ホスト異世界へ行く

REON

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第二章 異世界生活

初めての採取クエスト

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「よし。ようやく異世界系っぽい展開になってきた」

王宮ギルドを見上げて独り言を呟く。

異世界系と言えばギルド。
冒険者になって俺TUEEEEをするのが異世界系。
問題は俺YOEEEEってことだけど。

つまりエドとベルに守って貰いながらの採取クエストとか、エドとベルに守って貰いながらのお買い物クエストとか、そういう初心者クエストをこなす訳だ。

……俺YOEEEE!!!!

「シンさま?」
「入らないのですか?」
「ちょっと自分について本気出して考えてみた」
「「?」」

頼んだ、エド、ベル。
ペットとして大人気のスライムに四回ポコられたら死ぬ俺を助けてくれ!

いざゆかん!
荒くれ者の集まる冒険者ギルドへ!

「お帰りなさいませー!」
「なんか違うっっっ!」

煌びやかなギルド。
床には赤い絨毯が敷かれ、壁には絵画が飾られ、あらゆる所に華が飾られ、とどめに聞こえた「お帰りなさいませ」の声。

秋葉のメイド喫茶か!
お帰りなさいませご主人様、ニャンニャン♡
ってアレか!

「シンさま?」

予想と違う煌びやかなギルドを見て愕然とする俺をエドが覗きこむように見てきて、その耳をムンズと掴む。

「シンさま!?」
「まあ。シンさまがご乱心」

舐めんな秋葉メイド!
こっちは本物のケモ耳だぞ!?
ふわふわの毛が生えたヌクモリティ感じるモノホンだぞ!?

モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ

「……フゥ。つい取り乱した」
「エド大丈夫?」
「な、なんとか」

いかんいかん。
尻尾やケモ耳をモフるのは自室でだけと決めてたのに。
ついエドのケモ耳に癒しを求めてしまった。

「落ち着いた。登録はどこで」
「右側のカウンターにゃん」
「ありが、って誰!?」
「初めましてご主人さま♡ギルドマスターのエミーリアにゃん♡エミーって呼んで欲しいにゃん♡」

ぶ っ 叩 い て い い だ ろ う か 。
この世界のメイド服に腰まである緑髪ツインテのチビっ子。
秋葉……いやそれより語尾がムカつくからお尻百叩きしたい。
女じゃなければ今の時点で百叩きの内の十発は叩いただろう。

「いや、ん?ギルドマスター?」
「はいにゃん♡エミーがギルドマスターにゃん♡」

なんと。お子さまがギルマスときた。
あらくれ者集う(小綺麗な人ばかりだけど)すさんだ(静かだけど)冒険者ギルドを纏めるのが子供とはさすが異世界、それでいいのか異世界。

