ホスト異世界へ行く

REON

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第三章 異世界ホスト、訓練開始

Aランクパーティ

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「仲間を救ってくださってありがとうございました。治療費はなんとしてでも用意しますから少しお時間をください」
「要らない。頼まれて回復ヒールをかけたんじゃないし、俺はただの冒険者であって治療を生業なりわいにはしてないから。生業なりわいにしてる神官や医療師から治療をして貰った時にはしっかり払ってくれ」

何度も何度も感謝を口にして頭を下げる男。
回復ヒールは教会や医療院で高い治療費を払ってかけて貰うものだから必要以上に感謝をされて少し困ってしまった。

「ロイズさんも回復薬ポーションありがとうございました」
「礼は要らない。助かるとは思ってなかったからな。せめて死ぬまでの痛みが少しでも和らげばとしか思ってなかった」

男が次に礼を言ったのは俺がカウンターで話していた冒険者の仲間で、外の様子を見に行っていた男。
この人がオジサンに回復薬ポーションを渡したようだ。

「俺もと同じ考えだ。リーダーの判断が仲間の命運を左右することを忘れるな。実力がないなら引け。それでも行くというなら自分が率先して死ぬ覚悟で行け。仲間が瀕死でリーダーが軽傷で帰ることほど情けないことはない」

なんか変な二つ名を付けられた。
名前を知らないからそう呼んだだけなら良いけど。

「まあまあ。お説教はもうそのくらいでいいでしょ。この子たちも今回の経験をして少しは懲りただろうから」
「ネルは甘い。また繰り返したらどうするんだ」
「その時は死んでも自業自得でしょ?今日はが偶然にも居合わせたから助かっただけだし」

おい。その二つ名を定着させるな‪(  ˙-˙  )スンッ‬
何気にお気に入りか。
俺が最初に話しかけた時に答えてくれた女冒険者とオジサンに回復薬ポーションを渡した男の会話で‪(  ˙-˙  )スンッ‬となる。

が引いてるから。セルマも何とか言え」
「…………」

うん、たしかに魔法士は変わり者っぽい。
エアスネークのことを教えてくれた男剣士(多分)が二人を仲裁してローブを着た女魔法士(多分)にも助けを求めたけど、無言でツンとされている。

「出血量が多かったから血になる物を食べて休め。今夜はゆっくり眠れるよう少し手助けしておく」

四人は無視することにして再びしゃんで片腕のない冒険者の額に手のひらを重ねる。

「精神安定」

今かけてるのは精神を安定させるオリジナル聖魔法。
魔法訓練の時の精神的苦痛を和らげるため試行錯誤して成功したんだけど、効果があったことが嬉しくて調子に乗ってエミーに話したら『精神力が鍛えられなくなるから』と禁止された曰く付きのもの。

「あ……なんか楽に」
「え?ほんと?」
「震えが止まった」

今まで続いていた体の震えが止まると、かけられた本人だけでなく他の二人も俺を見る。

「この魔法の効果は今夜がせいぜい。今は体力の回復が最優先だからかけたけど、効果が切れた後はしっかり今日のことを省みて何が悪かったのかを考えろ。今後のこともな」

死に対峙した恐怖は相当の精神的苦痛だと思う。
あのまま死んでいれば感じなかった苦痛を生きてるからこそ味わうことになる。

「本当にありがとうございました」
「気をつけて帰れよ」
『はい』

何度も頭を下げる三人を見送る。
俺も帰るか。

「なあ銀の冒険者。君、異世界人だよな」
「召還祭でルイス殿下と居たよね?」

逃がさないとでもいいたげに回復薬ポーションの男と女冒険者から左右の腕を組まれる。

「こら。知らないフリしておけ」
「気付いてたんですか?」
「フード外した時に分かった。エミーリアから話は聞いてる」
「エミーと親しいんですか?」
「同じギルドマスターだからな」
「貴方がギルマスだったんですか」

オジサンが王都ギルドのギルマスだったらしい。
顔も体も厳ついし負傷者にも対応していたし、エミーの時とは違ってオジサンがギルマスと聞いても納得できる。

「黒髪黒目の勇者じゃない人がどうして召喚されたのかは追求しないし誰にも言わない。ただ、この世界の希望でもある異世界人が一般国民でしかない王都の冒険者のために力を使ってくれてありがとう。それだけ言いたかった」

