ホスト異世界へ行く

REON

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第三章 異世界ホスト、訓練開始

王都ギルド

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帰っても誰も居らず宿舎の中は静か。
自分の部屋に戻って風呂に入ろうと先に蛇口を捻る。

俺の訓練が始まってからエドとベルの生活も変わって、朝に来て俺の世話や部屋の掃除などをしてからギルドで依頼を受け、自分たちの訓練も兼ねて王都の外へと出るようになった。
今日はこの宿舎の騎士と一緒に国が出してる依頼の“坑道魔物調査”へ行くと話していたけど、まだ帰って来てないようだ。

訓練用の剣を下ろしてあちらこちらが切れている服を脱いでバスタブに湯が溜まるまでの間でシャワーを浴びる。

「痛っ」

擦り傷や切り傷のある体に石鹸がしみる。
怪我をすることには慣れても痛いものは痛い。
それでも痛みを堪えて洗って溜めていたバスタブに浸かった。

もう何日前のものかも分からない傷痕。
召喚される前から傷一つない綺麗な体ではなかったけど、異世界に来てからは傷痕が増えるのも当たり前になってしまった。

回復ヒールをかけていたら傷痕は残らない。
深くない切り傷くらいなら聖魔法のレベルが低い人がかけても一瞬で綺麗に治るけど、かけてしまうと自然回復が鍛えられないからって理由で自分の治癒力に任せている。

風呂から出て腕と脚の深めの傷にだけ薬を塗る。
これは回復ヒールをかけない俺とエミーの為にエドとベルが薬草をとって来て作ってくれた塗り薬。

この世界にも異世界系御用達の回復薬ポーションはある。
ただ魔力をこめて作るから魔法の回復ヒールをかけたのと変わらず、自然回復を鍛えるためには使えない。
それを置いても気軽に使えない理由がもう一つあって、お値段がってこと。

この世界では聖属性の適性がある人自体が少ないらしい。
中でも回復薬ポーションを作成できるのは〝神官〟という特殊恩恵を持った人だけで、大量生産が出来ないから値段も高いとのこと。

下位の回復薬ポーション一本でも王宮食堂の食事約一週間分。
そんな物を気軽に買えるのは貴族と上位ランクの冒険者だけ。
一番それが必要そうな下位ランクの冒険者には手が出せないというなんとも不毛なアイテムだ。

ポーションは高い、回復ヒールを使える人も多くない。
そうなると聖魔法を使える人はこの世界で貴重な存在。
下手をすればその能力欲しさに悪い貴族や冒険者から狙われる可能性もある。

俺は最初から回復ヒールか使えるエドが傍にいたからエミーに聞くまでは聖属性が貴重とは知らなかったし、自分でも全属性を習得してから使えるようになったけど、身の安全を守るため聖魔法を使える人の多くが安全な王宮で働いているのも納得。

「はあ……」

……たまには外食するか。
騎士たちと出てるエドとベルもいつ戻るか分からないし。
早く終わった時にとリサと約束をしたから訓練が終わるのを待ってから一緒に行っても良かったけど、さすがに今日はエミーのことが頭を過って気が乗らない。

やっぱり一人で食べよう。
そう決め十分に温まって風呂を出た。





「シンさま。これから王都地区へ行かれるのですか?」

王宮地区と王都地区を隔てる門。
もう顔見知りになっている門番から声をかけられる。

「ギルドの食堂が混んでたから王都ギルドで食事する」
「ああ。本日は魔物調査で外に出てた方が多いですからね」
「うん。エドとベルも騎士団の人たちと坑道へ行ってる」

先に王宮ギルドの食堂に行ったものの調査から帰って来た人たちで混んでいたから、王宮ギルドの食堂よりも大きい王都ギルドの食堂に行ってみることにした。

「あちらは一般の冒険者ばかりですからお気をつけて」
「ありがとう」

この門を出入りする時にも簡単な身分確認が必要。
ただ俺の場合はこの異世界に居ない髪と瞳の色で顔パス。
王宮で暮らしている人たちは俺が第一騎士団の宿舎で暮らしている異世界人だと知っているから。

