ホスト異世界へ行く

REON

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第一章 ホストと勇者達

人誑し(騎士 リク)

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突然召喚された異世界。
夢じゃなかったんだと、今朝目が覚めて思った。

昨日は国王さまと話した後みんなは遊び人ホストさんと話をして来ると言ってたけど、自分はゆっくり一人で考える時間が欲しかったから部屋に案内して貰い、一夜明けた今日になって騎士団の宿舎まで会いに来たんだけど……

「な、なにが起きたんだ」

手におさめた銀色のナイフを一心に動かす騎士たち。
ある者はそれによって齎された幸福に浸り、ある者は夜叉のように血走った眼をしている。

「リク。来てたのか」
「今。あの、それよりこれは一体」
「午後から明日の召喚祭の準備に駆り出されるんだと。その前に急いで昼飯食ってるところ」

食事と言うには鬼気迫る光景。
騎士団宿舎の食堂にモンスターが肉を食いちぎっているかのような殺気を感じる。

「リクはもう食べたのか?」
「い、いえ」
「ん?どうした?」

目の前で身を屈める長身の男。
子供に目線を合わせるようなその気遣いは16歳の自分には少し恥ずかしい。

「言ってみな?お前らは明日から忙しくなるんだし、俺が協力出来ることがあれば今日の内に手伝うぞ?」

銀色の髪と銀色の瞳。
風貌は似ても似つかないけど、自分が言うより先に気づいてくれるところは兄に似ている。

「実は食事が」
「ん?」
「少し、あの……味が慣れなくて。作ってくれてる方に失礼なことを言ってるのはわかってるんですけど」

それは昨晩の夕飯で気付いたこと。
この異世界の料理は単純な味付けの肉々しい物が多い。
例えば分厚い肉に胡椒を振っただけのような。

「ああ。お前の家って母親が料理上手だろ」
「毎日食べてた物なので絶対にそうとは言えません」
「多分上手いんだと思う。お前の母親が作る料理ほど上手くないだろうけど何か作ってやるよ」

……え?遊び人ホストなのに?
こんな言い方は失礼かも知れないけど、自ら料理をしなくても異性が作ってくれそうなのに料理をする姿が全く想像出来なかった。

「リサさん?」
「あ、リク起きたんだ?お寝坊さんだね」
「昨晩は目が冴えて眠れなくて」
「まあそうなるよね。私もなかなか寝付けなかったもん」

着いて行ったキッチンに居たのはリサさん。
自分とは一歳しか変わらないから多少意識してしまう。
家でも学校でも男所帯で母親以外の異性と積極的に関わる機会がなかったから気恥しい。

「シン。まだ何か作るの?」
「リクに昼飯。異世界の料理が合わないらしい」
「それわかる。食べ慣れない味だから尚更」
「やっぱ日本人が一番食べ慣れてる味は日本食だからな。普段からジャンクフードを食べてる奴じゃない限り大味の物が美味しく思えないのも仕方ない」

この二人、いつこんなに仲が良くなったのか。
リサさんも言ったけど、自分たちは昨日召喚されたばかり。
でも遊び人ホストさんの隣に立って調理を見てるリサさんには昨日の玉座の間の時のような警戒心がない。

