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忘れ物みたいな言葉

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 氷雨茉宵を殺すのは難しいことじゃなかった。
 朝起きてから顔を洗って、遊びに連れていって。そしていつか「愛してる」と伝えるでいい。
 けれど彼女を助けることは、その何倍も難しい。

 僕は彼女を救えなかった。
 本来は体の内側にしか出来ない結晶が、茉宵の体表面まで進行したのだ。僕の結晶も同じように、体中を蝕んでいる。
 僕らはもう長くないだろう。
 けれどこの話には、少しだけ続きがある。
 みんなが程々に幸せになって、拍手の中に幕を下ろした劇の、その裏側でひっそりと手渡される花束のような。これは一匹の怪物に触れた、オマケの話だ。
 そこにはみんなを助けるヒーローも、悪を懲らしめるパニッシャーも登場しない。
 これは僕が彼女と過ごした、ほんの数日の日常の話だ。
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