ホスト異世界へ行く

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第四章 動き出した歯車

魔王フラウエル

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あれから約二ヶ月。
訓練も無事(?)再開してベッドで“‪(  ˙-˙  )スンッ‬”となる日々を過ごしていた。

「クソ……イケると思ったのに」
「甘いね。跳ね返された後の切り替えが遅い。次の手を考えてない証拠だ」

まだ戦闘狂軍人に魔法を使わせられないまま。
以前よりは懐に入れるようになったものの、まだ魔法を使うほどの脅威は感じてくれてない。

「ステータスの確認をしたら食事にするよ」
「うん」
「午後からは魔法訓練にうつる」
「分かった」

相変わらず変わらないパラメータ。
それでも訓練の時にはもう決まりごとのように確認することが身についた。

「お食事の時間ですか?」
「はい」
「すぐに準備いたします」
「ありがとうございます」

ヒラヒラの娘っ子も相変わらず。
お供を引き連れ食事時間に合わせて現れる。

「んー美味しい。ルナさまも料理の腕があがったね」
「お褒めいただき光栄です」

本当に。
俺が作った料理の味をベルから聞いて作れたんだから元々器用だったんだろうけど、ここ最近は『今日の昼食はなんだろう』と期待するくらいに腕前をあげた。

「次期国王に料理をさせるとは」
「アンタもブレないね。ルナさまはやることやってるだろ?」
「そうでないならここへ足を運ぶことも許していない」
「健気じゃないか。次期国王としての務めや勉強はした上で空き時間にシンから料理を教わってるんだから」
「そこは認めていない」
「めんどくさ」

礼儀作法のオヤジとエミーのも変わらず。
ちなみに王宮魔導師だと思っていたこのオヤジが実は王宮師団のトップで、宰相さいしょうにあたる人とだと知ったのはつい最近。
だから国王のおっさんや次期国王のルナさまへの礼儀作法に厳しかったのかと納得した。

「ただ、あの煮込みハンバーグというアレはなかなかだった。王宮料理人たちに教えることは吝かではない」
「素直に美味い物が食べたいからもっと王宮料理人に教えろって言えばいいのに」

エミーにかかれば偉いオヤジも形無し。
今ではメイドや騎士たちからも微笑ましい光景を見るかのような生暖かい目で見られている。

「シンさま、スープのおかわりはいかがですか?」
「いただきます」
「はい」

ヒラッヒラでフワッフワの娘っ子。
蝶よ花よと育てられていても我儘放題するでもなく、訓練の邪魔にならないよう食事の時間に合わせて来たりと、控えるところは控える

「そういえば来月はルナさまの誕」

会話の途中で鳴り響いた音。

「警報だ!」
「すぐにルナさまの避難を!」
『はい!』

不快に鳴るその音を聞いてエミーはパッと立ち上がり、師団のオヤジは護衛騎士や侍女たちに指示を出す。

「警報って」
「さあね。この国に何かしらの危険が迫ってることは確かだ」
「はぁ?」

今の今までのんびり食事をしてたのに。

「君もルナさまと」
「異世界人。着いて来るかい?」
「エミーリア!?」
「アンタなら私の愛弟子の実力はもう分かってるだろう?それでも危険だと判断したらすぐに避難させる」

