ホスト異世界へ行く

REON

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第一章 ホストと勇者達

本物の王子と魔女(黒魔術師 サクラ)

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「それで、ワイヤーがここに」
「なるほど。ユニークな形ですね」

王宮御用達らしい服屋。
下着のオーダーメイドをお願いできるか聞くと快く引き受けて貰えて、男性陣が隣室でシンの採寸に付き添ってる間に私とリサは日本ではお馴染みの型の下着を数枚絵に書いて説明する。

「リサさまの方はどれも可愛らしいですね」
「私にはまだサクラさんみたいな下着は恥ずかしくて」

リサが書いた物はフリルを使用した下着。
私が書いた物はレースを使用した下着。
召喚の儀の際に王妃と王女のドレスで見てその技術はあることが分かっていたから形だけの説明で済んだ。

「お胸の下ですとこれでは固いですか?」
「少し触らせていただけますか?」
「はい。お手にとってご確認ください」

日本で言うところのワイヤー。
最初はワイヤーと言っても伝わらなかったけど使用人のメイドがコルセットをしていたのを思い出して身振り手振りながら何とか理解して貰えた。

「こちらの方が。あまり柔らかくても形を保てないので」
「ではこちらで」

日本ではお店に行けば買えた物も異世界にはない物。
自分が恵まれた環境に居たことに気付かされたとともに、この先も日本にあって異世界にはない物に戸惑うこともあるのだろうと少し憂鬱だった。

「もし絵で分からなければ私が異世界から身につけてきた物をお城に来た時にでも見ていただけますか?」
「お見せいただけるのでしたら是非に。今後の参考の為にも」
「我儘を言って申し訳ありません。宜しくお願いします」

勇者と勇者一行にかかる費用は全て国が払う。
とは言われているけど、自ら収入を得ることの出来なかった子供の頃に戻ったようで些か心苦しい。
だから大きな出費になるような物は避けたいけど、下着だけはどうしても異世界のタイプでは辛いから我儘を許して欲しい。

シンには言えなかったけど、これだけはと思わせた最大の理由はむしろ下に穿くパンツの方。
スポブラの上下であったらまだ耐えられたけど、なんと異世界のパンツは〝カボチャパンツ(正確にはドロワーズ)〟だった。

うんうん。
赤ちゃんが穿いているのは可愛いの。
オムツの上に穿いてるとぽよぽよで可愛いよね。

でも23歳にもなってカボチャパンツは辛すぎる。
うら若き17歳のリサが嫌がるのも当然。
着の身着のままで召喚されたのだから、この我儘だけは許して欲しい。

「良かったぁ。作って貰えて」
「ね。私もカボチャパンツは辛いもの」
「正直お風呂あがりに見て絶望した」
「私もよ」

先に用事の終わったリサと私はティータイム。
シンたちが終わるまでどうぞと言われてありがたく紅茶をいただくことにした。

「そう言えばシンのことなんだけど、料理スキル持ってるの」
「そうなの?随分と意外なスキルを」
「でしょ?朝からシンのところへ遊びに行ったんだけど、騎士さんたちの料理作ってあげてて吃驚しちゃった」

リサ曰く、今日は第一騎士団総出で明日の召喚祭の準備をするため留守番のシンが食事の用意を引き受けたとのこと。

「私が行った時はもう騎士さんたちは食べ始めてたんだけど、昨日は怖そうに見えた騎士さんたちが美味しいって喜んで食べてるの見て笑っちゃった。リクと私にも作ってくれて食べたんだけど美味しかったなぁ」

すっかりシンに懐いちゃって。
最初はホストと知って毛嫌いしてたのにね。
でもその順応性と素直さが少し羨ましい。

「サクラさんはOLだったの?スーツ着てたけど」
「うん。私の住んでたアパートが職場から遠くて召喚された時間にはもう電車に乗ってたんだけど、急に目眩がしたと思ったら次はもうあの玉座の間に居た」

