ホスト異世界へ行く

REON

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第二章 異世界生活

賢者様の寵愛児

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「本題だけど、昨日のことはあの二人と話したのか?」
「襲撃された時のことか?俺が怒鳴ったら体が動かなくなったとは言われた」

昨日二人と話したことをヒカルに話す。
俺が襲撃犯に怒鳴ったら二人も体が動かなくなり、最初は〝ストップ〟という魔法と言われたけど会話の途中でそうではなかったと気づき、結局なんだったかは分からないままだけど『畏怖の念を感じた』と言われたことなどを。

「怒鳴り声で畏怖」
「あくまで二人がそう感じたってだけだぞ?」
「いや、うん。それは分かってる」

俺からすれば身に覚えのないこと。
五歳児と七ヶ月の赤ん坊が居るのに襲撃してきたから怒鳴っただけで、普段自分が働く店のプレイヤーたちに怒鳴る行為となんら変わらなかった。

プレイヤーたちから畏怖の念など言われたこともなければ怒鳴った程度で体が動かなくなるなんて可愛い奴もおらず、喧嘩や騒動の理由を聞く俺に客をとったとかやり方が気に入らないなどとふてぶてしい態度で説明していた。

「俺は怒鳴り声を聞いてないけど思うところはある」
「ん?」
「捕まった奴らのその後のことは聞いたか?」
「聞いてない」
「喋れないらしい。ずっとなにかに怯えてるって」
「フリだろ?口を割りたくないから」
「俺もそう言ったんだけど違うらしい。だからまだ襲撃した理由が聞き出せてないんだと」

騎士団に連れて行かれた時は変わった様子がなかったけど。
ローブのフードで顔が隠れてたから気付かなかっただけなんだろうか。

「それがってヤツか」
「うん。お前の怒鳴り声に何か特別な力があんのかも。この世界の人も知らない特殊恩恵を持ってるくらいだし」
「なるほど」

可能性がないとは言えない。
ストップの話をしてくれた時にエドが『シンさまのように支配することはできません』と言っていたから、俺の特殊恩恵のどれかが精神的な何かに作用した可能性もある。

一番可能性がありそうなのは〝カミサマ(笑)〟。
もしそんな神のような力があるんだとしたらもっと分かり易く威厳のある名前を付けてくれよ……ほんと神ぬっ〇ろす。

「シンさま。お休みですか?」
「騎士たちが帰って来たのか」
「らしい。ちょっと待っててくれ」

ドアのノックと副団長の声。
ヒカルに言ってドアを開けに行く。

「お疲れさま。お帰り」
「ただいま戻りました。お休み中でしたか?」
「いや、ヒカルが来てて」
「勇者さまが?それは失礼いたしました」
「一緒に呑んでるだけだから。それより夕飯だけど」
「あ、それを伺いに。厨房に鍋や野菜がありましたので」
「鍋の中のはスープと異世界のカレーって料理。カレーは焦がさないよう混ぜながら温めてからライにかけて食べてくれ」
「分かりました。ありがとうございます」

やはり厨房にある鍋を見て聞きに来たようで、温めてライ(の実)にかけて食べるよう話してドアを閉めた。

「お前ここの騎士団の人たちと仲良いよな」
「そりゃ一緒に暮らしてるんだから仲良くもなるだろ」

騎士団の人とはエドとベルが帰った後に一緒に呑んだりチェスやトランプで遊んだりもするから既に友人に近い感覚の人たちになっている。

「勇者宿舎にも騎士は居るけど話したことがない」
「そうなのか?」
「もちろん挨拶くらいはするぞ?でもお前とここの騎士みたいに気軽には話さないし、騎士だけじゃなくて使用人とも必要な会話しかしない。常に一歩引かれてるのが分かるから」

ああ、それもか。
この異世界の救世主だから扱いも俺とは違うんだろう。

「勇者稼業もシンドいな」
「ほんとに。衣食住に困らない生活をさせて貰ってるのに贅沢かも知れないけど」

自分で望んで勇者になったならたしかに贅沢だろうけど、有無を言わさず召喚されて勇者と持て囃されてるんだから、四人が衣食住を提供して貰うのはだと思うけど。

「お前らの部屋付きの使用人って人族?」
「聞いたことはないけどそうだと思う」
「態度とか言葉遣いもお堅い感じ?」
「うん。如何にも従者や女給メイドって感じ」
「ふーん。エドとベルも俺が言うまではそうだったし、やっぱ使用人ってそう教わってるんだろうな」

身の回りの世話をしてくれる使用人が気楽に話せる人なら多少は気分も違うんじゃないかと思ったけどエドとベルのように特殊な立場の人でもないようだし、むしろ勇者の付き人になれるってことはとんでもなく優秀そうだから難しいか。

