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⑭覚悟
しおりを挟む忙しない足音が家中に響く。
コール音のあと電話口の先へと意識を向けた。
「らんちゃん?どうしたの?」
「…ママ…元気?そっちは変わりないかなと思って」
変わりないことはいい事のはずが今日に限っては落胆する。
「ないない!らんちゃんの表紙を眺めるのが今の私の楽しみ♡」
「そっか…ありがとう、ママ」
「……らんちゃん?」
「うんん、なんでもないよ。また落ち着いたら遊びに行くね。ママと司さんにね、話したい事たくさんあるの。ちゃんと聞いてね」
「もちろん、司にも伝えとくわね」
「うん、またね」
電話を切り今の私にできることは何があるかと途方にくれる。
GPSに映し出された場所はスタジオの近く。
組の人間が向かったがきっと携帯だけが捨てられているのだろう。
私が狙われているとばかり思っていた。
けどその考えが違ったのかもしれないと、龍を失うかもしれない喪失感に膝を抱え縮こまる。
扉を叩く音で顔を上げる。
「…おじいちゃん」
「…大丈夫か?」
私の様子を伺いにきた祖父が隣に腰を落とす。
お互い言葉を発することはなくただ唯一の肉親の温もりを感じていた。
その時携帯が震え画面には待ち人ではない男の名前が映し出される。
「はい」
「藍さん、お元気ですか?」
白々しいと腹の奥が唸る。
「お話したいことがありまして。是非お会いしたいのですが?」
「わかりました。私も丁度お話ししたいと思っていました。どちらに伺えば?」
「えぇ。はい、でわまた」
と電話口を切る。
「おじいちゃん、一人で行ってくる」
「おまっ「ごめん、おじいちゃん。お願い」
捕まれた祖父の手が僅かに震えている。
「…約束したの。生きるのも死ぬのも一緒って。置いてくのも置いてかれるのも契約違反になっちゃう。…だから、ね、おじいちゃん」
祖父は何も言わずただ私を正面から見据える。
「…大丈夫。死ぬつもりなんかないよ。帰ってきたら、私のわがまま聞いてくれる?」
死ぬかもしれない。
けれど恐怖はない。
ただ今は龍と共に生きたい思いの方が全てを上回っているだけだ。
「お前のわがままならいくらでも聞くさ。だから二人で帰ってこい」
「…ありがとう、おじいちゃん。大好き…」
ーーーー
高速道路を通る車に光が反射する。
MAPに映し出される目的地を横目で伺い前を見据える。
車内は静寂に包まれる私一人、脳裏に浮かぶのはただ唯一の男のこと。
「いかにもって場所ですね」
「呼び出して申し訳ない。気になりますか?安心してください。薬で眠っているだけです」
指定場所は湾岸沿いの貸倉庫。
翔と配下の男たちの後ろにぐったりと椅子に腰かける龍の姿が見えた。
「警戒心が強くてなかなか手を焼きました。正直この男がどうなろうと興味はありませんが、貴女を手に入れるには利用した方が効率的だ。そうでしょう?藍さん」
「…要件は?」
「貴女が欲し。それだけです」
「合併はほぼ決まっていたでしょう?結婚も。それ以外に何があるんです」
「んー、わからいものですね。それじゃ意味がない。貴女自身がこちらを選んでくれなければ」
「貴方が欲しいのは私じゃなくて組でしょう」
「ははっ、もちろん貴女自身も手に入れたいに決まっているでしょう?貴女のその体は金になる!男なら手に入れたいと思うのは当たり前だ。彼ではなく私を選びなさい、藍さん」
翔の肩越しに見える龍を見ると怪我はなそうで安堵する。
「まぁ、この男がいると後々色々と面倒だから始末したいんですが…どうしましょうか」
「火遊びじゃ済みませんよ」
「それほどまでに価値があると認めてください」
この男の真意はわからない。
そこまでして喧嘩を売る理由も、私を手に入れたい理由も。
「わかりました。私は何をすれば?」
「でわこのままデートでもどうですか?親睦を深めましょう」
腰を抱かれ顎を掬われ、翔の瞳に私が映る。
触れられて場所から熱が引き胃の奥から不快感が込み上げるのを歯を食いしばり堪えた。
頬に舌を当てがいながら恍惚と笑う翔が耳元で囁く。
「美しものが蹂躙されるのが大好物なんですよ…」
囲われた腕を払おうとしても男の体はびくともしない。
耳朶を舐られ悪寒が増す。
「その顔はただ私を煽るだけですよ…当分は貴女で楽しめそうだ」
襟をはだけさせ頸や鎖骨に舌を這わせる。
全身を覆う不快感を忘れようと虚空を睨んだ。
震えぬよう体を強張らせ不快感が過ぎるのを耐える。
龍とは違う香りと温もりに体の奥から冷えるのを感じた。
程なくし飽きた翔が体を離し首を傾げた。
「あまりにも反応がないとつまらないですね…好いた男の前で快楽を得るのが性癖だと思ってましたが、違ったようですね」
と不気味な笑顔を向ける。
――調べ済みか
過去にレイプされたことを言ったのであろう。
軽い挑発を受け流し自らの衣服を正す。
「おあいにく様。ただ貴方が下手だっただけで何も感じないのよ」
「…言ってくれますね。そうでなくては!」
この世界はどこまでいっても異常者の集まりだ。
面白がる男を冷めた目で見つめる。
手を顔で覆いクツクツと笑う男の指の間から三日月型に形を変えた瞳と目が合う。
「――異常者」
私の小さな囁きは男達の足音に消え、静かにその場を後にした。
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