嘘は言ってない。
私は正真正銘会社勤めのOLだった。
ただ、それだけじゃなかったけど。

太陽の照らす時間はOL。
太陽の沈んだ後は……





ちゃん、また来るね」
「約束だよ?待ってるから」
「約束」

石鹸の香りを煙草の香りで誤魔化して帰る男。
家で待つ奥さまは貴方がこんなお店に来てることを知ってるのかな。

でも、うん。
素人と浮気するよりは良いのかな。

好き好き言うはお店の中でだけ。
恋人ごっこだからシチュエーション通りに言ってるだけ。
所詮はごっこ遊びなだけだから、もし気づいてても多少は許してあげて欲しいな。

「ナナオ。次ももう指名が入ってる」
「ああ、うん。マット洗うから少し待って」
「早めにな」
「りょーかい。タオル持って行ってくれる?」
「はいよ」

私の夜の仕事は風俗嬢。
週に4回出勤して、その都度10万前後のお金を稼いで帰る。


「じゃあねナナオ」
「また明後日。お疲れさま」
「お疲れ」

店を出ればナナオの時間は終わり……にはならない。
私はナナオのまま『偽りの王子』に会いに行く。

「どんな人なんだろう」

深夜でも煌々とネオンの灯る夜の街。
沢山の看板が並ぶ中で一際目を惹く巨大看板に写る王子さま。
王子さまに会いに行く日はいつも、その王子さまを見上げることが習慣になっている。

「会ってみたいなぁ」

そう思うけど会いに行けない。
私がお金で買う偽りの王子さまより高いって理由もあるけど、何より本当に会ったら夢が壊れてしまいそうで怖いから。


「おはようナナオ。仕事お疲れさま」
「おはよう」

私がお金で買う王子さま。
王子さまに似てるところは……ない。
唯一同じなのは彼が〝王子様キャラ〟ってところだけ。

いや、うん。
偽りの王子さまもカッコイイし優しいの。
だから彼を指名する子も多いし、私も気に入って指名してる。

「どうだった?仕事」
「いつも通り。変なお客さまも居なかったし」
「じゃあ良かった。俺もまた行くから」
「来なくて良いよ。勿体ないから」
「ナナオに会いたくて行くのに勿体ないなんて思わない」
「そう?ありがとう」

そしてそのお金を私がまたこの店で遣うことで店と彼の懐へ倍になって還元されると。
うん、うん。上手く経済を回してるね。

そういうのって他の子は喜ぶのかな。
例えば五回彼に会いに来て、彼が一回来てくれる。
一回来てくれたお返しにまた……と言うように、彼が使った一回よりも遥かに高い金額を使うことになるのに。

彼が私に会いに来てくれて嬉しい♡
彼に抱かれて幸せ♡
なんて思うのかな。

彼に抱かれながら耳元で「好きだよ」とか「お前だけだよ」とか「お前は特別」とか言われて。
お店で他の女の肩を組む彼を見て、彼が好きなのは私だけど仕事だから仕方ないよね♡……なんて。

うん、うん。
かわい……い訳ないじゃん。
馬鹿なの?お馬鹿さんなの?頭の中お花畑なの?

貴女はの〝特別〟ですかー!
貴女はの〝お前だけ〟ですかー!

本当に愛されてるならお金で買う必要ないじゃん。
お金なんて遣わなくても時間作ってくれるわ。
アホくさ。

「ナナオ?聞いてる?」
「あ、ごめんね?つい浸っちゃった」
「浸った?」
「今日も会えて嬉しいなー、幸せーって」
「上手く逃げたな。まあありがたく騙されておくよ」

