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意味も分からなく怖くもない話

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言っておくが、この話は怖くない。

だって、俺は怖い話が苦手だ。
幽霊だって、怖いから信じていない。

そんな俺が体験した話。


あれは夏の日だった。
俺は、大学の友人、雄介と大河と一緒に廃墟を訪れていた。幽霊が出るっていう廃墟だ。
動画投稿者や配信者がこぞって訪れるスポットで、俺らが訪れた目的も似たようなものだった。

動画投稿で人気になれば、就職しなくても好きなことで生きていける。そう思って3人で動画投稿チャンネルを始めた。やってみた系の動画や、商品紹介など色々なことに挑戦した。質問を募集して生配信をしたこともある。
だけど、チャンネル登録者数や再生数は思うように伸びない上、質問に答える配信で来た質問は、たった1通だった。

『D県N市にあるR小学校を知っていますか?R小学校といっても、既に廃校となっており、今は当時の校舎が残っているだけです。
最近、動画投稿者や配信者が紹介することが増えているため、名前くらい聞いたことがあるんじゃないかなと思います。
まず、どうしてこの廃校について聞いているか、説明しますね。
この廃校が注目を集めているのは、20年前に廃校となって以降、校舎がずっとそのまま残り廃墟状態となっているためです。ただ、廃校となったのは過疎化が原因であり、この場所で何かがあったという訳ではありません。
そのため、幽霊などが出る根拠がないのです。実際に、数多くの動画が投稿され、配信アーカイブも残っていますが、霊的なものが映ったことはありません。
それなのに、今も動画投稿者や配信者が頻繁に訪れています。
そこで、サザエのつぼ焼きチャンネルの皆様に相談です。
この廃墟を訪れ、ここには霊的なものはない。普通の廃校だということを証明して貰えないでしょうか?
白黒黄色』

想定した質問メールとは全く違ったし、折角送ってくれたからというか、これ一通しか届かなかったため、俺は生配信でこのメールを読んだ。折角生配信の枠を取ったから、それだけの理由でだ。
閲覧者は片手で数える程の上に、質問の内容が内容だけに、その場は全く盛り上がらず、苦笑いで生配信は幕を閉じた。

「なんだよ、白黒黄色って」
「チューリップの歌じゃね?」
「…あれ、赤白黄色だろ?」
生配信修了後の反省会という名の飲み会の途中、会話の中に出てきたのはあのメールの話題だった。
「でも、廃墟ツアーっていいよな」
「まぁ、ネタ切れだし、行ってみるのもいいかもな」
そう。動画投稿で生きていけたらという気持ちはあるものの、俺たちはネタ切れで悩んでした。そんな中に、舞い込んだネタ提供。乗ってみるのも悪くない。


そんな生配信から1週間後、俺達はR小学校に来ていた。
霊的なものを見つける為ではなく、霊がいない証明をするためなので、昼間に来た。と言っても、N市はD県の県庁所在地駅からかなり遠い上に、バスも1日に数本だけ。想像以上に移動に時間を取られ、到着したのは夕方の4時だった。
ここに来る前に、R小学校に関する動画やアーカイブを何本か視聴していたが、実際に見ると想像以上に廃れていて、本当に幽霊が出るんじゃないかな、そんな気がした。
「俺、霊感ないし」
そう言うと、2人は「じゃあ、斉藤先頭な」と俺の背中を押した。
「や!霊感はないけど、怖いのは苦手なんだって!」
「大丈夫。この学校の歴史調べたけれど、霊が出るような要素も噂もなかったから」
「…大丈夫って言うなら、雄介が先頭行けよ!」
そんなことを言いながら、俺らは足を進めていく。今回は、大河がカメラ担当だ。
俺らは、廃墟の中に入り、今は使われていない教室や職員室などを探索していく。明るい時間だから平気だが、暗い時間に来たら、その辺のお化け屋敷よりもかなり怖いだろうと思った。
「雰囲気は怖いけど、意外と普通の学校だな」
「…でも、なんか臭くね?」
大河が言う。異臭がする原因を探すと、教室の隅の掃除用具入れが目に入った。
「あれじゃない?マナーの悪い投稿者が、ここにゴミと書入れてるんじゃね?」
「ありえる!」
俺らは、軽い気持ちで掃除用具入れを開けた。
そこから出てきたのは、ゴミではなく腐敗した死体だった。


「第一発見者として注目を集めるんじゃないか!」
一瞬不埒な考えた過ったが、現実は想像以上に大変だった。

立ち入り禁止と書かれたR小学校に勝手に侵入したことを、警察からこっぴどく叱られた。さらに、テレビでは動画投稿しているグループが死体を発見したと、大々的に流された。チャンネル名や名前などは出なかったが、質問生配信を観た人がSNSで「もしかしたら」と呟いたらしく、配信アーカイブの再生数が凄い勢いで上昇した。大学では知らないふりを通したが、きっとバレていただろう。
ネタ的には美味しいが、このことを動画で話したりすれば、警察から怒られる以上に苦情が殺到して炎上してしまう。そう思うと、動画制作にも力が入らず、俺たちのチャンネルはそのまま放置、グループは自然解消となった。
俺たちの中で、一番の再生数が多い動画となったのはあの配信アーカイブだ。消すと怪しまれるので、アーカイブもそのまま残してある。


そして、俺は今、普通の社会人として働いている。
霊的な意味の怖い思いはしていないけれど、夏になるとあの日を思い出す。
軽い気持ちで心霊スポットに行ったら、夢を無くして就職をすることになった。ある意味怖い話だ。


死体が誰か分かっていないし、犯人はまだ見つかっていない。

そういえば、あの後「白黒黄色」さんからメッセージが届いていた。
『R小学校に来ていただきありがとうございました。
おかげで、穏やかな生活を送れそうです』
白黒黄色さんのメッセージから察するに、あの小学校を訪れる輩はいなくなったようだ。
俺達にとっては散々な一日だったが、何かの役に立ったと思うと悪くない気がする。


社会人になって少し経った頃、大河が結婚をした。
「大河くんが動画で生きていくことを諦めて就職してくれたおかげで、お父様が結婚を認めてくれて」
大河の妻になった由里さんは穏やかにほほ笑む。お父様というのは、誰もが知る企業の創業者で、いわゆる逆玉の輿というやつだ。
久しぶりに集まった俺たちの姿を嬉しそうに撮影する由里さんのスマホのカバーには、可愛い三毛猫がプリントされていた。
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