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第四章 動き出した歯車
魔王城
しおりを挟む「これが魔層」
天まで続く、ズモモモと擬音が付きそうな漆黒のモヤ。
悪魔でも召喚されて来そうだ。
「これって人族の俺が通っても体に害ない?」
「お前は問題ない。魔層を通って竜人街へ来ただろう?」
「気絶してたから分からない」
目覚めたら竜人街だったから通った記憶はない。
「実は他の方法で連れて来られた可能性は?」
「ない。魔層を使わずとも魔素の干渉なく天地を渡れるのは半身が地上に居る俺だけ。他の者は魔層が唯一の移動手段だ」
「地上に半身が居る魔族は?」
「有り得ない。が、仮に居たとしても俺のように魔層なしで移動する能力がない。魔王の特殊恩恵を持つ者の能力だからな」
「さすが魔王さま。小狡いチート能力をお持ちで」
魔層の仕組みも分からないし、そもそも魔素と言われても「何それ」だけど、魔王がチート能力持ちってことだけは分かった。
「お前は俺の半身だから魔素に強い」
「それを最初から言ってくれよ」
何の為に今までビビり散らかしたんだ。
勝手にビビってたのは俺だけど。
「通るぞ」
「うん」
魔王の肩に担がれたまま入った魔層。
黒いモヤに入ったのに中は真っ白。
まるで濃霧の中を歩いているかのようだ。
「なんか温かい」
不思議と何かにほんのりと守られている感がして呟くと魔王はフッと笑い声を洩らす。
「本来人族であれば生死を彷徨う苦しみを味わうはずだがな」
「え。やっぱ人族には害なんじゃないか」
「だからお前はと言っただろう?仮に俺と契約していなかったとしても元から魔族が混ざっているお前なら通れただろうが」
ああ、それな。
日本では100%ヒト成分で出来てたはずなのに。
瞳や髪の色のように召喚されたタイミングでバグったのか、暇を持て余した神々が暇潰しにバグらせたのか知らないけど。
「そういえばどこに向かってんだ?」
「魔王城のある魔人界だ」
「そういうことは早く言えぇぇぇえ!」
魔層から出てすぐに見えた青空。
魔界といえば光のない闇世界の印象(漫画やアニメ知識)だったのに、大きく予想を裏切って澄んだ青空が広がっている。
「……あの、龍種が飛んでるんですけど」
「魔人界だからな」
「スズメみたいに気軽に飛んでていい存在じゃないだろ」
「スズメ?」
「俺が生まれ育った場所に居た鳥。小さいヤツ」
日本ではお馴染みの雀。
どこででも見かけるチュンチュン鳴くあの愛らしい鳥のような気軽さでデカい龍が群れで空を飛んでいた。
「ここが魔王城だ」
「……ってコレ!?」
デカすぎぃぃぃぃい!
右肩に担がれたまま連れて来られたから後ろの景色しか見てなかったけど、言われて振り返った先にあったのは巨大な城。
その城の巨大な城門を魔王は片手で押し開けて入ると城まで繋がっている石畳の上をスタスタ歩く。
「噴水もデカい」
「祖龍が水を飲みに来る時もある」
「普通は噴水ってそんなデンジャラスな場所じゃないぞ」
城や噴水もデカいし綺麗にメンテナンスされた庭園も広い。
全てにおいて人族の城よりもスケールがデカかった。
「お帰りなさいませ魔王さま。剣は無事なようですね」
「いや、半身を斬るのに使われた。眠りにつかせる」
「愚かなことを」
城の巨大なドアを魔王が開けるとすぐに山羊のような角の生えた男が駆け寄って来て、魔王とそんな会話を交わしている間にも続々と人が集まって来た。
形や大きさは違ってもみんな角が生えている。
竜人族の街では角のない人も見かけたけど魔人族はみんな角が生えてるようだ。
「俺の部屋に案内させる。まだ傷を塞いでいないから大人しく休んでおくように。封印が終わり次第すぐに行く」
「分かった。ありがとう」
ようやく地面(床)に下ろして貰えた。
