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六話

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「これはどうだ!」

「う~ん」

「これなら!」

「…………」

「なんの! この魔本なら!」



 本棚という本棚から魔本を取り出し、魔法を行使する。しかし、エレンの反応は芳しくない。

 

 そろそろ私も魔力が……。



 エレンが魔本を嫌っていないことは分かっている。今まで魔本に触れてこず、幼少期に受けた教育が影響で出来上がったイメージがあるだけなのだ。エルドナー子爵家も魔本が悪! という教育をしてきたわけではない。あくまで国策の要になるものではないという考えなのだ。



 エレンも私をどう止めようかと悩んでいるようだ。何度も口を挟もうとしているが、気づいた私が先に魔本を持ってくる。困らせてしまっているのだ。しかし、私のこの気持ちは抑えきれない――。



「んぎぎぃ~」

 血走った目で本棚をにらむ。



「サリー殿の気持ちはよく分かっ――」



「そうだ!」

 名案が浮かんだ。なんで最初からそうしなかったのだろう。



 エレンの言葉を遮ってしまったが、気づいていないことにする。



「エレンさん、ここに住みなよ!」



「え、なんで?」

 エレンもびっくりしたのか言葉遣いが崩れてしまっていた。



「え、じゃないよ。え、じゃっ」

 我ながら素晴らしい考えだ。毎日魔本を見せればエレンもいつかはこの子たちの魅力に気づくのではないか。

 ついでに働いてもらえれば、私の負担が減る。一石二鳥。いや、魔本の魅力なのだから一石三鳥以上である。



「ほら、追放されたんでしょ。住むところないんじゃない?」



「そ、それは申し訳ない! 食べ物を恵んでもらったうえ、住まいまで――」



「ボロボロの服に鎧、空腹で倒れてたんだよ? お金も持ってないんでしょ」

 慌てふためくエレンにそういうと、「う、それは」と口ごもった。



 図星だ。もう私からは逃れられない。ここぞとばかりに言葉を続ける。



「当たり! 部屋が余ってるからそこ使いなよ」

 私は決定事項、というように微笑み、立ち上がろうとした。



「サリー殿!」



「な、なに?」

 エレンがカウンターをバンっと叩いて立ち上がった。店内はしんと静まりかえる。



 エレンが私を見下ろしながら見つめてきた。



 コップがくるくる回って倒れそう。しかしそれもすぐに落ち着く。



「いくら追放された身とはいえ、私は騎士だ。そこまでの施しは受けられない」

 エレンは私から視線を外さない。



 ボロボロで汚れた衣服、サビてへこんだ防具を身にまとった女騎士。ついさっきパンを食べたとはいえ、まだ弱弱しい眼力で私を見つめてくる女騎士。



 しかし、首から肩にかけた綺麗なラインと、衣服越しでもわかる体つき。そして何より、存在感を示す一本の剣。



「――わかりました」



 わかった。



「ありがとう。サリー殿、この御恩は忘れない」



 エレンは貴族式の礼を執る。それから、深く頭を下げてお辞儀をした。そして私に背を向けた。



「待ってください」



 彼女は、エレンは、



「私に雇われてみませんか?」



 まぎれもなく騎士だった。
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