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お茶会

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私には月に一度外せない用事がある。

休日にお洒落を楽しむとか、魔術書を漁るとかそんなのではない。
最近はただの詰問会に成り下がっているが、私の大好きな方たちとのお茶会である。

 ここは公爵家タウンハウスのサンルーム。

初夏の日差しを受けクチナシの木がさわさわと揺れ香りを運んでくる。
そんな爽やかなひと時の中、公爵家以蔵のブレンドティーを優雅に嗜みながら不釣り合いな雑音が流れて思わず顔を顰めてしまう。

「ロゼッタ!まだノア・グランヴェルと付き合ってるのか!?目を覚ましなさい。彼奴と連んでも碌なことにならんと言ってるだろ!!」

大きな音を立て扉を開け、大股で近寄ってくる金茶色の癖毛をそのまま後ろに撫でつけ、軍服の上からでもわかる筋骨隆々の体躯をお持ちのお方が王弟であり、我が国陸軍将軍閣下マテオ・シールズである。
そして――
「マテオ、少し落ち着け。ロゼッタ、今日も素敵だな。変わらず元気だったかい?早速マテオがすまない。変な噂を耳に入れたようで誤解してるようだ」
「マテオ様、ウィリアム様お久しぶりでございます。皆様のおかげで、毎日楽しく過ごさせていただいてます」

淑女の礼をし二人に向き合う。
マテオよりは細身だが鍛え上げた体躯で銀髪に碧眼と、昔はモテたであろうの偉丈夫が海軍元帥ウィリアム・リンドバーグ公爵閣下だ。

「ウィル!そうは言っても心配ではないのか!?うちのロゼッタに変な虫、すこぶる変な虫がついてしまったではないか!!」

国の一大事でもないのに動揺しているのは、最近のノアとの関係を気にしてのことらしい。

「ほっほほ、ウケる」
「“ウケる”ではありませんよセス様。本当、殿方達ときたら……ごめんなさいな、ロゼッタ。せっかくの茶会なのに騒がしくて」

爆笑し若者言葉も使えるお茶目な私の師、前魔術師長セス。
そして金髪碧眼が美しい淑女の見本リリー公爵夫人が彼らを嗜めてくださった。

「いえ、皆様にお会いできるだけで私は幸せですので、お気になさらないで下さい。リリー様もあまり怒らないであげてくださいな」
「あなたは……わかりましたロゼッタに免じて。殿方たち、一ヶ月ぶりに会いに来てくれたレディをしっかりおもてなししてあげなさいな」

少し呆れながらも遅れて来られたお二方のティーセットの準備をメイドに頼んだ。

“毎月必ず会いに来ること”を条件に私はこの国で成人とされる十八歳で公爵邸を出て、一人で身を立てることを許してもらえた。
月に一度の茶会は本当に気ままに近況を語り合う場で、仕事の話はしない。
たまにオタク熱が出て盛り上がってしまうが、彼らなりに線を引き私に気を遣ってくれているのであろうと思ってる。
何せ彼らはこの国の中枢を担う大御所だ。
マテオに至っては王族で、ウィリアムは高位貴族のトップ、セスは前任の魔術師長だ。
彼らが右と言えば、左も右になる。
我ながらすごい面子に拾ってもらえたものだなと感心してしまう。
そんな彼らが純粋に愛を向けてくれたから、私もそれに報いたいのだ。

そんなこんなで近況報告をしているが、今だにソワソワと落ち着きのないお方がいる――マテオだ。

「ゴホンッ……ところでロゼッタ……その……」

――やっぱり気になってるのか。心配性だな。

「ノアのことですか?何度も言いますが、本当に何もありませんよ。個人的に依頼を請け負ってますが、決してやましい関係ではありません。どんな噂なのか知りませんが、純粋にノアとの見聞は私の魔術師としての見識を広めるだけですよ。まぁ、最近は飲みに行ったりなどはしますが、本当に男女の雰囲気とかではなく、魔術師同士の語り合い的な……」

最後の方はなぜか恥ずかしくなり声が小さくなってしまった。
恋愛感情などかけらもないがこれでは誤解されるかも。

「ほっほほ、ウケるウケる。まぁ、マテオが心配するのもわかるが、単純なる意見交換の場じゃのだろうて。ノアとの接点はロゼッタにとってマイナスにはならんじゃろ。そこは儂の名に誓おう」

最近知ったことだか、セスはノアの後見人だ。
――伯爵家の三男坊が家出をし拾って弟子にした――と聞いた時は本人から聞かされてない出自を知ってしまっていいのかと焦ったが、貴族の中では公になっていて周知の事実なのだとか。

「セス殿の名に誓わずとも……ただ俺はロゼッタの幸せだけを願ってるだけだ。彼奴に絡まれただけで、変な虫が湧くであろう?それでロゼッタが傷付きでもしたら、俺は……」

大きな身体を小さく縮めるマテオを見れば、いつもの威厳あるお姿しか知らない国民たちは驚くだろう。
そんな些細なことが心を暖かくする。

「マテオ様、心配してくださりありがとうございます。でも本当に何もないんですよ。私も少し……覚悟してましたけど、本っっ当に何もなくて!教えていただいた護身術や毒舌を披露できなくて逆に困っています」と笑えば、マテオも――そうか。と目尻を下げ琥珀色の綺麗な瞳を見せてくれた。
「悪意ある噂は事実出回っている。気をつけるんだ、ロゼッタ。君やグラヴェルがいくら真実を口にしても、悪意ある虫はどこからでも湧いてくる。……それらの悪意から守る為に我々はいる。それだけは忘れないでくれ」

隠さず現実を示し愛を持って諫言してくれる、頼もしすぎるウィリアム。

――私は本当に果報者だ。

「今度は女子会を開きましょう。殿方がいては恋の話もできないもの」と母のように包み込んでくれるリリー。
この場にはいないが公爵家の三兄弟も私を妹のように思ってくれている。

――この方達に恥じぬように。

彼らが見守ってくれる。それだけで私は心からの笑顔で大きく頷ける。

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