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15話 新たな生活-2

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「福は~うち、鬼も~うち」
「福は~うちですわ、鬼は~出てけですわ」
「…お前ら何やってるんだ?」
「今日は節分の日だから豆まきしてるんだよ」


 家の前で豆を投げる私達を見て萩君は不思議なそうな顔をしていた。もしかして節分を知らないのかな…


「知らない?節分」
「いや、知ってるが…座敷童子はともかく鬼はうちじゃ駄目だろ」
「だって萩君と楚が入れなくなっちゃう」


 そう言って私はまた福はうち、鬼もうちと豆を投げた。するとそれを見ていた萩君も鈴がやれと命じた事でやる事になった。
 萩君は鬼だし、なんて言うのかな…と期待していると。


「福はー家、鬼はー外」
「つまらない」
「マイナス100点ですわ」
「豆まきに面白さを求めるな」
「あれ、みんなして何してるの?」


 突然姿を表した幸人に驚き体制を崩したが転ぶ直前で萩君が支えてくれた。毎回助けてくれるなと思いつつ、ますに入っている豆を一粒食べた。


「節分をしてるんだですわ」
「そっか、今日2月3日なのか」
「そうだですわ。試しにお前も投げるんだですわ」
「分かった…福は~内、恋敵は~外」
「なんだお前、俺に喧嘩売ってんのか?」


 などと、喧嘩を始めそうな二人の間に割って入った。こんな所で喧嘩を始められたらとにかくやばい。


「ほらほら、みんなやったし家に入って歳の数だけ…千粒以上?」


 私は家に入ろうとしたが歳のことで気になり三人を見た。聞くと鈴だけは三百だという…そんな豆がこのうちにあるか。


「豆の数なら大丈夫だよ。俺が27粒で酒呑童子が17粒、鈴ちゃんが8粒だから」
「なるほど…今の見た目で豆を食べれば良いのか」
「待て!私は10粒だ!」
「え…そうだったの?」


 という見かけによらない鈴の新事実を知り私達は中に入った。リビングのテーブルには色々な種類の豆が置いてあった。
 定番の大豆。そしてピーナッツ、カシューナッツ、胡桃などなど…とりあえず様々な豆がある。


「この中から10粒食べていいのか?!」
「あ~、うん。どうせ余るから、いくつでも食べて大丈夫だよ」


 するとその言葉を聞いた鈴はバリバリボリボリとたくさんの豆を食べだした。私は大好きなカシューナッツを手に取り口の中に放り投げた。
 元々ジュースのお供のツマミで用意してあったものだから物凄くビールが飲みたくなる。


「そう言えば、馨恵っていくつなんだ?」
「俺も知らないよ」
「あれ、言ってなかったっけ?こう見えてまだ19なの」
「は?!」


 萩君は物凄い驚き用だった。私ってそんなに老けて見える?!


「…成人式は?!」
「あ~、そう言えば成人式なんてあったね…面倒くさくてやってないよ」
「そんな…馨恵さんの着物姿、袴姿が…」
「そこまで落ち込む?」
「なら、今からでも成人式をやればいいんじゃないか?」
「…へ?」


 私は思いがけない言葉に口の中に入れようとした豆を落としてしまった。もう大分過ぎたのに成人式?
 いや待て、晴れ着姿なんて見せられたもんじゃない。


「そうしよう!今度の休み、成人式をやろう!」
「いや、待て待て…着物だってそれなりにお金が」
「それなら僕が負担するよ!」
「それは悪い…」
「逃がしはしないよ?」


 あの大天狗の幸人に低い声でそう言われ私は大人しくこくこくと頷いた。いや、幸人さん怖いです…元の師匠に戻ってください…


「それもそれでいいが…今年が成人式って事は、誕生日いつなんだ?」
「…2月13日です」
「10日後?!それを早く言おうよ!」


 いや、もうこの二人の張り切り用が怖いです。何故こうも私にこだわるの…
 ニートはニートらしく、家の中でひっそりと暮らして生きたいのに、いつからかこの家が賑やかになってしまった。
 前はもっと暗かったのに…


「何故そこまでしてお二人は私にこだわるのでしょうか?」
「…勿論家族だからだ」
「家族…」


 萩君のその返答に私は顔を上げ萩君を見た。そんな私を不思議そうに見つめる萩君…家族なんで言葉はずっと聞くことは無かった。自分とは縁のないものと思っていた。


「…萩君!」


 私は思わず萩君に抱きついた。萩君も萩君で戸惑っている。


「あ、離れろ!鬼!」
「嫌だ!萩君は私の!」


 私達が謎の行動をしているとテーブルの上からカランという弟が聞こえてチラッと見た。なんと、全ての豆が跡形なく姿を消している。


「わ、私のおつまみ!コーラのお供!」
「鈴が全部食べたのか」
「そんな!食べ物の恨みは恐ろしいぞ」
「食べた物は仕方が無い、諦めろ馨恵ですわ」


 そう言うと鈴はその場から消え一目散に逃げて行った。あの可愛い格好をして中身ババアの妖怪めっ…


「ほらほら、そう怒るな」


 私は萩君の手に持つ物を見つけシュッと奪った。これはわたしの大好物、さきいか。


「馨恵さんの好みって渋いよね…」
「コーラのお供をツマミと呼んでる時点でもう駄目だ。だからこっちは未成年だと思って居なかったんだよ」
「あ、そういう事。私が見えるのかと思ってたよ」


 私がさきいかを頬ばりながら食べていると二人が突然黙ったことに気づいた。
 もしやこれは…二人とも私が老け見えていたと言うことか。ネットで美容系調べよう。

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