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ただいまと、さよならと

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 揺れる車内。時々漏れてくる隠語まみれの警察無線。
 窓外を流れる夜は時々ネオンの残光を引いていて、その遠い輝きが、やけに遠くにきてしまったのだと錯覚させる。

「俺が追い詰めて殺したんだが、上に揉み消されてな。ここに来たのは、何もかもにうんざりしちまったからなんだ」

 笑ってもいいんだぜ、と檜垣さんがスマホに目を落とす。
 僕は静かに首を振った。

「だから、僕を殺したいって言ったんですか」
「ああ、何がなんでも裁きたかった。そのために下手な追及をせず油断させてたんだが、事情が変わった」

 いくつかの操作を僕から見えないように進めていく。
 それから檜垣さんは僕にスマホを見せてきた。

「惚れた女のために無茶するガキを、オッチャンは裁けん」

 にっかりと檜垣さんが笑う。
 画面の中には氷雨の写真が大量に表示されていた。

「これが目的だったんだろ」

 反射的に手が伸びた。その手を檜垣さんに弾かれる。

「まぁ、待てよ。オッチャンも坊主と同じさ」
「は、同じ?」

 バクバクと脈打つ心臓を抑えながら、檜垣さんを睨みつける。

「主犯格をパクろうってことですか」
「お前らみたいに暴力的じゃあないが、おおむね一緒だ。かわいい女の子から相談があった、ってセンターから聞いてな」

 氷雨だ、と即座に理解した。同時に少しの不安に胸が濁る。

「じゃあ、あの一年たちはどうなるんです?」
「そりゃま、退学だろうよ。リベンジポルノは犯罪なんだぜ?」

 全身から力が抜ける。
 長い長い吐息が、肺の深い所から滲み出してくる。

「なんだよ……。じゃあ僕らは、余計なことをしただけなんじゃないか」
「おうよ。巻き込んだあのガキ大将にも、ちゃんと謝っとけよ」

 結局、氷雨は自分で自分の始末をつけたのだ。
 ズルズルと背もたれを滑る僕をひとしきり笑ったあと、檜垣さんが優しげな声で言った。

「強い子だな」
「ええ、腹立たしいほどに」

 僕も笑う。乾いた笑みの底から急激な愛おしさが湧き出てきて、僕はその場で一人、顔を覆った。
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