「エミーリアさまどうなさったんですか?そのご衣装」
「異世界人がエドとベルの主になったって聞いたんでね。メイドや獣人がお好きなのかと思って用意したんだ」

普通に話せるのかい!
ベルと話すギルドマスターは説明してゲラゲラ笑う。

「こういうの好きかにゃん♡」
「全然。全く。むしろイラっとした」
「残念。じゃあ普段通りに迎えようかね」

潔くスパーンとメイド服を脱ぐと一瞬でベル〇イユのばらのオスカルみたいな服装に変わった。

「……どうやって下に着てた?それを」
「やだなぁ。着てた訳ないだろ?魔法を使っただけだよ」
「魔法が便利すぎる件」

メイド服の時は明らかに肌が出ていたのにどう着てたのかと思えば魔法で早着替えをしたらしい。

「王宮ギルドは子供がギルマスなのか」
「私は子供ではないよ?」
「ああ……子供扱いしてごめん」
「わかってくれれば良いんだよ」

子供扱いされるのが嫌な年頃らしい。
一瞬の早着替えといいギルドマスターであることといい、子供とはいえ優秀な子なんだろう。

「改めて。ようこそ異世界人。ギルマスのエミーリアだ」
「俺はシン。よろしくエミー」

仕切り直してカウンター越しに握手。
下に踏み台を置いて乗ったのを見ただけに、キッチンで母親の手伝いをする子供を彷彿とさせて和んだ。

「書状は持って来たかい?」
「国王のおっさんから渡されたこれだよな?」
「そうそう」

おっさんから渡された封筒。
カウンターに置いたそれにエミーが手をかざすとホワっと光る。

「うん。国王の刻印で間違いない」
「今のは?光ったけど」
「国王の書状が本物かを確認したんだよ。もしこれが偽物であれば燃えてる。エドとベルを連れてるから君が噂の異世界人で間違いないだろうけどね。念のためってやつさ」

仕組みは分からないけど偽るのは無理そう。
子供でもさすがギルドマスター。

「君の情報を登録するからこれに手を置いて?」
「うん」

魔法陣が書かれた小箱。
それに手を置くと眩しいくらいにピカーっと光る。

「はー。異世界人ってのは凄いんだね」
「なにが?」
「この世界の人族とは色が違う」
「光ってるこれか?」
「そうそう。こんな光の色は初めて見たよ」

ただビカーっと光ってるだけに見えるけど。
若干目がシパシパする。
暫くすると光は収まって消えた。

「はい、お疲れさま。登録されたよ」

小箱の中に入っていた黒いカード。
金属製(種類は不明)のこれがこの世界のギルドカードらしい。

「君には身分証としての役割が主だろうけど説明は必要か?」
「うん。クエストも受けるつもりだから頼む」
「それはいい心掛けだ。じゃあ説明を」

ギルドカードは地上層共通。
依頼を受けられる場所に制限はなく、他国や王都以外の領地にあるギルドでも受けられるとのこと。

「冒険者の階級は下からE・D・C・B・A・S・SSランク。最初はみんなEランクから始まって採取クエストや討伐クエストをこなしてポイントを稼ぐことで昇格する。当然難しい依頼や強い魔物の討伐の方がポイントは高い。ただし身の丈に合わない依頼を受けて達成できなければ罰金がかかるから気をつけて」

この世界の昇格条件はポイント制。
採取クエストなら発見することや採取方法が難しい素材はポイントが高く、討伐クエストなら強い魔物ほどポイントが高い。
つまり成功する可能性が低い依頼ほど高ポイントってこと。

「受けられるのは一つ上のランクの依頼まで。今の君はEランクだからDランクまでしか受けられない。ただし例外として、依頼中に襲ってきたDランク以上の魔物を運良く討伐した場合には証拠になる素材を持ち帰ればその魔物に設定されてるポイントを貰える」

ポイント制度の冊子を見せながらそう説明をされる。

「依頼を受けてない魔物でもポイントを貰えるのはいいな」
「言っておくけど逃げる選択が優先だよ?でも逃げられない状況の時もあるだろう?命懸けで倒したのに無効になるのはあんまりだから討伐ポイントはつくようになってる。依頼を受けた訳じゃないから依頼達成ポイントは貰えないけどね」

なるほど。
要は討伐ポイントと依頼達成ポイントの二種類があると。
依頼を無事に達成すれば二種類合わせたポイントを貰えるということだ。

「つまり例外はあくまで努力を無駄にしないための救済処置としてあるだけで、先ずは自分の命を最優先に考えて逃げるのが基本。一攫千金を狙わず生きてコツコツ稼げってことだな?」
「その通り。それが出来ない冒険者も少なくない。生きてほしいから依頼にもランクがあるってことを忘れないでほしい」
「うん。分かった」

全ては命あっての物種。
といっても俺は最弱のスライムに四回ポコられると死ぬけど。
自分より弱い魔物が居ない俺はどうしたらいいのか(遠い目)。

「次にカードの取り扱いだけど、君の情報が登録されたこのギルドカードは当然ながら君しか使えない。例えば城門を通過する際に君がエドにカードを渡して通ろうとしてもバレる。もし紛失してそれを拾った誰かが使おうとしても同様に。故意に貸し出しをした時は君も罪に問われるからやらないようにね」

