君を殺せば、世界はきっと優しくなるから

鷹尾だらり

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善人なんていやしない

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 午前の授業が終わるまで、僕は愛結晶についてノートをまとめてみる。

《愛結晶=愛情が主要臓器(子宮や心臓)を結晶化させる》

 我ながらひどい妄想だとも思うけど、事実は揺るぎない。母の死がきっかけとなり、僕の症状は医師の知るところとなった。
 その時の医者の言葉を思い出しながら、僕はシャーペンを走らせる。

《原因:不明。医者は使えない》

 とにかく僕の愛情と言う奴は、望む望まざるに関わらず人を殺してしまう。
 思うにこれは、優しくない人間を間引く選別なのだと思う。
 愛情を道具に金をせびるやつ、浮気をするやつ。僕は愛を美しいものだとは思えないけれど、少なくともきっと傷を生むためのものじゃない。信頼とか、安心とか幸せとか、そういった優しいもののはずだ。
 だったら──

《どうしてみんな、傷ついてまで人を愛する?》

 不必要な文を書いてしまって、すぐに消す。
 そしてまたペンを走らせる。

《しかし》

 ここからが大切だ。

《愛結晶を持っているのは僕(夜霧晴冴《やぎりせいご》)だけではないのだろう》

 僕は別段、自分が特別な人間だとは思っていない。同じ病気の人間は他にもいるだろう。
 例えば浮気者や、愛されることでしか自分に価値を見出だせない。そう言った人種を殺していくのは優しい世界を実現する上では、一種の正義になりうる。
 でも、と僕は思う。

《別の正義や愛結晶キャリアから見た僕は立派な悪であり、そいつが僕と似た理想を持っていた場合は、》

 そこまで書いて、ペン先でノートをコツコツと小突く。しばらくしてまたシャーペンを走らせる。

《僕もまた、殺害対象になる可能性は大きい》

 そこまで一気に書いて、机に突っ伏す。
 空っぽの机に教師の声がぐわんと響いて、眠気を誘う。何度もうたた寝を繰り返していたから、結局午前の授業は全く頭に入ってこなかった。
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