「あ、三時のおやつに試食してくれる?」
「さっき美味そうな匂いがしてたヤツか。楽しみにしとく」

両手の塞がってる遊び人ホストさんから頭に額をコツリとされたリサさんははにかむような笑顔を見せた。

昨日の今日でこれとは遊び人ホストさんは凄い。
さすが女性をもてなす仕事をしていただけあって。
いや、女性限定の話じゃなくて、なんと言うか……そう、なんだ。

うわ。
今自分の思いついた表現は失礼だった気がする。
まるで遊び人ホストさんが悪い事をしてるみたいじゃないか。反省。

「お待たせ。食材が違うからまんま日本食は無理だけど」

もう出来るからと言われてリサさんとテーブルについて待っていると、遊び人ホストさんがリサさんと自分の前に置いたのは日本では見慣れた光景のそれ。

たった一日。
まだそれしか経っていないのに、その懐かしく感じてしまうメニューの数々に涙が出た。

「え!リク大丈夫!?どっか痛い!?」

心配してくれるリサさんに首を横に振る。
リサさんも遊び人ホストさんも自分と境遇は同じ。
突然異世界に召喚されてもう日本には帰れない。

「喰えよ。お腹がすくと悪い方に考えがちになるから」

遊び人ホストさんはそう言って、さっきリサさんにもしたように自分の頭にも額をコツリとした。

ああ、きっとこの人はまだ十代のリサさんと自分を本気で心配してくれてるんだ。
突然両親や兄弟から引き離された子供として。
本当はどう思ってるのか聞けないけど、やっぱりこの人は人誑しだ。

「いただきます」
「私もいただきまーす!」

リサさんと自分は偶然にも同じ物に箸を伸ばし、ほぼ同時に口へ運んだ。

「「!!」」

驚きに一瞬口が止まり急いで咀嚼する。

「あの、この卵焼き美味しいです!」
「幸せー!」
「だし巻き玉子。こっちの食材でなんとか一番近い味の物を作ってみた」

食材が違うのにこんなに日本食の味に近くできるなんて、遊び人ホストさんは料理の才能があるんだろう。

「リク、美味しいね」
「はい」
「お弁当ついてる」

頬に米粒(異世界ではお米じゃないけど)がついていたようで、とってパクっと食べたリサさんに顔が熱くなる。

「…………」

果実水をグラスに注いでくれながら遊び人ホストさんはククッと笑う。
遊び人ホストさんには何ともないんだろうけど、16歳の自分にはコレでいっぱいいっぱいです。

「良いかリク、覚えとけ。女は怖い」
「え?」
「強い女と権力のある女は特に」
「なにそれー。私も女なんだけど!」

プンスとするリサさんに笑う遊び人ホストさんには怖い女の人なんて居なそうだけど。
どんな女の人にも優しそうだし、優しくして貰えたら優しさで返そうと自分が女の人なら思うけど。

「お前またついてるぞ?」
「え?」
「ぼーっとして喰ってるから」
「……ゲス!」
「両手塞がってんだから仕方ないだろ。嫌がらせした訳じゃねえよ」

な、なにが起きた。
確かに〝怖い女の人ってどんな人だろう〟ってぼんやり考えてたけど……い、今自分になにが起きた?

「大丈夫?顔洗って来れば?」
「だ、大丈夫です」

な、舐めた?
もしかして頬を舐められた?
ほんの一瞬で、ほんの少しだったけど。

苦笑した顔が近づいて……え?
待って欲しい。
どうしてこんなに顔が熱いのか。

え?同性なのに?
え?どうして?

「リク!グラスも持って来てー!」
「は、はい!」

いやいや気のせい。
遊び人ホストさんが唐突なことをしたから驚いただけ。
大丈夫、うん、落ち着いた。
……人誑し怖ぁぁぁぁ!

「俺は後で王都行くけどお前らは真っ直ぐ宿舎に戻れよ?」
「私も行きたい!」
「催事前に勇者一行に何かあったらどうするんだ」
「うー。でもね、洋服とか欲しいの」
「どんな物か希望を言ってくれたら俺が買って来るけど」
「い、言えないから自分で……」

遊び人ホストさんが洗った皿をその後ろで拭きながら、一緒に王都へ買い物に出たいらしいリサさんは口ごもる。

「言えない?……ああ、下着か」
「そ、そうだけどハッキリ言わないでよ!」
「別に照れるようなことは言ってないだろ」

異性に下着の話題をするのは恥ずかしいようだ。
実際に見れば自分も恥ずかしくなるだろうけど、ただ話題にしただけなら特に何も思わない。

「用意してくれなかったのか?服は着替えてるのに」
「一応用意してくれたんだけど、なんか違うの」
「どう違うんだ?」
「言えないから!」

リサさんは赤い顔を誤魔化すように熱心に皿を拭く。
自分が今着ている服や下着は王宮の人が用意してくれた物だけど、男の下着は肌触りが違うくらいで日本に居た時と変わらないから違和感はなかった。