自分以外が使おうとしても使えないのは有難い。
落とすつもりはないけど万が一ってこともあるから。

「仮に紛失した時はどうすればいい?」
「王城で紛失届けを貰ってギルドで再発行する。もしクエスト中に落とすと入るのに時間がかかるから気をつけて」

クエスト中ってのはたしかに少し不安。
必死の時は落としたことに気付かない場合もありそう。

「もし心配なら装飾品にするかい?」
「装飾品?」
「ベル、エド。少し貸してくれる?」
「「はい」」

ベルは腕輪を、エドは首輪を外してカウンターに置く。

「これがカードと同じ情報を付与した装飾品」
「見た目では分からないな。種類はなんでもいいのか?」
「うん。本当はお金がかかるけど今回は国に請求できるから、ギルドで売ってる装飾品でもよければ君からお代は取らない。ただし付与が終わるまでに2・3日はかかる」

おっさんに請求できるならやって貰おうか。
忘れ物や失くし物が多い方じゃないけどクエスト中はさすがに自信がない。

「その2・3日の間は出入り出来ないのか?」
「ギルドカードはそのまま使えるから大丈夫」
「じゃあ頼む。国が出してくれるなら折角だし」
「ちゃっかりしてる」

エドとベルに装飾品を返しながらエミーはプっと笑った。

ギルドに売っていた装飾品は数十種類。
エドとベルのような腕輪や首輪はもちろん指輪や髪飾りなどもある。

「エド、ベル。どれがいいと思う?」
「「これが」」

二人が同時に指さしたのはネックレス。
白銀のプレートには黒の小さな石が一粒埋め込まれている。

「じゃあこれにする。二人の意見が綺麗に合ったことだし」
「一番高いの選んだね。見る目あるよ」

値札がついてないそれが実は一番の高級品とは。
選んだエドとベルも「え?」と驚いていたから、あえて高そうな物を選んだ訳ではないようだ。

「付与するためにもう一度情報を貰うよ」
「ああ、そっか」
「今度はこの術式に手を置いて?」
「うん」

紙に描かれた魔法陣(この世界では術式って名前らしいけど)。
その上に手を置くとまたビカーっと光って目をシパシパさせながらも待ってると光はゆっくりおさまった。

「2・3……んー……2日!2日後の夜までには付与しとく」
「ありがとう。よろしく」

全て終わったのは正午すぎ。
謁見の時間もかかったから予定より長引いてしまった。

「腹が減ったし依頼を受ける前になにか食べるか」
「「はい」」
「食堂ならそのドアから行けるよ」
「そこの?じゃあ腹拵えしてからまた来る。ありがとう」
「どういたしまして」

手を振るお子さまエミーから教えて貰ったドアを開けると、そこはこの世界に召喚された初日にヒカルたちと行った食堂。
王宮ギルドと食堂はドア一枚で繋がっていたようだ。
前回団長や副団長の案内で来た時にはギルド内を通らず別の入口から入ったから気付かなかった。

「食堂は賑やかだな」
「はい。冒険者の憩いの場でもあるので」
「なるほど」

ギルドの中でもクエストの手続きをしてる人を見かけたけど、食堂の方にいる冒険者は休憩の真っ最中なのか食事をしたり酒を飲んだりと寛いでいる。

空いてる席を見つけて座りフゥと一息。
丸いテーブルを囲んでエドとベルも座る。

「いらっしゃい。なんにする?」
「ん?なんで一つしか」

テーブルに置かれたグラスは一つ。
メニューも俺だけ渡されどうしてと一瞬思ってすぐに気付く。

「二人にも水とメニューを。三人で食べるから」
「そ、そう。持ってくるよ」

驚いた顔を見せた女給は急いで席を離れた。

「もしかしてこういう店で獣人は食べないのか?」
「はい。中には初めて見る方も居ると思います」
「奴隷を外に連れ出すあるじは珍しいですから。稀に居ても尻尾や耳は隠しているので同じ獣人にしか分かりません」

