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怪しいバイト

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新しいバイトを始めたきっかけは、実家からの仕送りが途絶えたこと。
最初は、一時的なことだと思っていたけれど、家業の倒産や借金など何やらただ事ではないらしい。つまり、生活費だけでなく今後の授業料すら捻出できない状態とのことだ。
大学生になってから始めた居酒屋のバイトを増やせば、何とか家賃と生活費を賄うことができるかもしれないが、授業料までは難しい。その授業料の支払い期限は3日後。少しでも遅れると中退になってしまう。かといって、折角必死に勉強して入った大学を中退したくもない。そんな俺の目に入ったのが

『配信アシスタント。日給10万円即日払い。未経験歓迎』

という文字だった。求人サイトではなくSNSに書き込まれていたもので、普段なら怪しんでいただろう。ただ、もしこのバイトができれば、なけなしの貯金と合わせて授業料問題はクリアできるかもしれない。運が良ければ、その先の生活費もこのバイトで賄えるかもしれない。そう思って、俺はDMを送ってみた。
送った後に一瞬冷静になる時間があったけれど、配信者は1日に凄い金額を稼ぐ人も多いと聞く。その人のSNSを改めて見てみると、アップされている写真はタレントのSに似た整った顔をしていた。これなら人気もあるだろう。人気配信者であれば、俺にとって大金と思えるような金額も、はした金なのだろうという考えに落ち着いた。
暫くすると、写真を送って欲しいという返信が届き、自撮りを送ると、採用するから今から来れないかとメッセージが届いた。その文面を見て、俺は急いで書かれた場所へと向かった。

指定された場所は、俺が社会人として働きだしても、到底住めそうにないと思えるほど立派なタワーマンションの高層階だった。
「こんにちは。えっと…」
「高瀬充です」
「充くんね。僕は配信者をしているレイ。今日はよろしくね」
「…は、はい!」
目の前には、SNSで見た通りの、いやそれよりさらにカッコよく感じる男性が立っていた。平凡を絵に描いたような自分とは全然違うなと劣等感を感じてしまう。
「緊張しなくて大丈夫だからね」
そう言いながら、レイさんは俺を部屋の奥へと案内する。内装は勿論、置かれている物もやたらセンスがいい。
案内された部屋で契約書を出された。小さな文字で色々書いてある。ちゃんと読んだ方が良いと思ったけれど
「1時間後に配信スタートだから、すぐにサインをしてくれると助かるな」
と、言われた。
「で、でも、こういうのはちゃんと読まないと…」
「この契約書で重要なのは、配信中に質問を受けたら素直に答えること、僕の指示を拒まないこと、この2つ。これさえ守ってくれたら、帰りに現金で10万円支払うから。あ、配信が好評ならボーナスも上乗せする」
言われて、契約書に目を通すと、口頭説明と変わらない内容が書かれていた。多少の不安はあるものの、10万円以上稼げる可能性に心惹かれ、契約書にサインをした。

その後に、指示されたことは風呂に入って着替えをすることだった。言われるまま、広い風呂に案内されシャワーを浴びる。用意されていたのは、僕が履いていたのに近いデザインのパンツ。そして、ゆったりとしたサイズのシャツだった。ズボン的な物は用意されていない。用意されたものを羽織り、カイさんがいる場所に恐る恐る近づく。男同士とはいえ、下半身はパンツだけという状態で顔を合わせるのは気恥ずかしい。
「ん。似合ってるね!じゃあ、仕事の流れを説明するよ」
俺の恥ずかしさなんて、他所にレイさんは俺を配信部屋に案内する。そこに会ったのは、パソコンやカメラなどの機材、そして配信時に座っているのであろう、ゆったりとしたソファだった。ソファに座るように促され、素直に従う。ただ、下半身はほぼ裸で、なんとも落ち着かない。
そんな俺に、レイさんは配信でコメントが流れる画面などについて説明していく。
「…お、俺は何をすれば…?」
「最初は、今日のアシスタントとして俺の横で視聴者の質問に答えて貰おうかな」
「え?お、俺も出るんですか…!?」
「恥ずかしかったら、マスクをしててもいいよ?」
レイさんは、そう言いながら俺にウレタン製のマスクを手渡す。確かに、これがあれば顔を隠すことができる。身バレもあれだけど、マスクをしていれば自分の平凡さが引き立たずに済むのではないか、そんなことも考えてしまう。
しばらく考えた末、俺はマスクをして仕事を手伝うことにした。

配信時の僕の名前はトオルに決まった。呼びやすく、この名前から本名の推測もできないためだ。
配信時間は3時間位を予定しているとのことだった。最初の準備を合わせても、拘束時間は4~5時間。それで10万円とっぱらいは太っ腹もいいところだ。準備中は不安もあったけれど、実際にあと少しで現金を手にできると思うと、頑張ろうという気持ちが芽生えてきた。ただ、その気持ちは配信スタートと同時に打ち砕かれた。

『トオルくん、今まで何本くらいおちんちんを咥えてきたのかなぁ?』
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