牡丹への恋路

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⑫指標

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 あれから何事もなく数日が過ぎた。

 変わったことと言えば私と龍は毎日のように触れ合っている。

 お互い確信を付くことは発せず爛れた日々を過ごしている。

 コーヒーの香りに包まれながらソファに二人で寛ぐのも当たり前になっていた。



「今日はどうするの?」

「何かやりたいことあるか?」



 私の頬に落ちる髪を耳に掛けながら龍が聞く。

 節くれだった掌を頬に擦りよせ自然とお互いの唇が重なり合う。

 偽りだとしても、この幸せが続けばいいと願いながら腕を回し重なり合う唇が深くなる。

 少し乾燥した龍の手が上着を裾から持ち上げ柔肌を撫でる。



「っは、龍…手、冷たい」



 首や耳を舐られ同時に大きな手が双丘に届く。

 掬うように掴まれすでに固く腫れ始めた蕾を優しく龍の親指が撫でた。



「ぅんっ」

「温めてくれないのか?…声、聞かせろ」

「っ馬鹿龍…」



 触れる場所から肌が粟立ち仰け反る。

 胸を突きだす姿勢になり龍がにやりと口角を上げた。



「食べて欲しいのか?」

「っちが!っんぁ、龍がぁっ」



 龍の愛撫に翻弄されすでに蜜口から愛液が流れクロッチの色を変えている。

 龍の剛直もそそり立ち布越しでも分かるほどだ。

 互いに我慢が効かず早急に下半身の服を脱ごうとした時――



「龍さん!お嬢!起きてますかー!?」

「「!!!!」」



 雅人の声が響き互いに目を合わせる。



「――あれー?まだ寝てんのか?ったく、怠けてるなぁ」



 雅人の呆れ声が聞こえ玄関の閉まる音が聞こえる。

 ぼすっと私の胸に顔をうずめ大きく息を吐いた龍が叫ぶ。



「おい雅人!お嬢が準備中だ。そっから動くな」

「えっ!起きてた!はいっ!!了解です!!」



 素直というか従順というか、雅人の反応にくすくすと笑い合う。



「あっ!!親父が呼んでるって伝えに来ただけなんで、支度できたら母屋に来てください!でわまた!!」



 玄関が閉まり雅人が駆けていく足音が聞く。



「――今は、お預けだね、ふふっ」

「今夜はその分楽しませてもらうからな」



 笑い合いお互い支度を始めた。



「親父、お嬢をお連れしました」



 母屋に赴き座敷へと入る。

 そこには思いもよらぬ人物が祖父と共に待っていた。



「こんにちは、藍さん」

「…和嶋さん」

「翔でいいですよ。私たちの中じゃないですか。…深谷さんもお疲れ様です。藍さんの側にいて下さっているとお聞きしました。ありがとうございます」

「和嶋さん――」

「本当は私が藍さんをお守りしたいところですが…この状況ですし。御実家に滞在してくれて、しかも噂の深谷さんが側で警戒してくれていると聞き安心して眠れる。感謝しているのです」



 まだ正式な婚約もしていないし翔とはあの時の一回きりしか会っていない。

 距離の縮め方に肌寒さを覚える。



「本日はどうして…?」



 祖父に目配せを送りながら翔に尋ねた。



「世論が少し落ち着いてきたのでご挨拶に。本当はすぐにでも駆けつけたかったのですがこちらも幾分対応に手こずりまして…私たちが呼び出してしまったばっかりに藍さんに辛い思いをさせてしまっているのでわないかと謝罪を兼ねて伺った次第です」



 祖父と龍を交互に見やり対応を促す。

 溜息交じりに祖父が答えた。



「礼も何も結構だ。土産話もねぇなら帰れ。まだ時期じゃねぇ」

「…そうですか。それは残念です。私としては親睦を深めたかったのですが」

「和嶋の若の脳内はお花畑か?組と藍のことを思うなら行動には気を付けろ。まだそこら中に犬ころが嗅ぎまわってるんだ」



 祖父のいつにない剣幕に同調するかのように龍からも殺気が溢れ部屋の空気が冷える。

 二人の雰囲気に物ともしない翔が不気味な笑顔を向けた。



「そのことで私からご提案があるのです。こそこそと隠すから犬たちは必死に知りたがる。だったら堂々と表立てばいいのでは?」

「お前っ!」

「まぁまぁ、深谷さん。貴方にもいい話だと思いますよ。藍さんの美貌は本物です。いっそその世界に進出してみてはいかがでしょう?丸山組は昔から金貸しが基本ですよね?ならもちろんあちらの業界にも伝手があるはずだ。一昔前には“極妻”が流行ったんです。堅気の人たちの大好物、すごい額が動く」

「お嬢を商品にする気か」

「商品だなんて言い方はよくないなぁ。顔が割れてしまったんだし、写真を何枚か撮るだけでお小遣い以上の額がもらえる。しかも伝手があるなら藍さんの身を守ることも、わざわざ深谷さんが時間を割いてでしゃばらなくとも問題ないのでは?私は合理的な提案をしただけです、お互いの組にとってね?」



 男たちが火花を散らす会話に口を挟むつもりはないが守られるだけなのは私もごめん被りたい。

 和嶋の目的も狙いもわからない今現状維持は悪手だと思う。

 祖父と目が合い私に話を促す。



「藍、お前は?どうしたい」

「……和嶋さんの話に乗ろうと思う」

「っお嬢!!」

「藍さん!!」



 龍と翔が同時に声を上げるが祖父が間に入る。



「…本気か?」

「うん。このままで良いわけないし、私が動けば何かわかるかもしれないし。和嶋さんの話はうちにとっても利益につながると思う」



 祖父を見据えて伝えると、やれやれと言った感じで肩を落とした。



「まぁ、そういうことだと。龍、準備しろ。和嶋の若は親父さんに伝えてくれ、手出しは無用だ」

「「かしこまりました」」



 男たちが座敷を後にし部屋には祖父と二人きり縁側を見つめた。

 祖父は何も言わずにただそこで佇んでいた。



「…おじいちゃん」

「…お前は本当あいつに似ている」

「…お母さんに?」

「あぁ。…藍、俺は…」

「らしくないよ、おじいちゃん。私はお母さんとは違う。私はまだ未熟だけどこっちの人間だよ。散る時は道連れにしてあげる」



 祖父の目を外すことなく告げる。

 私はどこまで行っても普通でわない。

 幼い頃から裏の社会を知って育ってきた。

 ただ、この年になってやっと覚悟ができたでけだ。



「遅くなってごめんね、おじいちゃん」



 微笑み返してくれる祖父の目には少し憂いの影がさすのを私はやり過ごして部屋を後にした。

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