ホスト異世界へ行く

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第三章 異世界ホスト、訓練開始

デスマーチ

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あれから一週間と四日。
戦闘狂軍人とのデスマーチは続いている。

最初の一週間は全属性魔法を訓練を荒野で。
二週間目に入り場所を訓練場に移して今は剣の訓練中。

「ちょこまかうぜぇ!」

キンッと音をたてて弾かれた剣が訓練場の地面に刺さる。

「おいおい異世界人。いつになったら私に魔法を使わせてくれるんだい?」

地面にしゃがむ俺の頭上から投げ落とされる声。
僅かばかりの慈悲さえも感じない。

「どんなに素晴らしいステータスを与えられても使いこなせなければただの飾りだ。飾りだけはご立派な無能でいたくなければ精進あるのみ。さあ立って剣を取れ。無能」
「……くそっ」

無能、無能、無能、その通り。
今の俺は賢者本来の能力でもある魔法を使わせるにも至らない無能。

「私の動きをよく見ろ」
「無闇に剣を振り回したところで無駄だ」
「よく見て次にどう動くかを考えろ」

俺がどんなに剣を振ってもエミーには躱される。
しかもべらべらと指導しながら軽々と躱されるんだから本当にムカつく。

「踏み込みが甘い!」

躱され続けて数十分。
再び手から弾かれた剣は地面に突き刺さり、逆に喉元へ剣先を突きつけられる。

「やっぱり君は無能なのか?あの程度の攻撃を受けたところで私には敬愛のキスを受けたのと変わらないよ」
「……化け物が」

俺は息を切らしているというのに汗ひとつ滲んでいない。
それほどに力の差は歴然ということだ。

「そろそろ休憩にしよう」
「珍しく甘やかすのか」
「違うよ。長く放っとくと小言を言う奴が居るんでね」
「……ああ。軍人の立場ってのも面倒なものだな」

剣を鞘に納めたエミーが苦笑いながら向けた視線の先。
場所に似つかわしくない御一行に俺も苦笑いしながらエミーにリフレッシュをかけて貰った。

「シンさま。ご休憩ですか?」
「はい」
「すぐにお食事の準備をいたします」
「ありがとうございます」

ヒラッヒラのドレスに付き人。
訓練場に似つかわしくない存在なのに居るその娘っ子は、この国の第一王女(王太女)のルナさま。

遡ること四日前。
勇者たちが使う時間以外を条件に訓練場の利用許可を貰った。
どこのポンコツが話したのか知らないけど、俺がエミーに訓練を受けていることを聞いたらしい娘っ子は毎日食事時間が近くなると付き人を引き連れて現れる。

護衛の騎士数人が地面に手早くシートやマットを敷き、脚が痛まないようフカフカのクッションまで置き、メイド数人がササッと食事の準備をする。

それを四日間見続けて思ったこと。
王家に仕える使用人は本当に大変だ。
今日もそう内心では思いつつ娘っ子に促されエミーと座った。

今日の食事はサンドイッチ。
王宮料理人が作る食事は好きじゃないんだけど……

「ん?美味い」
「お、お口にあいましたか!?」
「美味しいです」
「ほんとだ。美味しいね」

全く期待してなかったのに美味い。
俺好みのスパイシーな味がするローストビーフを挟んだそれは良い意味で予想を裏切ってくれた。

「良かった!」
「ん?」
「それはルナさまがお二人の為に作られたものです」

お付きの人から聞いてエミーも俺も吹き出しそうになる。
次期国王が料理するって……良いのかそれ。

「認めていないのだがね。ルナさまに料理をさせるなど」
「煩いなぁ。折角ルナさまが作ってくれた美味しい食事がマズくなるだろ。ちょっと離れててくれるかな」

礼儀作法のオヤジとエミー。
犬猿の仲の二人は今日も言い合いをする。

「ベルティーユからシンさまのお料理を教わりました」
「ああ。このローストビーフって俺が前に作ったヤツ」
「シンさまのお料理が美味しいと騎士から伺って、ワタクシも少しでもシンさまのお口に合うものを作れたらと思いまして」

