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十三話

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「カフェに行きましょう?」

 目の前の少女はいきなり、そう言って蠱惑的に微笑んだ。私が答えに窮していると、彼女はさっと寄ってきた。



 背丈はサリー殿と同じくらいだろうか。髪は黒曜石のような光沢を持った、青みがかかる黒色の髪。それをアップのツインテールにして、ドレスと同じデザインのリボンで留めていた。



 手入れに時間がかかりそうだ。それだけで良いところの家の出だと思える。



 そして何より特徴的なのがその服装。黒を基調としたサテン調の生地に、白いレースが散りばめられたドレス。腰は見せコルセットで締め、姫袖のボレロで腕を隠し、頭にはヘッドドレスを付けていた。



 そして気になるのがドレスの丈。目をそむけたくなるくらい短いのだ。貴族のドレスだったらありえない。膝小僧はもちろん、腿だって大胆に露出している。



 正直に言ってしまえば卑猥なドレスだ。



「なにぼーっとして、私に見とれちゃった?」

 少女はニッと口角を上げると、「ついてきて」とつぶやいて歩いて行ってしまった。




 少女の後をついて歩く。彼女の足取りは軽く、散らかった魔本をもろともせず進んでいった。

 

 私は魔本を踏まないように必死だというのに……。



「こっち、早く来てよぉ」



「ちょ、ちょっと……」

 魔本をよけながら歩く私に焦れたのか、少女は私の手を取って歩き出した。



 彼女の小さい手が、私の手をしっかりとつかんで離さない。私はそのまま、引っ張られるようして進む。

 

 しばらくして私たちは庭に出た。



 若々しい緑色をした芝生の上に、丸い飛び石が配置されている。それを追えば、本館と同じシックな雰囲気の離れが見えた。



 右を見れば立派な池があった。大小さまざまな石でふちが囲まれており、管理されていることが分かる。



 さらに、こちら側と向こう側をつなぐ橋が架かっていた。その橋を渡れば休憩スペースに行けるようだ。実際、配置されているベンチには人が座っていた。



「――あの池が気になるの?」

 少女が私の視線に気が付いたようだ。「いこっか」と私の手を引っ張る。



 私はすっかり、少女のペースに飲まれていた。



「この池では魔本の素材になる魚を育てているの」



 ……大きい魚だ。



 見たことがない。私にはこの魚がどういった用途に使われるものなのか分からなかった。「ちなみに、なんという魚なのだ?」と聞いてみると、彼女は「エレ・ローレっていうの」と返してくれた。そして私の左腕に手をまわしてくる。



 …………?

 

 フローラルの良い匂いが鼻腔をくすぐった。どうやら少女の髪からふわっと香っているようである。



 キレイな庭で腕を組む二人。これではまるでカップルのようではないか。つい数分前に会った人にするような態度ではないのは確かである。



「えっと……」

 先ほどから私は少女のペースに流されている。

 サリー殿にお使いを頼まれた身、しっかりとその仕事を遂行しなくては。



「私はこの素材を届けなくてはいけないのだ、カフェには行け――」



「やだ、やだやだやだぁ。私は騎士さまとお茶がしたいの!」



「そうは言われてもだな……」

 少女はぎゅっと私の腕をつかんで離さない。しかも涙目で上目遣いをしてくるではないか。



「そ、そんなになぜ私と……」



「一目ぼれ、よ」

 少女は会ってから一番妖艶な笑みを浮かべた。
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