず、どこに行ったのかと不思議に思いながらも俺の服をしまってあるクロゼットから魔王が買ってくれた衣類を出して着替えた。
朝の支度が終わっても戻って来ないまま。
普段俺が自分の部屋で寝てる時でも城の外に出る時は必ず声をかけてから出かけるのに。
「書庫でも行くか」
この世界にはスマホはもちろんテレビもない。
唯一の暇つぶしと言えば本。
その本も高価で一般人は気軽に買える代物じゃないけど、人族の王城と同じく魔王城にも巨大書庫がある。
本来なら魔王と四天魔と書庫管以外は許可をとらないと入れないらしいけど、魔王の半身の俺は宝物庫以外は自由に出入りできるから魔族のことを知るためにも行って読んでいる。
魔力を通して灯すランプを手に持って魔王と俺の部屋がある城の最上階から一階まで転移する。
カタカタ鳴る窓の外の光景は見ているだけでも寒々しい。
因みに最上階まで転移魔法で行けるのは魔王や四天魔だけ。
使用人はその日お役目がある担当の者にだけ渡される特別な腕輪(特殊な転移魔法が付与されている)がないと辿り着けない。
俺の転移能力は人族寄りで使用人と同じく行き来ができないから(本当は魔祖渡りを使えば俺も移動できるけど、魔王の固有能力を持っていることを知られる訳にはいかないから秘密にしてある)、以前プレゼントしてくれた腕輪に魔王が追加で能力(魔法)を付与してくれた。
巨大書庫の出入口に聳えるのは彫刻が施された扉。
ドアノッカーに魔力を通すと鍵があいてキーっと音をたてながら重々しい扉が開いた。
薄暗い書庫の中をランプで照らしながら一番奥へ。
そこにはまた扉があり魔力を通して扉を開ける。
二重扉の奥にあるのは魔界層の歴史や歴代魔王のことが記された機密文書(書籍)の極秘に分類される本。
明るいそこではランプを消して前回読んだ魔界層の歴史本の続きを読もうと足場(鉄の階段)を移動させた。
「このような早朝から読書をするのか?」
「!!」
足場に登って本に手を伸ばしていると聞こえた声。
俺一人だと思ってたのに聞き覚えのある声がして驚き足場の上でバランスを崩す。
「怪我をしたらどうする」
「あ、ありがとう」
「取ってやろう」
足場から落ちた俺を受け止めたのは魔王。
俺を受け止めたまま魔法を遣って手を伸ばしていた先にあった歴史本を取ってくれた。
「これだろう?」
「ありがとうございます。見知らぬ人」
ふわふわ浮いている本を受け取って礼を言うと、その人物は俺をジッと見下ろしている顔に笑みを浮かばせる。
「よくお気付きになりましたね」
「感じる魔力がフラウエルの魔力とは違うので」
見た目や声や仕草は寸分たがわず完全に魔王。
だから最初は分からなかったけど、受け止められた体で感じる魔力が魔王のそれとは違うことに気付いた。
「さすがは半身さま」
「!!」
俺を床におろすと今まで魔王の姿をしていた人物の姿が全くの別人に変わって、驚く俺の前にスッと跪く。
「魔王軍四天魔の『影』。クルトと申します。ご無礼を」
「ああ、貴方が」
金色の髪とダークブルーの瞳。
この人が唯一まだ会ったことのなかった最後の四天魔。
エドやベルと同じ裏の仕事をしている人。
「ご挨拶が遅れました。夕凪真と申します」
「どうぞウィル相手のように気軽にお話しください」
「いいんですか?」
「半身さまがお嫌でなければ。クルトとお呼びください」
「じゃあお言葉に甘えて。よろしくクルト」
「よろしくお願いいたします」
気軽に話していいならありがたい。
堅苦しい話し方は得意じゃないから。
「あの、質問してもいい?」
「何なりと」
「今のその姿が本当の姿?」
「はい。初めてのご挨拶で姿を偽るのは失礼かと」
「物凄く失礼な質問かもしれないけど……どっち?性別」
シモの造りは別として魔族も見た目は男か女かどちらかの特徴をしているけど、この人だけは本当に分からない。
男にも見えるし女にも見える。
「私は半陰陽ですので雌雄の内性器と外性器がごさいます。性別はどちらでもあるとお答えするのが正しいかと」