彼のこういう切り返しは割と好き。
深く詮索してこないから楽。

素直で可愛い子を羨ましいと思うけど、私にはなれない。
頑張ってみたところですぐにボロが出ると思う。

だから王子さまには会いに行かない。
一際目を惹く巨大看板の中の王子さまで良い。





「あ、終わった?」
「そっちはもう終わってたのか」
「ちょっと前に。紅茶をご馳走になってた」
「そっか。待たせてごめん」

プラチナブロンドの髪にダークシルバーの瞳。
一際目を惹く巨大看板から出て来た王子さまは素直で可愛いリサの頭を撫でる。

そう、私は彼を知っていた。
知らないふりをしただけで、本当は異世界に召喚されてきてすぐ彼が居ることに気付いて驚いた。

偽りの王子さまに会いに行く時に見上げていた巨大看板。
その巨大看板は彼が居るお店の広告で、ナンバーワンだった彼が広告塔をしていた。

特殊恩恵が〝遊び人〟。
それはそうだよね。
遊び人のイメージ代表格のホストでトップだった人だから。

だから特殊恩恵が〝遊び人〟って聞いた時には納得した。
誰がつけたのか知らないけど随分ピッタリな特殊恩恵をつけたものだなって。

そして私にもピッタリのがつけられていた。
聞かれたのは特殊恩恵だから言わずに済んだけど。

な、なんと、娼婦 Lv.1

なにそれー!
もっと捻っても良かったんじゃないのー!?
って感じでしょ?

しかも特殊恩恵と違ってレベルがあるって言うね。
神様は勇者御一行の私に勇者のシモの世話でもさせるつもりなのかな?ん?風俗嬢だからって舐めてるのかな?

「思ったようなの作って貰えそうか?」
「ん?」
「下着」
「ああ、うん。出来たら見せるね?」

彼に聞かれて冗談で答えるとクスっと笑い返される。
見るとも見ないとも言わないのがなんとも憎たらしい。
見せたいのなら見てやるよって?

さすが王子さま。


「どこか行っておきたい場所がある奴は?」
「はーい!出店!」
「じゃなくて、その前に。買いたい物とか」

服屋を出て聞いたシンにリサは来た時から狙っていた出店を希望する。

「俺は特に。王都を見ておきたくて着いて来たから」
「自分も。今のところは欲しい物もないので」

勇者と勇者一行は生活に必要な物が支給されている。
私とリサは下着に関してだけ二日目にして問題ありだったけれど、ヒカル君もリク君も支給されている物だけで困っていないのだろう。

だから王都に来る必要があったのはシンだけ。
私もオーダーメイドの話が出る前までは、召喚されてきた異世界を見ておきたいだけの興味本位だった。

「お前ら欲がないな」

シンはそう言って苦笑する。

欲がない訳じゃない。
むしろ切実に思う欲はある。
きっとみんなもは同じ。

日本に戻る方法。

「サクラは?欲しい物」

だから、私の欲しいものは……

「甘い物かな。あとは美味しいお酒も」
「じゃあ出店を回りながら酒屋も探すか」
「うん」

微笑したシンは私の背中を軽く押す。

「待って。私この世界のお金持ってなかった」
「いま気付いたのか」

いざ出店と張り切って一歩踏み出したリサは、お金を持っていないことに今更気付いたらしくみんなから笑われる。

「出店は服屋と違って後から国が支払うのは無理だよね」
「らしい。だから預かって来てる」
「誰から?」
「王宮師団?だっけ?無断で連れて行く訳には行かないから話に行ったら、お偉いさんからお前たちの分って渡された」

それはそれは随分と高待遇で。
その高待遇は命を落としてしまうかも知れない私たちへの前払いの贖罪か……と思ってしまう私はひねくれてる。

魔王を討伐して貰うため。
行かないと言い出さないようご機嫌とり。
そこまでではないとしても、全ての待遇が善意からのものじゃないことは分かってる。

都合のいい勇者という人形。
もし私たちが討伐に失敗すれば、また新たな勇者たちがこの異世界に召喚されるんだろうね。

「ねえねえ、甘い物ってどんなお菓子が好き?」

出店で買い物ができることを喜ぶリサ。
腕を絡め私を見上げて満面の笑みで聞いてくる。
私のような女にも懐いてくれる素直な可愛い子。
日本に居ればきっと出会うこともなかった。

「一番はチョコレートケーキかな」
「ケーキかぁ。こっちにもチョコってあるかなぁ」
「どうだろうね。あれば嬉しいけど」

まだ私たちはこの異世界のことを知らない。
もし王宮から出られない生活になれば、知らないまま……ってこともありうる。

「私ね、お菓子作りだけは結構得意なの」
「そうなの?凄いね。お菓子は手作りしたことない」
「もしチョコがあったら作るから食べてくれる?」
「もちろん。喜んで」
「良かった!一人で食べるのは味気ないもん」

ああ……死なせたくないなぁ。
この子ももしかしたらなんて考えたくない。
幾らひねくれた私だって好感を持てる人は居るんだよ?

