在庫、あります!~魔本師サリーの蔵書充実計画~

奈倉 蔡

文字の大きさ
上 下
17 / 27

十七話

しおりを挟む
「「ありがとうございました~」」

 私とエレンの二人は、今日最後のお客を送り出してドアのカギを閉めた。



 売り上げは上々である。出入り口横に展開した泡魔法の魔本たちが予想以上に売れたのだ。しばらくこの国ではシャボン玉遊びが流行るだろう。世のお母さま方は洗濯物に注意が必要だ。



 エレンには「お疲れ様」と声をかけて休んでもらう。私はカウンター下からはたきを取り出し、平置きしている魔本たちのホコリを払い始めた。



 この作業はとても大事なものだ。閉店後、そして開店前にも行う。魔本を手に取ったとき、少しでもホコリのザラつきを感じてしまえば、お客の中では汚い魔本になってしまう。



 ……内容に関わらず。



 ひいてはその一冊でこのお店のイメージが決定してしまう。それはもったいないことだ。魔本を求めてやってきたお客に、マイナスな体験をさせてしまえば魔本師として失格である。



 エレンは「私も手伝おう」と言っていたが、今日のところは遠慮してもらった。今頃は居間でミルクでも飲んでいるだろう。



 今日はこの後、エレンには大事な仕事が待っている。その為にも体力を温存してもらわなければ。



 それに、サーレス魔本屋本店から帰ってきてから、エレンの様子が少しだけおかしい。お使いを頼んだのは昨日。最初は慣れない場所で疲れてしまったのかと思ったが、一夜明けてからも少し変である。



 正直に言って心配だ。こちらは半ば無理やり居候させている身。生活にストレスがあるなら申し訳ないし、取り除いてあげたい。



「あっ」

 エレンのことを考えながらはたきを振っていると、すでに店内を二周ほどしていることに気が付いた。いつの間にか考え込んでしまっていたらしい。



 ……いきなり突っ込みすぎるのもよくないのかな。



 それに勘違いということもある。昨日今日と修正依頼の関係で仕事を振りすぎていたきらいもあったので、今度気分転換にでも誘おう。



 適度な休息は大事だと、師匠も言っていた。




「エレンさん。どうぞ、ここが私の工房です」

 一階売り場裏にある居間には、我が家の二階と三階へつながる階段がある。今、私はエレンを連れて二階に来ていた。



 二階は私の工房だ。ここで魔本の解読や修正等を行っている。



 工房につながるのは鉄でできた扉。師匠が旅に出てから、扉自体の整備を怠っていたため大分サビている。その具合をみたエレンは「……ここも私が綺麗にしよう」とつぶやいていた。



 エレン、本当に頼りになる!



 私は「助かるよ、ありがとね」と返して扉を開けた。その先にはまた扉。今度は木で作られたものだ。荒れ具合は言わずもがなである。



 この工房は二重扉を採用していて、木製の扉には鍵もついている。ちなみに、二重扉を使っているのは工房内の温度と湿度を一定に保つためだ。



「魔本の整備はしっかりと環境を整えてやらないといけないんだ。温度と湿度はその筆頭。だからこの部屋に来たときは、扉を閉めるのを忘れないでね」



「うむ、承知した」



 ちなみに、温度調節を行っているのも魔本。魔本を使うには魔力を流す必要があるけれど、魔石を使うことで代用が可能なのだ。魔石から魔力を供給するための専用の器具を魔本に装着している。



 その後も、何個か工房に関する注意事項をエレンに説明した。

 

「じゃあ、お仕事開始!」

 仕事モードである。私は黒縁の丸メガネをかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

処理中です...