【完結】堅物司書と溺愛魔術師様

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遅すぎる答え合わせ1

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 発表が終わり、図書館内にある自室に逃げるように駆けて行った。

 発表で何を話したか覚えていない。
 ノアがいた、ノアが聞いている。
 どんな表情で見てるの、何を思っているの。
 それだけが頭の中を支配していた。

 私はずっとノアに会いたかったのだ、話したかった、そばにいたかった。
 自分の気持ちを認めざるをえない。
 ただ時間が経ち過ぎていて恐怖が次々と湧いてくる。
 不安が胸を埋め尽くし、嵐のように荒れ狂っている。

 ――こんな感情知らない、わからない。

 どうすれば治るのか、どうすれば答えが出るのか検討がつかない。
 人を好きになるのは、こんなにも苦しいものなのか。
 ノアを思うと幸せな気持ちになり満たされる。
 でもすぐに不安が津波のように押し寄せる。
 私はどこか壊れてしまったのかと錯覚を起こす。

 ――みんな同じように恋をするの?恋って辛いものなの?

 自問自答しても答えは返ってこない。

 いつの間にか自室の執務机の上で眠りつき、節々が痛くなり目覚める。
 いくらか時間が経っているようだ。
 西の空が赤く輝き、綺麗なグラデーションを色付けている。

 上げた顔の頬が僅かに濡れて湿っている。

 ――泣いてたんだ。

 唖然としていると、扉を叩く音が聞こえる。
 誰だろう思いながら、返事をし涙を拭うと聞き慣れた声が扉の向こうから聞こえた。

「ロゼッタ、俺だ……会いたくなければ、そのままでいい。話がしたい、聞いてくれるか?」

 ノアが名前を呼んでくれた、それだけでなぜか涙が溢れ頬を濡らす。
 何かを言いたいのに、言葉は嗚咽に変わる。

「ロゼッタ……泣いてるのか?入るぞ」

 ――今はダメ、こんな顔見せられない。

 咄嗟に扉に向かい鍵をかけようと手を伸ばすが、それより早く扉が開かれる。
 そこには会いたくて会いたくて、無意識に求めていたノアがいた。
 私はこんなにも弱かったのかと絶望にも近い気持ちを持つ。
 ノアの顔が見たいのに、瞳が涙で溢れ輪郭をあやふやにする。
 謝りたいのに、声をかけたいのに全てが嗚咽に変わる。

 ――最悪だ。こんな姿じゃ嫌われる。

「ぅ……っの……ぁ……う、ぅ……」

 振り絞り出た言葉は嗚咽に混ざり切った名前だけ。
 苦しくて辛くて、震えが止まらず無意識に自分の体を掻き抱く。

 ――ノア

 その時、力強く全てを包み込む温もりと大好きなノアの香りを感じた。
 不安や恐怖が消えさり愛しさが込み上げ、心が満たされていく。
 体が歓喜に震え、ノアに縋り付く。

「っっノア゛、ノア、ノア、ノァぁぁ」

 名前を呼び続けて泣くことしかできなかった。

「……ロゼッタ……ロゼ、ロゼっ……」

 それでもノアは強く強く返事を返すように何度も名前を呼び抱きしめてくれた。
 ノアの香りと温もりに包まれ、心の隙間が満たされていく。
 肩が濡れることも気にせず、縋り付く私を大切なもののように抱きしめ背中を優しく撫でてくれる。

 大きな手が両頬を掴み顔を向かせる。

「ロゼッタ」

 甘い吐息混じりの声が間近に聞こえ、息を呑む。
 少しかさついた手が頬を摩り涙を拭う。
 見つめ合う瞳は、深い海のようで全てを暴かれていく気がする。
 涙を拭うように、ノアが瞼にキスをする。
 額に頬に、瞼に首に耳に、触れた場所から熱をもち身体が粟立つ。
 ノアに触れられ嬉しい幸せだが、肝心な唇にはキスをくれない。
 ノアに好きだと伝えたい。
 ノアもあの夜から変わらず好きでいてくれているのだと安心したい。
 思い合っているのだと実感したい。
 恋とは人をおかしくする。
 初めて感じた喪失感や高揚感、執着のような独占欲。
 いろんな感情が入り乱れる。

 焦ったくなり、思わずノアの首に腕を回し引き寄せる。
 ノアがしてくれたように、唇を合わせるが勢いがあり過ぎてカチンと歯が当たる。
 ノアは目を大きく見開き呆気にとられている様子で、キスが失敗したことが恥ずかしくなり、腕の中から逃れようと足掻いたが腰に回された腕は微動だにせず抜け出すことができない。

「ちょっ!ノア離して」
「いやだ」と言いながら腰に回る腕に力が入り、頸に顔を埋める。

 その仕草が擽ったくて声が漏れる。

「っちょ、ぁっノア」
「……………………っ」

 拘束は強さを増し、いつの間にかソファに移動し胡座をかいたノアの胸の中にすっぽりと治る体勢になっていた。
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