どうして私たち五人が選ばれてしまったのか。
もし神様が選んだと言うなら……呪うよ?

もうこの皮肉な役割からは逃げられない。
私たちの運命は生か死か。

誰かの手で賽は投げられた。





みんなで出店を回って噴水広場で少し休憩。
と言ってもリサはまだまだ元気で、目の届く位置にある出店を見て回るリサが迷子にならないようヒカル君とリク君が保護者のように着いて回っている。

「飲むか?疲れただろ」
「少し。ありがとう」

ベンチに座っていた私に果実水をくれたシンは隣に座った。

「住み心地はどう?一晩宿舎で過ごしてみて」
「慣れるまで時間がかかりそう」
「意外。どこででもぐっすり眠れそうなのに」
「図太いって言ってんのか?」
「国王にヒモ宣言する男が繊細とは思えないもの」

シンが笑って私も少し笑う。
国王の話を何度も遮って断固拒否したことも、王宮魔導師を殴ろうとしたことも、むしろよく許されたものだと思う。

「ありがたいことに部屋はかなり快適。ただ、今朝から来てくれるようになった使用人が居る生活がどうにも。服は……スッ、飯を……スッ、みたいな。そんな殿さまみたいな生活をしたことがない俺には至れり尽くせりすぎて申し訳ない気分になる」

個人的に使用人がついているのは意外。
騎士団の人たちは最初からシンを〝王宮に残そう派〟だったから、宿舎の特別室をシンの住居にする提案をしたことを私たちも一緒に聞いていたけど。

一部の人は王宮にシンを置くことを危険だと反対したけどそれは王妃と王女がピシャリと言って、滞在先でごねる人には国王が『実力者の揃う第一騎士団に置いておく方が監視の行き届かない王都に置くより安心だろう。王宮の安全を護るために民を危険に晒せと言うのか』とピシャリ。

反対派も国民を引き合いに出されては納得するしかない。
国王は国民を護るためにあえてシンを王宮に……とも取れるご立派な意見だったけど、私には国王もシンを王宮に置いておきたい〝賛成派〟だったとしか思えない。

兎も角シンの居住はそんな経緯で決まったから、部屋を与えられる以外は勇者と違う扱いをされるのかと思ってたんだけど。

「その使用人は誰が用意してくれたの?」
「さあ。団長と最初話した時に二人付けるとは聞いてたけど」
「え?二人も居るの?」
「男女一人ずつ。お前たちは違うのか?」
「一人。勇者宿舎で働いてる人なら沢山居るけど」

勇者と勇者一行には国王が住むお城の近くに専用の宿舎が用意されている。
宿舎の掃除をする人や料理人など働いてる人の数は多いけど、部屋に入って身の回りのお世話をしてくれる使用人は勇者一人につき一人。

「騎士団の宿舎は騎士だけしか居ないから二人なのかも。俺が借りてる部屋が無駄に広いから一人だと大変だろうし」

うん。まあ納得できない話じゃない。
勇者宿舎にはそれぞれ専門の人がいるけど、騎士しかいない騎士団の宿舎ではシンの身の回りの世話は全てその二人がするんだろうし。

ただ、誰がその二人を用意したんだろうね?
団長と最初に話した時にはもう言ってたってことは、二人の使用人をすぐ用意できるような人が関わってるってことだけど。

「ん?」

顔を見て考えていると視線に気付いたシンがこちらを向く。

「綺麗な顔してるなぁって」
「それはどうも。サクラは何で伊達眼鏡してるんだ?」
「あれ?伊達なの気付いてたんだ」
「異世界にサクラのことを知ってる奴なんて居ないんだから外せば?整った顔してんのにわざと地味に見せてて勿体ない」

ああ、もう。
本物の王子さまには叶わない。
どんなにフードで隠していても隠しきれてない。

「私、日本ではソープで働いてたの」
「ふーん」
「ふーんって。驚くかと思ったのに」
「驚くような職業じゃないだろ」
「あれ?そう?」
「少なくともホストだった俺の周りにはたくさん居た」

