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第一章

消し炭となった真実

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ウェリス王国にリアンが来る事早数ヶ月、最初こそ戸惑いながらも生活をしていた彼は、ウォード家の長兄アデルの計らいにより徐々に暮らしに慣れていくことが出来た。とはいえまだまだ学ぶことは沢山ある

「いいですかリアン、この花には毒性があります。触れただけでは何も異常は起こりませんが、この花の飛ばす粒子を吸い込んだ際に幻覚を見てしまう。その場合は速やかに解毒しなければなりません」

「どうやって?」

「手っ取り早いのは治癒魔法ですね。回復作用のある薬を持っているならばそれを飲む事でも解毒可能です」

「でもぼく、まだじょうずに魔法つかえない…」

「リアンはまだ魔法の練習を始めたばかりだから仕方ありませんよ。大丈夫、治癒魔法であればきっとすぐに使える様になりますから」


落ち込むリアンの頭を撫で、アイオリアは優しく微笑んだ。学のないリアンに必要最低限の知識と技量を与えようと、三兄弟達は各々の得意とする分野をリアンに教えているのだ。長兄アデルは魔法を、末弟のアヴェンタは剣術を、そしてアイオリアは座学全般を担当している。この日は植物学についてリアンに教えていた。不安そうに自身を見上げるリアンにアイオリアが言葉を返そうとした時、部屋のドアが二度叩かれた

「どうぞ」

「アイオリア様。ご報告が……今しがた東国【オスト帝国】よりアデル様がお戻りになられました」

「そうですか、兄上がお戻りに。出迎えなければなりませんね」

「…アデルさま…!」

「勉強はここまでにして、兄上の出迎えに行きましょうか」


従者とアイオリアのやり取りに目を輝かせたリアンに言えば、リアンは椅子から降りアイオリアの傍へと駆け寄った。そして当たり前の様に手を繋ぎ、アイオリアを見上げ笑みを零す


「…ッスゥ…では、行きましょう」


可愛い、と叫びたい思いをグッと堪えたアイオリアはリアンと共にアデルの元へと向かう。長い廊下を歩き、階段を降り、幾つかの角を曲がった先にあるのは謁見の間。大きなドアを押し開ければ、一足先に到着していたアヴェンタと談笑するアデルとの姿があった


「アデルさま!」

「ん?…わぁ、リアン君!お出迎えに来てくれたのかい?」

「ん!」

「お帰りなさいませ兄上」

「ただいまアイオリア」

「おおそうだった、言い忘れていた。お帰りなさい兄者!」

「あははっ、ただいま、アヴェンタ」


弟達にただいまと返しながら、アデルは自身にくっつき離れないリアンを抱き上げ柔らかな笑顔を浮かべた。この数ヶ月で随分と懐いてくれたものだと喜びを噛み締めながら、髪を撫で上げる


「リアン君も。ただいま」

「おかえりなさい!アデルさま!」

「ふふ、うん、ただいま……それにしても…数週間ぶりのリアン君…やっぱり可愛い。本当に可愛いねぇ」

「ずるいぞ兄者。俺もリアンの頬にすりすりしたい」

「兄上は数週間此処を開けていたのですから譲ってあげなさい」

「うぐ…それは分かっているが…」


我慢しているのは己とて同じ、アイオリアの言葉に返事を詰まらせるアヴェンタ。あーだこーだと言い合いを始めた弟達を横目に、アデルはリアンの頬を撫で2人には聞こえないように小さく呟いた。アデルの言葉を聞いたリアンは微かに頬を染めながらも彼の頬に口付ける


