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28話 崩された平穏な日々-1

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「馨恵、そこに居るのか?」


 ふと、私は名前を呼ばれ振り返った。この人…知ってる。
 けれど男は私の方でなく、私より奥にいる何かに駆け寄った…それは何?
 黒くまるで子供の落書きのような謎の物体…それが私?…何故貴方は私を呼ぶのに私を見ないの?









「あ、頭が痛い」


 私は目が回る様なものに襲われ頭を支えるように手で抑えた。確実に私の前世の記憶が取り戻しつつある…一体この先に何があるっていうのだろうか。


「馨恵!…具合が悪そうですわ」
「え…そうかな?」
「顔が真っ青ですわ…何か怖い夢でも見たのかですわ」
「うん…怖い夢を見たのかも。そうだ、萩君はもう起きた?」
「もう学校へ行ったですわ」
「あれ…もうそんな時間なの?」


 すると鈴は私の言葉を聞いて突然私の頬を両手で触った。


「この間もありましたですわ…馨恵は大丈夫なのかですわ」


 そう言えば…数日前にもこんな事があったような。今思えば私の睡眠時間が長くなってる、今は12時近く…つい最近まで7時には起きられていたのに。


「…私は大丈夫だよ。それに葛の葉達もいるから心配は要らないよ」
「そうかですわ…」
「ほらほら、シリアス的雰囲気は性にあわないの!お腹すいたからご飯食べる」
「あ、それなら酒呑童子様がテーブルに置いとくと言ってましたですわ」
「お、チャント作ってくれたんだ」


 私は飛び起きるとすぐに下へ降りていった。
 鈴の心配も分からなくはない…でも、今はそれを考えたくないと思ってしまう。葛の葉がこの前世からは逃げられないって言っていた…


「…あ、鮭だ!美味しそう」
「馨恵居るか?!」
「あ、葛の葉…そんなに急いでどうしたの?」
「そんな呑気なものじゃない!逃げるぞ!」


 そう言うと朝ごはんを食べようとしていた私を担いで空を飛ぶように家から出た。わ、私の朝ごはん…
 しかし、そうおもったのはほんの一瞬だった。突然家はバラバラと崩れたのだ…中に鈴が。


「待って!鈴が…」
「…鈴はどの道あの家の座敷童子よ。ここを出たとしてもあの家じゃ鈴は居なくなる。でも安心して、後であの家は元に戻す」


 私は空を雲に乗り走る葛の葉を背に崩れた家の後を悲しげに見つめた。


「そうしたら鈴は帰ってくる?」
「もちろん帰ってくるわ…それより、今は酒呑童子と茨木童子よ」
「な、何かあったの?」
「陰陽師のやからにバレた…酒呑童子達と関わりのある者を消そうとしているの」


 突然の衝撃な言葉に私は何も言えないでいた…私も、殺される。


「…だとするとちーちゃんは?!」
「それなら大丈夫、大天狗が守っている」
「幸人が…」


 私は安心して葛の葉に担がれたまま力を抜きダルんとした。力んでいた力が一気に消えさった。
 するとそれを見た葛の葉が声を上げた。


「だからあの子達には言ったのよ。馨恵達を巻き込んで後々どうなるか」
「じゃあ、前から知っていたの?」
「と言っても何となくよ…追っ手が来た。飛ばすわよ」
「うん」


 後ろを向くと何かがこちらに向かって飛んできていた。あれが陰陽師…?
 もしそうだとするなら一発拳をぶち込みたい。が、しかし突然スピードアップしていた思わず悲鳴を上げてしまった。
 は、速すぎるよ…










「そう…馨恵は無事なのよね?」
「もちろん無事だよ…でも、これから陰陽師が来る。すぐにこの家から逃げ出すよ…あいつらとは戦いたくない」
「でも、夫と娘が…」
「それなら大丈夫。もうその二人は一番安全な隠世に行っているよ」
「隠世へ?!」


 私は驚きのあまり大きな声をあげてしまった。夫と娘は妖の存在すら信じていない、それなのに連れて行ったらパニックになってしまうんじゃ…


「あ、心配してる事なら大丈夫だと思う…連れてくる際に眠らせちゃったんだよね」
「それもそれで衝撃な事実…まぁいいわ。すぐに向かいましょう…後で馨恵も来るのよね?」
「うん、そのはずだよ」


 そうして私達は隠世へ向かったのだった。

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