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二章 前線基地にて
魔法使いの決闘
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「それでは、始め!」
ジェスの合図が広場に響く。
「我が力、灯火になりて疾風のごとく――」
それにいち早く反応したのはカルミアの方だった。杖を地面と垂直になるようまっすぐ構え、呪文を諳んじる。
(火魔法……)
観衆の声の隙間を縫って聞こえてくるカルミアの呪文から発動する魔法に当たりをつけたリースペトラ。
カルミアに追従する形で詠唱を開始し、緩く前にかざした右手に魔力を集中させていく。
「貫け、炎槍の名手!」
「間隙の層」
詠唱が終わったのはほぼ同時。カルミアの杖の先端にあしらわれた魔水晶の輝きが増し、炎の槍が顕現。
うねる槍は風を切り、空気を燃料に素晴らしい速度と火力を以ってリースペトラを射抜かんと迫る。
狙うは顔面。保護魔法があろうが痛みはある。カルミアはそれを理解した上で、これが本当の殺し合いだと想定して急所を狙った。
そしてその狙いは寸分違わない。魔法を放ったカルミア、そして青年やシルヴィアも飛来する魔法を見て確信した。
しかし、リースペトラの蒼い瞳は冷めたまま炎槍を見つめ、そこから動かず顔の前に右手を持っていく。
「直撃だ!」
「こりゃひとたまりもねぇ……」
カルミアの魔法がリースペトラの顔面に直撃。ゴォッと勢いを増す炎の音が広場に鈍痛のごとく響く。
しかし、
「柔い魔法だな」
「――カハッ!?」
カルミアの耳がリースペトラの声を真横から捉えたと同時、同じ方向から水の本流がカルミアの横っ腹に炸裂した。
カルミアは想定外の攻撃が自身の身体に直撃してよろめくも、強い意識を以って両足を踏ん張り、地には伏せない。
そして強い感情を目に乗せて前を向いた。
「いい気概だ、我は一撃で仕留めたつもりだったのが……」
そこでカルミアが見たのは、リースペトラの顔の辺りで勢いを弱めていく己の魔法。
先ほどまでの鈍痛のような空気を食う音は既に鳴りを潜めており、カルミアが顔を上げた時には既に種火のようになってしまっていた。
「火起こしには丁度いいな?」
リースペトラは目の前の種火を右手で握りつぶすと、そう言って首を傾けた。
笑う口の端に伸ばした前髪がかかる。
その様子にカルミアはひどくイラつきを覚えた。
「すげぇーーー! 何だ今の!?」
「あれ、直撃したんじゃなかったの?」
「俺見たぜ! カルミアの魔法があの女の前で止まってやがったの!」
観衆は派手な魔法のぶつかり合いに興奮を隠せない。各々が好き勝手に叫びながらカルミアとリースペトラに興味を示す。
リースペトラはある男の声を聞き取ると、口を開いた。
「間隙の層。空間に己を守る魔力の層を作り出す魔法。いわゆる防御魔法だが、通常のモノとは少しアプローチが違う」
リースペトラはこちらを射抜くカルミアに笑いかけると、「聞きたいか?」と問うた。
「あなたに学ぶことは何もないです。私はレクトシルヴァの魔法使いですから」
カルミアは吐き捨てるように答えると、再び詠唱を開始した。リースペトラはカルミアの反応に満足がいかなかったのか、ため息をつくと、追うように詠唱を始める。
「厳しいな……」
二人の様子を見ていた青年が小さく呟く。
「どういうことですか? ケラスさん」
そこにレクトシルヴァの弓使いがやってきて青年に声をかけた。
二人は行動を共にした時間は多くないが、同じ前線基地のメンバーである。度々勧誘を受けていた青年はレクトシルヴァの面々とは比較的交流が多く、会話の頻度も高い。
特にこの弓使いとはたまに酒を共にすることもあった。
「あぁ、カルミアには悪いが、この勝負はあいつ――リースペトラの勝ちで決まりだろう」
「ケラスさん、その言葉は無視できませんね。カルミアは初撃こそくらいましたが、まだまだやれますよ。私は彼女を信じています」
弓使いはそう言う青年に言葉を返すが、すぐに「身内びいきですかね」と照れ笑いを浮かべた。
その様子をみた青年が口を開く。
「仲間を信頼するのは当たり前だ。仲間に応援されて嫌な奴はいない」
驚いて目を見開いた弓使いに対し、青年は「だから照れる必要はないだろう」と続けた。
「だが、魔法使いの戦闘は初撃が大事だ。特に魔法使い同士ならばな」
「……というと?」
「それはだな――」
弓使いの質問に青年が口を開いたと同時、二人の背後がにわかに騒がしくなった。先ほどまでもうるさくはあったのだが、一段と大きくなった歓声に青年は顔をしかめる。
「ケラスさん、あれ!」
これは耳をやるかもしれん……と危惧した青年は、隣からも弓使いの大声を浴びせかけられた。
「……」
しかし、青年はここで弓使いを睨む気にもなれず、少しの逡巡の末カルミアとリースペトラに視線を戻す。