山羊サン(勝手に命名)と深刻な様子で話してたから邪魔しないよう黙ってたけど、話し中も担がれたままだったからずっとそのままなのかと思った。
「ウィル、半身の案内を。血で汚れているから湯場と着替えの準備もしておいてくれ。傷を塞いだ後に入らせる」
「はっ」
呼ばれたのは赤髪灼眼のデカい男。
竜人族と同じく魔人族も男女問わず背の高い人が多い。
これだけガタイの良い人が揃っていたら人族が弱く見えてしまうのも仕方ないのかも知れない。
案内されたのは無駄に広い部屋。
どこぞの温泉かとツッコミたくなる石造りの巨大風呂や何人で寝るんだとツッコミたくなる天蓋付きの巨大ベッドまでが完備されている。
さすが魔王の部屋。
豪華すぎるVIPルームだ。
「こちらでお待ちください」
「はい。ありがとうございます」
「くれぐれもお部屋からは出られませんよう」
「……はい」
歓迎されてなさそう。
案内してくれてる最中も男は一言も喋らないどころか俺を見ることすらなかったから。
まあ当然か。
人族がそうであるように魔人族にとっても人族は敵。
魔王が変わり者なだけ。
男が風呂の準備に行ったのを見届けて高級そうな装飾が施されているシェーズロング(カウチソファ)に座る。
国王のおっさんの部屋もこんな感じなんだろうか。
俺が借りてる第一騎士団宿舎の部屋も広くて高価そうな家具が揃ってるけど、これだけ超VIPな部屋に暮らしている魔王が見れば狭いと感じるんだろう。
「ピィ!」
「ピ、え!?」
ソファに付いた指先をコツコツされて驚き手を引く。
「ピィ!」
「わ、な、なんだお前。イテテ」
人の体を鼻先でゴスゴスとど突く真っ白な生き物。
仔犬サイズほどの大きさで背中に生えている小さな羽根をパタパタと動かしていて可愛い。
ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス
ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴ……
「ど突きすぎだろお前!」
「ピィ!」
啄木鳥か!
その猛烈なド突き攻撃は啄木鳥か!
猛烈アタックする小さな生き物を抱き上げて姿を見る。
「もしかしてお前……祖龍?」
「ピィ!」
上から見ていたから気付かなかったけど、抱き上げて見たその姿は以前見た祖龍そのもの。
「お、なんだ。人懐っこい」
短い四脚を必死にパタパタ動かしてピィピィ鳴いてる姿を見て抱き方が悪いのかと思って犬猫を抱くようにすると、ローブに爪を引っ掛けながら顔の方までよじ登ってくる。
「駄目だ!」
「え?」
風呂の準備をしていた赤髪の声が聞こえてそちらを向くと同時にパーっと眩しい光が一瞬目を眩ませた。
「な、何事?」
一瞬で消えた光。
何が起きたのかと辺りを見渡す。
「失礼します」
赤髪はシェーズロングの隣にしゃがむと俺の体にへばりついていた小さな生き物を抱き上げて溜息をつく。
「契約が完了しています」
「契約?」
「主従契約です。誰とも契約したがらない祖龍なので居ても問題ないだろうと思っていたんですが」
……え?
主従契約?
「えぇぇぇぇえ!祖龍が俺と契約したってこと!?」
「はい」
「いやいやいや!俺は何もしてないし!魔族って目が合ったら勝手に契約する種族なのか!?」
魔王といい、このチビ助といい、目が合ったら慰謝料を要求してくるオラオラしたチンピラか!
魔王「目が合った慰謝料払ってくださいよ(迫真」
白龍「ピィピィピィ(迫真」
俺氏「家にはそんなお金ありません!(震え」
魔王「ないなら体で。なに。数人産めば終わる(黒笑」
白龍「ピィピィピィ(黒笑」
俺氏「そんな無慈悲な!(震え」
的なオラオラ詐欺師か!
「つかぬことをお聞きしますが契約の解除って」
「出来ません」
ふぁぁぁぁぁぁぁぁ!
出来ないのかよ!
クーリングオフ制度くらい用意しとけよ!