回復薬ポーションの男はそう話して微笑する。
身分や聖魔法のことを色々と聞かれるのかと思ってたから、礼を言われたことは意外だった。

「順番が逆になったけど紹介しとく。彼女は剣士のネル」
「よろしくね」

碧髪碧眼の女剣士。
軽い感じの挨拶に軽く頭を下げて返す。

「彼は格闘士のレイモン」
「よろしく」

茶髪短毛のバッキバキマッチョは剣士じゃなく体術(拳)で戦う格闘家だったようだ。

「彼女はセルマ。君と同じ?かな?魔法士」
「…………」
「セルマ。挨拶くらいしろ」
「…………」
「……悪い。普段からこんな感じなんだ」

ローブを被っているから髪色は見えないけど瞳は翠目。
俺にもツーン対応をするセルマの代わりに謝る回復薬ポーションの男とレイモンが少し不憫。

「俺は弓士でリーダーのロイズ。この四人でプロビデンスって名前の冒険者をやってる。よろしく頼む」

弓士がリーダーとは少し意外。
異世界系で見る冒険者のリーダーは剣士が多いから。
弓を扱う人はサポート役の印象だったけど、それだけ実力がある人なんだろう。

ちなみに金髪碧眼の王子さま系美丈夫。
見た目で言えばリーダー向き。

「俺はシン。駆け出しの冒険者だけどよろしく」
「俺のことはハロルドって呼んでくれ。よろしく
「シンです」
「通り名ってヤツ」
「いや、通り名とか要らないです」

拒否するとハロルドは笑う。
完全に面白がっている。

「まあ中に戻ろうよ。呑み途中でしょ」
「もう帰ろうかと」
「少しだけ!折角知り合ったんだから一緒に呑も!」

これは……変なのに捕まった。
カウンターで話した時にはまだ距離感があったのに、冒険者を助けたことで一方的に距離を縮められたようだ。

女剣士に背中を押されてギルドに戻ると視線が集まる。

「悪いな、みんな見てて。聖魔法を使える人は滅多に王都ギルドには来ないから初めて見るって奴も多いんだ」
「大丈夫です。この世界では聖魔法を使える人が少ないことは知っていて使いましたから」

視線を気にして謝るハロルドに首を横に振る。
この世界の人には居ない銀の髪や瞳の色もあいまって物珍しく見られるのも仕方ない。

「それを知ってても使ってくれたんだからなおさら感謝しないとな。様子を見てたみんながもう助からないと思ってたんだからあのまま見過ごすことも出来たのに」

席に戻り座りつつロイズから苦笑される。

「それは思いつきもしなかった」
「ん?」
「見過ごそうとは思わなかった。腕のことは考えたけど」
「持って帰ってないのか気にしてたもんね」

言われてみれば見過ごすことも出来た状況だったけど、怪我の様子を最初に見て思ったのは『これならまだ助けられる』ってことで、生き残った後のアイツの生活を考えて腕を持って帰ってないのかと聞いた。

「片腕を失くして生きることは死ぬことと変わらないって人も居ると思う。アイツには腕で済んだんだからって言ったけど、本当は冒険者が腕を失くすことがどんなことかは分かってるつもり。助かったことを悔むようなことはしてほしくない」

完全に元に戻してやれてたらこのわだかまりもなかった。
今後は気をつけて冒険しろ、でスッキリ終われたと思う。

「擦り傷や切り傷を治すのと違って命を救うことがこんなにも重いことだとは思わなかった。俺がやったことは悪行じゃないと思ってるけど、それが正しかったかはアイツの今後次第」

考えれば考えるほどマイナス思考になる。
俺は腕より命の方が大切だけど全員がそうとは限らない。
腕を失って食べることもままならない状況になれば『どうして生かした』と絶望させることになるかも知れない。

「例えアイツが今後どう思ってどう生きようと命を救える力をマイナスに思うな。生きたくても死んでいった冒険者は山のように居る。中には親しくしてた奴らも居た。そいつらのことを考えれば、シンがそこに居てくれれば良かったのにって思う。俺にも怪我をする前に助けることは出来るかも知れないけど、死にかけてる奴のことは助けられない。命を救うことは誰にでも出来ることじゃない凄いことだと忘れないでほしい」

