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一話
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「在庫、あります!」
両手を上げて大きく開く。バンザイの形。
カランコロンとミミズク型の鐘が鳴る。来店したお客様に目を合わせて宣言した。
「お、おう……」
ちょっと頭に冬季到来。そんな中年っぽい男性客は、私の声に驚いたのか若干引き気味だ。気まずそうに私を見て、気まずそうに視線を外す。ぎこちなく私の横を通り過ぎていった。
……やってしまった。
「……」
お客さんは私の脳内で反省が始まったことに気づくはずもなく、店内を見て回り始める。
「あ、それおススメですよ!」
「お客様には最適なものかと」
「あぁ……それはぶっちゃけ損モノです。買わない方がいいですね」
私は先ほどのミスを取り返すため、お客さんの後をついて回って手に取った本やちょっと見たっぽい本について説明していく。「それは大変歴史のあるものです。でも燃費が……」と、まだまだしゃべり足りないタイミングで、「ひ、一人で見て回らせてくれないか。お嬢さん」と言われてしまった。
「は、はい……。ごゆっくりどうぞ」
出かかっていた言葉をせき止めるように喉が閉まった。行き場のなくなった声はため息として出ていく。
……またやってしまった。
とぼとぼとカウンターに戻って椅子に座る。
カウンターに置かれていた魔本を撫でると、少しだけ気分がよくなった感じがした。
しばらく事務作業をしていると、ポーン、ポーンと時刻魔法の施された卓上釣り鐘が鳴った。もちろんミミズク型。
そろそろ掃除の時間だね。
カウンター下に立てかけてあるはたきを手に取る。それに示し合わせたかのようなタイミングで「お会計を」と、先ほどのお客さんがやってきた。
「はい! お預かりいたします」
お客さんが持ってきたのは初級の魔本。中身はごく短い時間持続する火魔法ファイアだ。料理や旅での火起こしで役に立つ。
魔本とは魔法が載っている本のこと。魔導書とどう違うのかというと、魔導士や魔法使いが書いたものが魔導書。自然発生したものが魔本だ。魔本は世界各国、さまざまな場所に存在する遺跡等でよく見つかる。
魔本の発見は国の、世界の発展を促してきた。「世界は魔本でできている」とは昔のそれはもうえらい方の言葉だ。
「一冊で1000リズになります!」
お客さんから硬貨でぴったり受け取る。
「お嬢ちゃん、お家のお手伝いかい? 偉いねぇ~」
お客さんは魔本を小脇に抱えると、少しきょろきょろしてから話しかけてきた。
「えっと……」
「店主さんはどこだい?」
私が答えに窮していると、お客さんからさらなる質問が飛んできた。
「わ、私が店主……です」
「……そうなの?」
私の言葉に、お客さんは驚きと気まずさが織り交ざった顔をして固まった。
そうされると私も何もできないのだけれど。
お互いに固まっていると、ポーンという音が聞こえてきた。
両手を上げて大きく開く。バンザイの形。
カランコロンとミミズク型の鐘が鳴る。来店したお客様に目を合わせて宣言した。
「お、おう……」
ちょっと頭に冬季到来。そんな中年っぽい男性客は、私の声に驚いたのか若干引き気味だ。気まずそうに私を見て、気まずそうに視線を外す。ぎこちなく私の横を通り過ぎていった。
……やってしまった。
「……」
お客さんは私の脳内で反省が始まったことに気づくはずもなく、店内を見て回り始める。
「あ、それおススメですよ!」
「お客様には最適なものかと」
「あぁ……それはぶっちゃけ損モノです。買わない方がいいですね」
私は先ほどのミスを取り返すため、お客さんの後をついて回って手に取った本やちょっと見たっぽい本について説明していく。「それは大変歴史のあるものです。でも燃費が……」と、まだまだしゃべり足りないタイミングで、「ひ、一人で見て回らせてくれないか。お嬢さん」と言われてしまった。
「は、はい……。ごゆっくりどうぞ」
出かかっていた言葉をせき止めるように喉が閉まった。行き場のなくなった声はため息として出ていく。
……またやってしまった。
とぼとぼとカウンターに戻って椅子に座る。
カウンターに置かれていた魔本を撫でると、少しだけ気分がよくなった感じがした。
しばらく事務作業をしていると、ポーン、ポーンと時刻魔法の施された卓上釣り鐘が鳴った。もちろんミミズク型。
そろそろ掃除の時間だね。
カウンター下に立てかけてあるはたきを手に取る。それに示し合わせたかのようなタイミングで「お会計を」と、先ほどのお客さんがやってきた。
「はい! お預かりいたします」
お客さんが持ってきたのは初級の魔本。中身はごく短い時間持続する火魔法ファイアだ。料理や旅での火起こしで役に立つ。
魔本とは魔法が載っている本のこと。魔導書とどう違うのかというと、魔導士や魔法使いが書いたものが魔導書。自然発生したものが魔本だ。魔本は世界各国、さまざまな場所に存在する遺跡等でよく見つかる。
魔本の発見は国の、世界の発展を促してきた。「世界は魔本でできている」とは昔のそれはもうえらい方の言葉だ。
「一冊で1000リズになります!」
お客さんから硬貨でぴったり受け取る。
「お嬢ちゃん、お家のお手伝いかい? 偉いねぇ~」
お客さんは魔本を小脇に抱えると、少しきょろきょろしてから話しかけてきた。
「えっと……」
「店主さんはどこだい?」
私が答えに窮していると、お客さんからさらなる質問が飛んできた。
「わ、私が店主……です」
「……そうなの?」
私の言葉に、お客さんは驚きと気まずさが織り交ざった顔をして固まった。
そうされると私も何もできないのだけれど。
お互いに固まっていると、ポーンという音が聞こえてきた。
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