獣人は奴隷。
この国にはその認識がもう定着してるらしい。
耳や尻尾を出したままの獣人も珍しいし、獣人を連れて一緒に食事をする俺も珍しいってこと。

ワタクシとエドは外で待った方が」
「シンさまのご迷惑に」
「同じ釜の飯を食うって約束しただろ?周りの人の認識なんて関係ない。俺はこれからも変わらずエドとベルを連れ歩くし、一緒の席について一緒に飯を食う」

人目を気にして外に出ようとするエドとベルを止める。
俺は気にしないと言ってるのに。
言ってもまだ俺に迷惑がかかると考えてしまうのは、それだけ幼い頃から奴隷視されてきた証拠だと思うと胸が痛む。

「俺もフードを外しておく。これで見られるのは一緒」
「いけません。異世界の方と分かってしまいます」
「勇者と王都に出た時は異世界人なのがバレると危ないから隠すよう言われたけど、今は勇者と一緒じゃないから問題ない」

エドとベルは獣人の姿で居るのに俺だけローブのフードで姿を隠しているのは卑怯な気がして、どうせ周りから好奇の目で見られるなら俺もとフードを外した。

「勇者さま!?」

二人の水とメニューを持って来た女給は驚く。
周りの人も俺がフードを外したらザワついたし、王都ならまだしも王宮でもまだ俺を勇者と勘違いしてる人が居るようだ。
召喚祭で勇者の姿を見ただろうに。

「勇者じゃない。詳しくは話せないけどただの異世界人」
「そ、そうなんですか?」
「うん。他の冒険者と同じように扱って欲しい」
「わ、分かった」

腑に落ちない様子も見られたものの詳しく話せないと先に言ったからか、女給はそれ以上に聞いてはこなかった。

「あ、そう言えばごめんね。二人の分を持って来なくて」
「次にまた俺たちが来た時は最初から頼む」
「そうするよ。耳や尻尾を出した獣人を見かけるだけでも珍しいけど一緒に食事をする人は見たことがなかったものだから、てっきり貴方たちもそうなんだろうと思って。お客さまとして来てくれたのに失礼なことをしてごめんね」

なんだ。嫌がらせ獣人差別じゃなかったのか。
申し訳なさが伝わる女給に謝られたエドとベルは大きく首を横に振って嬉しそうに微笑む。

「冒険者の集まるここでも獣人は珍しいのか」
「少なくともここでは見たことがないね。私が分からないだけでお客さまの中には獣人の冒険者も居るのかも知れないけど、耳や尻尾を出した大人の獣人は初めて見たよ」

ああ、それもそうか。
仮に獣人だとしても耳や尻尾を隠したら人族にしか見えない。
そうやって姿を隠すことで獣人は身を守ってるんだから、堂々と出してる獣人を見かける機会がまずないと。

「貴族さまだと獣人を使用人にしてる人も居るけど大抵は屋敷の中で仕事をさせてて外には連れて来ないし、まして一緒に食事をするなんてことは話にも聞いたことがないね」
「なるほど」

身分の差があることは分かる。
日本でも家政婦と雇い主は一緒に食べないだろうし。
仕える人と主人が別々に食事を摂るのは普通なんだろうけど、やんごとなきお宅の出身じゃない俺には人を立たせたまま待たせて自分だけ食べる選択肢はない。

「俺も二人には使用人としての世話もして貰ってるけど頼りになる仲間でもある。他の人はどうでも俺たちは一緒に食事をするから覚えといてほしい。今後も利用させて貰うだろうから」
「了解。もう覚えたよ」
「ありがとう。よろしく」
「二人もよろしくね」
「「よろしくお願いいたします」」