隣の席に移動してきたロイズから言われて口角があがる。
ついさっき出会ったばかりの人たちに蟠りを話して励まされることになるとは思わなかった。

「ハロルド。四人にも飲み物を。励ましてくれたお礼に奢る」
「やったー!私たちはなにもしてないけど!」
「銀の冒険者、善い奴」
「セルマ……菓子くれる人に着いて行かないようにな」
「おいおい。お前ら少し遠慮ってものを覚えろ」

飲み物で喜ぶネルとセルマ。
子供を心配する親のようなレイモンと呆れるロイズ。
そんなチグハグな四人にハロルドと笑った。


気の合う四人も加わってこの辺りに生息するモンスターの生態といった話を聞かせて貰っていると、数人の冒険者がギルドに入って来る。

「セスお疲れー!」

ネルが声をかけると今入って来たばかりの冒険者たちがこちらを向く。

『勇者さま!?』
「……違うのに」

声をハモらせた冒険者たちの恒例の勘違いに嘆く俺をロイズたちは笑う。

「勇者さまだよね!?知り合いなの!?」
「勇者じゃないよ。辺境の地から来た冒険者」
「え?召喚祭の時に居たじゃん。第一王子と」
「あー。そこしっかり覚えてたんだ」

わらわら周りに集まってきた中の女冒険者がネルに話しかけ、気を使ってくれた嘘はすぐにバレた。

「辺境の地から来た冒険者ってのは嘘じゃない。今回の召喚祭のために王家の護衛役として雇われたんだ。出てただろ?召喚祭をぶち壊そうとしてる奴らが居るって噂」

随分と盛大な嘘だな‪。
ただ、ハロルドがコソッと言ったそれを冒険者たちは簡単に信じて「そうだったのか」と納得する。

「紹介された人は影武者で本物の勇者は王子と居た銀髪銀目って噂になってたけど護衛だったのか。暗殺者もこの人を狙って襲撃したし、結果的に本物の勇者は守られたってことだな」

後ろからロイズの肩を組んでハロルドに話す赤髪の男。
系統は違えどこれはまたロイズに負けず劣らずの美丈夫。
腰の剣帯ソードホルダーに剣を2本さしてるから剣士だろう。

……ん?

「その俺が本物の勇者って噂、結構広がってました?」
「ああ。少なくとも王都では信じてた奴が多い」
「だから黒髪黒目じゃないのに勇者って勘違いする人が」

ハロルドから聞いて腑に落ちた。
この世界の人は語り継がれてきた勇者の容姿設定を無視して『異世界人=勇者』と刷り込まれてるのかと思ってたけど、噂を聞いて俺を本物の勇者と思ってた人も中には居たんだろう。

「勇者じゃないなら普通に話しても良いか?」
「そうして欲しい」

こちらを向いた赤髪に頷く。
俺はご丁寧に話して貰うような人間じゃないから。

「召喚祭の前に流れてたのは勇者の命を狙ってる不届きな暗殺者が居るって噂で、銀髪銀目が本物の勇者だって噂になったのは実際に国民がアンタを見た後だ。本当にアンタは勇者じゃないのか?理由があって隠してるだけじゃないのか?」

そう言われても。
王家を護衛するために来た『辺境の地の冒険者』という肩書きに納得したようなことは言っていたものの半信半疑らしい。

「勇者じゃない。でも証明のしようもない」
「ステータスの特殊恩恵を見せれば一発だろ」
「王都ギルドでは勇者かどうかって理由でステータスの開示をさせるのか?もしそうなら王都ギルドは勇者のことを犯罪者と同等の存在として扱ってることになるけど」

赤髪の男を見上げて問う。
ステータス画面の情報はこの異世界では個人情報として守られていて、犯罪などを犯さない限りは開示を拒否することが出来るとおっさんから説明を受けた。

例えば暴力に訴え無理に見たり聞いたりすれば犯罪。
召喚されてきた異世界人ならそれを知らず簡単に見せると思ったのか、たんに試してみただけなのか分からないけど、周りの人の方が慌てて止めている。

「まあたしかに見せるのが一番手っ取り早いけど、特殊能力ユニークスキル持ちだから見せられないんだ。これ以上の情報は俺の身の危険にも繋がり兼ねないから勘弁してくれ。悪いな」

