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二十五話

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「エレンさん。私が、魔本の、再び復活する瞬間を、機会を、その栄光ある最後のひと手間を、おいそれと他人に譲るわけがないよぉ!」

 エプロンの胸元に引っかけてあった丸メガネを装着する。視界がクリアになるとともに、意識はお仕事モードに変わっていった。



 エレンには少し後ろに下がってとお願いした。作業中、魔力に当たってしまう可能性があったのだ。エレンは魔法が使えないので、万が一があるかもしれない。



 エレンが後ろに下がったのを確認した後、作業机に分解された魔本のパーツを並べていく。これらを一つにし、魔本を安定化させればお仕事は終了だ。その後は依頼人に引き渡すだけである。



 呪文紙を手に取ってパラパラとめくり、中身を確認した。



 今回は装飾の修正依頼。呪文に関してはノータッチだ。しかし、作業中に呪文や呪文紙を傷つけてしまったかもしれない。念のため、呪文の擦り切れや呪文紙の破れがないかを確かめる必要があるのだ。



 問題なし、と。



 ここまでで失敗はないとわかって一安心。こういった確認を怠り、もし不手際を見逃したりすればクレームにつながってしまう。そして店の評判にも大きな影響もたらしてしまうのだ。



 これは依頼人の為、そして自分の為でもある。



「エレンさん、見逃し厳禁だよ」

 エレンと一緒に作った閉じ紐を切断していく。後ろで「あぁ……」と嘆くような、聞くと悲しくなるような声がした。



 なんだか悪いことをしているような気がしてきた。しかし、これは必要な作業である。心を鬼にして作業を続けた。



 出来上がったのは同じくらいの長さのものが六本、それらよりも二倍ほど長いものが一本。これらを使って各パーツをつなぎとめるのだ。



 背表紙には左右で二つの穴が開いている。このセットが等間隔で縦に六つ。計十二個の穴が開いていることになる。表表紙と背表紙には片側に穴が六つ。呪文紙も同様だ。



「まずは各表紙を一つにしよう」

 一本の閉じ紐を表紙それぞれの一番上の穴に通して結び、一つにした。この作業を残りの穴でも行った。固くしすぎても緩くしすぎても開き感が悪い。それぞれの括りが同じくらいの緩み具合になるように何回か調節を繰り返した。



「いい感じかな。次は呪文紙ね」

 呪文紙も表紙と同じように閉じ紐を通して結ぶ。きつく結ばず、六つの輪っかができるようにした。



 この作業やるとウシの鼻を思い出すんだよね。あれ、痛くないの?



 ……いけない、集中集中。



「次はこれを使うよ」

 私が取りだしたのは、他と比べて長く切った閉じ紐。これを呪文紙に作った六つの輪っかに通す。        



 そして、この長い閉じ紐の両端を、各表紙を一つにしている閉じ紐六本の、背表紙裏に走っている部分に通して結んだ。



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 背表紙裏、長い閉じ紐を通す前    | | | | | | 



 背表紙裏、通した後       ―|―|―|―|―|―|― 

                                                 

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「んん??」

 後ろでエレンが頭をひねっている。



 ……説明下手でごめん。



 ともかく、これでパーツが一つになった。



「サリー殿、これで終わりなのか?」



「いや、まだ魔本の安定化っていう大事な作業が残っているの。これができればお仕事完了だよ」 

 エレンの問いかけに対し、私は首を振ってこたえた。
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