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第一章 ホストと勇者達
愛されし遊び人
しおりを挟む「おかけになってお待ちください」
「はーい。お待ちしてまーす」
王宮魔導師のうっかりで異世界に召喚されてしまった俺も日本に帰れないことを聞き、それなら生涯おっさんのスネを齧りまくるつもりで初お手あてを貰うためとある一室へ案内された。
「やっぱスマホは駄目か」
当然と言えば当然だけど電波は圏外。
今時圏外になる場所の方が珍しいって言うのに。
「ナオコ、マユミ、サチ、シズク、ミサキ、モモカ、ミナト、カナエ、ルミ、ハルナ、ユキ、エリナ、んーと……その他85人!もう話を聞いてやれなくなった!元気で暮らせよー!」
電波の入らないスマホなんてただのゴミ。
指名客の名前を呼んで(長くなるから省略したけど)話を聞いてやれなくなったことを詫びる。
「アイツらもちゃんと生きて行けっかな。生ゴミ捨て忘れて虫がわくとかやめろよな。交換で飯作って食えばいいけど」
アイツらって言うのは俺が働いてた店の新人プレイヤー。
客がつくまで稼げないのは仕方がないから俺の家に居候させてたんだけど、〝 寝る食うヤる、でも生活能力ゼロ〟の三大欲求に忠実なポンコツばかり。
人が家に帰れば「めーし!めーし!」とご飯コール。
店でしこたま呑んで道でぶっ潰れて俺が迎えに行くはめになることも屡々。
でもアイツらにも善いところはあった。
俺が疲れてる時は鬼のような激マズ飯を作ってくれたし、オーナーや俺から怒られようとも途中で投げ出さず着いてきたし、優しさや根性はあるんだからこの先も頑張って欲しい。
「はぁ……センチメンタル」
もう帰れないのかと思うとさすがの俺でも凹む。
「あれ?今日ジャ〇プの発売日じゃん。うぁぁぁぁ!続きが気になってたのに読めないとかセンチメンタルぅぅぅぅ!」
俺のセンチメンタルがジャーニーしそうになってるところでノックと共にドアが開く。
「お待たせしました」
部屋に入って来たのは白い鎧を着た男が二人。
重くねえのかなって思ってる間にも目の前に歩いてきた。
「騎士団第一部隊団長、レナード・アンダーソンと申します」
「騎士団第一部隊副団長、リアム・ロイスと申します」
「お初にお目にかかります。夕凪真と申します」
漢字多いですね!俺なら噛むかもな!
と思いつつ、やんごとなきお宅出身っぽい挨拶をする二人に頭をさげた。
どうしてっぽいなのかって?
騎士なんてものを生まれてこの方見たことがない日本人の俺に分かる訳ないだろ。
やんごとなきお宅の出身だろう団長から渡されたのは布袋に入れられた白い銀貨が十枚。
それと、白い銀貨より多少サイズの小さい金貨が十枚。
……うん。幾らか分からない。
「これで買おうと思ったら何が買えますか?」
「生活に必要な品は揃います」
「家は?」
「家はさすがに」
「家なき子じゃん!」
一番肝心なのは家だろ!
金が尽きるまで宿に泊まって後は野垂れ死ねって!?
おっさん、美人マダムの前で裸体になれないよう体毛毟るぞ!
裸体になれない間に浮気されても知らないからな!