「因みにお前の部屋付きの女給メイドさん可愛い?」
「母親以上の年齢の人」
「……聞いた俺が悪かった」
「お前の女給メイドだけが特殊な有り難さを忘れるな」
「死ぬほど感謝しとく」

胸にスライムを飼ってる(比喩)ベルを選んだのは王太女。
執事のエドも合わせて二人分のモフモフを心置き無く堪能できることに心から感謝しよう。

「そういえば体は大丈夫だったのか?」
「体?」
「召喚祭の時に暴れたことを覚えてないんだろ?」
「襲撃犯を殴った時の話?」
「うん。前からそうだったのか?」
「いや。プツっとして殴ることはあったけど記憶までは」

ポンコツどもの殴り合いの喧嘩を止めたら巻き添えで殴られてキレたりすることはしょっちゅうだったけど、散々暴れてハッと気付いたなんてことは今までなかった。

「お前が魔王なんじゃないかってくらいだったのに」
「そんなにブチ切れてたか?」
「ブチ切れてたかは分からない。顔は冷静だったから」
「んー……あの時のことはほんと一切の記憶がないんだよな。人が斬られてるのを目の前で見てトラウマになったらどうしてくれるって思ったことだけは覚えてるんだけど」

神に悪態をついたことは覚えてる。
ただ、その後の殴り終わるまでの記憶がない。
理由は分からないけど。

「なんだろうな。やっぱお前には謎が多い」
「謎って?」
「この世界に居ない唯一無二の容姿や特殊恩恵に、男女問わず人目を惹く異様な存在感。やってることはめちゃくちゃなのに可愛がられて愛される性格。極めつけに勇者や勇者一行じゃないのに召喚された理由。……考えてるんだけど分からない」

悩むヒカルを見てグラスを口に運ぶ。
人のことをこんなに考えてたらいつかハゲそうだ。

「色々と考えてるところに悪いけど、俺は召喚される前からこうだぞ?どっちかといえば直感で動くタイプだし、昔から老若男女問わず言い寄られてたし、俺自身の性癖もパンセクシュアルだし。召喚に関しては魔導師が儀式で何かミスったんだろ」

コンタクトが消えて容姿が固定されたことには多少の疑問はあるけど、特殊恩恵の〝遊び人〟はホストだった俺のだし、こちらに来てから性格が変わった訳でもない。
変わり者、変態、変人とは召喚される前から言われていたことで、もし俺が働いてた店のプレイヤーたちが今の俺を見ても何か変わったとは思わないだろう。

「そうなのか……って、お前その容姿で全性愛者なのかよ。この異世界でハーレム無双しそうで怖いわ」
「楽しそうだなそれ。何ならヒカルたちが戦わなくて済むよう魔王もハーレムに引き込むか。美形なら全力で口説く」 
「やめろ」

そんなくだらない会話で笑う。
シンドい状況に立たされてるヒカルが笑ってることに安心もしたし、俺自身も異世界に来てくだらない性癖の話題なんてする相手も居なかったからいい気晴らしになった。


「じゃあな。気を付けて帰れよ」
「うん。今日は歩けるから平気」

深夜まで呑んでヒカルを見送る。
勇者の宿舎まで送ると言ったら男なのにそれは必要ないと断られたから騎士団宿舎の外までだけど。

「また話し相手になってくれ。楽しかった」
「俺も久々に中身のない下品な話が出来て面白かった」
「男ってアホだよな」
「同意する」

男同士で呑めば下品な話で盛りあがることも多々ある。
そんなくだらない話をしてる時間も楽しいものだ。

姿が見えなくなるまで見送ってから部屋に戻ってぬるめのシャワーを浴び、残りの果実酒やグラスや氷をナイトテーブルに置いて柔らかいベッドに沈む。

久々に気楽なくだらない話をしながら呑んで気分も良い。
これで別の意味でもスッキリできる相手がいたら最高だったんだけど……そこまで望むのは贅沢か。

グラスの中身を空けてそのままウトウトして眠りについた。

……

夜這よばいか」
「やっと起きたのかい?」

俯せで寝ていた背中に重なる体温。
それと軽い重みを感じながらふと目覚めた。

「……まだ夜かよ」

風でなびくカーテンの隙間から見える暗闇でまだ夜だと知って背中に居る人物を見る。

「夜這いか暗殺か、どっちだエミー」
「よく私だって分かったね」
「顔と話し方。中身は二十代だってベルから聞いてたし」

背中に体温を重ねていたのはギルマスのエミー。
昼間に見た子供の姿じゃなくても顔のつくりと特徴的な話し方ですぐに分かった。

「異世界には夜這いの慣習があるのか?」
「ないね」
「威張んな」
「君ならいいと思って」
「どんな印象だよ」

さすがに不法侵入して来た人に夜這いされた経験はない。

「あのな?俺はいま多少なりとも酒が入ってて気分も良くて、数日ご無沙汰なだけにがない訳でもない。もし話があって来ただけならまだ起きて聞けるけどどうする?」

異世界での生活も四日すぎたとあってそろそろ生理的に溜まったものを出したい気持ちはある。
夜中にこっそり忍び込んで来て背中に乗られているとあらばになるなというのが無理だ。