道理で俺好みの味になってるはず。
蝶よ花よと育てられて普段は料理なんてしないだろうに作ってくれたと考えると可愛いと思う俺はしょせん単純な男だ。

「スープも美味い」
「そちらはティナが手伝ってくれました」
「ありがとうございます。ルナさま、ティナさん」
「もっと口のきき方を」
「だから黙ってろ。礼儀礼儀って口煩くするのは正式な場だけで結構。ルナさま本人がありのままのシンを受け入れてるのに余計なお世話だよ。馬に蹴られろ」

うん、賑やか。
礼儀作法のオヤジだけは相変わらず口煩いものの娘っ子の態度が柔和だからか使用人たちにも釣られるように笑みが増え、四日目にしてやっとこの食事時間も悪くないかと思えた。

「シンさまはお料理スキルをお持ちになっているとお聞きしたのですがレベルを伺っても?」
「7です」
「まあ。才能がおありなのですね」
「召喚される前の世界でも同居人に食事を作ってたんで、多分それで最初からスキルが付いてたんだと」

メイドの一人に聞かれて答えると娘っ子も含めてワイワイ。
女の人が集まってる時のこのノリは異世界でもあまり変わらないように感じる。

「図々しいお願いなのですが、よろしければお時間の合う時にでも異世界のお料理をご教授願えませんか?」
「良いですよ。もし可能なら勇者たちにも作ってあげてくれませんか?食べ慣れた味の料理なら喜ぶと思うので」
「それでしたら王宮料理人も同席させていただきます。勇者さま方へ美味しいお食事をお届けできるように」

それは願ってもない申し出。
異世界から来た俺たちには合わない味をアイツらは食べてるのかと思うと不憫だったから。
割とフランクに話しかけてくれる娘っ子のお蔭でアイツらの食事情が多少は改善されそうで喜んで引き受けた。

「ではワタクシたちはこれで」

ヒラッヒラのドレスをちょこっと摘み挨拶をする娘っ子はアニメに出てくるお姫さまそのもの。

「ルナさまの料理のお蔭でこの後の特訓も頑張れそうです。美味しい食事をありがとうございました。ご馳走様です」

日本式の最敬礼をしてお礼を伝えるとほんのり赤くなっているのを見て少し笑った。

たらしこむねぇ。王女相手でも容赦なく誑しこむねぇ」
「可愛いと思えば愛でたくなるのは万国共通だろ」
「さすが遊び人。不敬罪には気をつけな」

娘っ子を見送った後は食後の一服。
と言ってもこの異世界にニコチンの入った煙草は存在せず、日本でいうミントに近い薬草(ミントル)を巻いた細い葉巻のような物が販売されている。

因みにこの異世界の成人年齢と同じく15歳から。
巻いているのがだけに体に害はないらしいけど、成人前の子供が火を使うと危ないからという理由で。

魔法の存在する世界で火を使うと危ないって……。
と思っただろう。俺は思った。
ただみんながみんな魔法を使える訳じゃなく、魔法が身近じゃない人(家庭)も少なくないらしい。

「吸ってて怒られたこととかないのか?」
「ないね。15歳なんて数年前に過ぎたし」
「それを知らない人が居ないほど有名人ってことか」

見た目だけなら子供。
でも実年齢は20代というのをみんな知っているということだ。

「口ん中がハミガキ粉の味」
「それはそうだよ。同じ薬草を使ってるんだから」
「日本のメンソール煙草よりもハミガキ粉に近い」

体に害のない健全な煙草。
もう火を使わない棒状のミントルを齧ってても変わらない気がするけど。

「さて。私は少し昼寝するよ」
「俺も」

食後の休憩は約一時間。
訓練場の壁に凭れて仮眠をとる。

「おやすみ」
「おやすみ」

一時間も休憩を取れて優雅だなって?
このあと何時間も走り回るから休憩を挟まないとマーライオンになるんだよ。

戦闘狂軍人のデスマーチを舐めるな。





一時間休んだ後はデスマーチ再開。
因みにデスマーチの内容は『互いに魔法を使わず剣のみで戦いエミーに魔法を使わせる事が出来たらクリア』というもの。

四日間経ってもエミーの剣を弾くことさえ出来ない。
それどころか懐に入ることでさえ出来ていない。
エミーからはもう何度も剣を弾かれて首元に剣先を突きつけられているというのに。