恰幅の良い女給は俺と握手をしたあとエドやベルとも握手をして、二人は他の人と同じように扱ってくれる女給が嬉しかったらしく大きく尻尾を揺らした。

「エドとベルは何を食べたい?遠慮はナシで」
「では、シンさまと同じお食事を」
「私も同じものを」
「肉は食えてたよな。シシリーのステーキでいいか?」
「「はい」」
「じゃあシシリーのステーキを三人前」
「はいよ。すぐ作るから少し待ってね」

シシリーとは日本の猪みたいな魔物。
なんで分かるかって?
それはスキルを使って前回来た時に調べたから。

俺の能力で唯一なスキル。
特殊恩恵の〝遊び人〟と同じく異世界に来た当初から付いてた〝料理人〟という名前のこのスキルは、使われてる食材の種類や写真はもちろん地球の何の味に近いかまで分かる優れもの。
リサやリクに料理を作った時もスキルが大活躍してくれた。

クソみたいな特殊恩恵の俺に神からの武士の情けか。
このスキルだけは素直に有難い。


王宮料理人が作った料理と違い程よい濃さの美味いステーキで腹を満たし、いざゆかん城の外へ!……の前にクエスト受注。
ついさっきカードの登録をして貰ったギルドの中に戻って壁の一角に貼られているクエストボードを物色する。

「一番危なくないクエストってどれだ?」
「爵位地区の倉庫清掃でしょうか」
「それだと最初から最後まで王都の中だよな」
「はい」
「外に出るクエストで。スライムに用があるから」
「でしたら採取クエストがよろしいかと」
「やっぱ採取か」

一番の目的はノマスラにポコられることだけど、どうせ外に出るならならクエストも試しに受けてみたい。
勇者とは違って俺は講師から教わる機会もないから自分で実際に見聞きしながら様々なことを体験して覚えていくしかない。

「このキクールでしたら王都の近くでも採取できます」
「王都の近くでもノマスラ出てくる?」
「はい」
「じゃあ初体験はこれに決まり」

まずはお試し。
エドが教えてくれたクエストの紙を取って受付で手続き。

「早速クエストに行くのかい?」
「お試しで。王都の外も見てみたいから」
「キクールの採取か。エドとベルならこの辺りの魔物じゃ遊び相手にもならないからのんびり散歩しながら摘んでおいで」
「うん。行ってくる」

クエストの受注受付をしてくれたちびっ子エミーに見送られて王宮ギルドを出た。

「ついに検閲けんえつか」

王都の端にある門はそびえるという言葉が相応しい立派な門。
巨大なその門を通る人々は徒歩の人も居れば馬車の人もいて、鎧を着て槍を持った警備兵たちがしっかり監視していた。

「シンさま。この水晶にギルドカードを近付けてください」
「ここ?」
【IDを確認しました。右へお進みください】
「右?」
「シンさまも私たちもこれで検閲は終わりです」
「え?もう?」

海外旅行の時の空港のように色々と聞かれるのかと思えば、俺はギルドカードを、エドとベルは装飾品を水晶に近づけ終了。

「王宮関係者の検閲は至って簡単です」
「へー。特権ってヤツ?」
「そもそも王都の国民であれば通過する理由を答える程度の検閲ですので特権とまで言えるかどうかは微妙ですが」

王都(城のある首都のこと)の検閲口は三箇所あるらしく、王宮関係者はIDチェックだけで済むから右、王都の一般国民は短い質疑応答があるから真っ直ぐ、外部の人(他の領地に籍のある人)は左の出入口に進んで荷物チェック等が行われるとのこと。

