転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件

きんちゃん

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アイドル転向!?

38話 まとめサイトの巡回はほどほどに!

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「麻衣?……この記事を見て欲しいんだけどね……」

 妙におずおずとして態度で社長がスマホをこちらに差し出してきた。

「何ですか?……3ちゃんねるのまとめ記事じゃないですか、もう……」

 匿名掲示板のまとめサイトの記事だった。
 もちろんWISHは日本で最も人気のあるアイドルグループで、規模も大きくメンバーも多い。
 情報量が圧倒的に多いので、オタクたちもこうした掲示板でも無限に語り合っているようだ。
 深読みを生き甲斐とするオタクたちにとっては、語り合う情報が幾らでも手に入る素晴らしい時代なのだろうが……匿名掲示板などというものには酷い罵詈雑言が書き込まれていることもあるし、何より発言者には何の根拠も責任もなく好き勝手言っているだけだ。純粋に悪意でもって発言している者もいるだろう。
 メンバーや、ましてや社長のような運営の中枢に立つ人間がこうした情報に触れることはあまり褒められたものではないだろう。

 私はため息をつきながらも、仕方なく社長が差し出したスマホに目を向けた。
 そしてスレッドのタイトルを見た瞬間、息を吞んだ。



『小田嶋麻衣とかいうマネージャーが一番ビジュアル強いのおかしくね?』



「……え、え?は、y、j、w1p……」

 まさか自分のことが取り上げられているとは思わず、その衝撃に呼吸は詰まり、動悸と眩暈が押し寄せてきた。

「ちょっと、麻衣!大丈夫?……一回深呼吸して!」

 社長が慌てて背中をさすりに来た。

(え?ウソだろ?……なんでWISHのスレでメンバーのことじゃなくて、俺のことが取り上げられてるんだよ!っていうか本当にこれ俺のことか?……うん、どう見ても『小田嶋麻衣』って書いてあるな)

「……はい、すいません。大丈夫です……」

 意識的に呼吸をして何とか正気を保つ。

「ごめんね、それはショックよね……でも、アイドルよりも美人なんて言われるの……すごくない? 」

 社長が心配するフリをして何か言いたげなのを察し、流石にそれに対して返事をする気にはなれず、黙って差し出されたスマホに目を落とす。

 そこには『マネージャー小田嶋麻衣』について様々に語られていた。



「黒木希様の『密着大陸』にこっそり出演して、ちゃっかり地上波デビューを飾る我らが麻衣タン!」
「見てた!地上波に出られないWISHのメンバーも全然多いのに、黒木希というエースのバーターで出て、いつの間にか本家を食っちゃってたやつね」
「地味な就活生的な服装でも隠し切れない美人アイドルオーラ。不人気メンにも分けてやれよ。つーか不人気メンはどう思ってるんだろうな?『国民的アイドルです』って自分で名乗っておいて、マネージャーより明らかにルックス劣ってるのって死にたくならないのかな?」
「そういう不人気メンに引導を渡す意味もあるのかもな」
「はあ……雑魚メン処刑人麻衣タン……俺も首刈られたいよぉ」

(……怖!何コレ?これが3ちゃんねる……ていうかそうか、希の『密着大陸』に私も映ってたってことか。いやでもそこから名前まで割り出すなんて、オタクの諜報能力怖すぎるよぉ……)

 私の知らないところで、私の存在について、あまりにも好き勝手悪意混じりに語られることは、控えめに言って恐怖だった。
 だけどそれでも自分について語られていれることだと知ると、画面のスクロールを止めることは出来なかった。

「いやでもマジで冷静に聞きたいけど、何でマネージャーなんてやってるんだろうな?」
「そりゃあメンバーで入る予定だったけど、彼氏がいるのがバレて仕方なく社員として入れてもらったんだろ?知らんけど」
「ってことは、毎日彼氏とラブラブか。……くぅ、たまらん!」
「おい、やめろ!俺の麻衣タンをHな想像で汚すな!」
「おいおい。Hな想像?まったく、ここには童貞しかいないのかよ。……ふぅ」

(社長!この辺りのクソレスも読んだ上でこれを私に見せているのですか!?……24歳にもなったんだから多少は下ネタにも耐性を付けなきゃってこと?)

「やめろ。くだらん」
「いやでもマジで、意味わからんくね?『アイドル大好きです!』っつうならあのルックスならどこのグループでも引く手数多あまたでしょ?逆に人目に付くのが嫌ならこんな仕事じゃなくて他に幾らでもあるだろ? 」
「社長の愛人枠だよ。よっぽど金に困ってるんじゃね?……はぁ、麻衣タン養ってあげたいよぉ、俺なら幸せにしてあげられるのになぁ」
「黙れ。時給350円のバイトのくせに」
「いや、あの、俺日本に住んでるよ?最低賃金は?」
「(株)コスモフラワーエンターテインメントはアイドルグループWISHのマネジメントを主な業務として行っている会社である。社長は高木真由子たかぎまゆこ
「突然どうした?明らかにコピペしてきたような文章だな」
「麻衣タンの会社の社長は女性だよ。社長の愛人枠じゃないね」
「あちゃ~」「じゃあ余計に何でマネージャーやってるんだ?」
「バカかお前ら!これだけLGBTQと声高に叫ばれる時代に。時代錯誤も甚だしいぞ!女同士でも愛人である可能性はあるだろうが!!!」
「な」「は」「え、マジかよ!」「天才キタ!」
「何だよ、お前ら百合もイケる口かよ、まったく……ふう」
「待て待て、妄想でお楽しみのところを邪魔して悪いかもしれんが、社長っつったら結構な年齢だろ?」
「たしかに……ちょっと萎えたわ」
「バカ、逆に想像してみろ。麻衣タンのあのプリティフェイスが経験豊富なエロBBAの培ってきたテクで快楽に歪む姿を……結構イケると思わないか?」
「え、マジかよ!」「たしかに!……ちょっと復活してきたわ!」
「変わり身早いな、おい!」
「いやむしろ逆の逆に考えてみろよ。麻衣タンが30歳を超えている可能性はないのか?」
「え、マジかよ!」
「麻衣タンBBA説の提唱者」
「え、あの顔だったら30超えてても全然ありじゃね?むしろあれで優しくリードしてくれるとか考えたら……至高じゃね?」