門を出る前にフードを被って王都ギルドに向かう。
王都ギルドは王宮ギルドと違って食堂と依頼を受注する場所が分かれていないから、食事(酒)が目当ての人もクエストを受注する人も出入口は同じ……と、

実は王都ギルドに来るのは初めて。
騎士たちの話にはよく出てくるから知っていたけど。

良かった。座れる。
こちらのギルドも混んでいたものの建物が大きいだけにまだ座れる席があってホッとした。

「ここに座ってもいいですか?」
「お好きな席にどうぞ」

調査に行っていた人たちがこれから帰ってくるかも知れないから一人でテーブル席は使わずカウンター席に座る。

「お酒ですか?お食事ですか?」
「食事を」
「メニューどうぞ」
「ありがとうございます」

渡されたボードに書かれた食事メニューは三種。
あとは酒のつまみになるような一品料理系が主らしい。
王宮ギルドの食堂は少しリッチなレストランで、王宮ギルドは居酒屋という感じ。

空腹で来た俺は当然しっかり腹にたまる食事系。
本日のディナーメニューは、サンドシュリンプとリバースパイダーとマンドラゴラの三種類。
……危険な香りしかしない名前のオンパレードだ。
名前では分からないから料理スキルを使ってを調べる。

サンドシュリンプの見た目は予想通りの海老。
ただし水の中ではなく砂中に生息してる魔物らしく地球のロブスターの味に近いらしい。

リバースパイダーの見た目は蜘蛛。
川に生息していて鶏肉の味がする、と。
……うん、これは見た目で無理(震え)

最後のマンドラゴラ。
これって土から引っこ抜くと叫ぶアレだよな?
ぎゃぁぁぁぁぁって絶叫して抜いた人が死ぬアレ。
見た目だと人参とか大根っぽいのが定番だけど。

NAME マンドラゴラ・ネオドラゴン。
リコリの実を好んで食べる中型のドラゴン。
近づくとリコリの甘酸っぱい香りがするため発見するのは容易だが、性格は獰猛で鋭利な爪で攻撃してくるので注意が必要。
味は牛肉に近く、臭みがなく食べ易くて人気。

マ ン ド ラ ゴ ラ の 要 素 ど こ い っ た 。

見た目はコモドドラゴンに似ていて六本足。
マンドラゴラという名前の印象で草食系の食材なのかと思ったのに、俺の知識にあるマンドラゴラとは一切関係がなかった。

「えっと……マンドラゴラで」
「はい。スープはコームとキャロから選べますが」
「コーム(※トウモロコシ的なの)で」
「はい。お待ちください」

さすが異世界。
魔物も俺の予想の何十歩も先をいっている。

「初めて聞く声だけど冒険者か?」
「はい」

カウンターの中に居るオジサンから聞かれて答える。
まだ一度しか受けてないけど、一応ギルドに登録していてクエストも受けたことがあるんだから嘘は言ってない。

「ローブを着て剣を持ってないってことは魔法士か」
「多少の魔法を使える駆け出しの冒険者と思って貰えれば」

訓練の時に剣は使ってるけど今は持って来ていない。
恩恵に〝妖刀陣〟が付いていつでも召喚できるようになったらしいから今後も剣を持ち歩くことはないだろうと思い、魔法を使えることは否定せず曖昧に答えた。

「パーティは組んでるのか?」
「剣士二人と」
「そうか。じゃあ安心だ。魔法士一人じゃ危ないからな」

なんだ。強面なのに善い人じゃないか。
フードで顔を隠して殆ど見えてない怪しい男が相手なのに。
変に警戒して申し訳なかった。

「俺は知り合いと組んだので三人組ですけど、一般的には冒険者のパーティって何人くらいで組むんですか?」
「一番多いのは四人パーティだな。近距離なら剣士や格闘士、中距離から遠距離は弓士や魔法士って感じで」

うぉぉぉぉ。
凄い異世界系っぽい話。
ギルドの中だけあってこういう話が聞けるのは有難い。

「その知り合いってのは信頼できる奴らなのか?」
「尤も信頼してる二人です」
「それなら良かった。その時々で募集して組む奴もいるけど、命がかかってるんだから気心が知れた奴と組むのが一番だ」

