君を殺せば、世界はきっと優しくなるから

鷹尾だらり

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空を目指して浮いた泡

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 僕らは県をまたいで都市部に向かい、そこでひとまず昼食を食べた。
 氷雨はレモンとサーモンのクリームパスタをおいしそうに頬張っていた。彩り程度に添えられたイクラを、砂漠で最後の水滴を飲む時みたいに悲しげに口に運んでいる。
 僕はエビのスープパスタを注文して、セットでついて来たバケットを浸して食べる。甲殻類の旨味を凝縮したビスクが舌に優しく染み込んでいく。
 会計は氷雨の心情を汲んで割り勘にし、その分ショッピングの時にイヤリングをプレゼントとして手渡した。僕だって見栄の欠片くらいは持ち合わせているのだ。

「これ、大事にしますね」

 少年みたいに無邪気な笑顔を氷雨が向けてくる。
 僕は笑って、後ろ手を握り締める。不穏な鼓動を聞かせる心臓が煩わしい。
 これすらも長い殺害計画の一部なんだ。浮かれている余裕はない。
 僕らはメトロに乗って、地域で一番大きな水族館に向かった。
 地上に出ると、陽は微かに中天を過ぎている。ちょうど人が途切れる時間帯なのか、水族館のある港までの道は空いていた。
 何組かのカップルが手を繋いで歩いている。僕らはその後ろを無言になって歩く。
 どちらから切り出した沈黙でもなかった。気忙しい蝉の潮騒が、ほんの一瞬の偶然が重なって途絶えるように。偶然生まれた沈黙と、僕らは手を繋いで歩いた。

「ねね、よぎセン」

 隣接するショッピングモールが見えてきたところで、氷雨がそっと僕を呼ぶ。
 視線は合わない。服の袖を引っ張るような、静かな声だった。

「観覧車、後で乗りませんか」
「いいよ。乗ろうか」

 頷くと、視界の端で「やった」と氷雨が小さくガッツポーズをした。
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