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フリージアの魔法
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「フリージア、やめて! この方たちは敵ではないの!」
ミレディが再び声を上げる。しかし、その声は戦闘の雑音で簡単に溶けていき、フリージアの剣戟を緩めるには及ばない。
リースペトラはミレディの声から悲痛さを感じ取り、思わずその震えた手を握った。小さく、冷たい手だ。それが震えているとあればリースペトラの心情にも堪えるものがある。
「リースペトラ……」
「心配するな。お主の為にも我は負けない。それに負けるつもりもない」
リースペトラが言えば、ミレディはリースペトラの手をぎゅっと握り返す。
「ダメ」
突如、雨のように降り注いでいたフリージアの剣戟が止まり、冷たい声がリースペトラの鼓膜を揺らす。
リースペトラが声のした方を見れば、そこにフリージアが立っていた。
止まらない高速移動から繰り出される剣戟はフリージアにも負荷を与えていたようだ。静止したフリージアが持つ水色の髪は乱れ、ほつれており、息遣いには多少の荒さが見て取れた。
リースペトラはその姿に先ほどまでの連撃が無限に行えるわけではないと判断するとともに、次の手を打たれる前に仕留めたいと考える。
その為には先手必勝。自らが戦いのペースを握る必要があるだろう。
しかし、己を射抜くその立ち姿からは油断が見えず、今魔法を放っても致命傷は与えられないと冷静に結論付けた。
「そんなこと、許せない。絶対にダメ」
そんなリースペトラにフリージアの声が降りかかる。
「フリージア、もうやめて! いつもは私のお願い聞いてくれるじゃない!」
立ち止まったフリージアにミレディが叫ぶ。するとフリージアはまっすぐミレディも見るも、少ししてゆっくり首を振った。
その反応にミレディは「嘘……」と衝撃を隠せない。
リースペトラはそんなミレディを気遣わし気に見たのち、フリージアに向きなおる。
「随分と怖い目つきじゃないか。我、その視線で射殺されそうなのだが」
リースペトラが冗談めかして言うと、フリージアが鼻で笑う。しかし、表情は動かず、冷たく深い瞳がリースペトラを離さない。
「そこにいるのは私。あなたじゃない――」
「意味が分から――な!?」
突如、リースペトラの目の前に亀裂が走った。遅れてパリンッと子気味良い音を捉える。
今日一の一撃だった。フリージアが立っていたはずの場所は既に空、間隙の層の損壊度が一撃で半分を超える。
このまま追撃されれば己の身は無様に弱点を晒すだろう。それを瞬時に理解したリースペトラは同時に一つの確定事項を得た。
「空穿の礫!」
魔法名の宣言と共に大量の魔力を込めた礫が二つ出現。リースペトラが右手を前に突き出せば、礫が魔法障壁のひび割れをこじ開け、高速で射出された。
同時に間隙の層が全壊、破裂音にも似た崩壊音が辺りに響き渡る。
「くっ……」
リースペトラの目の前で苦し気なうめき声が聞こえ、数舜ののちに10mほど離れた位置にフリージアの姿が現れた。
それを確認してリースペトラが笑う。
「すこーし焦ったか? ふふ、左手が痛かろう」
リースペトラの言葉にフリージアが小さく舌打ちする。
リースペトラはあの時、フリージアの追撃がどこに来るのか予想済みであった。
大きくひび割れた魔法障壁。しかし、あっという間に修復されてしまう。そんな魔法を前にして、フリージアが半壊状態をみすみす逃すはずはない。
つまり、姿が見えないフリージアのいる場所が大きく見積もって目の前の90度、少なくとも180度に絞ることができたのだ。
二つの礫が作り出す射線はフリージアがいるであろう場所を埋めることができる。フリージアはその攻撃を無視することができないと踏んだ。
その結果が、視線の先で左腕を庇っているフリージアである。
「――こんなもの、別に問題じゃない」
「そうは言うが、左手を庇っているのを見てしまえば、な?」
リースペトラの煽りとも取れる言葉にフリージアが眉をピクリとさせる。相も変わらず不気味なほどに眼力があるが、礫が少なくないダメージを与えているのは明白だった。
追撃せず姿を現したため、もしかしたら折れているのかもしれない。
「問題じゃない」
念押しするようにフリージアが言うと、剣を地面に突き刺した。そしてさらに口を開く。
「氷の手」
無詠唱魔法。リースペトラがそれに気が付くと同時、庇っていた左腕の二の腕部分にゆっくりと氷が這っていく。
「……もはや魔法使いだな」
思わず賞賛の言葉を口にするリースペトラ。それもそのはず、フリージアはあっという間に礫をくらって傷ついた左腕を氷で補強して見せたのだ。
それは紛れもなく身体強化の魔法とは異なる、攻撃に用いられる魔法。フリージアは身体強化魔法を駆使する騎士ではなく、両刀の魔法剣士だったのだ。
それは簡単に実現できる戦闘スタイルではなく、リースペトラはすぐにフリージアの才能と努力を理解する。
そして思わずといった風に笑みを浮かべた。
「これでまだ戦える」
