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転生したら幸せが待っていた話
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神様というのは凄い力を持っているらしい。
無事結ばれたお礼に、岬達は元の姿に戻して貰えることになった。
目が覚めた時に見えたのは、白い部屋の壁だった。看護師と医師が岬の顔を覗き込んでいる。
岬はその光景にデジャヴを感じた。ラブホテルの鏡に転生した時に戻ったのだろうかと思ったが、そこは正真正銘の病院だった。
「わっ!」
隣のベッドから、聞き覚えのある声が聞こえた。緑の声だ。
「…え?緑さん…?」
「もしかして…岬ちゃん?」
体を動かしてみると、特に痛いこともない。怪我をしている様子もなかった。恐る恐るカーテンを開けると、見知らぬ女性がこっちを見ていた。
「…あ、…は、初めまして」
「こちらこそ…」
変な気恥ずかしさを感じながら、微妙な挨拶を交わす。
あの部屋で叫び倒していた緑は、仕事ができそうな大人の女性だった。
そして、部屋にはもう一人、男性の患者がいた。
看護師が「ごめんなさいね。バス事故でけが人や意識不明の人が多くて、男女同室になってて」と説明をしてくれる。話を聞いていると、岬達はバスに乗っている途中で事故に巻き込まれたことになっているらしい。
看護師が出ていくと、もう一人がいるというスペースのカーテンが開いた。
「岬ちゃんと緑さんね」
出てきたのは、40代位だろうか。爽やかな感じの男性だった。
「…キラリ…さん?」
「正解ですね」
そう言ってキラリは笑う。名前を聞いて同年代位を想像していたが、意外と上そうで岬は驚いた。全員初対面の筈だが、転生時の記憶があるせいか、すぐに意気投合する。
ただ、同時にどうしようもない不安が襲ってきた。
「ねこぱよは!?」
神様は岬達を元の姿に戻してくれた。ただ、あの時にいたのは3人だけだ。ねこぱよは、その場にいたのかすら分からない。
「ねこぱよ…ねこぱよ…!!!」
岬は取り乱す。もう一つのベッドを確認しても、誰も寝ていない。生死の確認をしようすらない。
「ねこぱよーーー!」
大きな声を上げた時
「ハンドルネームを…叫ばないで貰えます…?」
部屋の入り口から声が聞こえた。
そこには、黒髪ロングで大人しそうな女の子が立っていた。
「ねこぱよ!?」
「だから…、ハンドルネームは……」
「だって、名前知らない…」
ホッとしたのだろうか、岬は泣きながら訊ねる。
「清水麗華です」
1週間後、4人はラブホテルの前に立っていた。転生したホテルだ。
エアシューターが残っているなどの条件から、キラリが探し当てたのだ。話通り、古い感じのホテルだった。
ただ、懐かしむためにこのホテルに来たのではない。
キラリは3人に向かって「任せて下さいね」というと、ホテルに足を向けた。
3人が転生したホテルがリニューアルオープンをしたのは1年後だった。
岬は無事に高校を卒業し、大学生になっていた。選んだのは、あのホテルがある市にキャンパスがあるホテルだ。
大学終わりに、例のホテルに向かう。近づいた時、前からねこぱよが歩いてくるのが見えた。
「麗華ちゃん、こっちの暮らし慣れた?」
「なんとか頑張ってる…」
ねこぱよは最近、こっちへ引っ越してきた。今はもう引きこもりではない。
「あ…、緑さんが…、今度…パーティー…しようって…」
「いいねー」
2人一緒に例のホテルに向かう。岬はホテルの受付、ねこぱよは清掃係としてバイトをしている。仕事のための準備をしていると、オーナーが入ってきた。
「キラリさん…!いえ、オーナー」
「キラリでいいですよ?」
あの後分かったことだが、キラリはいわゆる不動産王として名を馳せている男性だった。結婚はしておらず、男と女のどちらが恋愛対象なのか誰も知らない。ただ、仕事はとても順調で今も業績を伸ばしている。
キラリは、その財力を活かし、ホテルを丸ごと買い取った。そしてリニューアルオープンまでこぎつけた。
コンセプトは性別関係なしに利用しやすいホテルだ。
元々、男性同士の利用客が多かったホテルだけに、リニューアルオープン後の利用者の大半は男性同士のカップルだ。そして、もう一つ、ホテルの後押しとなったのが、一冊の小説だ。
岬達が元の姿に戻った後、このホテルをモデルにした小説が発行された。SNSから火が付き、この小説は大きな話題となった。そして、モデルとなったホテルは聖地のように扱われ始めた。
その作者の名前は『神崎緑』。
ねこぱよというアシスタントと一緒に暮らしながら、新作を執筆中らしい。
そんな聖地と言われるホテルの中には、客が利用できない部屋がある。