「色気のない用件は特にないね」
「じゃあ遠慮なく」

同意が得られて背中に重なっていた体をベッドに落とす。
透けそうな薄いキャミソールを着てる大人の姿の今は、子供の姿だった時と違い随分ご立派なスライムを飼ってらっしゃる。

「でも何で急に?」
「優秀な子種が欲しくて」
「怖」
「冗談。この姿に戻っても平気な相手が中々居なくてね。君は魔力酔いしそうにないから発散に付き合って貰おうと思って」
「ふーん。賢者さまってのも大変なんだな」

魔力酔いってものがあることは初めて聞いたけど魔力を抑える為に子供の姿になってることは聞いたから、子供の姿ではできないをする時は魔力に耐えられる相手が必要なんだろう。

「いい匂いがする。風呂上がりか?」
「礼儀だろ?それ目的で来たんだから」

昼は結んであった髪も解かれていて体も風呂上がりの香り。
首元に顔を寄せ匂いを嗅ぐとエミーはクスと笑って答える。

「君もいい匂いがする。まあ匂い以前に既に惹かれてたからここに来たんだけどね。性質か能力か君は人を惑わせる不思議な魅力がある。おかしな既成事実きせいじじつを作られないよう気を付けな」
「夜這いに来た奴が忠告するのか」
「私は一時の発散目的で来ただけだよ。後からとやかく言うつもりはない」

それならそれで俺にも好都合。
色気も何もない子供の姿のエミーには何も感じなくても今の姿には充分そそられる。

「朝まで付き合えるかい?」
「お手柔らかに」

異世界に数人だけの賢者に付き合ったら精も根も尽き果てるまで搾り取られそうだけど、そこは今までの経験でなんとか。

長い長いが始まった。





キィと鈍い音が聞こえて瞼をあげる。
射し込む太陽の光が眩しい。
腕の中にいる体温に気付きその顔を見て、そういえば夜明けまでしていたんだったと思い出した。

「シンさま」

まだ気持ちよさそうに眠っているのを見て頭にキスすると背中側から声が聞こえてハッとする。

「エド、ベル」

俯いてプルプルしている二人。
鈍い音は二人が部屋に入って来た時の扉の音だったようだ。

「おはよう。もうそんな時間か」

腰までしかかかっていなかった薄いブランケットを引っ張りあげて裸のまま寝ているエミーの肩までかける。

「あの……エミーリアさまですよね?」
「うん。見ての通り」

眠る前に魔力を抑えて子供の姿になってるから聞かずともエドにも見慣れている姿のはずだけど。

「あ。この姿とはしてないぞ?終わってこの姿になっただけ」

さすがに子供の姿のエミーとご無体むたいなことはしてないと説明すると二人は微妙な表情で見ていた。

「疲れてるだろうから寝かせてやってくれ。俺は風呂」
「は、はい。すぐに準備を」
「ありがとう」

エドから渡されたローブを羽織って背伸びをする。
エミーの発散に付き合ったお蔭で俺も久々にスッキリしたし、窓の外の天気の良さも相俟あいまって良い一日になりそう。

【ピコン(音)!ステータスが更新されました】

そんなの声が頭の中で聞こえる。
うん……嫌な予感しかしない。
ベルは入浴の準備、エドは着替えの準備をしてるのを見てソファに座りステータス画面を開く。

【シン・ユウナギのステータスを更新。新たな特殊恩恵〝賢者様の寵愛児 はーと〟を手に入れました。これにより、全属性魔法が解放されました】

「……は?」

《特殊恩恵》
病みに愛されし遊び人
不屈の情緒不安定
カミサマ(笑)
Dead or Alive 
魔刀陣
賢者様の寵愛児♡ new!

《属性魔法》
火 Lv.7 new!
水 Lv.7 new!
雷 Lv.7 new!
風 Lv.7 new!
聖 Lv.7 new!
闇 Lv.7 new!
時 Lv.7 new!