「どうした異世界人。ここが戦場であれば君は何度目の死を迎えただろうね」

キツい。
剣を振ったり走ったり体を動かし続けて肩で息をする。
それでも戦闘狂軍人には剣が届かない。

「辛いか。苦しいか。でも君なら大丈夫だろう?それでも減りはしないんだから」

エミーのいうようにまだパラメータは減らない。
大汗をかいて呼吸が苦しくなるほどに動き回ろうと、それこそ気を失いそうになろうと俺のパラメータは一度も減ったことがないまま。

それからもう一つ分かったこと。
限界と思える状況に追い込まれた時の回復が早い。
息があがっている時に落ち着くまでの時間は日本に居た時と変わった気がしないけど、ぶっ倒れそうなほどの限界を感じた時には数分足らずで脈拍も呼吸も落ち着く。

「さあ落ち着いたね。また剣を取りな」
「このサディストが」

この戦闘狂軍人さまときたらご丁寧に限界まで追いこんでスっと引いてくれるものだから、もう何度限界からの復活を味わったのか分からない。

「一つ注文がある」
「なんだい?」
「魔法を使わせることが出来たらヤらせろ」

寝ても覚めても剣を振り続けて一週間と四日。
もうエドとベルのモフモフでの癒しだけでは限界。

「どっちの意味で?」
「性的な意味で」
「一回ヤったからって恋人面するな」
「ゲス男の台詞か。してねえよ」

恋人だとは1ミリも思ってない。
楽しそうに無能と罵る軍人さまに抱く恋心などない。

「何度も死にかけて生殖本能が働いてるのかな?」
「さあ。俺の本能に聞いてくれ」
「分かった。良いよ」
「決まり」

地面に落ちている剣を拾ってデスマーチにリトライ。
先も見えずただ剣を振るより何かがあった方が気分的に絶望せずに済む。

何度も死にそうと思わされてるんだ。
そのくらいのご褒美はよこせ。

……と要求したものの、ご褒美を貰うが為のだけではエミーに魔法を使わせることはできない。
俺が思うに賢者ってのは魔法特化型で、この戦闘狂のように剣を振り回す物理攻撃型じゃなかったと思うんだけど。

魔法で戦っても強い。
剣で戦っても強い。
……化け物め。


躱され続けること数時間。

「起きろ無能」
「冷た」

地面に倒れた俺にバシャとかけられた冷たい水。
容赦って言葉をどこかに忘れてきた軍人さまからズブ濡れになる程の水をかけられ、失いかけていた意識がハッキリする。

「さっさとステータスを確認しろ」
「……ステータスオープン。パラメータ」

意識を失うほど体を動かした後のパラメータ確認。
重い体を起こしてステータス画面パネルを開く。

「減ってない」
「今回もか」

並ぶ数字はオールセブン。
他の人と同じく体に疲労を感じたり限界も感じられるのに、何故なのか数字だけは減らない。

「はぁ……もうこれ何しても減らないってことか?」
「うーん。そうすると君は不死ってことになってしまうね」
「それは勘弁して欲しい。終わらない命なんて地獄だ」

時間に限りがあるから何かをしようと思える。
なによりも、周りの人たちが亡くなっていくのを見届け続けるのは耐えられそうもない。

「まだ決めつけるのは早い。何かしらの減る条件があるのかも知れないし、1の中身が今の訓練程度では減らないくらい多いのかも知れないだろ?結構じゃないか。沢山訓練できて」
「清々しいくらい戦闘狂らしい発言だな」

沢山訓練できてラッキー……なんて思うか!
減らないってだけで疲れもすれば怪我もするのに。

「早く立て。勇者の利用時間まで続けるよ」
「鬼畜」

物理攻撃の訓練になってからはずっとこんな調子。
限界になると異常な速度で回復することを利用して、気絶間際まで戦う→超回復→気絶間際まで……の繰り返し。

まだ勇者たちは座学中心だから利用するのは1・2時間。
それ以外は過酷デスマーチが続く。


「ここまで」

あれからまた数時間。
恒例の如く剣を弾かれる。

「時間だ」

一矢報いようと必死になっている間にも勇者の利用時間がきたようで、エミーは涼しい顔で鞘に剣をおさめた。

「ステータスの確認」
「ステータスオープン……変化なし……グレそう」

息切れしながら確認したステータス画面パネルの数字はマイナスも無ければプラスも無し。
これだけのデスマーチを繰り返してるのにパラメータが変化しないとか、いい加減グレてやろうか。

