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16話 成人式
しおりを挟む「この日が来てしまった…」
私は自分の部屋の布団でうずくまっていた。廊下から聞こえてくる男二人プラス女一人の声…早く出てこいとドアを叩き叫んでいる。
「馨恵!出てこい!」
「うるさいよちーちゃん、近所迷惑」
「なら叫ばせるな!」
すると突然鍵を閉めたはずのドアが開かれた。何故?!
「ピッキングは僕の得意分野ですよ」
「楚が黙っていたと思えば侵入を…」
私は布団から出ると構えた。そう簡単に捕まって…
と反抗しようとしていたら軽々と萩君に持ち上げられてしまった。やばい、着物だけは嫌だ!体重がばれる!
「お~、馬子にも衣装だね」
「ちーちゃん、さりげなくディスらないでくれない?」
「似合ってるよ、馨恵」
「そんな君にもちゃんと用意してあるよ」
と、ちーちゃんが見せたのは立派な袴…私はちーちゃんにグッと親指を立てた。
それを見た萩君は一目散に逃げようとしていたので私は捕まえて…
「萩君、逃がす訳ないじゃん」
「あはっ、あの酒呑童子が人間に捕まってるよ」
「あ、そうだ。大天狗君にもあるよ」
やっぱり逃げようとする幸人の袖を掴んだ。二人とも逃がす訳が無かろうが!
「これはコスプレ大会よ!だから、萩君と楚君は鬼の姿ね」
「おい待て、何故そうなる」
「そう言えば、今日小コミがあるんだ」
私は思い出したように手のひらに拳を当てた。今日は年に三度ある小コミこと妖小コミックマーケット…
今回はその小コミにこの五人、いや六人で参加するという事。
「…私も行くですわ!」
「そう言うと思ってた!楚と萩君は鬼、幸人は大天狗、鈴が座敷童子、私とちーちゃんが狐ね!これは行ける…」
完全に今回の小コミに火がついた私はニタニタと笑った。大天狗は小コミと聞いてテンションは上がってるみたいだ。
でも、コスプレで参加するのは初めてだからちょっと緊張気味?
「なら少しだけ変化の術を使おうか」
「変化?」
そう言って幸人が指を鳴らすと私の付けていた耳や尻尾はなんと、私の思っているとおりに動き出した。
これ…本物の耳と尻尾だ…ちーちゃんも驚いているみたいで自分の耳と尻尾を触っている。
「何これ…凄い」
「幸人ってこんなことも出来たの?!」
「うん、変化は少しだけ得意だよ」
「それじゃあ行きましょう!今すぐ行くわよ!」
そうして私達はあやコミ会場に向かったのであった。
「…げっ」
「うわ…やっぱりあんたらも来たのか」
会うとは思っていたけどちょっと気まずい…。今回は雷獣姿のこの人が誰かというと私の元推し、酒顛だ。この性格で酒呑童子を語るなんて…許せない!
「おいおい、今日は大人数だな…にしてもこの耳や角とかリアル過ぎないか?」
酒顛は少し驚いているみたい…まぁ、そのはずちゃんとした本物なんだもん。
「ねぇ、あの鬼イケメンよね?」
すると私たちの元…と言うより楚や萩君、幸人の周りに人だかりが出来た。萩君が女達に取られてしまう!
と思っていたのだが萩君は近寄るなと言って私達の元に戻ってきた。あれ、以外と塩対応。
楚は紳士的に女子達の相手を、幸人は…駄目だ、鼻の下を伸ばしてる。
「あの大天狗だらしな」
「まぁまぁ」
今にも怒りだしそうなちーちゃんを抑えていると突然後ろから声を掛けられ振り返った。
「おの、お写真よろしいでしょうか?」
「はい!あの、みんなで撮ってもよろしいでしょうか?」
「も、勿論です!逆によろしいのですか?」
「はい。それでなのですが、後ほど写真を頂けないでしょうか?」
「あ、全然大丈夫ですよ?」
そうして私達はあやコミという場所で一つの思い出を残した。写真を貰ったのだが後で見てみるとポーズなんて関係なく記念写真のようになっていた。
「つ、疲れた…」
「本当よ。あの後女子達に追われるわ…あやコミっていつからホスト物になったのよ」
私達は着替え終えリビングでくつろいでいた。萩君はもうぐったりだ…塩対応で女子達を追い払ったのだがあの後結局追いかけ回されたんだよな。
私はお疲れ様と言うように頭を軽く撫でた。すると机に顔を伏せながらもモゾモゾと動く萩君…可愛すぎて死ぬ。
「そう言えば、あの人から写真貰ったんだ。律儀にみんなの分もくれたから」
どれも一緒のようで一つ一つ違う写真。私はみんなが選びやすいようにテーブルの上に並べた。みんなが取っていく中私はある写真を見つけてすぐにそれを取った。その一部始終を見ていたのかちーちゃんはクスクスと私を見て笑っている…
「にしても、あの妖優しかったですね」
「そうだね…妖?」
私はふと、楚の言葉がおかしい事に気づき聞き返した。写真を撮ってくれた人以外に誰かに優しくして貰えたっけ…
「この写真を撮ってくれた妖ですよ。あの人はちゃんとした妖です…あの化け方は多分狐でしょうね」
「…妖だったの?!てっきりちゃんとした人間だと思ってた…」
私は化かされたことに気づき驚いた。ちゃんとした人間みたいだったし…今思うと、あの時酒呑童子、茨木童子、大天狗の存在に気づいて私のみんなで撮ると言う言葉に驚いたのかもしれない。
「きっと驚いたでしょうね。僕達の様な大妖怪は、そうあの様な場所に出てきませんよ。それにちゃんとした自分達の姿で」
「そうなんだ…それに、今思うとこうやって三大悪妖怪の二人に囲まれて過ごしていると思うとヤバいね…萌えるね…死んじゃうね」
今頃かとちーちゃんの突っ込みを聞いて私は微笑んだ。
「これでよしっと」
私はフォトスタンドに入れた写真を見つめた。みんながはしゃいでる中照れながらも私と手を繋ぐ萩君…可愛いな。
「馨恵!」
「あ、今行く!」
フォトスタンドを机の上に置くとすぐに向かった。
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