たしかにと納得して頷く。
どんなにランクの低いクエストの時でも祖龍と遭遇した俺のようにのことも有り得るんだから、自分の命を預けられる人と組むのが一番。

「アンタ魔法士の割に話し易いな」
「え?話し難い魔法士が多いんですか?」
「冒険者になったばっかで知らないのか。魔法士は暗い」
「暗い?」
「魔法マニアの変人や根暗が多いってのが冒険者共通の認識」

コソッと話してくれたそれを聞いて笑う。
言われてみれば王宮魔導師も陰湿な感じの奴が多い。
頭がいいからこそ部屋にこもり魔法の研究に勤しんでいて人付き合いが苦手なタイプになってしまうのかも知れない。

「お待たせしました」
「ありがとうございます」

厳ついオジサンから冒険者に多い職やらを聞いて盛り上がっていると注文していたメニューが届く。

「ほんとにリコリの香りがする。美味そう」
「食べたことがないのか」
「初めてです」
「美味いぞ。育ちのいい人は下品だって食べないけどな」
「そうなんですか?」
「安い肉はお口に合わないんだろ」

そういうことか。
金がある人は俺がカレーの時に使ったセルバードのようなお高めの肉を食べるんだろう。

「……うん。美味い」
「だろ?大した味付けをしなくても美味いんだ」
「柔らかくて臭みもなくて食べ易いですね」

牛肉の味に近いと書いてあったけど、これは高級な牛肉。
サシの入りがよくて口内でほろりと解けるほどに柔らかく、リコリを好んで食べるだけあって牛肉独特の臭みもない。

これは当たり。
王都ギルドまで足を運んで良かった。

「細いのに結構食べるな。ここのは量あるのに」
「太りにくい体質ではあるみたいです」
「そのぶん身長にいってるんじゃないか?」
「もしかしたら」

この異世界でも俺のように190を超えた人は多くない。
俺が知ってる限りだとエドとベルが高身長だけど、獣人族は人族と比べると身長が高い人が多いと言っていた。

「ご馳走さまでした」

大きな肉とスープとパンを平らげて大満足。
王宮料理人の作る食事もこうなら喜んで食べるのに。
……無理か。
王宮とここの料理では、高級食材を使った気品溢れる食事処と安い・早い・多いが基本の大衆食堂くらいの差があるから。

「アンタ王都の生まれじゃないのか」
「え?」
「食べる前にもそうやって手を合わせてただろ?王都やこの辺の領でそんなことするヤツを見たことがないから」
「ああ。俺の生まれた所ではそれが食事の挨拶なんです」
「へー。初めて見た」

そういえばエドとベルも最初に見た時は驚いてた。
両手を組み神に祈りを捧げて食べる国の人からすれば『コイツは何をやってるんだ』と思うだろう。

「追加でエールください」
「呑める口か」
「酒は好きです。先に食事をしたかっただけで」

この異世界でビールと言えばエール。
地球ではポピュラーだったラガービールはない。
マイペースに酒を呑みながらオジサンからこの国のことや冒険者の話も聞いて寛ぐ。

「酒もいける口だな」
「それなりには」

地球ではホストだったから。
毎日毎晩呑んでたからビールを数杯呑んだところで潰れない。

「誰か回復薬ポーション持ってないか!?」

炭酸で腹が苦しくなってきたから次は他の酒に……と思っていたところでギルドの出入口から男が大声で叫ぶ。

「怪我したのか」

そう呟いたオジサンはカウンターから出て走って行き、ギルド内で飲食をしていた冒険者たちも様子を見に行く。

「突然声をかけてすみません。今の人は冒険者ですか?」
「ええ。下位ランクの」
「持って行った回復薬ポーションじゃ足りなかったんですかね」
「んー。多分持って行ってなかったのかと」
「クエストに出たのに?」
「たまにあるんです。回復薬ポーションを買えない下位ランクの冒険者がギルドまで負傷者を連れ帰ってきて騒ぎになること。そういう人は大抵が報酬欲しさに無茶をしてギルドで回復薬ポーションを貰おうとするから冒険者の間でも嫌がれてて」