「この祖龍は魔王さまと契約している祖龍の子供です。自分には判断致しかねますので魔王さまと話してください」
「分かりました」
腕に返された白龍。
勝手に契約して(されて)魔王からキレられたらどうしようと思う俺の心配をよそに、またローブに爪を引っ掛けながらよじ登って来て頭の上に乗った。
「知ってるか?馬鹿と煙は高いところに上るって諺」
「ピィ!」
「うん。返事だけは一丁前だけど知らないって分かってる」
頭が重い。
契約した(された)ことを確認した赤髪はまた風呂の準備に戻ってしまったし頭頂では白龍が寛いでるし……早く帰りたい。
・
・
・
「「…………」」
魔王が部屋に来たのはかなりの時間が経って。
俺の姿を見下ろして沈黙している。
「ピィ!」
「祖龍と契約したという話は事実だったのか」
「したんじゃない。勝手にされたんだ」
俺の頭に乗っていた白龍をヒョイと持ち上げた魔王は腹の下を確認して言うとカウチソファの上におろす。
「契約の解除は出来ないって聞いたんだけど」
「出来るぞ?どちらかが死ねば」
「それ契約を続けられなくなったの間違いだろ!」
口元を笑みで歪め俺の隣に座った魔王。
なんか……
「顔色が悪い気がするんだけど」
「少し疲れただけだ」
シェーズロングに足を伸ばして背もたれた魔王の顔色が悪い。
「ああ、そうだった。子供賢者に報せを入れておけ」
「え?」
「気にしていただろう?時間を」
「え、うん」
魔王が手を伸ばしたテーブルの上にあったのは水晶。
手のひらサイズのそれを置いているクッションごと引っ張って俺の前まで持ってくる。
「繋げてやる」
魔王が手を置くと水晶の中にゆらりと黒い炎が灯ってエミーの後ろ姿が立体映像のように空間に浮かびあがった。
「話しかけてみろ。聞こえるはずだ」
「エミー」
『シン!?』
ほんとかよと疑いつつも名前を呼ぶとエミーはキョロキョロ辺りを見渡す。
「後ろ後ろ」
「魔力が足りなかったか」
独り言を呟いた魔王はまた水晶に手を置く。
「これで見えるか?子供賢者よ」
『その声は魔王か!?』
今度は姿も見えたらしくエミーは振り返りすぐこちらを見た。
『シン!どこに居るんだ!捜してたんだぞ!』
「それが待ち合わせ場所に行こうとしてたら拐われて」
『拐われた!?』
『シンさま!ご無事ですか!?』
エミーと話していると横から来たエドとベルの姿も映る。
やっぱり心配をさせてしまったようだ。
「大丈夫。竜人族の子と魔王が助けてくれたから」
『魔王と竜人族が!?』
ですよね。
そんな反応になりますよね。
こちらを見上げて驚く三人に苦笑する。
「経緯を説明するから聞いてくれ」
『分かった』
スラムからの帰り道に背後から襲われて竜人族の街に監禁されたこと、拐った犯人は魔人族で竜人族が助けてくれたこと、追い詰められたところで魔王が来て助けてくれたこと、今は魔王の城に居ること等々順を追って説明した。
『やっぱり魔王なのか。私が知る以前の姿と違うようだけど』
「これが本来の姿だ。地上に行く際は極力魔力を抑えている」
『魔力制御後であの魔力量とは。とんだ化け物だね』
俺が最初に見た時と同じく以前見た姿と違うことに気付いたエミーが問い、その返事で俺の疑問も解消される。
魔力制御をしたエミーが子供の姿になるのと同じように、魔王も魔力制御をした姿が以前見た姿だったと。
『その魔力を解放して万全のはずの魔王さまが、怪我をするまでシンを助けられなかったって言うのはどういうことだい?』
「竜人街のある場所が厄介でな。魔力の感知を遮断される。使者を付けているいつもであれば竜人街へ行く前に止められたのだが、今日はこちらでも色々あって戻って来ていた」
あの剣を持ち出されたからか。
山羊サンもいの一番に剣のことを確認してたくらいだから、魔王たちにとってあの剣を持ち出されたことは余程の大問題だったんだろう。
『そのタイミングを狙ってシンを拐ったのか』