「なるほど」
内性器も外性器もあるなら完全に両性。
どちらか片方の性別に分けられなくて当然だ。
両性を極めた綺麗な顔をしてる。
「地上では半陰陽は珍しいそうですね」
「多分。わざわざ聞かないから分からないけど」
少なくとも地球では珍しかった。
この世界でも多分、魔族以外では珍しいと思う。
「もう一つ聞きたいんだけどさっきのってクルトの能力?クルトが姿を使い分けてることはフラウエルから聞いて知ってたんだけど、変装してるって意味かと思ってた」
あれは衣装や化粧などで容姿を変える変装じゃない。
顔や声はもちろん骨格までも完全に魔王だった。
体に触れて魔力を感じなければ気付かなかったと思う。
「お察しの通り私の能力の一つです」
次にクルトが姿を変えたのは俺。
自分と全く同じ存在が目の前に居るのは奇妙だ。
「このように他者の姿を真似る〝変身〟という能力と」
俺と同じ声で説明しながら今度はスウっと姿が消える。
「このように姿を隠す〝擬態〟があります」
「凄い能力だな」
耳元で聞こえた声。
声がする方に手を伸ばすと手のひらではその存在を確認できたものの気配は全く感じとれない。
「変身できるものに制限はあるのか?」
「変身する対象が生命があるものということと、私が見たことのあるものという制限はありますが、それ以外でしたら老若男女の人型種だけでなく魔物の姿にも変身できます」
「有能すぎる能力。素直に羨ましい」
俺の手が触れたまま姿を見せたクルトは女になっている。
見た目で異世界人とバレてしまう俺には羨ましい能力だ。
「半身さまの性を変えることもできますよ?」
「え、なってみたい」
「では私が能力を使うことを受け入れてください」
「受け入れる」
即答で答えるとクルトはクスっと笑う。
「少し口を開けてください」
「口を?うん」
え、こんなやり方すんの?
顔が近づいて重なった口から魔力が流れるのを感じた。
「如何ですか?」
「……女になってる!」
自分についているぷよんぷよんのスライム乳。
揉んで確認してみたその胸の感触もしっかり本物なら、ウエストのくびれや体の柔らかさも完全に女体。
「下は……ない」
凄すぎぃぃぃぃぃぃぃい!
周りから見たら女に見えるけど実際は男という偽装じゃなくて体も声もしっかり女になっている。
「雄性の時がお美しいので雌性に変えてもお美しいですね」
「ん?これって誰かに変身してるんじゃないのか?」
「ただ性別を変えただけです。自分が他人や魔物に変身することはできますが、他人を変身させることはできません」
「そうなんだ。それでも充分凄い」
まさに『影』に相応しい能力。
変幻自在に姿を変えられるとか、その能力が欲しい人は俺だけじゃないだろう。
「変化後の容姿は変化前の美醜に左右されます。醜い者は性を変化させても醜いまま。美しい者は変化後も美しいまま。予想していた通り半身さまはお美しい」
「なんで胸を揉む?」
「感じ方も変わっていることに気付きませんか?ただ姿形が変わるだけでなく体内も雌性の造りになっているので」
言われてみれば普段の体では感じることのない感覚。
クルトも女の姿に変身したままだから、女に胸を揉まれてる百合展開にしか見えないのも不思議な感覚だけど。
「どうですか?」
「擽ったいような気持ちいいような」
自分が男だと認識があるからか、その認識と目から入る情報が噛み合わなくて奇妙な感じがする。
スライム乳を揉む側になったことはあっても揉まれる側にはなったことがないから目に見える情報では自分の体ではないように思える。
「じきに慣れます」
「そうなんだ。って、慣れるまでやる気か」
「せっかくですから雌性を体験してみてください」
「いやいや。フラウエルから怒られるぞ?」
「ご安心を。そもそも私の役目ですので」
「役目?」
胸にキスをするクルトを止めて首を傾げる。
役目ってなんだ。
「まだ魔王さまからお聞きではありませんか?半身さまの伽は雌雄に変身できる私が任されています」
「は!?」
クルトが伽役ってこと!?
