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全てはお金の為に

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 人は誰しも大切なものがあるはず。
 何をおいても守りたいものがある。

 私は身分を偽っている。
 平民出身ではない。
 出自は不明、戦争孤児で三歳まで孤児院で育った。
 膨大な魔力と属性を持て余しながら。
 とある尊きお方が後見人となり、とある高貴な方が養子としてくれた。
 戦争孤児には十分すぎるほどの教育を施し、偉大な師匠もつけてくれた。
 泥沼の貴族社会からは隔離し自分の生きたい様にと道を示してくれた。

 そんな彼らには感謝しても仕切れず、死ぬまでに恩が返せるかも分からないほどの恩がある。
 十八歳になり自立できるようになれば、すぐに家を出てお金を稼ぐことに心血を注いだ。
 幼いころから古書や蔵書の研究が趣味で、図書司書は高給取り。
 すぐに就職先も決めた。
 少しでも魔術を発展させ国に恩を返す、金銭も稼げるだけ稼いで返す。
 故に遊んでる暇も、恋をしている暇もない。
 だからこそ『質素倹約、この世は金が全て』が座右の銘となった。

 ――――

 今日も左手につけてるブレスレットが光を受けキラキラと輝く。
 そこには瞳と同じ色彩の魔石が一粒だけ鎮座している。
 質素倹約ではあるが唯一身につけている装身具、己が魔力と属性を制限させる魔術具だった。
 心情とは裏腹にブレスレットは輝きを放つ。

「今日も来るかしら、運命のお相手様は」
「マリー揶揄うのやめてよ。本当どうしよぉ、ん~……解せぬ……」

 行儀も悪く机に突っ伏す。
 マリーはまだ笑っている。
 そのままモゾモゾと唸っていると、頭上から声がかかる。

「今日も二人は可愛いね。ロゼッタ、進捗どう?」

 ――はぁ、また来たよ。

 あれからノアは一日も欠かさず図書館に進捗を聞きに来たり、資料を取りに来たりと、何かと理由を付けて会いに来るようになった。
 そして今のように甘言を吐く。
 心を曇らせてる理由の一つが、ノアの存在だ。
 
 最初は目の保養であったが、会うたび甘言を吐かれると胸焼けがしてくる。
 はっきり言ってチャラい、そしてウザい。
 ただ流石、最年少魔術師団団長。
 魔術に対しての見解や判断力は申し分なく、違う視点からの発見はすごい刺激になる。
 おかげで、ノア個人からの依頼の数々もすこぶる順調で、出会ってから一ヶ月ほどしか経ってないが、司書の給金の四倍の報償ももらっている。
 依頼内容も、大なり小なりで、古書の解読業務から新しい魔術構築の方式など幅が広く正直とても楽しい。
 だから、やはり解せぬのだ。

 なぜ私? 補佐官いるじゃん。――である。

「ノア様ごきげんよう!ノア様も今日も素敵ですね、癒されます!!でわ、私は製薬の依頼がありますのでこれで失礼します。じゃぁねーロゼッタ」
「ちょっ、マリー!!」

 ニヤニヤと企む顔のマリーの背を縋るように見つめ、覚悟を決めゆっくりと振り返る。

「……ノア様、何度も申し上げますが、毎日来られなくても良いのでは?」
「ノアだ。俺の名前はノア、そう呼べ。このやり取りも毎回だよな、ロゼッタ」

 ――まだ言うか。身分が違いすぎるじゃん。

「はぁぁぁぁぁ、わかりました。ノア。ではノアも毎日図書館に来館しないで下さい」
「なぜ?」

 プッツン、頭の中の何かが切れた音がする。

「なぜ!?そんなの目立つからに決まってるでしょ!?前々から思ってましたけど、特別依頼以外は事務官や補佐官にでもお願いできるでしょ!?ってかその為の補佐官じゃん!!」

 そう、ものすごく怒っているのだ。彼は目立つ。そして、もちろん嫉妬などなんだのも増えるはず。
 臆病者で、平々凡々と好きなことをして平和に過ごしたいだけなのだ。
 なのに最近は周りが煩わしすぎる。
 彼は腐っても魔術師のトップ。事務官や補佐官などサポートする人が大勢いるのだ。
 なのになぜ私!?しかも毎日!?暇なのか!!!!???
 息継ぎなしで捲し立てたせいか、肩で息をする。

「ロゼッタにしかできないから毎回俺がわざわざ会いに来てる」
 ――こいつ何もわかっちゃいない。
「そもそも他の奴らじゃ話にならん」
 ――意味わからん。
「前から気にはなってたんだ。論文にも目を通してる。見識の広さや、着眼点が面白くてな。実際関わってみたら予想以上だ。もう、他は考えられんだろ?」
 ――あら?なんか褒められてる?
「去年か?水の浄化の論文は?――アレには流石に舌を巻いたよ」
 ――去年……

 この国では毎年一回各々の研究発表会が執り行われ優秀者には、その研究に対しての報奨金が出る。
 研究費は馬鹿にならない。
 魔術師団や司書が花形の高給取りとは言え研究費は経費で落ちないものがほとんどだ。
 その中で、如何に研究費を浮かせるか。
 それは全て発表会にかかっている。
 また魔術師や司書は契約期間がある為、ある一定の成果を上げねば契約破棄となり、魔術師や司書を名乗れなくなる。
 その為、契約更新や研究費の為、皆、日々粉骨砕身の思いで働いている。
 司書になったばかりの頃は、研究費にお金を回せず貯金をしながらと細々と新しい文献などの発表をしてきた。
 お金を貯めやりたいことがあった。
 それがノアの言った『水の浄化』についての研究だ。

「まさか二十三歳の若者が光属性を吸収できる鉱石を発見し、浄化魔法を構築した魔石を水道に設置。国民はいつでも浄化された真水が使え、衛生環境も大幅に改善された。しかも光属性の為、医療魔法も魔石に付加できる。改善なんて生温い。これは改革だったよ。しかも君がこんな近くにいるとはな……」

 最後の方は消え入りそうな声だった。

 ――私が近くにって……?

 光属性は浄化や治癒が主で、属性持ちの数も他と比べ格段に少ない。
 しかも従来の魔石には光属性は付加できなかった。
 その為、光属性持ちの魔術師は重宝されていたが、治療院に水道局にと酷使され続けていた。
 それを不憫に思い、幼少期に読んだ覚えのある島の文献を思い出し発掘調査のお金を貯めていた。
 それが大当たりで、その鉱石は光属性を付加でき、しかも小指の爪ほどの大きさの魔石で水の浄化なら五年は持つ燃費の良さだった。
 軽い治療魔法も付加できることを突き止め、医療の補助にも役に立った。
 一年かけ研究して、運営方法を模索し去年の発表で三年間の研究費用免除の上、大量の報奨金をゲットして大喜びしていたのを覚えている。

「……え、っと……ありがとうございます?」
「そうゆうことだから、諦めて受け入れてくれ」
「あ、はい……え゛ぇ!!!!!?」



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