「遊び人ホストさんのは騎士が用意したんですか?」
「俺のも王宮が。持って来てくれたのは団長だけど」
「それなら自分が用意して貰ったのと同じだと思いますけど、男物の下着は日本の物と変わりありませんよね」
「うん。日本の下着で言えばトランクス。ただ俺は普段ボクサータイプだったからリサが違和感を持つ気持ちも少し分かる。女なら特にブラのサイズの問題もあるだろうし」

そっか。女の人は上もあるんだった。
だから遊び人ホストさんに言えないって言ったのか。

「ちょっとリク……赤くならないでよ」
「す、すみません」

下着の話は何も思わなかったけど、サイズの話をされたら突然リアリティを感じて顔が熱くなってしまった。

「可愛いな。高校生はそんなことで照れる純情さがあって」
「毎日異性の下着見てたような人と一緒にしないでよ!」
「毎日はさすがに見てないぞ?ホストにどんな印象持ってるんだ。店に呑みに来た客を接待する仕事だぞ?」

ククッと笑う遊び人ホストさんにリサさんはふくれる。
自分もそうだけどリサさんも多分、ホストの印象と言うより遊び人ホストさんの印象でそう言ったんだと思う。
特殊恩恵が〝遊び人〟だけあって、遊び人ホストさんは特に女の人に慣れてる感じがするから。

「師団に聞かないと勝手には連れて行けないしなぁ」
「遊び人ホストは聞かなくて良いの?」
「俺は勇者じゃないし。ただ、国の外に出る時だけは必ず話すよう言われてる」

遊び人ホストさんは勇者じゃない。
勇者のヒカルさんと勇者一行のリサさんとサクラさんと自分は勇者専用の宿舎に部屋を用意されたけど、遊び人ホストさんだけはそれが理由で騎士団の宿舎になってしまった。

ただ、それすらも反対派がいた。
遊び人ホストさんが昨日玉座の間を出た後の話し合いで一部の人はこの国に引き留めておくことを猛反対したけど(魔導師を殴ろうとしたから)、王妃と王女がその人たちの反対を押し退け出した結論がこの騎士団宿舎。

国王さまも内心ではこの国に残すつもりだったと思う。
でもそれを国王さまが言ってしまったら反対派の人も黙って従うしかなくなるから、みんなに意見をさせて自分は中立の立場で居たんだろう。

なんでそう思ったかと言えば、顔を見てそう思ったとしか言えないけど。


遊び人ホストさんと聞きに行った結果、許可を貰えた。
貰えたと言うより向こうが遊び人ホストさんに負けたと言えるけど。

国民に顔をお披露目するのは明日。
明日以降はもう勇者と勇者一行として顔が知られてしまうんだから、今日は一般の国民と同じように自由にさせてやって欲しいと頼んでくれた。

一国の主の国王さまとは直接話せないから王宮師団(王宮の中で仕える偉い人)を通してだったけど、遊び人ホストさんの勢いに負けて勇者と勇者一行のみんなに王都へ行く許可をくれた。

ただ条件としてローブを着用して髪を隠すよう言われた。
ごく稀に黒に近い髪や瞳を持つ人なら居るらしいけど、真っ黒の髪と真っ黒な瞳の両方が揃った人は居ないらしく、自分たちが歩いていたらすぐに勇者だと分かってしまうとか。

プラス一番注意するよう言われたのは遊び人ホストさん。
遊び人ホストさんの髪と瞳の色は異世界のどの種族にも存在していないらしく、この世界に存在しない人が居れば異世界から召喚された人だと分かって、一緒にいる自分たちも勇者だと気付かれてしまうかも知れないから……と。

王都に行ける事になって喜びはあるけど疑問も生まれた。
どうしてこんなにも遊び人ホストさんはなのかと。

容姿に関しては日本で髪を染めただけなのは間違いない。
奇抜な色だから多くないにしても、遊び人ホストさんが街を歩いても『宇宙人か異世界人か』なんて思う人はいないだろう。