初耳ですけど!?
「御目見前は伽の者をお付けすることができませんので。必要とあらば半身さまの好む姿に変身いたしますので、御目見式までは私だけでお許しください」
「伽の相手なんて要らないから!」
魔王は分かるけど何で俺にまで。
たしかに魔王城に居たら行為をする相手と会う機会がないけどわざわざ用意してくれる必要はない。
「ほら!フラウエルが要るし!」
「魔王さまは半身です。伽の者ではありません」
「出た!魔族発想!」
そうだった。
魔族は半身と伽役は別物の種族。
魔王が居るからいいって誤魔化しは効かない。
「魔王さまのお姿がよろしければそういたします」
「そうじゃないから!」
魔王の姿に変身されて否定する。
別に魔王の姿じゃないと嫌だとは言ってない。
「私ではご不満ですか?」
「フラウエルの姿で言われるとギャップが凄い」
魔王の姿で丁寧に話されると怖い。
本物の魔王じゃないと分かっていても見た目や声は魔王にしか見えないから。
「失礼いたします」
顎に添えた手で顔をあげさせられて目が合う。
魔王と同じブラウンの目。
その瞳孔が夜行性の蛇のように縦に細くなる。
「……な、なにをした?」
「少し能力を使わせていただきました」
体が熱くなってその場にしゃがむ。
これはご都合主義の漫画に出てくる媚薬的なアレか。
魔王の体液と同じ。
「姿を真似るだけじゃなくて能力も使えるのか」
「自分より強い者の能力は使えません」
「え?じゃあこれは」
「催淫という能力です。半身さまが勘違いされてるのは魔王さまの体液の事だと思いますが、あれは支配香と同じく魔王さまが生まれ持った体質なので魔力を使う私の能力とは違います」
天然媚薬製造機とか、恐るべし魔王。
いや、それどころじゃないんだけど。
「なんか変な感じ……知ってる感覚と違う」
「雄性の時と感じ方が違って戸惑いますか?」
「うん」
男の体の時はこんな感覚にはならない。
果てる際に女は長く緩やか、男は一瞬で終わるというのが一般的な常識だけど、そこまで辿り着く以前にもう別物に感じる。
「魔王さまがお戻りになったようです」
「どこに行って、いや、その前にこの催淫効果をどうにかしてくれ。立って歩けない」
どこに行っていたのかも気になるけど、このモヤモヤソワソワする体がおさまらないと困る。
「そのままお迎えした方がお喜びになるかと」
「俺は魔王への貢ぎ物じゃないぞ。絶対に嫌だ」
「分かりました。浄化いたします」
鴨が葱を背負って現れるような状況は勘弁。
断固拒否するとすぐに催淫効果を消してくれた。
「あー。吃驚した。立てなくなるほどとか」
「手っ取り早く雌性体の感度を体験していただこうと思ったのですが、人族には効きすぎたようで申し訳ございません」
「魔族は平気なのか?」
「はい。これでも加減をしたのですが」
「どれだけ魔族の体は頑丈なんだ」
俺も半分は魔族のはずなのに。
あ、今となっては謎の神魔族か。
「この女体は元に戻れるんだよな?」
「時間が経てば戻りますし、今解くこともできます」
「時間で戻るならこのままでいい。せっかくの機会だからしばらくは女体体験してみたい」
地球に居たら体験できなかったこと。
全身整形で容姿を変えることはできても体内までは変えられる訳じゃないけどこの体は体内まで変化してるらしいし、そんな貴重な体験をすぐに辞めてしまうのは惜しい。
「ではそのまま魔王さまのお迎えを」
「うん」