「はぁ!?」

「兄上!?」


刹那、謁見の間に響き渡る2人の絶叫。アデルはリアンの片耳を手で塞ぎながら己を見つめる弟達に微笑みを返した


「どうしたんだい2人とも。そんな餌を求める魚のように口を開けたり閉じたりして……言葉を忘れてしまったのかな?」

「あにっ……兄者!リアンに今何をさせたのだ!」

「何、って…見た通り、頬にキスしてもらっただけだよ」

「私達は一度もしてもらった事がないというのに」

「うん。だって僕が"そう"教えたんだもの」

「んなっ…!?」

「僕にしかしちゃダメだよ、って教えたからね。リアン君は僕の言った事をちゃんと聞いているだけだよ」

「次期王ともあろうお方が抜け駆けですか」

「ずるいぞ兄者」

「抜け駆けに、ずるい…ねぇ。僕はこれでもお前たちと共に愛でられる様にと抑えているんだけどな」


穏やかである筈の笑顔が、何故か恐ろしさを醸し出す。アデルの怒りに触れたのだと察した2人は慌てて謝罪を述べ、その言葉を聞いたアデルは「冗談だよ」と苦笑を零した


「僕こそごめんね。まぁ…2人の気持ちは分からなくはないから……リアン君、次からはアイオリアとアヴェンタにも同じ事をしてあげようか」

「…アイオリアさまと、アヴェンタさまも?」

「うん。外から帰って来た2人に、お疲れ様の意味を込めて」

「ん…わかった」

「ありがとう」


コク、と頷くリアンを撫でアデルは「さて、」と気持ちを切り替える。抱いていたリアンを下ろした彼は近くに控えていた執事にリアンを部屋に連れていくよう命じた。命令に従い謁見の間から執事がリアンと共に姿を消すと、アデルは数枚の紙を取り出し、それぞれアイオリアとアヴェンタに手渡した



「…兄上、これは?」

「リアン君についての情報だよ。王と謁見を終えたあと町に足を運んでみて…集められるだけ集めてみたんだ」

「オスト帝国にリアンの情報があったというのか?」

「帝国に、というより……帝国にいた情報屋の元に、だね」

「また貴方は危険な真似を…と言いたいところですが、リアンの情報を情報屋が持っていた、とは?」

「おかしな話だな…奴等は裏社会に生きる者。そんな者達が何故リアンの情報を持っている」

「僕も不思議に思ってね。問い詰められるところまで問い詰めてみたんだけれど……分かったのはあの子があの国に売られた子だったという事だけ」

「…ソレは、兄者達が予想していた通りの事だな?」



以前、リアンがこの国に来たばかりの頃。服を買いに出かけたアヴェンタにアイオリアが放った言葉がソレだった。あの子は売られた子供だと、憶測ではあるがそうであると言った事をアヴェンタは覚えていた


「アヴェンタは記憶力が良いね、その通りだよ。僕達が予想していた通り、あの子は親に売られた子供だった。僕達がリアン君を見つけたあの国は…王族が人身売買を行っていた国だ」

「…思い出しただけでも吐き気がします」

「腐った王政よ、自分の国の民をなんだと思っているのだ…」

「他国に売り飛ばしていたのはもちろんだけど、王族自身もまた買い手だった……というのは、あの光景でお前達も分かりきっていると思う」


あの光景、と言われ2人が思い浮かべたのは城内の一室に集められていた容姿端麗な者達の姿。子供、男女問わず…容姿の良い者達が1つの部屋で身を寄せあっていたのを思い出す。中には腹の膨れた女人も混ざっていた…アレはそういう事だ


「…それで、その事とリアンがどう繋がるというのだ」

「リアン君はその中でも大層気に入られていたんだよ」

「……」

「そして、僕達が国を襲った時に宝箱に隠された。一時の隠し場所として…ね」

「…何故そこまで」

「何故そこまでしてあの子を隠したかったか、その理由は…あの国の全貌を書き表した2枚目の書類の中にあるよ」



アデルの言葉に従うようにアイオリア達は2枚目の書類に目を通す。その顔はみるみると青ざめていき、書類は彼等が全てを読み終える前に消し炭へと変えられてしまった
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