近くのカウンター席に座っていた冒険者たちに質問するとそんな話を聞かせてくれた。

「俺たちにも下位回復薬ポーションの一本も買えない時があったから分からなくないんだけど、買えないならせめて引き際を見極めないと。高価な回復薬ポーションをここまで戻れば貰えるって甘い考えをしてる奴が居るから嫌がられるんだ」

なるほど。
下位ランクの冒険者ほど報酬が欲しい。
でも回復薬ポーションは高くて買えないから、万が一の時はギルドまで戻って助けて貰えば良いやと甘い考えで無茶をする奴がいるってことなんだろう。

「どうだった?」
「あれはもう無理だな。回復薬ポーションの回復量じゃ足りないし、教会で上級回復ハイヒールをかけて貰うにしても間に合いそうにない」
上級回復ハイヒール?そんなに重症なのか」
「片腕を引きちぎられてる。エアスネークにやられたんだと」

話を聞いていた冒険者の仲間らしき男が戻って来て外に居る負傷者の様子を話す。

「魔物調査に出てたのかな?」
「王都森林の調査だったらしいから甘く見てたんだろ」
「森は低クエだから騎士団が付いてなかったんだね」
「うん。最初からさっさと逃げりゃ良かったのに報酬の上乗せしたかったんだろうな」

エドとベルが行ってる坑道は上級クエスト。
森というのはこの王都を出て数十分の場所にある王都森林のことで、手前側は危険な魔物が少ないから下級クエスト扱い。

「そのエアスネークって魔物は強いんですか?」
「遭遇したことがないのか」
「まだ冒険者になったばかりで」
「そっか。魔物のランクはCだけど、空を飛んで攻撃してくるから魔法士や弓士が居ないと厄介なんだ。アンタは魔法士みたいだけど駆け出しの内は遭遇したら逃げた方が良いぞ」

なるほど。
空を飛ぶなら手こずりそうだ。
例え下級クエストであってもはない。

「見に行くのか?」
「少し気になって」
「まあ見とくのも勉強か。具合が悪くならないようにな」
「はい。ありがとうございます」

親切に忠告してくれた冒険者たちに礼を言ってから外を見に行くと、様子を見に来た冒険者で人集りになっていた。

「駄目だな。やっぱ回復薬ポーションじゃ回復できない」
「たしかあの人たちってEランクだっだよね。どうしてCランクの魔物に挑んじゃったのか。命を捨てるようなものなのに」

誰か回復薬ポーションを使ってくれたようだ。
冒険者の会話を聞きながら人集りの中を入って行く。

……この人か。
怪我をしてる二人と地面に寝かされてる片腕のない冒険者。
さっきカウンターに居たオジサンが回復薬ポーションの空き瓶を持っているから、誰かがくれたのを使ったんだろう。

「効かないですか。回復薬ポーションじゃ」
「見に来たのか」
「カウンターに居た冒険者が様子を教えてくれて」
「一縷の望みにかけてみたけど酷すぎて無理だ」

オジサンの隣にしゃがんで見る冒険者は虫の息。
教会まで間に合わないし回復薬ポーションが効かないなら死を待つだけ。
出血の量も凄いし刃物で切られたような傷口でもないから、エアスネークという魔物に骨ごと引き千切られたんだろう。

「アンタらがこの人のパーティメンバーか?」
「う、うん」
「この人の片腕は?持って帰って来なかったのか?」
「……腕を?」
「そんな余裕がある訳ないだろ!命からがら逃げたのに!」

怪我をしてる二人がやはりパーティメンバー。
仲間の死を前に気が動転しているらしく、泣いている女剣士(っぽい人)に聞いたそれに別の男が食いかかってくる。

「命からがら逃げるような実力しかないなら何で最初から逃げなかった。調査で貰える報酬だけで満足しておけば良かったのに追加報酬と自分たちの命を天秤にかけて追加報酬を選んだんだろ?それなら死ぬ覚悟もしてたんじゃないのか?」