壁のライトと鏡、エアシューター用のカプセルと使い古したシーツが置かれたその部屋には、神棚があって神様が祀られているらしい。
終わり。
無事結ばれたお礼に、岬達は元の姿に戻して貰えることになった。
目が覚めた時に見えたのは、白い部屋の壁だった。看護師と医師が岬の顔を覗き込んでいる。
岬はその光景にデジャヴを感じた。ラブホテルの鏡に転生した時に戻ったのだろうかと思ったが、そこは正真正銘の病院だった。
「わっ!」
隣のベッドから、聞き覚えのある声が聞こえた。緑の声だ。
「…え?緑さん…?」
「もしかして…岬ちゃん?」
体を動かしてみると、特に痛いこともない。怪我をしている様子もなかった。恐る恐るカーテンを開けると、見知らぬ女性がこっちを見ていた。
「…あ、…は、初めまして」
「こちらこそ…」
変な気恥ずかしさを感じながら、微妙な挨拶を交わす。
あの部屋で叫び倒していた緑は、仕事ができそうな大人の女性だった。
そして、部屋にはもう一人、男性の患者がいた。
看護師が「ごめんなさいね。バス事故でけが人や意識不明の人が多くて、男女同室になってて」と説明をしてくれる。話を聞いていると、岬達はバスに乗っている途中で事故に巻き込まれたことになっているらしい。
看護師が出ていくと、もう一人がいるというスペースのカーテンが開いた。
「岬ちゃんと緑さんね」
出てきたのは、40代位だろうか。爽やかな感じの男性だった。
「…キラリ…さん?」
「正解ですね」
そう言ってキラリは笑う。名前を聞いて同年代位を想像していたが、意外と上そうで岬は驚いた。全員初対面の筈だが、転生時の記憶があるせいか、すぐに意気投合する。
ただ、同時にどうしようもない不安が襲ってきた。
「ねこぱよは!?」
神様は岬達を元の姿に戻してくれた。ただ、あの時にいたのは3人だけだ。ねこぱよは、その場にいたのかすら分からない。
「ねこぱよ…ねこぱよ…!!!」
岬は取り乱す。もう一つのベッドを確認しても、誰も寝ていない。生死の確認をしようすらない。
「ねこぱよーーー!」
大きな声を上げた時
「ハンドルネームを…叫ばないで貰えます…?」
部屋の入り口から声が聞こえた。
そこには、黒髪ロングで大人しそうな女の子が立っていた。
「ねこぱよ!?」
「だから…、ハンドルネームは……」
「だって、名前知らない…」
ホッとしたのだろうか、岬は泣きながら訊ねる。
「清水麗華です」
1週間後、4人はラブホテルの前に立っていた。転生したホテルだ。
エアシューターが残っているなどの条件から、キラリが探し当てたのだ。話通り、古い感じのホテルだった。
ただ、懐かしむためにこのホテルに来たのではない。
キラリは3人に向かって「任せて下さいね」というと、ホテルに足を向けた。
3人が転生したホテルがリニューアルオープンをしたのは1年後だった。
岬は無事に高校を卒業し、大学生になっていた。選んだのは、あのホテルがある市にキャンパスがあるホテルだ。
大学終わりに、例のホテルに向かう。近づいた時、前からねこぱよが歩いてくるのが見えた。
「麗華ちゃん、こっちの暮らし慣れた?」
「なんとか頑張ってる…」
ねこぱよは最近、こっちへ引っ越してきた。今はもう引きこもりではない。
「あ…、緑さんが…、今度…パーティー…しようって…」
「いいねー」
2人一緒に例のホテルに向かう。岬はホテルの受付、ねこぱよは清掃係としてバイトをしている。仕事のための準備をしていると、オーナーが入ってきた。
「キラリさん…!いえ、オーナー」
「キラリでいいですよ?」
あの後分かったことだが、キラリはいわゆる不動産王として名を馳せている男性だった。結婚はしておらず、男と女のどちらが恋愛対象なのか誰も知らない。ただ、仕事はとても順調で今も業績を伸ばしている。
キラリは、その財力を活かし、ホテルを丸ごと買い取った。そしてリニューアルオープンまでこぎつけた。
コンセプトは性別関係なしに利用しやすいホテルだ。
元々、男性同士の利用客が多かったホテルだけに、リニューアルオープン後の利用者の大半は男性同士のカップルだ。そして、もう一つ、ホテルの後押しとなったのが、一冊の小説だ。
岬達が元の姿に戻った後、このホテルをモデルにした小説が発行された。SNSから火が付き、この小説は大きな話題となった。そして、モデルとなったホテルは聖地のように扱われ始めた。
その作者の名前は『神崎緑』。
ねこぱよというアシスタントと一緒に暮らしながら、新作を執筆中らしい。
そんな聖地と言われるホテルの中には、客が利用できない部屋がある。
壁のライトと鏡、エアシューター用のカプセルと使い古したシーツが置かれたその部屋には、神棚があって神様が祀られているらしい。
終わり。
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