それもそっか。
サラッと流されたものだからつい笑ってしまう。

「きっかけはね、母親の入院費のため」
「親父は?」
「酒とギャンブルと女が大好きなポンコツで、私が中学生の時に母親と大喧嘩になって離婚した」

父親は典型的なダメ人間。
家族に手を挙げる人でもあったから離婚した時は清々した。

「私が中三の時に母親が入院して、その一回目の時はまだ貯蓄もあったし保険にも入ってたから手術も入院も問題なかったんだけど、私が高二の時に再発しちゃって。一回目の入院の影響で母親も以前みたいには働けなくなってて、貯蓄がなくなって保険も解約したところの再発」

奨学金を利用して高校に通いながらバイトもして、早くいい職に就いて母親を助けないとって思ってた時に再発。
それを聞いた時は本当に神様を呪ってしまいそうだった。

「それでも二回目はおばあちゃんが助けてくれて手術も出来たから安心したんだけど、私が高校を卒業するのを待ってたみたいに三回目。そうなったらもう風俗で働くしかないでしょ。おばあちゃんももう亡くなってたし」

三回目はもう助けてくれる人が居なかった
だったらもう私しかお金を稼げる人がいない。
お母さんを助けるためならって迷わず風俗を選んだ。

「処女が性風俗ってどんな大冒険って思わない?もっと早く経験しとけば良かったって、そこはちょっと後悔した。彼氏が出来たこともなかったから無理だったけど」

ただの独り言。
相槌の一つも打たないシンの隣でただ独り言を言ってるだけ。

「派遣と風俗の掛け持ちで働いてお金は何とかなったの。手術も成功したし、やっと風俗を辞められるって喜んでたら、最後の最後に母親から裏切られた」

母親も辛かったんだってことは分かる。
三回も手術をしたんだから縋る何かが欲しかったんだって頭では分かっていたけど、その行動は裏切りとしか思えなかった。

「それで?」
「聞いてくれてたんだ?」
「この距離で聞こえないはずないだろ」
「ただの独り言なのに」
「んじゃ独り言の続きをどうぞ」

ただの世間話を聞いているだけのような表情で果実水を飲んでるシンに、物好きな人だなと笑い声が洩れる。

「実家と職場が遠くて通勤が大変だから一人暮らしをしてたんだけど、その日は風邪を拗らせて身体が辛かったから休みを貰って実家に帰ったら居たの。離婚したはずのポンコツが」

あの日のことは忘れられない。
身体が辛くて階段を登るのもハアハアしながら実家に辿り着いたら、中からそれはそれは楽しそうな笑い声が聞こえて来た。

「誰から聞いたのか知らないけど、入院中に見舞いに来たのをきっかけによりを戻してたんだって。だったら病院の治療費くらい協力してくれても良かったんじゃない?娘が性風俗で働いてることを知っててどうして助けてくれなかったの?退院したから再婚しますって馬鹿じゃないの?娘を働かせるだけ働かせて元気になったらお払い箱ってなに?」

悔しさも悲しさも超えてただ虚しかった。
私はこの母親とポンコツの幸せのために性風俗で処女を捨て、身を粉にして客に御奉仕していたのかと。

「フードがあって良かったな」
「……ほんとにね」

外套のフードを両手で引っ張り顔を隠して泣く。
今まで誰にも話したことがなかった過去をシンの前で話して、声を殺して泣いた。

「……ごめんね。急に泣いて」
「やっぱフードがあって良かったな。酷い顔になってる」
「そこはもっと優しくしてくれても良いんじゃない?」
「そんなもの望んでないだろ」

澄ました顔で横から軽く頬を拭ってくれたシン。
さすが遊び人ホスト。
女の考えてることなんて顔を見れば分かるって?ん?

「買うんだろ?酒」
「もちろん。さっき見つけたお店で」
「じゃあ行こう。みんなが待ってる」
「手を繋いでくれるの?」
「しばらくは深くフードをかぶってないと駄目な顔してる」
「ひど」

一際目をひく巨大看板から出てきた王子さま。
差し出された手のひらに置いた私の手を握って少し笑ったシンはやっぱり、私にとって王子さまだった。

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