異世界から召喚される人は必ず何かしらの秀でた才能を持つ人だと国王さまから聞いている。
だから遊び人ホストさんも何かしらの秀でた才能があって召喚されたことは間違いないけど、本当に偶然やだったんだろうか。

手違いで召喚した人が異世界に存在しない奇抜な髪色や目の色をしていただけの可能性も無い訳じゃないけど、国王さまや研究者たちでも知らない特殊恩恵を持っていることも合わせると、自分にはどうも偶然とだけでは片付けられない気がした。

「お前がそれ着ると何か怖いな」
「なんで?」
「それじゃなくても背がデカくて威圧感あるのに、フード被って顔が見え難いと不審者みたいだ」

支給されたローブを着て王都に繋がる門へ向かい庭園を歩きながら、遊び人ホストさんと勇者のヒカルさんは笑う。

この二人は昨日の玉座の間でもよく話していた。
遊び人ホストさんが21歳でヒカルさんは20歳らしいから、年齢的に近い事もあって話も合うんだろう。

「なあサクラ。異世界の女性物の下着ってどんなの?」
「どんなのって?」
「日本のとは違うってリサが言ってたから」
「ああ。日本で言うスポブラに近いの」
「なるほど。それは確かにリサとサクラの歳だと辛いな」
「うん。寝る時は楽だしたまになら良いけど、毎日ワイヤーなしのブラを着けてるといつか形が崩れそうで少し怖いかな」

リサさんと違ってサクラさんに恥じらう様子はない。
大人のヒカルさんも少し顔が赤いってことは、遊び人ホストさんとサクラさんが平気ってだけなんだろうけど。

「異世界でもオーダーメイドって出来るんじゃないか?」
「オーダーメイドの下着……思いつかなかった」
「今から服屋に行くから聞いてみるか?」
「服を買うために王都に出ようと思ったの?」
「うん。国が用意してあった衣装の中に俺に合うサイズがないらしくて。今着てる部屋着はゆとりのあるオーバーサイズだから辛うじて着れたけど、外を部屋着で出歩く訳にも行かないからって副団長が衣装を仕立ててくれる店を紹介してくれた」

確かに遊び人ホストさんに既製品は合わなそう。
今着ている服は騎士たちが昼食中に着ていた服と同じもので日本で言う半袖半ズボンのジャージみたいな服だけど、近所に買い物に行くだけならまだしも普段から着るにはラフ過ぎる。

「シンの所には服屋さんが行かなかったんだ?」
「服屋さん?」
「昨日測りに来たの。必要な服を何着か作るって」
「ああ。お前たちは勇者と御一行だから身の安全を考えて宿舎まで来て貰ったんだろ。一緒に召喚されたって言っても俺は勇者じゃなかったんだから別扱いで当たり前だ」

聞いたリサさんも表情を曇らせたけど、自分も聞いていて気分が良い話じゃなかった。
例え手違いだったとしても、いや、手違いならなおさら遊び人ホストさんには手厚く遇するべきなんじゃないか。

自分たちの都合で勝手に召喚しておきながら勇者じゃなかったから待遇を変えるなんて。
異世界だから礼儀を重んじる日本人とは感覚が違うのか、ただ自分との感覚が違うだけなのか…どちらにしても気分が悪い。

「そんな難しい顔するな。俺は勇者じゃなかったお蔭で騎士宿舎で好きなことしてられるし、王都内なら宿舎の外に出るのも自由だ。お前たちはこれから忙しくなるのに俺だけ自由の身で申し訳ないけど、出来ることなら協力するから言ってくれ」

