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39話 裏伏見稲荷
しおりを挟む「月が大きい…」
「こっちに来るのは初めてなんだな」
「うん…というか、裏裏言ってるけどここは何処なの?」
「…狭間だよ」
「狭間…たしか萩君が得意だった気が」
「そうだ。この裏京都は酒呑童子が作り出した」
「…これを萩君が?!」
私は驚きすぎて大きな声を出した。男の子は私のうるさい声に耳を塞いでいる。
「千年ほど前に酒呑童子がこの街を気に入って人間の居ない場所を作ったんだ。妖にとってはこっちが本当の京都みたいなもんだよ」
「なるほど…」
「あ、あれだよ。鏡鳥居」
そう言われ見ると鏡の鳥居に反射され正面の鳥居が映し出されていた。
「たまに知らない奴が当たるんだよ」
「当たる?」
「顔面からガツンっと」
確かに鏡の先はまだ道が続いてそう…そう言われると私も間違えて進んでしまうかも。
「あ、でも鏡の住人がなんたら言っていたよね?」
「それだよ。ガツンっと当たったあとだよ。住人が手を伸ばし気絶した者を連れていくんだ」
「鏡の中に?」
「そうだ。住人はこちら側の者の血肉を求める。人間の世界に鏡に引き込まれる話があるだろう?」
私はふと小学生の時に読んだホラー絵本を思い出した。確かに学校の怪談とか、学校の七不思議みたいので鏡の中に引き込まれるものがあるかも…
「それを見た者が居てその話が生まれたんだろうな」
「そういう事…私妖が見えるまでホラーは無いものだと思ってたんだよね。ただたんに脳の心理というか…怖い思いをすることで幻想を見てしまうみたいな?」
「…お姉さん、意外と現実的なんだな」
「あれ、私の事馬鹿だとか思ってた?」
そんなこんな話している内に小さな鳥居が置いてある不思議な場所でた。猫又がそこら辺に居る…ちょっと怖い雰囲気だな。
「これは夜とか怖いかも」
「そうだろうな…」
「あ、馨恵姉さん!」
「そ、その声は!」
私が振り向くと同時にもふもふとした動物が私に飛び込んできた。このモフモフ感…やっぱりたまらない。
「そいつは誰なんだ?」
「久助だよ。葛の葉の分身らしい」
久助は何週間か前に私の家に来たのだけど、最終的に敵視していた私のことを許してくれたみたいで今では姉さん呼ばわり…まぁ、このモフモフ感を堪能できるのならどうだっていいというものだ。
「そいつから僕の嫌いな匂いがする」
「嫌いな匂い?」
久助が私にそっと耳打ちした。確かにこの男の子素性すら知らない…突然声をかけられて着いてきちゃったけど。
もしかして敵とかじゃないよな…そんなことは無いか。
「あ、もっと嫌いな匂いがする」
「今度は誰?」
そんな話をしていると後ろの方から私を呼ぶ声が聞こえた。
「萩君?!」
萩君の元に向かおうと手を伸ばそうとしたその時、私の体が宙に浮いた。今度は何が起こって…
「予定より早かったな酒呑童子君」
「お前…まだ生きていたのか」
萩君が睨みつける先には私を抱え鳥居に乗っている男。いや、元男の子、さっきより背は高いのだがあのボサボサの髪が面影を残している。
黒いタキシードが良く似合う。何だかあの超有名な作品を思い出してしまう…タキシードうんたら。
「あの、二人はどのようなご関係で?」
「最強災厄な兄弟だよ」
私に抱きかかえられていた久助が私にそう言った。
「…最強で災厄?」
「そうだよ。名は大嶽丸…災厄な妖三大悪妖怪の一人だよ」
「大嶽丸…?」
私はタキシード姿の少年を見つめた。
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