「数字には出てないけど実際には変化してる」
「ん?」
「初めたばかりの四日前より体の動きも良くなったし、限界になるまでの時間も伸びた。最初はただ体を躱すだけで良かったのに今は剣で受け流さないといけないレベルにはなってる」

……言われてみれば。
エミーの体に攻撃が当たらないのは相変わらずだけど、最初はお飾りのように構えてただけの剣で攻撃を受け流されるようにはなってる。

「シン!」

聞こえてきたリサの声。
ヒカルとサクラとリクも一緒で、その後ろには魔導師と騎士が数人付いていた。

「大丈夫!?怪我してるよ!?」
「平気。剣の訓練だから多少の怪我くらいする」
回復ヒールかけて」
「駄目だよ」

走ってきたリサは俺の姿を見て驚き回復ヒールをかけようとしてエミーから止められる。

「わざとかけてないんだよ」
「なんで!?血が出てるのに!」
「血くらい出るさ。訓練してるんだから」
「酷い!暴力だよ!」

アッサリ答えたエミーにリサは怒鳴る。

「リサさん、落ち着いて」
「なに怒鳴ってんだ」
「どうしたの?」

のんびり歩いて来ていたリクとヒカルとサクラも何事だと走って来て怒り心頭のリサを止めた。

「お時間です」
「知ってるよ」
「勇者さまの訓練の妨げになりますので」
「言われなくても帰るところだったんだけどね」

黒いローブの魔導師から言われてエミーは苦笑。
同じ黒いローブを着てる礼儀作法のオヤジはエミーにガッツリ喰いかかるからある意味で清々しいけど、こちらの黒いローブの魔導師はどことなく陰湿な感じがする。

「シンの先生は?回復ヒールかけさせてって頼むから」
「駄目って言っただろ?私が彼のだよ」

そう説明したエミーをリサたちは「え?」と見る。
もし俺がリサたちの立場なら同じ反応をしただろう。
なにせこの戦闘狂軍人、見た目だけは完全な子供だから。

「く、訓練なら私たちとしよう?リクとか強いし大丈夫」
「ん?もしかして俺最弱だと思われてる?」
「それは思うさ。子供に怪我を負わされてるんだからね」
「笑うな」

プークスクスと笑うエミーのお尻を百叩きしたい。
誰のの所為で同情されたと思ってんだ。

「勘違いすんのも分かるけど、このチビッ子は最終兵器」
「最終兵器?」
「この異世界に数人しか居ない賢者の中の一人。そっちの人たちの実力は知らないけど多分この中で一番強い」
『えー!?』

うん、驚くのも分かる。
見た目は完全に子供だから逆に一番弱く見えるだろう。

「そうなんですか?」
「はい。エミーリアさまは王都唯一の賢者さまです」
「ああ、たしか歴史の講義でも王都に一人居るって」

騎士から聞いてヒカルはすぐに納得する。

「お初にお目にかかります賢者さま。ヒカルと申します」
「リクと申します。失礼をいたしました」
「サクラと申します。失礼をお許しください」
「構わない。この姿では分からなくて当然だ。本当は君たちと変わらない二十代なんだけどね。元の姿では周囲に魔力酔いさせてしまうから、魔力を抑えるために子供の姿をしている」

丁寧に挨拶をしたヒカルとリクとサクラ。
エミーは微笑して子供の姿をしている理由を説明した。

「賢者の私が君たちに教えるのは訓練が最終段階に入ったらになる。あ、その前に一度はギルドで会うことになるけどね」

異世界人の登録は王宮ギルドマスターのエミーがする。
今は座学と訓練場での特訓しかしてないようだから、国を出入りする為に必要なギルドカードはまだ作ってないんだろう。

「最終段階でってことはそれだけ強いってことですよね」
「今の段階の君たちに教えられることはないかな」
「じゃあシンの特訓も辞めてください。最初からそんな強い人と特訓をしたら怪我をして当然です。シンが怪我させられるのを黙ってられません。私たちと訓練した方が安全です」

JKからこんな真剣に心配される俺って……。
まあ〝勇者〟と〝遊び人〟じゃ月とすっぽんだろうけど。

「君たちとシンじゃ無理だよ。力の差がありすぎて危険だ」
「私たちそんなに強く」
「違う。危ないのは君たち勇者の方。死にたくないだろ?」

うん……ん?
勇者の方?

