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4話 同居生活-2

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「どうぞ、入ってください」


 私は扉の鍵を開けた。その瞬間臭ってくるこの強烈な何か…二人は鼻と口を手でおおった。


「なんだこれ…」
「すごい匂いだね」
「本当に見せられたもんじゃ…」


 匂いの元は玄関の近くにあるリビングだ。実際ゴミ溜めとなっているのはリビングだけ、他は掃除を一切していないのだ。


「とりあえず、僕は近くのスーパーで掃除用具を買ってきますので…二人で出来るだけでも掃除しといて下さいね」
「はい…」


 楚がこの場を立ち去ると静かな沈黙が訪れたが、萩君はその沈黙を破った。


「…リビングから掃除するか」
「そうだね」
「一体どうしたらこうなるんだか…まずはいる物と分別を」
「あ、全て処分してくださって大丈夫です」
「…まさか、ここをゴミ溜めにしてきたとは言わないよな?」
「………………まさか」
「…なるほどな、とりあえずこんな大量のゴミを処分する事も出来ねぇし…ここで燃やすぞ」
「はい?」


 私は意味のわからない言葉に首をかしげた。こんな場所で燃やしたら火災装置や近所迷惑になってしまう。


「ちゃんと換気して煙とかは出さないように一気に燃やす」
「そんな事出来るの?」
「嗚呼」


 そう言うと萩君はふぅーと空中に息を吹きかけた。それは突然火の粉を飛ばすと一瞬でゴミをチリにした。凄いけど…これって二度手間じゃ…


「…ねぇ、萩君。私が言うのもあれだけど、このチリ誰が片付けるの?」
「………楚だ」


 あ、これ人に全てを任せる気だ。そんなこんなしていると玄関が開く音が聞こえある人物がリビングに入ってきた。もちろん楚。


「…萩、これはどういう事かな?」
「…さぁ?」
「はぁ、とりあえずこのチリをすぐに片付けましょうか」


 そう言うと楚は私達を廊下に出した。何故か楚も…何も知らない私達は一体何をしようとしているのかさっぱり分からずぽかんとしていた。


「…多分出来たかな」


 少しすると楚はリビングの中に入った。中に入るとそこには大量のチリがあったはずなのにリビングには黒い球体だけが浮いていた。


「この球体の下に袋を用意して」


 楚がスーパーで買ってきたゴミ袋を広げると球体はパリンという音を立てて壊れた。
 この仕組みが分かったのか萩君はもう不思議そうな顔をしていない。私の頭の中はハテナばかり…そんな私を見た楚はちゃんと説明をしてくれた。
 楚が使ったのは結界術の様なものらしい。チリだけを上手く結界の中に入れてそれを伸縮させて出来たものがあの黒い球体だとか…本当に器用だな。


「それじゃあまずはこのリビングを片付けましょうか」
「そうだね」
「あと他の部屋はいくつ程あるのですか?」
「えっと…リビング抜いて」


 トイレ、お風呂場、小部屋が二つに大きめな部屋が一つ、客間が二つ…もちろん秘密の部屋は入れずに…
 私は一つ一つの部屋を入れながら指を曲げた。


「7部屋かな」
「意外と多いのですね…それに、雰囲気も良くてとてもいい部屋です」
「うん。このはひいおばあちゃんが守ってきた家なんだけど…大正時代に作られたからか、少しレトロチックな家なんだよね」


 大正時代はレンガ造りの家などが沢山あったりした頃。多分この家も流行りに乗ったのだと思う…そこら辺の家より少しおもむきがある。
 今もなお残っている有名な建造物は埼玉の川越にある銀行。


「なら、尚更綺麗にしないとですね」
「ごもっともです」


 それから私達はリビングを水拭きしたりなどして掃除をして後は手分けして掃除をした。物が少なく家具もほとんどないこの家の掃除は楽だった。
 私はトイレ掃除をし二人は客間などの部屋を掃除した。やっぱり長年使ってる場所は比較的綺麗だ…それでも部屋の多いこの家の掃除は一苦労。


「馨恵!」
「何?」
「7部屋と聞いていたが、8部屋あるんだが」
「…は?!」


 すぐに階段をかけ上がりその秘密の部屋前に来たのだが、もう遅かった…既に萩君は部屋の戸を開けていた。しかし、萩君は一瞬固まった後無言で部屋の扉を閉めた。
 それが一番心に来ます…私はその場に倒れ込んだ。終わった…


「あれ、萩と馨恵さんどうしたの?」


 萩君は無言で秘密の部屋を指さした。それを見た楚は不思議そうに首をかしげゆっくりと部屋の扉を開けたかと思うとすぐに閉めた。
 その速さは人間技じゃない。


「二階は全て掃除終えたし、リビングに戻ろうか」


 あ、話を無理やり変えた。とりあえず今はこの部屋の存在を忘れようと誓ったのだった。










「ふぅ、部屋数が多いと疲れるな」
「そうなんだよね。流石に部屋数多すぎるし部屋を貸し出すのもいいかなと思ったけど…」
「それは辞めた方がいいと思います」


 楚は即答した。それも地味に心に来るんだよな…


「…わ、私も思ったの。こんなに散らかってる部屋貸し出されてもただの迷惑だと思って…だから、萩君が来てくれるのはこっちとしても嬉しいかな…」
「そう言えば、馨恵って暗い場所が」
「うん、暗い場所が苦手なんだよ。だからこの家は一箇所しか使ってな…」


 すると二人はその言葉に頭を下げた。あ、地雷踏んだと思った私はすぐに話題を変えた。


「そうだ!ジュース持ってくるよ!」
「はい、お願いします」


 二人が話してるのを見ると私はキッチンに立った。冷蔵庫を開けると入ってるのはハーブティー、カルピス、コーラ、オレンジジュースのみ…相変わらず少ないな。
 私はハーブティー、カルピス、オレンジジュースを取ると戸棚から綺麗なコップを三つ出して、その三つをそれぞれのコップに注ぎ綺麗なグラデーションにした。


「はい、出来たよ」
「なんだこれ…」
「毒は入ってないから安心して、全部この間買ってきた飲み物だから」
「僕達は賞味期限などが切れていても大体は大丈夫ですよ」
「あ、そうなの?」


 楚はなんの躊躇ためらいもなくジュースを一口飲んだ。


「えっと…オレンジとカルピス、ハーブティーですかね?」
「正解…よく分かったね」
「僕、味覚だけは良いんですよ。それはそうとこの組み合わせ意外と甘酸っぱくて美味しいですね」
「そうなの。ファミレスでやってたんだけど…ちーちゃんに子供っぽいから辞めてって」
「あ~…確かにそうですね」


 そこは否定して欲しかった…。私たちが話しているのを見て興味を示したのか萩君は一口ジュースを飲んだ。
 美味しかったのかゴクゴクと飲み干した。こんなに飲んでくれるならまた今度作ってあげよう。


「あ、もうこんな時間なんですね」
「もう7時なんだ…」
「僕はもう帰りますね。後で萩の私物をこっちに送るよ」
「嗚呼、助かる」


 そして、楚は家を出た。残された私と萩君は少しの沈黙の後…


「ご飯にするか」
「そうだね」


 こうして私達の同居生活は始まったのであった…


「え、やだ、ゴキブリ!」
「おい、引っ付くな」

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