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十二話
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「ここ、か」
サリー殿の店から歩いて十数分。東部ストリートの入り口まで歩いてきた私は、とある魔本屋の前で立ち止まった。
その店はシックな木目調のログハウスのように見える。
二階建てで離れもあり、そこにはカフェも併設されているそう。
サリー殿からもらったメモにそう書いてあった。
メモを開いて確認すれば、目の前のお店は描かれたお店の外観と一致していた。
ストリートに面する壁はガラス張りで中の様子がうかがえる。天井からは暖色の丸いランプが大小関わらず釣り下がっていた。
日が落ちれば大層目を引く外観になるのだろう。
入口には立て看板があり、サーレス魔本屋本店と彫られていた。
メモをポケットに入れ、入店する。
入ってすぐ、紙の匂いが鼻をくすぐった。サリー殿のお店でも同じような匂いがするが、ここはその比ではない。単純に魔本の量が違うのだろう。敷地の広さはもちろんだが、棚には魔本が詰まっていて、あふれたものが地べたに平置きされていた。
正直、売り物をこんなおざなりにしているお店は見たことがない。これでは商品をお客が踏んでしまうではないか。
「おっとっと……」
思ったそばから魔本を踏みそうになってしまった。
案内板を見るに、入り口入ってすぐの本館は一階二階とも魔本売り場。地下が素材売り場。離れがカフェと工房になっているらしい。
私が頼まれたのは素材の買い出し。地下に向かう必要があるようだ。
魔本を踏まないように気を付けつつ、奥に進んでいく。
お店の右奥、カウンターが見えた。そこでは老齢の店員が作業をしていた。老人は一瞬、私を見るとぴくっと眉を上げた。しかし、すぐにカウンターに視線を落としてしまう。
知り合いではない……はずだ。
「あ、階段」
老人の反応を不思議に思いつつ歩を進めると、カウンター横に地下に向かう階段があるのに気が付いた。
「………」
私は老人に軽く会釈をし、その階段を下った。
下り階段の終点には重厚な鉄扉があった。ちょうど私の目の高さに「ここから先素材エリア。入った際には扉を必ず閉めてください」とある。
騎士として鍛えた私にとっては苦でもない。難なく扉を開け、中に入った。
「すさまじいな」
地下は一階売り場よりもはるかに広く、騎士家の宿舎くらいあるように見えた。そんな敷地に詰めるように陳列棚が存在し、私には用途がさっぱり分からない素材たちが販売されていた。
灯りは一階のようなランプではなく、まったく同じ長さに思える光る棒が、等間隔で天井に張り付けられていた。
これも何かの魔法だろうか。
ついキョロキョロと周りを見渡してしまう。私以外にお客はいない。
なんとなく居心地悪くなってしまった私は、すぐにサリー殿のメモにあった素材を探しだすと、足早に一階に戻った。
階段を上がっていると、吊るされた暖色のランプが見えてきた。紙の匂いもしてくると、不思議と落ち着いた。
……驚いた。
階段を上がりきると、目の前にサリー殿と同じくらいの背丈をした少女が立っていたのである。
正直に言って邪魔だ。しかし、少女は私をまっすぐ見ている。
知り合いだろうか……。
いや、このような少女と面識はないと思いなおす。向こうの勘違いに違いない。「すいません」と横を通り過ぎようとしたら「そこの騎士さま」と少女に声をかけられた。
「?」
私をオレンジ色の目が見つめている。「な、なんだろうか?」と返すと、少女は見た目にそぐわぬ蠱惑的な笑みを浮かべ、
「カフェに行きましょう?」
と言ってきた。
サリー殿の店から歩いて十数分。東部ストリートの入り口まで歩いてきた私は、とある魔本屋の前で立ち止まった。
その店はシックな木目調のログハウスのように見える。
二階建てで離れもあり、そこにはカフェも併設されているそう。
サリー殿からもらったメモにそう書いてあった。
メモを開いて確認すれば、目の前のお店は描かれたお店の外観と一致していた。
ストリートに面する壁はガラス張りで中の様子がうかがえる。天井からは暖色の丸いランプが大小関わらず釣り下がっていた。
日が落ちれば大層目を引く外観になるのだろう。
入口には立て看板があり、サーレス魔本屋本店と彫られていた。
メモをポケットに入れ、入店する。
入ってすぐ、紙の匂いが鼻をくすぐった。サリー殿のお店でも同じような匂いがするが、ここはその比ではない。単純に魔本の量が違うのだろう。敷地の広さはもちろんだが、棚には魔本が詰まっていて、あふれたものが地べたに平置きされていた。
正直、売り物をこんなおざなりにしているお店は見たことがない。これでは商品をお客が踏んでしまうではないか。
「おっとっと……」
思ったそばから魔本を踏みそうになってしまった。
案内板を見るに、入り口入ってすぐの本館は一階二階とも魔本売り場。地下が素材売り場。離れがカフェと工房になっているらしい。
私が頼まれたのは素材の買い出し。地下に向かう必要があるようだ。
魔本を踏まないように気を付けつつ、奥に進んでいく。
お店の右奥、カウンターが見えた。そこでは老齢の店員が作業をしていた。老人は一瞬、私を見るとぴくっと眉を上げた。しかし、すぐにカウンターに視線を落としてしまう。
知り合いではない……はずだ。
「あ、階段」
老人の反応を不思議に思いつつ歩を進めると、カウンター横に地下に向かう階段があるのに気が付いた。
「………」
私は老人に軽く会釈をし、その階段を下った。
下り階段の終点には重厚な鉄扉があった。ちょうど私の目の高さに「ここから先素材エリア。入った際には扉を必ず閉めてください」とある。
騎士として鍛えた私にとっては苦でもない。難なく扉を開け、中に入った。
「すさまじいな」
地下は一階売り場よりもはるかに広く、騎士家の宿舎くらいあるように見えた。そんな敷地に詰めるように陳列棚が存在し、私には用途がさっぱり分からない素材たちが販売されていた。
灯りは一階のようなランプではなく、まったく同じ長さに思える光る棒が、等間隔で天井に張り付けられていた。
これも何かの魔法だろうか。
ついキョロキョロと周りを見渡してしまう。私以外にお客はいない。
なんとなく居心地悪くなってしまった私は、すぐにサリー殿のメモにあった素材を探しだすと、足早に一階に戻った。
階段を上がっていると、吊るされた暖色のランプが見えてきた。紙の匂いもしてくると、不思議と落ち着いた。
……驚いた。
階段を上がりきると、目の前にサリー殿と同じくらいの背丈をした少女が立っていたのである。
正直に言って邪魔だ。しかし、少女は私をまっすぐ見ている。
知り合いだろうか……。
いや、このような少女と面識はないと思いなおす。向こうの勘違いに違いない。「すいません」と横を通り過ぎようとしたら「そこの騎士さま」と少女に声をかけられた。
「?」
私をオレンジ色の目が見つめている。「な、なんだろうか?」と返すと、少女は見た目にそぐわぬ蠱惑的な笑みを浮かべ、
「カフェに行きましょう?」
と言ってきた。
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