女体になって緩くなってしまったパンツの紐を結び直す俺の背中に手を添えたクルトは転移魔法を使う。
エントランスホールに移動すると既に使用人たちが赤い絨毯を挟み両側に並んで頭を下げていた。
「お帰りなさいませ」
「クルト」
雪がついたケープを脱いでいた四天魔の三人と魔王。
魔王の姿で出迎えても驚く様子もない。
それにしても実物の魔王と見比べても瓜二つだ。
「起きていたか。雌性体の半身も美しいな」
「少しくらいは誰?って迷えよ。驚かせたかったのに」
「無理を言うな。どんなに姿を変えても魂色で分かる」
「……そうだった。お帰り」
「ただいま」
使用人の一人にケープを渡して四天魔の三人と歩いてきた魔王が少し笑いながらチークキスをしてきて、たしかに魂色が見えるのに驚きようがなかったと納得しながらチークキスで返す。
「マルクさんとクラウスさんとウィルもお帰りなさい」
『ただいま戻りました』
「四人とも沐浴して暖まった方が良さそう」
「ああ。そうする」
幾ら魔族の体が頑丈と言っても外は極寒の猛吹雪。
チークキスで重ねた魔王の頬も珍しく冷たくなっていた。
どこに行ってたのか聞こうと思ってたけど後回し。
「今日の侍者は魔王さまの湯浴みの用意を」
「不要だ。半身に洗って貰う」
使用人に命じる山羊さんを止めて俺の肩を抱く魔王。
いやいや、それは召使の役目なんだから駄目だろ。
あと嫉妬深い人が今日の担当でギリギリされても困る。
「承知しました」
「許可すんの!?」
全て察したような見守る目の山羊さんと赤髪と仮面。
クルトは謎の笑みで俺にサムズアップする。
魔王の姿でやられるとギャップの破壊力が凄い。
「お前たちもしっかり温まるように」
『ありがとうございます』
「クルトも半身の護衛ご苦労だった」
「もったいないお言葉を」
護衛……なるほど。
そのために四天魔の一人を置いて行ったのか。
ということは最初から姿を隠して護衛されていたんだろう。
四天魔から生暖かい目で見送られて部屋へと転移した。
「沐浴の準備してくる」
「召使のようなことはしなくていい。一緒に入ろう」
部屋に戻って早速風呂の準備をしてやろうとすると腕を掴んで止められる。
「俺に洗って貰うって言ってなかった?」
「洗って貰うし、洗ってやる。仕事を頼んだのではない」
「ああ……そういうこと」
介助役の召使ように沐浴の手伝いをしろということかと思ってたけど、異世界最強の魔王さまが俺にご所望なのは人族の関係性で表せば『夫婦水入らず』の時間と。
四天魔の見守る目はそれを察したからか。
「おお。女体の俺の体、なかなかイケてる」
広すぎる風呂場に行ってダボついている衣類を脱ぎ巨大な鏡の前に立って自分の女体姿を確認する。
髪は腰まで伸びているものの色と瞳の色はそのまま変わらず、体はしっかり出る所は出て括れる所は括れている。
「お前は性に釣られないようだな」
「ん?」
「性を変化させると大抵は思考もそちらに釣られる」
「男体なら男の思考に、女体なら女の思考になるってこと?」
「ああ。躊躇なく裸体になり鏡の前で仁王立ちしている時点で雌性らしくはなっていないようだ」
たしかに体内器官が変化するなら思考も多少変わるか。
今のところは普段の俺と変わった気がしないけど。
「女らしい方が良かった?」
「せっかく姿形が変化したのだからそれも見てみたかったが、雄性でも雌性でも魂色の美しさは変わらない。どのような姿形をしていようと俺の唯一の半身だ」
激甘。
鏡越しに見える後ろから抱きしめ激甘なことを言っている魔王の顔は今日も甘い言葉とは正反対に無表情。