「戻って来た時は?」
「違法な物を持ち込めないよう荷物の確認をされます」
「分かった。もし俺が違法な物を手にした時には教えてくれ」
「「はい」」

話が途切れたタイミングで見えた門の外。
舗装された道は遠く遠くへと続いているけど……

「田舎も真っ青なレベル」

城壁を出た先は見渡す限り広い広い大地。
巨〇兵が全て薙ぎ払った数百年後の世界かと思うほど肉眼で見える範囲に建物はない。

「んー。癒される」

あるのは草や花の生えた大地と木々。
建物がひしめく日本で生きていた俺にとっては究極に贅沢な大自然だろう。

「で、キクールってヤツはどこに行けばある?」
「王都近くのどこかに」
「ん?」
「この季節はどこにでもあります」
「どこにでもあるような物なら自分で採り行けよ!」

わざわざ依頼料をかけてギルドに頼む必要ないだろ!
金の無駄遣いが大好きか!

「キクールの採取は王宮が出しているクエストです。傷薬になる花なのですがたった一日で枯れてしまうので毎年季節限定のクエストとして数日間だけ依頼を出しているんです」
「じゃあその数日がたまたま今だったのか」
「はい。報酬が少ないために受ける冒険者は少ないですが、多くの人の役に立つ大切なクエストですよ」

そう言われると『それなら頑張るか』と思う。
上手くエドに乗せられた気がしないでもないけど。

「それじゃあ早速採取しながらノマスラも探すか」
「はい。少し道を外れた場所で採取をしていればスライムもすぐに見つかると思います」

散歩がてら三十分ほど歩いた場所で見つけたキクール。
蒲公英たんぽぽのような黄色のその花を大人三人で摘む。
絵面的にはちょっと虚しい。

「あ。こっちにも咲いてる」
「まだありましたか?」
「うん。すぐ袋一杯になりそう」
「今年は多いようですね。ここまで多いのは珍しいです」
「ふーん。あって困る物じゃないならいいんじゃん?」

摘んで歩いてを続ける内に袋は満タンに。
一人一袋ずつ渡されたけど三人とも満タンになった。

「それにしてもノマスラ居ないな」
「言われてみれば」
「スライム以外にも遭遇していておかしくないのですが」

花摘みに夢中で忘れてたらしいエドとベルは首を傾げる。

「別の場所を探してみるか」
「お待ちください。探知にかかりません」
「探知?」
「ベル。シンさまを」
「うん」

何事?
意味が分からないままにエドとベルは俺を庇うように間にして剣を抜く。

「どうした?」
「魔物の気配がないのです」
「ん?じゃあ居ないってことだろ?」
「低級の魔物の気配もないのはおかしいです」
「どういうことだ?」
「可能性としては気配を断てる高レベルの」

ベルの話の途中で生温い風が吹く。
その風に肌が粟立ち何かを感じてパッと空を見上げた。

「……嘘だろ?」

遥か上空にいるのは明らかにヤバいヤツ。
異世界系御用達 ド ラ ゴ ン。
こんな所で異世界系の王道をいってくれなくてよかったのに。

「ベル一緒に障壁を!」
「うん!」

召喚祭の日に割れたアレか。
あのヤバいヤツ相手に意味があるのか?

【ピコン(音)!ステータスを更新しました】

このタイミングで暇を持て余した神々の遊びの時間。

「見てる暇なんてねえから!」

言ったのはステータス画面パネルだけど、空にいるヤバいヤツを見上げながら怒鳴る。

【音声モード。シン・ユウナギのステータスを更新。新たな特殊恩恵〝Dead or Alive〟を手に入れました。同時に〝魔刀陣まとうじん〟を手に入れました。魔刀まとうみやびを召喚します】
「は!?なにを召喚するって!?」

ステータス画面を開いてもいないのに勝手に喋ったかと思えばどこぞのアニメで観たような魔法陣が空に現れ、中心からヌーっと何かが出て来る。

「シンさまそれは!?」
「よく分からないけど刀!」

ヤバそうな気配を感じるけど四の五の言っていられない。
パラメータはオールセブンだけど戦うしかない。

暇を持て余した神々よ。
ほんとにいつかぬっ〇ろす!
    
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