在庫、あります!~魔本師サリーの蔵書充実計画~

奈倉 蔡

文字の大きさ
上 下
10 / 27

十話

しおりを挟む
「エレンさん、お使いよろしくね。これお金」

 サリー殿が革袋を取り出した。「承った」と返して革袋を受け取る。小さいモノながらずしっと重い。



「残ったお金は使っていいよ」



「いや、そんな無駄遣いはできないだろう。しっかり返す」

 重みからして結構入っていそうだ。申し訳がない。



「真面目だね~。いいのいいの、気分転換は大事だよ?」

 サリー殿は「師匠がそう言ってた」とこぼしながら、黒のベレー帽をかぶった。



「サリー殿も出るのか?」



「うん。それに……」



「それに?」



「いや、なんでもないよ」

 サリー殿が口ごもる。私を見る目が申し訳なさそうという感じだ。



 私は雇ってもらっているうえに住まわせてももらっている身だ。こき使ってほしい。



 魔本屋で仕事をしてみて思ったが、とても忙しい。魔本を取りそろえ、並べ、片付け、雑務があまりにも多いのだ。華奢なサリー殿が一人でやるには大変な仕事もあった。それに、他にも私が知らない仕事もあるのだろう。



 私はサリー殿の力になりたいと思う。限界まで、いやそれ以上に働く所存だ。



 出かける準備を済ませた私達は二人で店を出る。



 まだ日は高い。石畳からの跳ね返りはまぶしくて熱かった。



「じゃあ後でね」

 サリー殿は「バイバイ」と屈託のない笑顔で手を振ってきた。そして私に背を向けて歩き出す。

 私は「うむ」とそれに手を挙げて応えた。

 

 行先は逆方向らしい。サリー殿は慣れた足取りで通行人の間をすり抜けていく。そしてあっという間に雑踏に紛れてしまった。



 サリー殿が見えなくなったのを確認して、私も歩き出した。




「お店は……」

 サリー殿からもらったメモを確認する。メモには素材の種類や金額、向かってほしいお店の情報等が詳しく記載されていた。



 品質のいい素材の見分け方や、ワンポイントアドバイスが細かく書き込まれている。お店の外観なんて綺麗な絵で示されていた。この絵だけでもお金が稼げそうである。



 このメモに時間と手間がかけられているのがすぐにわかった。サリー殿はとてつもなくまめだと感じる。それに、優しい。



 しかし、サリー殿の思いを感じるとともに、心に重しが釣り下がった。

 それは申し訳ないという気持ち。



 これなら私の為にメモを書かず、自分で行った方がいいのではないか。その方が効率がいいはずだ。手を煩わせてしまうのなら、私は外に出ず、店番をしていればいいのだ。



 ――いや、店番だって満足にできるかわからない。



 お荷物。



 パチンッ。



 頭に浮かんだその言葉を打ち消すように頬を叩いた。その音が頭を抜け、いくらか冷静になる。痛みが引けば掌に頬のぬくもりが感じられた。



 腰に差した剣の柄を握る。



 わかっているのだ。サリー殿は偶然出会った、よくわからない私のことを案じてくれていると。詳しくは聞いてこないが、私の心の傷を感じ取っていると。私のことを負担だと思っていないと。サリー殿が私に向ける目からは、そう思えた。



「――頑張るぞ」

 負担になってはいけない。私は、サリー殿にとってもっと役に立つ存在にならなくては。



 そうしなければ――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...