【完結】堅物司書と溺愛魔術師様

3R.M

文字の大きさ
上 下
38 / 41

エピローグ

しおりを挟む

「疲れた!!!!!お休み下さい室長!!」
「全部終わったら良いよ~」

 間延びした声が図書館に響く。

 謁見から一ヶ月後、図書館司書総動員で新たな防御陣の設置やお披露目の式典で大忙しとなった。

「元凶であるリンドバーグ嬢が頑張ってくれなきゃ私たちも休めませ~ん」
「あぁぁぁぁもう!!魔法師団にも掛け合ってくださいよ!猫の手も借りたいのに!!」
「魔法師団員は君の見つけた魔石の調査や遺跡の調査で手は借りれませんよ~」
「んんんん!!もう!!!」

 こんなやりとりが続き慌ただしい日々を過ごしている。

 グリード公とは後に僅かな時間面会が許された。
 彼の言葉は今も私の胸を燻らせる。

 ーーーー

「全てが妬ましかったんだ」

 同年代の義父たちの才をを妬ましく思うと同時に、それよりも私利私欲に溺れた自分自身や公爵家を憎み最後は公爵家など潰れてしまえばいいと思っていたと静かに語っていた。
 血の繋がった娘を見殺しにしたり、汚いことにも手を出した。と言った彼は自らの手を見つめながら話していた。

「君がとても眩しくてね」

 自分の子供たちとは違う孤児の私が常に前向きで見返りを求めない優しさを持ち神秘的な瞳で見つめられた時、やはり公爵家が間違っていたことを確信したのだと。

「最後に君の幸せを願うことだけは許してほしい。どうか君は君のままで、君の愛する人とこの国を愛して欲しい」

 そう静かに微笑んだグリード公を忘れることはないだろう。
 誰にも知られずに消えた命を、勇気を忘れることはない。

 ーーーー

「やるしかない!!」

 自らを鼓舞し立ち上がる。

「良いね良いね~頼むよ~リンドバーグ嬢」
「もう!室長!!その名前で呼ばないでくださいよ!!」

 そうして慌ただしくも華々しく式典を迎えた。

 式典と共に王政の代替わりとなり、マテオやウィリアム軍人達も大忙しだった。
 グリード公の家系である第一王妃と王子は隣国へと隠居し、先王は退位、新たな王がたつ。
 悪癖を生む血統重視の王政も同時に廃止になることが決まった。
 私自身もあの日記や魔術書でも可能性を感じたこともあり、まだまだ研究は続けられそうだ。
 これで少しずつではあるがまたこの国は成長していくだろう。

 街は色とりどりの花で飾られお祭り騒ぎ。
 王家の代替わりと、魔術先進国の新たなる防御陣のお披露目ともあり他国からの賓客や観光客で人々が溢れかえっている。

「どうしよう!緊張してきて手が震える!!」
「そんな繊細だったけ?」
「え!マリー酷くない!?」
「あ、この焼き菓子すごく美味しい♡」
「ロゼにはそんな繊細さは持ち合わせてなんかいないでしょ?そのお菓子、マリーが好きだと思って持ってきたの」
「ちょ!ナザリーもひどい」

 わいわいと仲良し三人組で司書室から外を眺めながらお菓子を啄んでいる。

「少しは御めかししなさいな。大勢の人に見られるんだから」
「えぇー無理ー」
「そのまま行ったら花形司書の恥だからね!」

 二人に手入れされ私は式典への準備中。
 王城と大樹の図書館の間に湧く湖のそばに時間が近づくにつれ人々が集まり出す。
 湖の辺りには新たな魔術紋が施され中央へと放射状に伸びる。
 その景色を司書室から眺め感慨深くなる。

「上手くいくかな…」
「「もちろん」」

 二人の声が重なり三人見つめ合い笑い抱きしめ合う。

「大丈夫、絶対上手く行くから」
「特等席から貴女の晴れ姿を見せてもらうわね」

 時間になり二人に背を押され部屋を出る。
 人垣を護衛騎士たちが囲む中、一歩また一歩と辺りに近づく。
 百m四方の小さな湖の対岸に大好きな人の姿が見えた。
 私たちの姿に騒がしかった人々が気付き波紋の様に静けさが訪れた。
 互いに辺りに手を付き魔力を込める。

 ――この地が永遠にあることを

 その願いと共に輝かしい光が魔術紋を流れる。
 放射状に伸びる魔術紋が水面下を通り光の魔力と共に水面がキラキラと光り中央に集まると、間欠泉のように散布した。
 大気に魔力を宿した水滴が、陽の光を浴びダイヤモンドダストの様に輝く。
 喝采が鳴り響く中、国全体を覆う様に風で運ばれる輝く水滴たちを見守る。

「…綺麗」
「ロゼの方が綺麗だ」

 いつの間にか私の元に来ていたノアを振り返る。

「さ、最後の確認をしに行こう」

 そう手を取られ、まだ波紋の浮かぶ湖にノアと共に歩みを進めた。
 二人手を取り合い中央にある魔法陣を目視した。

「上手く行った様だな」

 水面下で未だキラキラと輝く魔法陣を見て肩の荷が降りた。

「よかったー」
「これで気兼ねなく休めるな」

 引き寄せられる様に口づけを交わす。

「誰か見てるかも」
「誰も俺たちなんか見てないさ」

 笑い合い何度も何度もキスをした。
 不意に腰を抱かれて体が浮遊感を感じるとノアを見下ろす形になる。

「愛してるぞ、ロゼ。お前と共にこの偉業を成し得たことは俺の誇りだ。ありがとう」

 そう満面の笑みで言うノアが涙で霞む。

「ノア、私も!ありがとう、ずっと忘れないでいてくれて。見つけてくれてありがとう。…愛してる」

 そうしてまた口づけ合う。
 キラキラと水滴が舞い幻想的な中、私たちは肩を取り合い歩んで行った。




 ――fin――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...