(コラ!全然知りもしないのに失礼なこと言うな!実年齢的にはまだ24歳だわ!)

 心の中でツッコミを入れながらも、このまま下らないレスが延々と続くようなら流石に社長にキレようかと思っていたが、話は本筋(?)に戻っていった。

「もう良いよ、童貞ども。いい加減にしろ。エロネタは別で探せ。なぜ国民的アイドルWISHのメンバーよりも顔面が強い人間がマネージャーをやっているのか?それを考えるのが主旨だろ」
「そんなもん本人しか分かるわけないだろ?それぞれの事情があるんだろうし、オタク同士がゴチャゴチャ語ったって何の意味もないだろ」
「出た!このスレの存在意義を否定するやつ!」「それを言っちゃあ、おしまいよ……」
「良いだろ、好きに妄想を語る分には」
「だから社長の百合愛人枠なんだって!」
「分かった!枕営業の人身御供ひとみごくう用としてだよ。芸能界だからWISHのメンバーにも枕営業の誘いは結構来るんだろ?知らんけど。そういったところにメンバーの代わりに行って……それでWISHのお仕事を獲得してくるんだよ」
「え、マジかよ!」「まさかのWISHの人気は麻衣タンのご奉仕によって成り立っている説」
「だからエロネタはもういいんだって……」
「え、でもそんなお飾りのマネージャーじゃなくね?普通にテキパキ動いてたし、何ならむしろちょっと怖かったくらいだぜ?」
「ん?」「は?」「え、マジかよ!」
「……待て待て、お前は生の麻衣タンを見たことがある。そう主張しているのか?」
「え、普通にあるけど。生の姿を見た上でこれだけ盛り上がってるんじゃないのか、このスレは?」
「マジか!」「裏山!」
「いつだ!どこでだ!どんな手を使った!」
「いや、どんな手も何も、普通に握手会の手荷物の受け渡しとかしてたし、握手券の回収もしてたぜ?最近は見てないけど何回か見かけたよ。たしか桜木舞奈のレーンだったと思う」
「あー、希パイセンの次は、たしか舞奈ちゃんに付いてたって話は聞いたことあるね」
「ぷ。桜木舞奈。永遠の次期エース」
「黙れ。お前の目は節穴か?どう見たって次に来るのは舞奈だろ!」
「え、待って。それって本当に麻衣タンだったの?ソースは?」
「ソースも何も普通に舞奈本人が言ってたよ。その頃は舞奈レーンも割と過疎っててさ、ループしてたら話題もなくなってきたから『あの人すごい美人だよね、社員さんなの?』って聞いたんだよ。そしたら『ね。そうでしょ!小田嶋麻衣さん。私のマネージャーさんなんだよ。すっごく良くしてくれてるんだよ!』って誇らし気に答えてくれたよ」
「ほう」「少しは信用できそうだな」
「いや……ダメでしょ舞奈ちゃん。個人情報漏らしちゃ」
「だが、このスレがこれだけ充実してきたのはその情報があったからではないのか?」

(舞奈~!!!勘弁してよ、もう。……ここから私の情報が漏れたってこと?)

 その後も延々と続いていたが、ほとんどバカバカしい妄想話だった。
 だがまとめサイトの末尾は次のように結ばれていた。

「冗談抜きに麻衣タンの握手レーン作ったら結構盛況なのでは?」
「たしかに。マネージャーの苦労話とか聞いてみたいな」
「メンバーの裏側の話とかな」
「まあ難しければ、そういうの抜きでも一回くらい普通に握手してみたいかも」


 顔を上げると社長と目が合った。
 妙にニコニコした作り笑顔は相変わらずだった。

「社長……あの、これ本当に全部読んだんですか?なんか結構下ネタもあったし、ヒドイことも言われてたし、何なら社長の悪口っぽいのもあったんですけど……」

「あ、え!そうなの?ちょっと忙しくて最初と最後くらいしかちゃんとは読んでないかも……そもそも私、長い文章読むのが苦手なのよね……あんまり長いと頭痛で頭が痛くなってくるっていうか……」

 その後もごにょごにょ言っていたが、まあ要はちゃんと読んではいなかったのは間違いない。
 それでもこれを読ませたということは、その中に自分の言いたいことが含まれていたということなのだろう。

 社長はゴホンとわざとらしく咳ばらいを一つすると、私をビシッと指差して告げた。

「麻衣!これは業務命令よ!あなたはWISHのメンバーとして、ステージに立ちなさい!」

 芝居がかったその仕草は妙にさまになっていた。


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