「ああ」
『飼い犬に手を噛まれるとはこのことだね』
「全くだ。とんだ笑い種だな」
エミーの厭味に魔王は自嘲する。
仲間、いや、伽の相手にしてやられたんだから、魔王としても複雑な心境ではあるんだろう。
『事情は分かった。シンを帰らせてくれ』
「今日は無理そうだ」
『もう片付いたんだろ?』
「血は止めたがまだ傷を塞いでいない」
『シンは自分で回復を使えるよ』
「この怪我は回復では塞がらない。俺でないと無理だ」
そう話しながら魔王は俺の耳を触る。
『傷なら自然に塞がるだろ』
「塞がらない。俺が塞がなければこのままだ」
『はあ?なんだその厄介な怪我は』
「それについて詳しく話すつもりはない。お前たちが心配すると半身が気にしていたから報せる場を設けただけだ。塞いだら必ず連れて行くことは約束する。心配せず帰りを待ってろ」
そう言い捨てるように話して魔王が水晶から手を離すと、回線が切れたかのようにプツリとエミーたちの姿は消えた。
「お前まだ俺は話したいことが」
「ピィ!」
「……どうした!?」
もう一度繋がらないか水晶をペチペチと叩いていると白龍が鳴いてどうしたのかと後ろを見ると、シェーズロングの背に凭れた魔王がグッタリしていて驚く。
「塞ぐのはもう少し待ってくれ」
「そんなことよりやっぱ具合が悪いのか?」
「剣に魔力を与えてきたんでな」
「さっきの剣か?」
「ああ。力のない者が使用したために封じていた魔力を使われてしまった。再び眠らせるには大量の魔力を送る必要がある」
全く意味が分からないけど今は話すのも辛そう。
白龍も心配らしく魔王の体に寄り添ってピィピィ鳴いている。
「要は魔力を使い過ぎたのか?」
「そのようだ。魔力が回復するまで少し休む」
「人族の魔力でも大丈夫なら俺の魔力を分けてやるよ」
「お前が?」
「魔力譲渡なら俺にもできる」
本来なら魔力を他人に与えること(魔力譲渡)は賢者しか出来ないらしいけど、賢者と名に含む特殊恩恵を持つ俺にも出来る。
以前エミーとエドとベルに魔力譲渡してくれた恩があるから(魔王が命令した祖龍との戦いで枯渇したんだけど)、その恩を返すために今回は俺の魔力を分けることにした。
【ピコン(音)!ステータスを確認してください】
「え?なんで今?音声モード」
【音声モードに切り替えます。特殊恩恵〝不屈の情緒不安定〟の効果により全パラメータのリミット制御を解除、全パラメータを限界突破。ただいまより特殊恩恵〝聖魔に愛されし遊び人〟の効果、魔神モードに移行します】
なんで今特殊恩恵が……。
「お前の魔力量がとんでもないってことか!」
「……ん?」
今の魔王は俺を殺そうとしてる様子はないし、守護や加護は発動せずにパラメータの制限解除と限界突破だけしたんだから、特殊恩恵を発動した俺じゃないと危険なくらい魔王の魔力量が多いってことなんだろう。
「まあ良いや。少しジッとしててくれ」
顔色が悪い魔王に額を重ね合わせて魔力を送る。
俺は魔王のように相手に触らずとも魔力を分けることは出来ないから。
「この魔力……魔神か」
「魔神モードってヤツだからそうかも」
「よい香りがする……心地好い」
魔神というのは魔族の神。
中の人の声は聞こえていないはずなのにそれが分かったということは、魔王がいつも俺の匂いを嗅ぎまくる理由もその香りを嗅ぎとってのことだったのかも知れない。
「はぁ……」
これは特殊恩恵が発動するはずだ。
物凄い勢いで魔力が吸いとられて行くのが分かる。
「辛そうだ。もういい」
「大丈夫。もう少し」
魔力がある程度まで回復すれば吸収する量も弱まる。
せめてそこまでは分けといてやりたい。
「ん」
「よい香りをさせながらそのような悩ましい声を出されては魔力を貰うだけでは済まなくなりそうだ」
「元気だな!枯渇寸前の癖に!」
人の魔力はごっそり吸収してる癖に下半身は元気か!
グッタリさせたまま放置しといてやろうか!