実力の差を分かっていたなら自害と変わらない。
甘い考えをしてるからこんな重症者を出してしまった。

「魔法士が偉そうにすんな!」
「離せ。お前と遊んでる暇はない」

俺のローブを掴んで立たせようとした男の手を払う。
気が立っている男とやり合う暇はない。
死んだらもうどうにもならないから。

「片腕は諦めろ。ここに無いものは戻せない」
「アンタ何を」
「暗夜を彷徨う生命に神の慈悲を」

両手を組みを口にして回復ヒールをかける。
瀕死の魔物で試して俺にも使えることは確認した。
この場に無い片腕は諦めて貰うしかないけど命は助けられる。
自分の手足を何度も剣で切って治してを繰り返させたあの戦闘狂軍人に感謝してくれ。

「すげぇ……あんなに酷かった傷が塞がってく」
上級回復ハイヒールか」

聖属性レベルの高い上級回復ハイヒールであれば魔力と薬草で作られている回復薬ポーションでは治せない傷だろうと治癒できる。
だからこれだけの重症を負ってるならギルドではなく上級回復ハイヒールを使える神官がいる教会へ真っ先に行くべきだったんだけど、そもそも回復薬ポーションすら買えない冒険者が回復薬ポーションよりも高額の治療費がかかる教会には行けなかったんだろう。

「白魔術、いや、上級回復ハイヒールなら王宮魔導師か?」
「何で王宮魔導師がこんな所に」

王宮魔導師と一緒にしないでくれ。
人集りから聞こえてくる声に多少気を取られつつも血管を繋いで傷口を塞ぐイメージをして回復ヒールをかけた。

「……おい。いつまで寝てんだ」

傷口が塞がったことを確認して負傷者の頬を叩く。

「な……なにが」

負傷者が目を開けて呟くと歓声が沸き起こる。
期待をさせてやっぱり駄目でしたなんてならなくて良かった。

「ゆ、勇者さま!」

地面に寝かされていた男は俺と目が合うと飛び起きる。
勇者じゃなくてただの異世界人なんだけど。

「先程はご無礼を!」

さっき俺に食いかかった男がその場に跪いて頭を下げると、人集りになってた冒険者たちも一斉にしゃがんで頭を下げた。

「待て。よく見てくれ。俺は別の所から来たただの冒険者で勇者じゃない。勇者ってのは黒髪と黒目だろ?」

フードを外して髪の色も見せると、今更気付いたらしく「そういえば」というような声がちらほらとあがる。
この世界には居ない髪と瞳の色を見て異世界人と分かるのはまだしも、異世界人=勇者と思うのはどうにかならないのか。

「辺境の地の魔導師さまということですか?」
「魔導師でもない。魔法が使える駆け出しの冒険者」

泣いていた女剣士に答えると納得できない顔をされる。
そんな顔をされても本当のことを話してるんだけど。
異世界とは答えずと誤魔化しただけで。

「本当に勇者でも魔導師でもないから跪いたり頭を下げるのはやめてくれ。まだギルドに登録したばっかの駆け出しなんだ。そんな畏まって貰うような奴じゃないから勘弁して欲しい」

働いていた店のプレイヤーから頭を下げられることには慣れてても跪いて深く頭を下げるようなことには慣れておらず、それだけはやめてくれと話す。

「お前ら散れ。同胞を助けてくれた人を困らせるな」
「ほら、そういうことだから引いた引いた」
「まだ完了報告してない人は手続きしてくださいね」

オジサンが言うといつの間にか居たカウンターの冒険者たちも一緒に声をかけてくれて漸く人集りは居なくなった。

「あの……この腕は貴方が?」
上級回復ハイヒールで傷は塞いだ。腕を持って帰ってきてれば繋げてやれたけど、拾う余裕まではなかったらしいから諦めろ。命を失うところだったことを考えれば片腕で済んだのは幸運だろ」

幸運とは言えないことは分かってるけど。
片腕を失くせば両手で剣を握れなくなるから場合によっては冒険者を廃業するしかなく、クエストで生計をたてている冒険者にとっては死活問題。

「……命を救っていただいて、ありがとうございました」

失くなった片腕側の肩を掴んで泣く男に胸が痛む。

『で?好きで来た訳じゃないからあのままでいいって?』

エミーのあの言葉が過ぎる。
あれは情けないと呆れた訳じゃなく、甘さを捨てて強くならなければリサの身が危険だから怒ったんだと、目の前で失われそうな命と関わって初めて本当の意味で実感させられた。

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