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17話 夢か現か…-1

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「馨恵…どこに居るんだよ!」


 男は雨の中大きな通りにひざまづき何度も拳を地面に打ち付けた。
 そのせいで男の手は真っ赤に染まっている…何で私を探しているの。私の頭はこの世界と私の世界の事で混乱している。私がその男に惹かれるような感覚に落ちいてずっとその光景を見ていた。










「夢…妙にリアルだった…」


 私は体を起こし自分の頭を支えた。何故か頭がガンガンと打ち付けられているように痛い。
 そう言えば、昨日成人式をやり終えちーちゃんと飲んだんだ…二日酔いかと思い立つと私はリビングに向かった。


「あ、馨恵起きたのか」
「うん…二日酔いで頭がガンガンするの。水貰ってもいい?」
「嗚呼」
「大丈夫かなのかですわ」


 それを聞いて鈴はすぐに飛んできた。そう言えば、あの日…私が背中を強打した日から鈴は人が自分達よりもろいということを知って私の怪我などに敏感びんかんになっているんだった。
 私は大丈夫だと言わんばかりに鈴の頭を撫で回した。おかげで鈴の髪はボサボサだ。


「ほら、持ってきたぞ。それとこれも飲むといい」
「何これ」


 私は萩君に出されたオレンジのような赤のような飲み物を見た。


「ちょっと酸味はきついだろうが、グレープフルーツと蜂蜜のジュースだ」
「グレープフルーツと蜂蜜ってまた変わった飲み物だね」
「そうかもな…酒が苦手で毎日の様に二日酔いになってた俺に楚が作ってくれたものだ。二日酔いにはグレープフルーツと蜂蜜が効くだとか」
「なるほど…流石楚だね」


 私は少しだけジュースを飲んだ。
 あれ…思ったより酸味が少ない、蜂蜜が上手く酸味を隠してくれているみたい。物凄く飲みやすい。


「これ、飲みやすいね」
「そうだろ。馨恵の口に合って良かった」
「うん…そう言えば、萩君って夢見るよね」
「当たり前だろ。妖でも人と脳は同じだ、寝ている間に記憶を整理しようとするから夢を見るんだろ?」
「そう言われてるよね…もし、記憶にない夢を見たとすると」


 すると萩君は顔を顰めた。まるで、何か身に覚えがあるみたいだった。
 けれど萩君は。


「きっと忘れているだけだ。片隅には存在してる記憶だろう」
「嘘だよね」
「…妖関連って可能性もあるが、今じゃそう人を襲う事は無い」
「私が見たのは、現代じゃ無かった。見たことの無い場所…いや、ズット昔の日本?」


 私が忘れかけている夢を思い出そうと頭をフル回転させていると突然萩君が私の頭に手を置いた。
 萩君を見ると何か術を使っているみたいだった。


「…それはただの記憶では無いみたいだな。記憶は記憶でも前世の記憶だろう」
「前世?…私に前世があったの?」
「俺もそこまでは分からない。だが、少なからずその夢を見たという事は前世があったという事だ」
「前世の記憶って夢に出てきやすいの?」
「人それぞれだな。大体のやつがその夢を覚えていない…覚えているのは前世に未練があるんだろうな」


 萩君はぽつりぽつりと私の夢の真相と思われる事を話してくれた。
 だとすると、私は前世に未練があるって事…それに、ちょっと気になる。雨の中泣き叫ぶあの男。


「ねぇ、前世を調べる方法とか無いの?」
「それは無理だな。神とかじゃないと調べることさえ出来ない、それにあいつら以外とプライバシーとか考えてるんだよな」


 と、神様の愚痴を言い始めた。神様と関わりがある事にまず驚くが…プライバシーを守る神様たちってどんな方々なのだろうか…


「とりあえず、近くに神が…くずだ」
「葛の葉ってあの九尾の?」
「嗚呼、あいつにはあまり関わりたくはないが…知りたいんだろ?」
「うん、知りたい」
「じゃあ明日の夜行こう。その頭痛じゃ行けないだろ」


 そう言えば今二日酔いで頭、ガンガンしてたんだ。前世の事に頭が行っていてすっかり忘れていた…と言うより、心做しかさっきより頭痛が引いてる気がする。


「葛の葉はそう簡単に願いを聞いてくれないし楚を誘うか」
「葛の葉って安倍晴明の親説とかあるよね」
「そうだ。だから関わりたくないというのもあるがあいつは神に近い存在だからな、何かと面倒だ」
「な、なるほど…でも、いいの?本当に関わりたくなさそうだけど」


 すると萩君は私の掛けていたネックレスに手に取った。萩君が手を広げた時にはネックレスは姿を変えて鍵のような形になった。


「これは俺の狭間を開く鍵だ。何かあればこれで門を開けて中に入れ、俺たちで馨恵を守れるか分からない」
「そんなに怖い人なの…」
「それはもう…トラウマレベルだ」


 珍しく萩君が何かを恐れている…これは相当大変なのかもしれない。
 そうして時間はどんどん過ぎ気がつくと次の日の夜になっていた。さっき私の家に楚が来たところなのだが、楚は本当に行くのとか言っている。


「楚も恐れるほどの妖怪ってもはや死ぬレベルじゃ」
「あ、いや大丈夫ですよ。葛の葉は変わった妖とだけ伝えておきましょう」
「変わった妖?」
「行った方が早いですね」


 そうして私はその変わった妖という話のみで葛の葉の元へ向かったのだった…

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