「いやいやいや、どうした神」

相変わらず名前には『はーと』とかが付いてて生温い殺意を感じるけど、全属性魔法を解放とか……なんだその唐突な大盤振る舞いは。

風邪か?風邪でも引いたのか?
熱でうなされてうっかり大盤振る舞いしたのか?
寝とけ?今日は仕事休んで寝とけ?逆に怖いぞ?

ステータス画面を閉じてガクブル。
今までなかった使能力の解放に戸惑う。
神よ……腹をしまって寝ないから風邪引くんだぞ。

「(゚д゚)ハッ!……死ぬ‪のか」

そうに違いない。
俺のステで遊ぶ暇を持て余した神々の最期の情け。
良い一日がまさかの命日に。

「シンさま入浴の準備が」
「エドっ!」
「え?」
「モフらせろ!俺は最期の瞬間までモフって逝く!」
「えっ!?」

死を覚悟してエドを引き寄せ全力で尻尾をモフる。
二度とモフれないのかと思うと残念でならないけど、暇を持て余した神々が決めたことを人間の俺が避けられるはずがない。

「エドぉぉ!」
「シ、シンさま!?」
「朝から何をしてるんだい?君たちは」
「エミーリアさま、おはようございます」
「おはようベル」

いつの間にか起きていたエミーの肩にこれまたいつの間にかバスルームから出て来ていたベルがローブをかける。

「空が白むまでしてたのにまだするのかい?絶倫だね」
「まるで俺が襲ってるみたいに。尻尾モフってるだけなのに」
「獣人の尻尾や耳は弱点であり性感帯でもあるからね」
「へぇ。良いこと聞いた」

道理で二人とも尻尾や耳をモフると赤くなるはず。
エミーから聞いてニヤリと口許が緩む俺を見るエドとベルはプルプル。

「ちゃんと同意の上でするようにね」
「当然。そこに関しては紳士だからな」

もちろん同意もなく襲ったりしない。
モフるのは今まで通りモフるけど。

「先に風呂使うか?」
「時間がかかるから一緒に入ろう。今更隠すものもないし」
「昨晩見たのはご立派なスライム乳だったけどな」
「元の姿だとエドとベルが魔力酔いしてしまうんでね」

それで寝る前に子供の姿になったのかと納得。
ぐっすり寝ている間に二人が来て魔力酔いさせてしまわないよう気を使ったんだろう。

「そういえば今日ギルドは?仕事」
「もちろん行くよ?昨日は龍種の件で夜遅くまで対応してたから今日は遅めに行くって話してある」

ベルは俺の、俺はエミーの髪を洗いながら話す。
個人に専属で仕えている使用人は例え尊敬している人であっても主人以外の身の回りの世話はしない決まりがあるらしい。

「賢者って全部の魔法を使えるんだよな?」
「まあね。その中でも得手不得手はあるけど」
「時間がある時で良いから魔法の使い方教えてくれないか?」
「ん?私が?」
「俺が下手うってもなんとかしてくれそうだから」

風邪を引いた暇を持て余した神々から与えられた魔法。
与えられたは良いけど魔法の使い方さえ知らない俺がLv.7っていうのが危険な香りがするから、仮に何かあってもどうにかできそうな賢者のエミーに頼みたかった。

「んー。ちなみに何の属性を持ってる?」
「全属性」
「……へぇ。それは教えがいあるね」
「シンさまは全属性に適性をお持ちだったのですか?」
「いや。今朝ステータスが更新されて覚えた」
「さすがシンさま。素晴らしいです」

キラッキラするベルが眩しくて首を傾げる。

「ほんとに君は何者なんだろうね」
「ん?」
「全属性の適性を持つのは賢者だけだよ」
「……は?」
「君は賢者でもないのに賢者と同じ能力を持ってるってこと」

特殊恩恵〝様の寵愛児〟。
だから全属性の魔法を覚えたのかと納得した。

「そういうことなら君には私が直接教えよう」
「勇者一行のリサとサクラは?」
「あの二人はまだ先。教えるのも順序があって、本来なら属性魔法の何か一つを極めたら魔術を教えるんだ。勇者一行の二人は二つ極めた状態で召喚されたから今は魔術の勉強中。魔術が使えるようになったら魔導の聖と闇と時空属性を教えるけど、君は色々飛ばして既に聖と闇と時空属性も持ってるんだろ?」

かぁぁぁみぃぃぃぃい!
うっかりの大盤振る舞いにも程がある。
俺が特別な力を使って悪さをするタイプの異世界人だったらどうするつもりなんだ。

その時は寿命の糸をチョキってすれば良いや的な感じか!
所詮は暇を持て余した神々の遊びか!
俺はお前の暇潰しの為に悪さしたりしないからなぁぁぁ!

ベルは大喜び。
俺は先行き不安。
頼むから、これ以上うっかりしないよう早く風邪を治せ。

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