「しないか。王家だし。しても暗黙のルールがありそう」
「あの、シンさま?」
「さま?シンでいいですよ」
「異世界からお越しいただいた勇者さまですので」
「あ、聞いてませんか?俺は勇者じゃなかったんです」
あの四人は勇者(&ご一行)だったけど、俺の特殊恩恵は〝遊び人〟という異世界に来ても似たり寄ったりか!な恩恵だった。
「存じております。先程の召喚の儀におりましたので」
「え?じゃあ知ってますよね。俺が遊び人だったこと」
「はい。私どもにも聞き覚えのない特殊恩恵です」
聞き覚えがなくてもロクな恩恵じゃないことは分かる。
だって〝遊 び 人〟だから。
「ここからは提案なのですが、シンさまさえよろしければ宿替わりに我が第一騎士団の宿舎の一室をお使いください」
「……マ?」
「マ?とは?」
なんだこの甘い誘惑。
家は買えないって言うから野垂れ死に決定だと思ってたのに、赤髪灼眼の美丈夫からクソ甘い誘惑をされるとは……。
「……見返りは?」
「むろん宿舎の一番広い部屋をご用意致しますし、食事も三食王宮調理師に用意させます。使用人も二名予定しております」
怪しい。怪しすぎる。
俺が聞いたのは俺への見返りじゃなくて、俺を住まわせることで騎士団が得られる見返りのことだったのに。
勇者じゃない俺にそんな価値はない。
魔王どころかモンスターでさえ倒せないだろう。
「何が目的か分かりませんけどこれを見ても言いますか?」
画面(正式名称ステータス画面)を開いて二人に見せる。
さっき聞かれたのは特殊恩恵だったから言わなかったけど。
「「……7!?」」
「うん。7」
「まさかこのようなことが」
「これでは生まれたての赤子以下です」
灼眼の隣で俺のステータスを見た金髪緑目の騎士も唸る。
「ステータス画面の故障……とか」
「故障することもあるんですか?」
「いえ。神より賜る物ですので今までこのようなことは」
「じゃあこの数値で間違いないってことですね」
俺のパラメータは綺麗にオールセブン。
自分でも見た瞬間は固まった。
体力7 魔力7。
他にも〝力〟やら〝精神力〟やら数種類あるけど全てが 7。
ギャンブルに勝てそうな数字の羅列ではあるけど、笑えないことに全ての数値が『7』だった。
「ちなみにですが……生まれたての赤ちゃんの体力は」
「25から30ほどかと」
終わった。
グッバイ俺の異世界生活。
望んで来た訳じゃないけど赤ちゃん以下って。
「一番弱いモンスターの攻撃を受けると幾つ減りますか?」
「たしかノーマルスライムの2だったかと。ただ、数ヶ月ほど成長すればもう小さなダメージは無効化されますので」
やっぱり終わったぁぁぁ!
ドラ〇エでは最初にポコポコするだけで倒せるぷりんぷりんのアヤツの攻撃を俺は4回喰らうだけで死ぬ。
おかしいと思ったんだ。
玉座の間で開いた時に引きこもり二年ニート君のステータスをチラ見したら体力が1万くらいあったから。
でもニート野郎は勇者だから特別なのかと現実逃避したのに。
……うぁぁぁぁぁぁ!(号泣)
引きこもりニートの方が体力が多いなんて!
暗い部屋でシーツかぶってゲーム廃人になってそうな奴がジムで鍛えたりマラソンをしていた俺より体力があるなんて!
「よし、死のう( ˙-˙ )スンッ」
『そうだ、京都に行こう(某CM)』くらいの気軽さで死のう。
「なりません!どうぞお気を確かに!」
「神への冒涜ですよ!」
「こんな変なパラにする神なんかむしろ殴らせろぉぉ!」
ホストを馬鹿にしてんのかぁぁぁ!
こちとら毎日毎晩毎朝ありとあらゆるメン・ヘラ子ちゃんやヤン・デレ子ちゃんからラブコールされとんじゃぁぁ!
『来てくれないと死んじゃうから(メソメソ)』
『死のう?私と死のう?ねえ死のう?(迫真)』
『いっぱいお〇スリ飲んじゃったの。助けて(号泣)』
そんなのこっちだって〝( ˙-˙ )スンッ〟となるわボケぇぇ!
『私を愛してるでしょ?婚姻届けに判押して?ね?ね(脅迫)』
『シンの子供出来ちゃったの。ちゃんと結婚してね?(妄想)』
毎日毎朝毎晩そんな話を聞いてりゃ部屋の隅で〝( ˙-˙ )スンッ〟ってなる時もあるに決まってんだろぉぉ!
「どうせ俺は情緒不安定だクソ野郎!ホストなんてみんな情緒不安定だぞ!それでも耐えてきた俺の精神力舐めんなぁぁ!」
【ピコン(音)!ステータスが更新されました】
「ん?( ˙-˙ )スンッ」
頭の中に感嘆符が浮かんで声に従いステータス画面を開く。
【シン・ユウナギのステータスを更新。新たな特殊恩恵〝不屈の情緒不安定〟を手に入れました。同時に特殊恩恵〝病みに愛されし者〟を手に入れました。これにより特殊恩恵〝遊び人〟は〝病みに愛されし遊び人〟へと進化しました】
「…………」
《特殊恩恵》
病みに愛されし遊び人 evolve!
不屈の情緒不安定 new!
「……神……ぬっ〇ろす」
「また!?」
「シンさま落ち着いてください!」
「人が絶望してる最中にステで遊ぶんじゃねぇぇ!闇じゃなくて病みって誰が上手いこと言えって言ったぁぁ!不屈なのに情緒不安定ってメンタル弱々じゃねえかぁぁ!」
この世界に神が居るのならいつかぶん殴る。
……家に帰りたい( ˙-˙ )スンッ
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