「エミーリアさま、どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。勇者よりもシンの方が強い」
「そんな馬鹿な」
「私の言葉が信じられないか?」
「勇者方の一日での成長速度はこの国の常識を超えるものです。勇者ではない異世界人の方がまさっているとは思えません」

エミーと黒いローブたちは本当に仲が悪そう。
第一騎士団の人ならまだ止めてくれそうな状況だけど、他の部隊らしい数人の騎士は黙ったまま。

「疑り深い奴らだね。だから魔導師は疲れる」

大袈裟なジェスチャーをして溜息をついたエミー。
王宮魔導師が好きじゃないことは俺も同意するけど。

「仕方ないね。魔導師たちはわからず屋だし、白魔術師さまも私とシンが特訓するのは反対なようだ」
「は?もう辞めるって言うのか?」
「言っただろ?君に教えられるのは私だけだと。だから目で見ないと信じない奴らに教えようと思ってね。君の力を」

……嫌な予感。
俺を見上げて向けられる笑みに肌が粟立つ。

「魔導師と騎士たち。今すぐに勇者方を連れて障壁区域へ移動しな。死なせたくなければ全員で魔障壁をはって全力で勇者方を守るんだね。少しだけ魔力を解放するよ」

背筋をゆっくり舐めるような感触。
寒気のするその感触にじわりと汗が滲み鼓動が早まる。

「すぐに勇者さま方を!」

今まで傍にいた勇者も含む数人が一瞬で消える。
瞬間移動とか……なにその羨ましい魔法。
いつも娘っ子たちが待っている安全地帯に移動したのを見てエミーを見下ろす。

「耐えるか。この魔力にも。さすが規格外」
「これただの魔力か?元の姿の時は平気だったのに」
「今解放してるのは賢者の魔力。あれは私自身の魔力」
「やっぱ化け物だな」
「それに耐えられてる君も充分化け物だよ」

魔力酔いすると言っていた大人の姿でも平気で居られたのに、らしいこれは流石に背筋が寒くなる。
気を抜いたら魂さえ持っていかれそうな威圧感。
いや、殺気と表すのが正しい気がする。

「さあ君も戦いの準備をしな。今だけ魔法も解禁だ。死にたくなければ私を殺す気でくるんだね」

これは……殺される。
そんな危険を感じて身震いした。

【ピコン(音)!ステータスが更新されました】
「やっぱ来たか中の人。また音声で頼む」

まあそうなるだろう。
なにせ魔族と戦える賢者さまが俺を殺しにきてるんだから。

【音声モード。シン・ユウナギのステータスを更新。恩恵〝妖刀陣〟を手に入れました。特殊恩恵〝カミサマ(笑)〟の効果により加護が発動。特殊恩恵〝不屈の情緒不安定〟の効果により全パラメータのリミット制御を解除。シン・ユウナギ専用妖刀 優美ゆうびを召喚、同時に魔神刀 みやびを召喚します】

さすが賢者さま。
祖龍の時より発動している数は少ないといえ、今まで空欄だったに能力を加えさせるとは。
特殊恩恵のみやびも同時に召喚されたってことは二刀流で賢者さまと戦えってことなんだろう。

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「どちらも美しいね。美しくて禍々しい。特殊恩恵が発動するくらいには本気になってくれて嬉しいよ」
「よく言う。化け物みたいな魔力を解放してそうさせた癖に」

妖刀陣と魔刀陣から召喚されてくる刀を見るエミーはまるで邪念のない子供のように興味津々。
生命の危機を感じると特殊恩恵が発動されることを知っていてわざと発動させたんだろう。

「特殊恩恵が発動したならステータスはどうだい?」
「ああ、そっか。ステータスオープン」

雅と優美を手に取ってから前回は見る暇もなかったステータスを確認する。

「………」

さすが暇を持て余した神々。
こんな時ですらやってくれる。

自分にだけ見えているステータス画面パネルに笑い声が洩れた。
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