在庫、あります!~魔本師サリーの蔵書充実計画~

奈倉 蔡

文字の大きさ
上 下
5 / 27

五話

しおりを挟む
「魔本とは、あの魔本だろうか」

 エレンは店の壁一面に設置された本棚を見回した。



「あの魔本だと思うよ」

 私がそう答えると、エレンはいろいろな感情を織り交ぜたように見える表情を浮かべた。



 だから言いたくなかったのだ。



 エルドナー子爵家は第二王子派閥で有名な貴族。その第二王子というのが反魔本思想を持っているのだ。弾圧とまではいかないが、ことあるごとに魔本業界への補助金減額を上奏している。魔本業界では有名な話だった。



 しかし、そもそもここスピレーソン王国は魔本で発展してきた国だ。魔本が国の根幹を担っている。魔本が多く出土する遺跡が王都地下に広がっていて、その規模は周辺国の遺跡を一つにしても足りないくらいだ。



 遺跡の存在もあってか、魔本の発掘や解読、そして修復などその道に精通したプロ達がこの国に集結している。そしてしのぎを削り合っているのだ。



 その中でも、一位二位を争っているのが王都東部と西部の魔本街。



 この国では各地区に三家の貴族が派遣され、管理を任されている。ここ東部の管理を任された貴族家の一つが、エレンが仕えていたエルドナー子爵家だ。



 第二王子派閥が魔本街の管理を任されているということで、業界では嫌われているのが正直なところ。しかし、歯止め役という意味もあるのだろう。師匠は「あまり嫌いすぎるな」と言っていた。

 それに納得するとともに、政治の難しさをなんとなく感じた。



「エレンさんは魔本が嫌い?」

 そう聞くと、エレンは気まずそうな顔をして目をそらした。



 それも仕方がないように思う。貴族家に仕える騎士は小さいころから英才教育を施される。雇い主の思想は物心つく時から触れてきているに違いない。



 それに、騎士だと魔法は別として、魔本そのものと深くかかわることはないだろう。エルドナー子爵家だったらなおさらだ。



「サリー殿には感謝している。しかし、これはいかんとも……」

 エレンは立ち上がると膝をついて謝罪をしようする。膝つきの謝罪は最大級のものに近い。私はそれに気づくと「気にしてないよ」と静止した。



 エレンは申し訳なさそうに「ご配慮、痛み入る」とつぶやいた。



 そんなエレンを見てこちらが申し訳なくなる。しかし、気にしていないとは言ったものの何も感じていないわけではない。魔本は素晴らしいし、私はそれに誇りを持っている。



 どうせなら、気づかせてやりたくなってしまうのだ!



「在庫、あります!」



 私の宣言にエレンが「ひっ!」と言って驚いた。小動物みたいだった。「ど、どうしたのだ? 急に」とエレンが聞いてくる。



「エレンさんを魅了できるような魔本がここにはね♪」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

処理中です...