知らない人が見れば本気で言ってるのかと疑ってしまうような表情だけど、基本装備の表情がこれなだけで思ってもいないことは言わない奴だと俺は知っている。
「なし崩し的に始めそうな雰囲気だけど今はなにより温まるのが先。下も脱いでシャワーを浴びててくれ」
背中に重なった上半身が冷たくて腕から抜け出す。
「脱がせてくれないのか」
「俺は体を洗う準備をするから自分で脱げ。風邪ひく」
「数百年前に一度罹った記憶が朧気にある」
「頑丈でなにより」
さすが異世界最強。
体の頑丈さも異世界最強。
「角を引っ込めてくれ」
「ああ」
シャワーを浴びて貰ってる間に準備をしてまず洗髪。
木製のベッドに座って貰って洗髪の邪魔になる三日月型の角を仕舞わせてブラウンの長い髪を洗う。
「そういえばどこに行ってたんだ?」
「竜人界で雪崩があったと報告が入ってその確認に」
「え!竜人族の人たちは大丈夫だったのか?」
「竜人に被害はないから安心しろ。ただ大切な祠のある洞窟の入口が塞がれてしまったから明日除雪に行く」
魔王曰く雪崩が起きたのは竜人界にある山の一つで、雪で塞がれてしまったその洞窟の中には龍の祠というものがあり神龍という龍の祖先や歴代の祖龍王が祀られているらしい。
「龍の祖である神龍はお前のように白く美しい姿をしていたと言い伝えられている。その神とともに歴代の魔王に仕えた祖龍王が祀られたその祠は魔族にとって神聖な場所なんだ」
「あ、それ書庫にあった本で読んだ」
白い守り神と呼ばれた神龍。
祖龍よりも大きな体をしたその白い龍は魔神の眷属として魔界層の土地を守っていたとか。
「たしか神龍が眠りにつく前に自分の鱗で生み出したのが祖龍なんだよな?自分の亡きあと魔界を守る者として」
「その通り」
日本で育った俺には神話世界のお伽噺。
でも実際に魔法という能力が存在していて神の存在も感じるこの世界では、神龍の存在も鱗から新たな生命を作ったこともありえない話じゃないと思ってしまう。
「すぐに終わるのか?除雪は」
「いや。竜人に被害は出ていないから今日は崩れた箇所を固めただけで戻って来たが、明日は支度をして行っても一日がかりになるだろう。極寒の中で作業をできる者が少ない」
月喰期は魔人族も龍族も竜人族も塒に籠る。
除雪作業ができる人が足りないのも納得。
「じゃあ明日は俺も連れて行ってくれ。手伝う」
「駄目だ。月喰期の寒さは魔族であっても体の負担が大きい。人族のお前の体では凍えてしまう」
「除雪作業は無理でも疲れてるみんなに温かい食事やスープを配るくらいならいいだろ?魔族にとって神聖な場所なら魔王の半身の俺にも無関係じゃないから出来る範囲で手伝いたい」
俺にとって魔族は味方じゃないけど敵でもない。
ここが地上層だろうと魔界層だろうと困っている人が居るのに知らないフリはしたくない。
「お前ほど俺の心を乱すのが上手い者はいない」
「こら!まだ洗い中!」
「洗うのは後回しだ」
後ろに立って髪を洗っていた俺を脇に抱えて木製のベッドに下ろした魔王は、洗い終えたら使うつもりだったシャワーの湯を頭から豪快にかぶってまだ洗い中だったシャンプーを落とす。
「ボタボタ顔に垂れてるから!」
「重ねてしまえば垂れないから安心しろ」
「角出すな!」
「出てしまったのだから仕方ないだろ」
魔王さまのやる気スイッチログイン。
仕舞っていた三日月型の角もログイン。
出てきたんだからログアウト?
