転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件

きんちゃん

文字の大きさ
上 下
57 / 85
小平藍

57話 先輩たちと後輩たち

しおりを挟む
「これからよろしくお願いします!」
「お願いします!!!」

 ここはダンスレッスンを行っているいつものスタジオだった。
 新メンバーである5期生8人が、居並ぶ先輩メンバーたちに頭を下げる。
 先輩メンバーたちもそれを温かく拍手で迎え入れる。
 新メンバーが加入する際の伝統的な行事ではあったが、何度見てもこの光景は感慨深い。……いや、というよりも私がWISHに関わるようになってからの月日が長くなるにつれセンチメンタルな感情も強まってゆくような気がする。挨拶をした5期生の彼女たちを見て、そしてそれを温かな眼差しで見つめる先輩メンバーたちを見て、それだけで涙が出そうになってくる。
 ……誰ですか?「歳をとってくると涙腺も緩む」とか言った人は?今後私の握手会は一生出禁にしますね!



 5期生オーディションの最終審査から3週間ほどが経った。
 そしてついに彼女たちが正式にWISHに加入したのだ。
 感慨深くなってしまうのは、私も審査員として関わったという思い入れもあるのかもしれない。
 その中には彼女、小平藍もいた。
 今も少し居心地の悪そうな顔をしながら同期の皆に合わせて頭を下げていた。

 私が今回のオーディションに審査員として関わったことは、他のメンバーたちも知っていた。
 オーディション内容や合格者たちについて尋ねてくるメンバーもいたけれど、もちろん情報は時期が来るまで秘密にしておいた。やはりどんな子たちが後輩メンバーとして加入してくるのか気になるのが当然だろう。

 彼女、小平藍に私が感じた強い直感を、社長に対して全部説明出来たわけではなかった。
 けれど社長は私を信用して彼女を加入させてくれた。
 そして「あの子は、少し変わっているから馴染めるか心配だわ。麻衣、あなたが責任をもってサポートしなさい。ただしあまり目立たないような形でね」とも言ってくれた。
 社長の器の大きさはやはりこうした所に表れる。こうした形で信頼を示されると、この人に付いていこう、という気持ちにさせられてしまう。

 それに伴い、半年間限定だった私のメンバーとしての活動も期間を延長することになった。あと2か月と少しで活動期間は終わる予定だったわけだが、彼女をサポートするためには同じメンバーとして活動する方が何かと都合が良いだろうと判断して、私からそれを申し出たのである。
 だが、まあ、大人のズルさというか……それに関しては特に公式な発表をしないことにもなった。しれっとメンバーとして活動しつつ、いつの間にかマネージャー業務に戻りました……というフェイドアウト方式を採る方針だ。
 ファンを悲しませることになるかもしれないという危惧はもちろんあったが、宣言通り半年で辞めたところでコアなファンは悲しむだろうし、「やっぱりもっと続けます」と宣言したところで怒り出すファンも間違いなくいるわけで、結局のところ誰も傷付けない方法などはないのだろうから、これもアリなのかもしれない。





「こんにちは、小田嶋麻衣です!皆さんがこうしてWISHに入ってくれて本当に嬉しいです!……あの、私は一応メンバーでもあるんだけど、マネージャーの方が本業みたいな感じだから、何でも聞いて下さいね。最初は本当に分からないことだらけだと思うので」
 
 先輩たちとの対面の後、5期生の皆と個人的に顔を合わせるタイミングが出来たので私はそう挨拶をした。
 もちろん一番気になっていたのは彼女……小平藍だったが、その他のメンバーにも平等に接しなければという気持ちもあったし、実際どの子も魅力的だった。
 8人全員が10代で、中には14,5歳の子たちもいる。
 もちろん今いるメンバーにも同程度の年齢差のある子たちもいたが、その子たちと比べてもどこかフレッシュな雰囲気は段違いだった。

「あ、小田嶋さん……オーディションの時もいらっしゃいましたよね?」

「あ、はい、えっと……須藤琴音すどうことねさんね。もちろん覚えているわよ」

「え、本当に覚えていて下さったんですか?嬉しいです!」

 琴音ちゃんは、パッと笑顔を咲かせ大袈裟なくらい表情を明るくした。
 その反応に、思わず私も釣られてしまいそうになる。
 意識的なのか無意識なのか定かではないが、自然とそういう態度が出てしまうのは彼女の天性のアイドル気質を示しているだろう。

「あの、小田嶋さん……私のことも覚えてらっしゃいますか?」

「もちろん覚えているわよ、小島さん」
 
 須藤さんに続いたのは、私のファンだと言ってくれた小島慈子こじまちかこちゃんだった。彼女以外の全員の名前を私は覚えていたが、それは多分私のマネージャーとして経験によるところが大きい。私以外の先輩メンバーたちは、まだ彼女たちの顔と名前が一致していないというケースが多いだろう。
 
 ふと彼女と目が合う。小平藍だ。
 他の新メンバーたちがWISHの一員としての活動が遂に始まり、憧れだった先輩たちとの対面を果たしたり……という状況に明らかにハイテンションになっているのに対し、彼女はほとんどそうした反応を示さなかった。最低限の自己紹介をして以降はほとんどニコリともしなかった。だけど、興味が無いわけでないことはその真剣な表情から伝わってきた。
 
(彼女はつい最近まで外国にいた……と自分で言っていたけれど、彼女の雰囲気が独特なのもその影響なのだろうか?)