「仕方がないだろう?半身なのだから」
「契約に体は含まれてないだろ。子供は魔力で作るのに」
「半身というのは人族でいう伴侶だぞ」
「勝手に契約されたんだけどな!ガブッとやられて!」
勝手に婚姻届に判を押す病み子ちゃんと同レベル。
いや、無効にさえ出来ないんだからもっとタチが悪い。
「大人しくしてろ。こっちも結構キツイんだ」
練習も含め魔力譲渡をしたことは何度かあるけど、こんなにも体力ごと持って行かれる感覚になったことは今までなかった。
それほど魔王の魔力量が桁外れってことだ。
「ピィ!」
「……はぁ……もう無理」
吸収する量が緩やかになった時には全力疾走をした後かのように息が切れていて、額を離して体を起こすと目眩がした。
「お前は無理をするのが好きなのか?」
「……好きな訳ないだろ」
さっきまでは魔王がグッタリしていたのに今は俺の方がグッタリしてシェーズロングから落ちそうな体をキャッチされる。
勢いよく吸われるとこんなにも疲れるのか……。
「助かった。感謝する」
「少し楽になったみたいで良かった」
礼を言った魔王の顔色はさっきよりも良くなっている。
あとはゆっくり休めば完全に回復するだろう。
「ピィ!ピィ!」
「静かに。俺たちは少し休む」
「ピィ!」
抱き上げられベッドに運ばれて腕におさめられる。
またこの絵面かと思ったけど疲労困憊でつっこむ元気もなく、魔王の声と白龍の鳴き声を聞きながら眠りについた。
・
・
・
「んんん……っは!窒息させる気か!」
「ピィ!」
息苦しくて目が覚めて咄嗟に怒鳴ると俺の声に驚いたらしく白龍が枕元でピョコンと飛び跳ねる。
「って、白龍じゃなくてお前かよ!」
「動くな」
「いやいや待て待て!顔が近い!」
目の前にあった魔王の顔を手で押さえて断固阻止。
人が寝てる間に何をしてくれてんだ。
「傷を塞ぐために口から体液と魔力を送っている」
「どんな治療法!?」
「ただ口が重なったくらいで文句を言うな」
「それ大事!口が重なったらキスだから!」
「半身なんだからいいだろう」
「半身なんだから。は魔法の言葉じゃねえから!」
コイツ半身だからと言えば許されると思ってる節がある。
俺はパンセクシャルだから男も女も両性もニューハーフもオカマもオナベも関係ないけど!魔王のことは好きになって契約した訳じゃないからまた話が違う!
「好き嫌いに性別は関係ないけど、こういうことをするのは断じて誰でもいい訳じゃない!俺にも好みはある!」
強く力説した俺に魔王は鼻で笑って耳を舐める。
「好きではなくともこのくらいは我慢しろ。俺の魔力を封じたあの剣で斬られた傷は俺の体液でしか治せない」
ああ、それで『俺でないと無理』なのか。
随分と危険な剣を持ち出されたものだ。
「なんか耳が熱い」
「また苦情か」
「熱いって言っただけだろ」
なにコイツ拗ねてんだ。
拒否られたからってそんなにメンブレしなくてもいいだろ。
お豆腐メンタルか。
「……治してくれてることは感謝してる」
「お前は巣から落ちた祖龍の卵を無視できないタイプだろ」
「そんな状況に遭遇したことがまずねえよ!」
少し言い過ぎたかと思えばコレだ。
お豆腐メンタルは部屋の隅で豆腐に醤油かけて食ってろ。
「熱いのは我慢しろ。半身だから体が反応するのは仕方ない」
「そうなのか」
「傷が塞がり始めた証拠だ」
「分かった」
もう機嫌は直ったらしく口元に笑みを浮かべた魔王はまた野性味あふれる治療を再開する。
血を止める時も野性味あふれる治療法で止血をしてたし、体液が唾液で済んで良かったと思おう。
「ピィ!」
「……どうした?熱すぎるのか?」
「大丈夫」
気にしなくていいから早く治療を終わらせて欲しい。
体(主にシモ)が色々と大変なことになってきたから。
恐るべし魂の契約。
まさかこんなにも体が反応するとは。
子供は魔力で作るのに要らないだろ、この作用。
「ピィ!ピィ!」
「シーっ!」
魔王に教えるかのように飛び跳ねてピィピィ鳴く白龍。
それは俺の死亡フラグになりかねないから黙っててくれ。
俺のそんな心からの訴えは届かず、俺と魔王をキョロキョロ見ながらピィピィ鳴く白龍は純粋で残酷だ。
「辛いか。体が」
「鼻で笑うな」
「諦めろ。俺の半身がお前なら、お前の半身も俺だ」
「……押し付け半身の癖に」
今ほど魂の契約が厄介だと思ったことはない。
ストップ押し付け詐欺。
「ピィ!」
白龍に魔王はフッと笑うと俺と目を合わせて顔を近付けた。
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