師団のオヤジが俺に何か言いかけたのを遮ったエミーは素早く術式を地面に描く。

「どうする?」
「行く。何が原因で鳴ったのか気になるし」
「まずはそれの確認だ」
「分かった」

状況を把握するにはエミーに着いて行くのが早い。
それに師匠が行くのに弟子の俺だけ避難するなんてできない。

「エミーリアさま。シンさま」
「大丈夫。まだ第一警報だ。ルナさまは安全な場所へ避難を」

騎士や侍女に周りを守られながら不安そうな顔をするルナさまにエミーはそう話して笑みを浮かべる。

「分かりました。お二人ともどうぞご無事で」

ルナさまが手を組み祈ると体に温かい何かが流れる。
魔力は感じるけど魔法じゃない。
恐らくルナさまが持つの能力なんだろう。

「二人とも無理はするなよ!」

師団のオヤジのそんな声を聞きながら術式に乗った。

術式から出た先は城門前。
既に騎士や魔導師たちが集まっていた。

「エミーリアさま!」
「なにがあった!すぐに報告しろ!」
「はっ!八時の方角より巨大な魔力を感知!0117、第一警報を発令いたしました!」

初めて体感する軍人たちの緊迫した空気。
冗談や訓練ではなくこの王都に何かが近付いているんだと嫌でも感じた。

【ピコン(音)!ステータスを確認してください】

「呑気に話してる場合じゃなさそうだ」
「なんだい?急に」
「音声で頼む」

この状況で中の人の声ってことは……。
八時の方角から目を離すことなく中の人に話しかける。

【ピコン(音)!音声モード。特殊恩恵〝Dead or Alive〟の効果により守護が発動。特殊恩恵〝カミサマ(笑)〟の効果により加護が発動。特殊恩恵〝不屈の情緒不安定〟の効果により全パラメータのリミット制御を解除、全パラメータを限界突破リミットブレイク

あの時と同じ。
特殊恩恵が次々と解放されていく。

「この守護は君の特殊恩恵の効果か?」
「うん。俺の特殊恩恵が解放された」
「これだけでも充分規格外の能力だね。個人を包む守護壁なんて初めて経験したよ」

【シン・ユウナギ専用、妖刀 優美ゆうびを召喚、同時に魔神刀 みやびを召喚】

空に現れた妖刀陣と魔刀陣。
そこから召喚されてくる優美と雅は今日もとんでもない邪悪な気配を放っている。

「エミーも魔力を解放した方がいい。嫌な予感がする」
「嫌な予感?」
「この解放の仕方は祖龍と対峙したあの時と同じだ。多分このまま特殊恩恵の〝遊び人〟が発動する。騎士や魔導師たちをすぐに障壁内までさげてくれ。もし俺の守護壁が行き渡ってない人が居たら体にどんな影響が出るか分からない」

【ただいまより特殊恩恵〝病みに愛されし遊び人〟の効果、魔神モードに移行します】

「総員退避!障壁内までさがれ!第三警報を発令!」

やっぱり発動した。
嫌な予感っていうのは当たるものだ。

「君は本当に何者なんだ。この魔力は一体……」

背後で鳴り響く警報音。
魔力を解放して大人の姿になったエミーは呟く。

「俺は俺だ。異世界から召喚されてきた元ホストで、戦闘狂軍人でくそったれ賢者さまの弟子」

指名客と待ち合わせていたところをで召喚されてしまった可哀想な異世界人。

「知ってる。まだ私に魔法を使わせてくれない無能」
「うるせえ。近い内に絶対使わせてやる」
「期待してるよ」

特殊恩恵がどんなものだろうと俺は俺だ。
笑うエミーに俺の口元も綻んだ。

「「シンさま!」」
「エド、ベル」
「申し訳ございません。遅くなりました」
「国民の避難指示に手間取ってしまいました」

忍者のようにスッと現れたエドとベル。
片膝をついて俺に頭を下げる。

「危ないから障壁の向こうに居ろ」
「「イヤです」」
「イヤじゃない。俺の持つ能力が全部解放されたんだ。あの時の祖龍と同等か、それ以上の奴が来るかも知れないんだぞ?」

そんな駄々っ子みたいに。
可愛いけど今はそんなことを言ってる場合じゃない。

「我々は獣人です。自らがあるじと決めた御方の手となり足となり生涯お仕えします。どうぞ我々もお傍で戦わせてください。シンさまやエミーリアさまの足手まといになるようであれば自分たちで引き際は見定めますので」

エドとベルは片膝をついて頭を上げないまま。
俺に従わないのは初めてだ。

「言っても無駄だよ。獣人はそういう種族なんだ。自分が認めた主人を守るためなら例え体が欠損しようとも命がある限り戦い続ける。だから敵に回ると恐ろしいんだよ、獣人族は」

エミーは腰まである長い翡翠色の髪を結びながらそう話して苦笑する。

「分かった。ただ俺はエドやベルが死ぬのはもちろん体の一部ですらなくなるのは嫌だ。だから無理だと思ったら引け。生きて俺の同胞やあの子たちを助けてやってくれ」

それだけはあるじとの約束として守ってほしい。
俺にとってエドとベルはもう家族のような存在だから。

「「承知しました」」
「ありがとう」

顔をあげた二人の頭を撫でた。

「あ、俺の守護の効果は出てるか?」
「はい。こちらへ向かう際に」
「向かう際?国民にも?」
「いえ。エドとワタクシにだけでした」
「んー。俺の守護壁の対象は何が基準なんだ」