「――っ」
そこで見たのは、杖を落としリースペトラの前で跪くカルミアの姿だった。
ジェスの合図が広場に響く。
「我が力、灯火になりて疾風のごとく――」
それにいち早く反応したのはカルミアの方だった。杖を地面と垂直になるようまっすぐ構え、呪文を諳んじる。
(火魔法……)
観衆の声の隙間を縫って聞こえてくるカルミアの呪文から発動する魔法に当たりをつけたリースペトラ。
カルミアに追従する形で詠唱を開始し、緩く前にかざした右手に魔力を集中させていく。
「貫け、炎槍の名手!」
「間隙の層」
詠唱が終わったのはほぼ同時。カルミアの杖の先端にあしらわれた魔水晶の輝きが増し、炎の槍が顕現。
うねる槍は風を切り、空気を燃料に素晴らしい速度と火力を以ってリースペトラを射抜かんと迫る。
狙うは顔面。保護魔法があろうが痛みはある。カルミアはそれを理解した上で、これが本当の殺し合いだと想定して急所を狙った。
そしてその狙いは寸分違わない。魔法を放ったカルミア、そして青年やシルヴィアも飛来する魔法を見て確信した。
しかし、リースペトラの蒼い瞳は冷めたまま炎槍を見つめ、そこから動かず顔の前に右手を持っていく。
「直撃だ!」
「こりゃひとたまりもねぇ……」
カルミアの魔法がリースペトラの顔面に直撃。ゴォッと勢いを増す炎の音が広場に鈍痛のごとく響く。
しかし、
「柔い魔法だな」
「――カハッ!?」
カルミアの耳がリースペトラの声を真横から捉えたと同時、同じ方向から水の本流がカルミアの横っ腹に炸裂した。
カルミアは想定外の攻撃が自身の身体に直撃してよろめくも、強い意識を以って両足を踏ん張り、地には伏せない。
そして強い感情を目に乗せて前を向いた。
「いい気概だ、我は一撃で仕留めたつもりだったのが……」
そこでカルミアが見たのは、リースペトラの顔の辺りで勢いを弱めていく己の魔法。
先ほどまでの鈍痛のような空気を食う音は既に鳴りを潜めており、カルミアが顔を上げた時には既に種火のようになってしまっていた。
「火起こしには丁度いいな?」
リースペトラは目の前の種火を右手で握りつぶすと、そう言って首を傾けた。
笑う口の端に伸ばした前髪がかかる。
その様子にカルミアはひどくイラつきを覚えた。
「すげぇーーー! 何だ今の!?」
「あれ、直撃したんじゃなかったの?」
「俺見たぜ! カルミアの魔法があの女の前で止まってやがったの!」
観衆は派手な魔法のぶつかり合いに興奮を隠せない。各々が好き勝手に叫びながらカルミアとリースペトラに興味を示す。
リースペトラはある男の声を聞き取ると、口を開いた。
「間隙の層。空間に己を守る魔力の層を作り出す魔法。いわゆる防御魔法だが、通常のモノとは少しアプローチが違う」
リースペトラはこちらを射抜くカルミアに笑いかけると、「聞きたいか?」と問うた。
「あなたに学ぶことは何もないです。私はレクトシルヴァの魔法使いですから」
カルミアは吐き捨てるように答えると、再び詠唱を開始した。リースペトラはカルミアの反応に満足がいかなかったのか、ため息をつくと、追うように詠唱を始める。
「厳しいな……」
二人の様子を見ていた青年が小さく呟く。
「どういうことですか? ケラスさん」
そこにレクトシルヴァの弓使いがやってきて青年に声をかけた。
二人は行動を共にした時間は多くないが、同じ前線基地のメンバーである。度々勧誘を受けていた青年はレクトシルヴァの面々とは比較的交流が多く、会話の頻度も高い。
特にこの弓使いとはたまに酒を共にすることもあった。
「あぁ、カルミアには悪いが、この勝負はあいつ――リースペトラの勝ちで決まりだろう」
「ケラスさん、その言葉は無視できませんね。カルミアは初撃こそくらいましたが、まだまだやれますよ。私は彼女を信じています」
弓使いはそう言う青年に言葉を返すが、すぐに「身内びいきですかね」と照れ笑いを浮かべた。
その様子をみた青年が口を開く。
「仲間を信頼するのは当たり前だ。仲間に応援されて嫌な奴はいない」
驚いて目を見開いた弓使いに対し、青年は「だから照れる必要はないだろう」と続けた。
「だが、魔法使いの戦闘は初撃が大事だ。特に魔法使い同士ならばな」
「……というと?」
「それはだな――」
弓使いの質問に青年が口を開いたと同時、二人の背後がにわかに騒がしくなった。先ほどまでもうるさくはあったのだが、一段と大きくなった歓声に青年は顔をしかめる。
「ケラスさん、あれ!」
これは耳をやるかもしれん……と危惧した青年は、隣からも弓使いの大声を浴びせかけられた。
「……」
しかし、青年はここで弓使いを睨む気にもなれず、少しの逡巡の末カルミアとリースペトラに視線を戻す。
「――っ」
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