俺は本当に勇者じゃないけど、この世界の人も知らない〝遊び人〟という特殊能力ユニークスキルが付いてるから、信頼できる人以外には教えないよう国王のおっさんとエミーから止められている。

「ドニ。そのくらいにしておけ。彼はこのギルドの冒険者を救ってくれた恩人だ。これ以上続けるなら俺が相手になる」

短剣も使えるのか。
ロイズが手にかけたのはナイフホルダー。
マントで隠れていたから持っていることに気付かなかった。

「やめておく。天下のロイズさまと下手にやり合って針鼠エリソンにはなりたくないからな」
「天下の?」
「知らずに一緒に呑んでたのか?プロビデンスは王都ギルド唯一のAランクパーティだ」
「……マジで!?」

Aランクの冒険者パーティ来たぁぁぁぁ!
異世界系の漫画を愛読していた全俺が歓喜。
ベル曰くAランクの上のSランクに居るのは生まれつき特殊恩恵を持っていないとなれない賢者だけで、最上級のSSランクに至っては歴代の勇者が名前として残ってるだけらしいから、一般冒険者の最高ランクはAランクと言っても過言じゃない。

「握手してくれ、握手」
「あ、ああ」
「すげえ喜んでるな」
「今日イチの良い顔してるよ」

ロイズに握手を頼むと微妙に引かれて赤髪とネルは苦笑。
周りで見てた奴らは笑ってたけど、異世界に来たなら最高ランクのと会いたいと思っていたから握手できて満足。


帰って来た冒険者も依頼完了の手続きを済ませて酒盛り。
仕事の後に呑む酒は美味いと感じるのは異世界でも変わらないらしい。

「悪かった。喧嘩を売るような言い方して」
「いや。見せたら一発解決なことは俺にも分かってるから」

赤髪は俺たちが居るカウンターに来るとロイズの隣に座りながら謝る。

「正直いうと完全に信じた訳じゃない。どう見ても勇者だし」
「勇者は黒髪と黒目なんだろ?」
「文献では。召喚祭で紹介された勇者は黒髪黒目だったからそっちが本物なんだろうと思うけど……なんだろうな。んー」

エール片手に考えこむ赤髪の話の続きを待つ。

「雰囲気?覇気?風格?」
「ん?」
「あるだろ?例えば国王陛下だったら国王!って雰囲気が」

全然分からない‪(  ˙-˙  )スンッ‬
召喚されてきた時に頭に冠を乗せて玉座に座ってたから国王だとは分かったけど、ヒモの俺にとってはをくれるおっさん。

「あ、あれだ!神々しい!」
「‪……(  ˙-˙  )スンッ‬……」
「えぇ……伝わらないか」

おっさんはおっさん。
俺にはおっさんの放つ神々しさとやらは感じない。

「あー……国王陛下の話は置いといて。この国で育った奴なら伝説の勇者の話は小さな子供でも知ってる。大人が子供に話して聞かせたり訓練校や魔導校に行けば授業でもやるから。つまりこの国の奴にとって勇者は憧れの存在なんだ」

それは分かる気がする。
無邪気な子供がテレビで見る戦隊ヒーローに憧れて真似をするように、この国の人にとっては勇者がそんな存在なんだろう。

「多くの人が憧れる、世界を救える特別な力を持った救世主。召喚祭の警備に出てて初めてアンタを見た時にそんな英雄の風格を感じた。この勇者になら命をかけられるって思ったんだ。それなのに勇者じゃないって……」

随分な高評価。
実際は英雄なんて存在に掠りもしないホストだけど。
いや、もう日本には戻れないんだからホストか。

「妙に踏み込んだことを訊くと思えば……拗ねてたのか」
「拗ねてない」
「明らかに拗ねてんだろ。自分が子供の頃から憧れてた理想通りの勇者だと思った人から勇者じゃないって言われて」
「ん?……ああ、それだ」

ロイズと赤髪の会話を聞いてた人たちが笑い声をあげる。

「ドニは子供の頃から自分の剣は勇者のために奮うって言って鍛えてきたんだ。今は憧れが過ぎて身近な女よりも勇者に夢中になってるような奴だから、自分が憧れ続けた勇者のイメージ通りのシンから違うって言われて拗ねたみたいだ」

そう説明してロイズは苦笑する。
まるで勇者だったら悪人かのように俺の特殊恩恵を気にする奴だと思えば、むしろ『勇者じゃなきゃヤダヤダ!』の駄々っ子を発揮していたらしい。