隣に居たエミー。
それと守護壁に驚いている声が聞こえてたから、少なくとも前衛に居た軍人たちも効果を得ていたことは間違いない。
一定の範囲に居る人に効果があるのかと思っていたけど、同じ城壁内に居た国民とエドやベルで違いが出たのは何故か。

「考える時間までは貰えなかったみたいだ」
「あれは……祖龍か」

寒気がして見た八時の方角。
遥か遠くの空を飛来する漆黒の姿が確認できた。

「通過していただきたいものだね」
「もし散歩なら余所でやって欲しいけどな」

再び鳴り響く警報音。
今までの音とはまた違うということは、今のこれは原因(今回は祖龍の姿)を確認した時に報せる音なんだろう。

「いきなりブレスを吐くのは勘弁してくれよ?」
「軍事レベルを最大まで引き上げたから魔障壁がはられてる。それにこの魔力、国王の特殊恩恵も発動しているようだ。全滅だけは免れるだろうよ。一発ならね」

王城がある背後から感じていた巨大な魔力は、国王のおっさんの特殊恩恵である〝盾の王〟の効果のが発動していたからだったらしい。

「やるな。国王のおっさん」
「君だけだよ。国王をおっさん呼ばわりする規格外は」
「俺はおっさんのヒモだから」

そう話してる間にも空を飛来してくる姿は肉眼でもハッキリ捉えられる距離に来て俺たちの遥か上空を旋回し始める。

「……違う」
「ん?」
「エド、ベル!今すぐ全力で後ろに飛べ!」

エドとベルに指示しながら隣に居るエミーを抱え後ろに飛んで退避すると、ズシンと巨大な地響きがして土埃が舞う。

「よく気付いたな。気配を消していたのに」

そんな声で振り返った先に居たのは黒いローブ姿の人物。
地面に突き刺さる俺の胸の高さほどありそうな大剣に両手を添えた、ブラウンの髪と瞳の美丈夫が俺たちを見下ろしていた。

「……魔人」
「魔人?コイツが?」

呟いたエミーから魔人に視界を戻す。
ローブを着てるからガタイまでは分からないけど、195cmある俺よりもさらに背が高いということは2mを超えているだろう。

「ん?変な奴が居るな。俺に気付いたのはお前か?」
「祖龍の時と違う寒気がしたからな」

大剣を軽々と片手で抜き肩に担ぐと俺の前に立った魔人。
近くに来ただけで今まで感じたことのない威圧感を覚える。
生まれてこのかた魔人族なんて見たことがなかったけど、とんでもない化け物レベルの強さだということだけは分かる。