 ふと私は思ったが、別にその時はそこまで深く考えたわけでもない。
 これからは彼女とも沢山同じ時間を共有するのだ。彼女のことも徐々に知っていけば良い。そんな気持ちだった。

「みんなのお披露目はまだ少し先になると思うから、焦らずゆっくり頑張ってね!」

 あまり長く話過ぎるのも良くないと思い、私は颯爽とその場を後にした。



「何なんですか、麻衣さん……」

「……な、え、舞奈!?」

 5期生たちの元を颯爽と去った直後に出くわしたのは舞奈だった。
 どうやら先ほどの様子をすべて見られていたらしい。

「『焦らずゆっくり頑張ってね!』……ってすごい先輩ヅラするじゃないですか。ついこの前まで自分が一番後輩メンバーだったクセに」

 舞奈は笑い出しそうになるの必死に堪えている表情を作り、私を揶揄からかってきた。
 もちろん舞奈がそう来るのなら、こちらもそれに応えてあげるのが礼儀というものだ。

「あら?舞奈ちゃんは、私が自分より若くてフレッシュな新メンバーたちに取られてしまったみたいで嫉妬しているのかしら?……ごめんなさいね、私も何分顔が広くて舞奈ちゃん一人に構って上げられなくなってきてしまったの」

 5,6歳の年齢差があるのに同じ目線でやり返すのは大人げない……などという意見は一切受付けていない。

「な……そういうことじゃなくて、私は真剣な話をしようと思って来たんです!」

 すぐムキになっちゃって相変わらず舞奈は可愛いなぁ……と思っていたが、どうやら舞奈が言いたいのはそれだけではなさそうだった。

「麻衣さんは……アイドルとしての自分にもう興味が無いんですか?」

 急に核心を突かれてドキリとする。返事の言葉が出て来なかった。

「ちょっと悔しいから、あんまり言いたくもないですけど……麻衣さんは今アイドルとしての道が思いっきり開けてるんですよ?気付いてないわけないですよね?」

「それは……どういう意味なのかしら?」

 勿体付けて返事をしたが、もちろん舞奈の言いたいことは何となく分かっていた。

「マネージャーからの転身で注目を浴びて、正式にメンバーとして認められて、人気も出てきて、この前のシングルでは裏センターまでやって……どう考えてもWISHのセンターを目指す場所まで来てるじゃないですか?どうしてもっと自分が前に出て行こうとしないんですか?もうアイドルとしての自分には興味無いんですか?それともマネージャーの方が良かったって後悔しているんですか?」

「……いや、そんなことはないけど……」

 舞奈の質問攻めに息が詰まる。

「そうですよね。歌って踊る麻衣さん……レッスンの時だっていつも楽しそうでしたもんね?」

「それはそうよ。……でも、私の将来のこととかは社長が決めることでもあるし……」

「ウソです……社長だって、麻衣さんの希望を絶対に叶えてあげたいと思ってるに決まってます!麻衣さんがやりたいって言えば麻衣さんセンターの曲だって作ってくれるんじゃないですか?……もちろん、自分じゃなく後輩や他のメンバーを立ててあげたいっていう麻衣さんの気持ちも理解出来ます。ずっとマネージャーとしてやってきてくれたんですからね……。でも、それはもう少し後になってからでも出来ることなんじゃないですか?」

 舞奈の思いがけず熱い気持ちを聞かされて、嬉しくもあったし……そしてその時になって初めて、自分がアイドルとしてセンターに立つということにあまり興味を持てなくなっていることに気付かされた。

「……そうね、舞奈の言う通りかもしれない。私はやっぱり誰かを後ろから支えてあげる方が好きなのかもしれないわね……」

 選抜メンバーとして活動しつつも迷っていた心の答えが、図らずも今出てしまったという感じだ。

 多分それが私の資質なのだ。
 自分がセンターに立つためにどうするか?という考え方が出来る子がいる。そういう子は間違いなくアイドルとして強い。
 私はそうではなかった。
 全体の調和や、注目を浴びていない側ばかりに目がいってしまう生粋の裏方気質なのだ。
 小田嶋麻衣として転生しても、元の松島寛太の性格は完全には変わらなかったようだ。
 そして小平藍の登場である。彼女が表れた時、私はこの子を支えなければならない……ほとんど使命のように強くそれを感じた。

「そうね、今回オーディションの審査員をして余計に思ったの。これからの若い子たちを売り出すためにどうするか?それを考える方が私は性に合っているのかもしれないわね……」

「……まあ、それも大事なことだとは思いますよ。新しい風が入ることでWISH全体に活気が満ちて、良い影響が出るのは間違いないですよ。みんなすごく可愛いですし、守ってあげなきゃって思いますよ。……私としてはちょっと悔しい気持ちもありますけどね」

 生意気で自分本位な子だとばかり思っていた舞奈も、先輩としての自覚が出てきたようだ。そんな成長が感じられてまた少し嬉しくなる。

「……舞奈……」

「あ、でも何か一人だけ、すごい眼付きの悪い子いません?私、あの子とは仲良くなれないかもしれないです。生理的にというか直感ですけど」

 舞奈の言葉で感動しかけていただけに、続く一言で思いっきり不安にさせられてしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界で一番の紳士たれ!

だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。 リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。 リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。 異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...