君を殺せば、世界はきっと優しくなるから

鷹尾だらり

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優しい世界の作り方

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 アパートの軒下まで着いて、ようやく少女の傘から解放される。出来るだけ友好的な笑みを浮かべて、僕は彼女に振り返った。

「ご親切にどうも有り難う。お陰で左肩しか濡れずに済んだよ」
「いえいえそんな。次からは大きめの傘買っときますね~」

 彼女は何も理解していないような口調で笑った。
 けれどその言葉は投げられた嫌味を完璧に理解していて、それが却って僕の惨めさを際立たせる。

「って言っても、さすがにもう会わないか~」

 少女が能天気に笑う。僕は何も答えなかった。
 今後僕が彼女と顔を会わせる可能性は、ただの通りすがりよりはずっと高い。ただそれを言ってしまうと、この不毛なやり取りが長引きそうだった。

「とにかく助かったよ。それじゃ、さよなら」

 一方的に言って、返事も待たずに振り返る。
 色褪せた階段の一段目に足をかけた時、少女の声が後ろ髪を掴んだ。

「さよーならー! 人殺しのおにーサーン!」

 なんてことを言うんだ、大声で。
 思わず振り返りそうになって、誤魔化すように階段を駆け上がる。力任せに扉を閉めて、すぐに喪服を脱いだ。
 軽く髪を拭いてから寝間着に着替えてベッドに倒れ込む。それからスマホのアルバムを漁って、先週末殺した恋人の写真を眺めることにした。

 窓が弾いた雨音と、コツコツと液晶を叩く爪の音。静かな呼吸を寝室に溶かして、恋人との思い出を一枚一枚消していく。アルバムをそっと閉じる。
 暗転した画面には、ひどく虚しげに笑う僕がいて。不意に前髪から滴った雨のせいで、そいつはまるで泣いているように見えた。
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