笑った遊び人ホストさんにリサさんはギュッと腕を絡める。
一緒に召喚された自分たちとは違う扱いを受けてるのに、この人の方が遥かに前向きに生きている。

本当の兄ではないけど、この人も兄のような存在。
もう二度と戻れないと言うなら自分も少しずつこの異世界の事を受け入れていこう。





「わー!お店がいっぱい!」

王都最大の通りは人で賑わっていて、好奇心旺盛な性格なんだろうリサさんはずらりと並ぶ出店を見てキョロキョロ。

「あんま離れるな。迷子になる」
「子供扱いやめてよ!もう17なのに!」
「それは失礼を。でも心配だから傍に居ろ」

さすが人誑し。
リサさんにその言葉は刺さったようで、少し赤い顔で歩みを遅くした。

「先にシンが言ってた服屋に行こう」
「そうだね。私も下着を作って貰えるか聞きたいし」

最初に行ったのは服屋。
昨日自分たちを採寸してくれた人のお店だったから、奥の部屋に通された後はフードを外すことが出来た。

「お前、刺青してたのか」
「うん。なんで?」
「初めて生で見た」
「ふーん。俺の周りには結構居たんだけど」

採寸のため上を脱いだ遊び人ホストさんの背中には刺青。
ヒカルさんは驚いたようだけど、自分は家庭環境的に見慣れないものではなかったからどうとも思わなかった。

「そ、それでは失礼します」
「よろしく」
「は、はい」

刺青以前の問題として、店の人にとっては遊び人ホストさんの存在そのものが目の毒になっているようだ。
フードを外した時点で既にその〝人誑し〟の容姿に動揺していたから。

実際に採寸してるのは男の人二人だけど、万が一にも粗相がないよう見張りなのか部屋には女の人も三人いて、赤い顔で見ないよう目を逸らしたりチラチラ見たりと忙しそうだった。

遊び人ホストさんにはオーラがある。
もちろん目には見えないけど、人を惹きつける何かが。

召喚された時の玉座の間でも、そこにいた誰もが彼こそ勇者だと確信したような目で見ていた。
文献には黒髪黒目が勇者と書かれているに関わらず。

異世界に伝わる召喚の儀を行ったのだから少なくとも儀式に居合わせた人は文献の内容を知っていたはずなのに、国王さまでさえ文献の内容を話してきかせていて気づいたくらいだ。

これは〝遊び人〟の特殊恩恵が理由なのか。
それとも遊び人ホストさんが元々持っているものなのか。

「どうした?難しい顔して」
「勇者のことが書かれた文献って自分にも読めるのかと」
「読めるぞ?俺も今朝図書館で一冊読んだ」
「え?」
「少し気になることがあって部屋つきの人に聞いたんだ。貴重な文献らしくて外に持ち出しは出来ないけど、許可を貰えば書庫の中で読ませて貰える」

遊び人ホストさんの様子を見ながら考えていると隣にヒカルさんが来て、そう教えてくれた。

「ヒカルさんが気になることって」
「シンこと。俺たち勇者より特殊な容姿や能力を持つアイツが異世界に召喚されたのは本当に魔導師のだったのか」

やっぱりヒカルさんも疑問に思ったんだ。
ただの手違いで召喚された人のはずなのに誰よりも特殊であることに。

「自分で言うのもアレだけど、俺こう見えて引きこもる前は割と良い大学に行ってたんだ。勉強は好きだったし。でも致命的に人付き合いが苦手で大学に居ずらくなって。そんな俺が人を引っ張って行くなんて無理だ。でも手違いで召喚されたはずのシンは俺たちの誰よりそこが優れてる。だから本当は手違いなんかじゃなくて何かしらの意味があるんじゃないかと思えて」

この人は誰よりも早く物事の矛盾を見つけていた。
自分がどんな人間であるのかもしっかり判っている。
きっとそんなヒカルさんが持つ何かが勇者の条件を満たしていたんだろう。

「にしてもアイツのアレ凄いな。見てる女性だけじゃなくて測ってる男性までうっとりしてんだけど。さすが遊び人」

話を切り替えて笑うヒカルさんに自分も少し笑う。
まだこの異世界のことはなにもわからないし、一緒に召喚された仲間のことでさえ詳しく知らないけど、この先に疑問は紐解かれて行くんだろう。

いや、紐解いてみせる。
自分の恩恵が〝騎士〟であるなら人を護ることが役目だから。

兄さん、母さんのことはお願いします。
二度と戻れないのならそれを受け入れて、この異世界で出会った大切な人たちを護ります。

もちろん手違いで召喚された、人誑しの遊び人ホストさんも。
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