「お前はどうして人族や獣人族と居るんだ?」
「仲間だからに決まってるだろ」
「人族と獣人族の仲間?……いい香りがする」

何故なのか疑問符ばかりあげる魔人は俺の首元に顔を寄せると匂いを嗅ぐ。

「シンさまから離れろ!」
「気の早い奴らだ」
「エド!ベル!」

背の高い魔人に向かって上空から剣を振り下ろした二人は、闇色の魔力を集めた手のひらを翳されただけで体を弾かれる。

「貴様」
「お前もか」

エミーもすぐに火炎を打つと、今度は漆黒の肢体の祖龍が翼の風圧だけであっさりと炎をかき消した。

賢者の魔法ですらいとも簡単に。
これが魔族の強さなのかと嫌でも思い知らされる。

「ラヴィ。そこに居る三人と少し遊んでやれ。俺はコイツに用がある。まだ殺すなよ?ブレスは使うな」

会話が通じてるのか祖龍は鳴き声をあげると翼を羽ばたかせ風を送ってエミーやエドやベルを俺から引き離す。

「お前は俺と話そう。そうすればアイツらは殺さない」
「……本当か?」
「約束は守ろう。お前に興味がある」

何を企んでいるのか。
手を出さないことの証明なのか大剣を地面に突き刺した魔人を見て、俺も冷静に対応しようと深呼吸して刀を下ろす。

「祖龍ってのは本来あんな化け物なみの強さなのか?」
「本来?別の祖龍を見たことがあるのか?」
「前に攻撃をしてきたから倒した。悪く思うなよ」

守護がかかった三人を風圧で後退させるとか。
以前会った祖龍より黒色が濃く巨大で、風圧の威力も桁違い。

「視察に行かせた祖龍を殺ったのはお前か」
「やっぱあの祖龍は王都が目的で来たのか」
「王都?そんなものに興味はない。勇者の視察だ」

そう言って口元を笑みで歪めた魔人はまた俺に顔を近付けると匂いを嗅ぐ。

「なあ。どうしてお前はいい香りがするんだ?」
「知るか。匂いフェチの変態が」
「どうして同族の香りがする?」
「俺もお前に身近な匂いを感じた。認めたくないけど」

執拗く匂いを嗅ぐ魔人に両手の刀を突き刺そうとすると素手で握って止められる。

「覚醒前だろう?まだ早い」
「……覚醒前?」
「純血の人族ではないようだな。魔族の香りがする」

どれだけ嗅ぐんだ。
涼しい顔で優美と雅の刃を握って止めながらも。

「お前が勇者なのか?」
「違う」
「そうか。ではお前とは戦わない」
「……どういうことだ」
「名は何という」
「教えない。どうせ忌み名とか呪われるとかのオチだろ」

異世界系ではよくある話。
名前を教えたら……なんてことにはなりたくない。

「俺の名はフラウエル。魔族は呪いなどかけない」
「あっさり教えたな」
「真名を利用して小賢しい真似をするのなど精霊族だけだ。尤も魔族には呪いなど効かないが」

それもそうか。
そんなものが効く相手ならわざわざ異世界から勇者を召喚して討伐する必要がない。

「もし教えなかったら?」
「アイツらを殺すよう命ずる」

汚い。正々堂々と汚い。
さすがこの世界でのの存在なだけある。

ただ、コイツがあの巨大な祖龍に殺さないよう命じたから三人が殺られていないことも事実。
それにコイツも今は俺に興味を持ってるから三人の方は見ていないだけで、もし殺す気になればエドやベルは疎かエミーでも勝てないだろう。

「シン。夕凪真ゆうなぎしん
「夕凪真。覚えておこう」
「っ!?やっぱりなにか!」

首元で呟いた魔人は俺の首に噛みつきすぐに口を離して目を合わせると笑みで口元を歪ませる。

「そろそろ人族が小賢こざかしい攻撃をして来そうだ」
「それはそうだろ。敵が攻めて来たんだから」

城壁にある大砲はこちらへ向けられていて、後は命令一つで打てるように待機している状態。
魔導師たちも城壁の上からいつでも魔法で攻撃できるようスタンバイしている。

「今回は勇者を見に来ただけだ。つまらない奴ならこの地ごと焼き払ってやるつもりだったが気が変わった」

サラッと言ったけどコイツなら本当に出来る。
コイツからすれば人族なんて子供のようなものだろう。
最初は多少なりとも魔力を肌で感じてたけど、それがあまりにも強大すぎて途中からは測りきれなくなった。

「ラヴィ。遊びは終わりだ。帰るぞ」

魔人の声に反応して鳴き声をあげた祖龍は三人にまた翼で風を送り距離を置くと、魔人の後ろにスッと降り立つ。

「三人とも大丈夫か!?」
「「は、はい」」
「生きてるよ」

エミーもエドもベルも魔力が枯渇しそうな状態。
早く魔力譲渡をしないと昏睡してしまう。

「悪かった。ラヴィが少し遊びすぎたようだ」
「………」

謝って三人に手のひらを向けた魔人。
枯渇しかけていた三人の魔力量が急激に増えた。

「……お前が分けたのか?魔力を」
「約束しただろう?コイツらは殺さないと」

王都を破壊できるだけの力はあるのにしない。
しかも祖龍と戦って魔力が尽きかけている三人に魔力を譲渡するとか、この魔人は一体なにが目的なんだ。

「夕凪真。魂の半身のお前に免じて刻を待つ」
「魂の半身?刻を待つ?なんの?」
「勇者の覚醒だ。覚醒をするまで俺は手を出さない」

大剣を肩に担いだ魔人がヒラリと背に乗ると、祖龍は翼を羽ばたかせてゆっくり空へと浮かぶ。

「待て!お前は何者なんだ!」

魔力譲渡で動けるようになり魔人へと声を荒らげたエミー。
昏睡しない程度に魔力は回復しているもののエドとベルを庇いながら戦っていたから怪我をしていて、傷一つない祖龍との力の差をまざまざと見せつけられる。