フリージアはリースペトラの言葉には答えず、まっすぐに切っ先をリースペトラへと向けた。
ミレディが再び声を上げる。しかし、その声は戦闘の雑音で簡単に溶けていき、フリージアの剣戟を緩めるには及ばない。
リースペトラはミレディの声から悲痛さを感じ取り、思わずその震えた手を握った。小さく、冷たい手だ。それが震えているとあればリースペトラの心情にも堪えるものがある。
「リースペトラ……」
「心配するな。お主の為にも我は負けない。それに負けるつもりもない」
リースペトラが言えば、ミレディはリースペトラの手をぎゅっと握り返す。
「ダメ」
突如、雨のように降り注いでいたフリージアの剣戟が止まり、冷たい声がリースペトラの鼓膜を揺らす。
リースペトラが声のした方を見れば、そこにフリージアが立っていた。
止まらない高速移動から繰り出される剣戟はフリージアにも負荷を与えていたようだ。静止したフリージアが持つ水色の髪は乱れ、ほつれており、息遣いには多少の荒さが見て取れた。
リースペトラはその姿に先ほどまでの連撃が無限に行えるわけではないと判断するとともに、次の手を打たれる前に仕留めたいと考える。
その為には先手必勝。自らが戦いのペースを握る必要があるだろう。
しかし、己を射抜くその立ち姿からは油断が見えず、今魔法を放っても致命傷は与えられないと冷静に結論付けた。
「そんなこと、許せない。絶対にダメ」
そんなリースペトラにフリージアの声が降りかかる。
「フリージア、もうやめて! いつもは私のお願い聞いてくれるじゃない!」
立ち止まったフリージアにミレディが叫ぶ。するとフリージアはまっすぐミレディも見るも、少ししてゆっくり首を振った。
その反応にミレディは「嘘……」と衝撃を隠せない。
リースペトラはそんなミレディを気遣わし気に見たのち、フリージアに向きなおる。
「随分と怖い目つきじゃないか。我、その視線で射殺されそうなのだが」
リースペトラが冗談めかして言うと、フリージアが鼻で笑う。しかし、表情は動かず、冷たく深い瞳がリースペトラを離さない。
「そこにいるのは私。あなたじゃない――」
「意味が分から――な!?」
突如、リースペトラの目の前に亀裂が走った。遅れてパリンッと子気味良い音を捉える。
今日一の一撃だった。フリージアが立っていたはずの場所は既に空、間隙の層の損壊度が一撃で半分を超える。
このまま追撃されれば己の身は無様に弱点を晒すだろう。それを瞬時に理解したリースペトラは同時に一つの確定事項を得た。
「空穿の礫!」
魔法名の宣言と共に大量の魔力を込めた礫が二つ出現。リースペトラが右手を前に突き出せば、礫が魔法障壁のひび割れをこじ開け、高速で射出された。
同時に間隙の層が全壊、破裂音にも似た崩壊音が辺りに響き渡る。
「くっ……」
リースペトラの目の前で苦し気なうめき声が聞こえ、数舜ののちに10mほど離れた位置にフリージアの姿が現れた。
それを確認してリースペトラが笑う。
「すこーし焦ったか? ふふ、左手が痛かろう」
リースペトラの言葉にフリージアが小さく舌打ちする。
リースペトラはあの時、フリージアの追撃がどこに来るのか予想済みであった。
大きくひび割れた魔法障壁。しかし、あっという間に修復されてしまう。そんな魔法を前にして、フリージアが半壊状態をみすみす逃すはずはない。
つまり、姿が見えないフリージアのいる場所が大きく見積もって目の前の90度、少なくとも180度に絞ることができたのだ。
二つの礫が作り出す射線はフリージアがいるであろう場所を埋めることができる。フリージアはその攻撃を無視することができないと踏んだ。
その結果が、視線の先で左腕を庇っているフリージアである。
「――こんなもの、別に問題じゃない」
「そうは言うが、左手を庇っているのを見てしまえば、な?」
リースペトラの煽りとも取れる言葉にフリージアが眉をピクリとさせる。相も変わらず不気味なほどに眼力があるが、礫が少なくないダメージを与えているのは明白だった。
追撃せず姿を現したため、もしかしたら折れているのかもしれない。
「問題じゃない」
念押しするようにフリージアが言うと、剣を地面に突き刺した。そしてさらに口を開く。
「氷の手」
無詠唱魔法。リースペトラがそれに気が付くと同時、庇っていた左腕の二の腕部分にゆっくりと氷が這っていく。
「……もはや魔法使いだな」
思わず賞賛の言葉を口にするリースペトラ。それもそのはず、フリージアはあっという間に礫をくらって傷ついた左腕を氷で補強して見せたのだ。
それは紛れもなく身体強化の魔法とは異なる、攻撃に用いられる魔法。フリージアは身体強化魔法を駆使する騎士ではなく、両刀の魔法剣士だったのだ。
それは簡単に実現できる戦闘スタイルではなく、リースペトラはすぐにフリージアの才能と努力を理解する。
そして思わずといった風に笑みを浮かべた。
「これでまだ戦える」
フリージアはリースペトラの言葉には答えず、まっすぐに切っ先をリースペトラへと向けた。
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