「堪能させて貰おう。雌性体の半身を」
重なった口から流れこむ魔力。
いや、魔力を孕んだ天然媚薬。
口が離れる頃には既に体が熱くなっていた。
「な、なんか……いつもより強烈な気が」
「見た目の造りだけしか変わっていないのかと思っていたが、体内もしっかり雌性体になっているようだな」
ああ、これ駄目なやつ(察し)。
自分の意思だけじゃその快楽に抗えない。
「初の女体なんだから乱暴に扱うなよ?」
「俺が最中に乱暴に扱った時があったか?」
「ないけど、いつもより手加減を」
「善処しよう」
今はそんな魔王の言葉を信じるしかない。
というより俺自身も普段とは違う快楽に興味がある。
「どうだ?雌性体の感度は」
「ちょっと……癖になりそう」
「正直な奴だ」
男体には男体の良さがあるけど、女体は女体でいい。
思ったままに答えると魔王はクスと笑う。
これ、俺が女に生まれてたらビッチになってた自信がある。
男でもクズ。
女でもクズ。
うん。ブレないな、俺のクズさ。
「狭いな。人族の体は」
「待った。初の女体ってことは初物じゃん」
「それはそうだ」
「初物の体にお前のソレは無理だろ。絶対痛い」
そろそろという時になってハッとする。
気持ち良くて忘れてたけど、初物(女体は)の俺に体の大きな魔王のソレが入るとか拷問か。
「雄性の時に痛い時があったか?」
「……そういえばないな」
「俺の体液は興奮作用だけではない。痛みもないはずだ」
「なんだ。じゃあいいや」
「水に浮いた葉より軽いな」
「最初から女体の初体験はフラウエルに協力して貰うつもりだったから。地獄の痛みがないなら問題ない」
どうせ体験するなら気の置ける半身がいい。
男の体でも初物(後ろ)は魔王だったし。
「幾らでも付き合ってやる」
また口を重ねられて体が熱くなり息があがる。
ゆっくり入ったソレは……
「痛くないだろう?」
「うん。ビックリするほどに」
さすが異世界最強。
こんな才能ですらも超有能か。
本当に癖になりそう。
あとは魔王に任せてことに没頭した。
・
・
・
「ん……苦し……ってまたか!」
息苦しくてパチッと目覚めると魔王の顔。
腕枕をしたまま口元を笑みで歪めた魔王は頬に何度もキスを繰り返す。
「俺いつの間に寝てた?」
「果てたと思えば力尽きて寝た」
「……やりすぎな」
風呂からベッドに移動したあと、後半部分の記憶が朧気。
この魔王さまは何回やるんだと思ったことは覚えてるけど。
「食事は出来そうか?」
「食べる。もう昼食の時間か」
「いや。夕食の時間だ」
「夕食!?」
「昼食の時間は最中に過ぎていた」
「いや本当にやりすぎな」
早朝に帰って来て昼食の時間も真っ最中だったとか絶倫か。
それに付き合えた(※記憶はない)俺も凄いけど。
「湯浴みの準備ができました」
「ああ」
寝ている間に来ていたらしく呼びに来たのは赤髪。
ベッドから体を起こすと同時にノックの音がして山羊さんが部屋に入って来た。
「クルトから雌性体用の衣装を預かって参りました」
「わざわざ借りてきてくれたんですか?」
「普段着ている雄性体の衣装では緩いだろう?月喰期は店がやっていないからクルトの私物を借りてきて貰った」
「ありがとう」
クルトは女に変身することもあるから持ってるんだろう。
借りて来てくれた山羊さんと気を回してくれた魔王に礼を言ってベッドから脚をおろす。
「しっかり立てるようだな」
「平気だけど」
「あれだけすれば魔族の雌性体でも足腰にきておかしくないのに平気とは。その体、人族の体ではないのかもな」
元の体と同じ神魔族ってやつかもってことか。
男の体の時と同じく造りは人族と変わらないけど。
風呂場に行くと恒例の沐浴介助役が四人。
沐浴着姿で頭を下げて魔王を待っていた。
「魔王さま、こちらへ」
四人の中の一人が言うと一斉に顔をあげて目が合う。
その顔がポカンとしていて、なんの表情だと一瞬考えたあと女体化しているからかと納得した。
あれ?もしかして俺の方が勝ってるんじゃね?
胸のサイズは爆乳の介助役の方がデカいけど俺のは形がいいお椀型のぷにぷにスライム乳だし、腰の括れ、腰の高さ、キュッと上がったヒップ、ツルツルの肌、サラサラの髪……勝った。
「どうした?」
「なんでもない」
虚しい孤独な勝負を心の中で繰り広げただけで。
でも、普段から俺を見下してる召使(=伽役)たちより俺の体の方がイケてて清々しい気分だ(小さな復讐)。
女体にしてくれてありがとう、クルト。
そんな虚しすぎる優越感に浸りながら、今日も赤髪に全身くまなく洗って貰った。
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アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
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