「その魂色たまいろは賢者か。それであれば天地戦で相見あいまみえる者として答えよう。俺は魔族のおさフラウエルだ」

……コイツが魔王?
ヒカルたちはこんな奴と戦うって言うのか?
強さの桁が違いすぎるだろ。

「魔王が魂の契約を結んでシンをどうする気だ!」
「面白いことを訊く。知恵の賢者であれば魔族の魂の契約が何かくらいは知っているだろう?」

魂の契約?
さっきから分からないことが多い。

「足掻け。生きろ。夕凪真」
「なんだその不穏な台詞」

俺を見て笑みを浮かべる魔王に嫌な予感しかしない。

「お前は俺になにを」

会話の途中でドンと大きな音がして強い風圧を受ける。

「砲撃したのか!?」

魔王が去ろうとしてたところでの攻撃。
守護が発動してたから耐えられたけど、もし生身なら俺たちも一緒に爆風で飛ばされてただろう。

「エド!ベル!こっちに!」
「「シンさま!」」
「撃つなっ!殺られるぞ!」

エミーの声にかぶって、ドン、ドンと巨大な音が数回。
砲撃を受けた祖龍と魔王は土煙と煙幕に包まれて見えない。

でも……

「これが人族の歓迎の仕方なのか?」

煙幕が散って再び見えた祖龍と魔王の姿。
魔力が減らなかったから分かっていたけどノーダメージ。
それどころか魔王は薄笑いすら浮かべている。

「ではその歓迎に応えよう」
「止めろっっ!」

城壁に向けて翳した魔王の手に集まる禍々しい魔力。
闇色の魔力が龍のように渦巻いているのを見て体に強化魔法をかけ、祖龍の背より高く飛び上がって魔王へ刀を振り下ろす。

「面白い能力を持っているようだな」
「っ!」

俺の攻撃は大剣で軽くあしらわれ逆に魔法で腹部へ攻撃されたあと、落下する体を片腕で受け止められた。

「……ざまあみろ……邪魔してやった」

俺の攻撃で魔王の攻撃は城壁を超えて空へと撃たれた。
もし当たっていたら王都は無傷じゃ済まされなかっただろう。

「それだけのために随分な無理を。体中の骨が砕けている」
「別にいい……みんなを助けられたなら」

受け止められた体に力が入らない。
呼吸をするのももう億劫だ。
エドやベルやエミーの声が遥か遠くに聞こえる。

「死ぬのか?」
「……らしい」
「それは困る。魔回復ダークヒール

薄れかけた意識で聞こえた魔王の声。
血管に熱い何か流れる感覚がしてジワジワと体が熱くなる。

「ん……って、熱っ!」

三途の川まで目前の魂が抜けるふわふわ感から火に包まれたような熱さに変わってパッチリと目が覚めた。

「効いたようだな」
「……痛くない」
魔回復ダークヒールをかけた。やはりお前は人族ではない」
「どういうことだ」
魔回復ダークヒールは魔族にしか効かない」
「……俺は魔族なのか?ステータスでは人族なのに?」

衝撃すぎる事実。
召喚される前は100%人間だったのに。

「少し喰わせろ」
「喰わせ?」

パクッと口を開けた魔王は再び首に噛みつく。

「お前ぶっ殺」
「純粋な魔族でもない」
「……は?」
「人であって人ではない。魔であって魔ではない」
「なんだその哲学的なの」

なにそれ怖い‪(震え)。

「どうやらお前は精霊神と魔神の両神から愛されてるようだ」
「………」
「ますます気に入った。生きのびろ。俺の魂の半身」
「いやだから、その魂の半身って……あれ?」

また体が。
噛まれた首元が熱くなったと同時に力が抜けていく。

「賢者と獣人。お前たちに俺の半身を預けよう」
「「シンさま!」」
「魔王。お前とんでもないことをしてくれたね」
「欲しい物は手に入れる。それが魔族だ」

地面にゆっくりと下ろされた体。
抱きついてきたエドとベルの頭を撫でる。

「半身との約束を違える訳にいかない。俺はこのまま引く。ただしアレだけは破壊させて貰うぞ。また去り際に撃たれたのでは次こそラヴィがこの地を焼き払ってしまいそうだからな」

魔王がエミーに言いながら指さしたのは砲台。
また去り際に攻撃をしてこないよう国の軍事力の一つであるそれを壊させろ、と。

「そうすれば国民の命は取らずに帰るのか?」
「約束しよう。魔王の俺は勇者の覚醒を待つ」
「……分かった。国民の命の方が大事だ。やれ」

薄れ始めた意識の最後に見たのは禍々しい闇。
それと魔王の横顔。

……なんだろう。
あの顔……何処かで見たような。

……駄目だ。
…………眠い。

エドとベルの声を遠くに聞きながら意識を手放した。
 
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