上 下
85 / 119
ただいまと、さよならと

しおりを挟む
 揺れる車内。時々漏れてくる隠語まみれの警察無線。
 窓外を流れる夜は時々ネオンの残光を引いていて、その遠い輝きが、やけに遠くにきてしまったのだと錯覚させる。

「俺が追い詰めて殺したんだが、上に揉み消されてな。ここに来たのは、何もかもにうんざりしちまったからなんだ」

 笑ってもいいんだぜ、と檜垣さんがスマホに目を落とす。
 僕は静かに首を振った。

「だから、僕を殺したいって言ったんですか」
「ああ、何がなんでも裁きたかった。そのために下手な追及をせず油断させてたんだが、事情が変わった」

 いくつかの操作を僕から見えないように進めていく。
 それから檜垣さんは僕にスマホを見せてきた。

「惚れた女のために無茶するガキを、オッチャンは裁けん」

 にっかりと檜垣さんが笑う。
 画面の中には氷雨の写真が大量に表示されていた。

「これが目的だったんだろ」

 反射的に手が伸びた。その手を檜垣さんに弾かれる。

「まぁ、待てよ。オッチャンも坊主と同じさ」
「は、同じ?」

 バクバクと脈打つ心臓を抑えながら、檜垣さんを睨みつける。

「主犯格をパクろうってことですか」
「お前らみたいに暴力的じゃあないが、おおむね一緒だ。かわいい女の子から相談があった、ってセンターから聞いてな」

 氷雨だ、と即座に理解した。同時に少しの不安に胸が濁る。

「じゃあ、あの一年たちはどうなるんです?」
「そりゃま、退学だろうよ。リベンジポルノは犯罪なんだぜ?」

 全身から力が抜ける。
 長い長い吐息が、肺の深い所から滲み出してくる。

「なんだよ……。じゃあ僕らは、余計なことをしただけなんじゃないか」
「おうよ。巻き込んだあのガキ大将にも、ちゃんと謝っとけよ」

 結局、氷雨は自分で自分の始末をつけたのだ。
 ズルズルと背もたれを滑る僕をひとしきり笑ったあと、檜垣さんが優しげな声で言った。

「強い子だな」
「ええ、腹立たしいほどに」

 僕も笑う。乾いた笑みの底から急激な愛おしさが湧き出てきて、僕はその場で一人、顔を覆った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】雨上がり、後悔を抱く

私雨
ライト文芸
 夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。  雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。  雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。  『信じる』彼と『信じない』彼女――  果たして、誰が正しいのだろうか……?  これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

初愛シュークリーム

吉沢 月見
ライト文芸
WEBデザイナーの利紗子とパティシエールの郁実は女同士で付き合っている。二人は田舎に移住し、郁実はシュークリーム店をオープンさせる。付き合っていることを周囲に話したりはしないが、互いを大事に想っていることには変わりない。同棲を開始し、ますます相手を好きになったり、自分を不甲斐ないと感じたり。それでもお互いが大事な二人の物語。 第6回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

処理中です...