「多くの人たちが憧れる勇者のイメージ通りって言って貰えることは男冥利に尽きるけど、俺は本当に勇者じゃないんだ。鍛えた剣の腕は本物の勇者のために奮ってくれ」

気持ちは有難いけど勇者じゃないことが事実。
子供の頃から鍛えてきたらしい剣の腕は本物の勇者のアイツら四人のために奮ってやって欲しい。

「分かった、って言いたいところだけど無理だ。王都ギルドの冒険者に勇者の護衛なんて大役は回ってこない」
「そうなのか?」
「王宮魔導師や師団がこの世界の命運を握る勇者の護衛や警護を一般国民の王都冒険者にさせる訳ないだろ。Bランクの俺はまだしもAランクのロイズたちでさえも召喚祭では勇者に近付けない広場の警備だったんだから」

……うん。
やっぱあの黒ローブたちはぶん殴っておくべきだったかな。
いや、でも。

「広場の警備はクエストでの依頼だったのか?」
「そう。Bランク以上が噴水広場、Cランクから下は王都地区の警備で、師団から指定された場所にそれぞれ配置された」

クエストは王都ギルドにも出していて、やり方も妥当。
王家や勇者が集まる教会がある広場は実力のあるBランク以上の冒険者限定。

「冒険者には詳しくないから聞くけど、召喚祭で勇者の警護にあたった王宮関係者はロイズたち以上の実力があるのか?もしそうなら勇者の身の安全を第一に考えた上での最善の配置で、それを身分で分けられたと思うのは浅はかだぞ」

実力のある人が重要人物の王家や勇者の護衛につくのは当然。
そこに身分の差は関係ない。

「勿論ロイズたち以上なら文句はない。違うから言ってる」
「実力はロイズたち以下なのに王宮関係者だからってことか」
「うん。国から給金を貰ってる高貴な身分の人の方が信頼されるのも分かるんだけど、せめて国防に大きく貢献してるロイズたちくらいは直接指名で警護させてくれても良かったんじゃないかと思う。一般国民でも実力があれば認めて貰えることが分かれば王都の冒険者にとってやる気にも繋がる」

王宮国民と一般国民の立場を理解した上での意見。
ただヤダヤダする困ったちゃんかと思えば、しっかり考えを持っているようだ。

「思ってた以上に王宮と王都で格差があるんですね」
「まあな。同じ国仕えの中でも王宮魔導師は特に上流階級の国民と一般国民との格差を付けたがるのは事実だ。貴族が属する王宮ギルドと一般国民が属する王都ギルドじゃランクアップの加点方式から違う。そのやり方を発案したのが今の魔導師長」
「は?同じ王都にあるギルドなのに?」

王宮関係のことならギルマスの方が詳しいだろうと思ってカウンターの中に居るハロルドから聞くと、想像もしてなかったことを話してくれた。

「王都ギルドはランクに合ったクエストを完了させた回数の完全実力主義。王宮ギルドはそれ以外にも迷子の男爵の子供を見つけたらポイントに加点されたなんてこともある。だから同じAランクでも中には王都ギルドのCランク以下の実力しかない奴らも居る。お飾りなんだ。そいつらにとってランクは」

ギルドを任された王宮関係者でもあるハロルドが言うならそれが紛れもない事実なんだろう。
実力の伴わない奴が王宮関係者というだけで勇者の護衛をしてたんだとしたら赤髪が愚痴を言いたくなるのも分かる。

「エミーは当然それを知ってますよね」
「勿論。エミーリアは反対したけど人数で押し切られた」
「……そうですか」
「エミーリアを責めるなよ?幾ら王都唯一の賢者とは言っても王宮関係者の大多数が賛成したことを覆すのは容易じゃない」
「それは分かってます。あの戦闘狂も国の軍人ですから」

数少ない賢者の一人だろうと国に仕える軍人。
エミーが反対したら何でも通るとは思ってない。

「エミーって……賢者さまと親しいのか?」
「あ……そろそろ帰らないと」
「このまま帰らせる訳ないだろ!」

ポロっと洩らしたエミーの名前。
赤髪に捕まえられ話が伝わった他の冒険者たちも一緒に混ざってきて、人気があるらしいエミーとの関係を延々と問い質されることになった。
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