61 / 71
61話
しおりを挟む
「吉川!」「っしゃ~!」
安東と高島が俺の元に駆け寄ってきた。
俺も思わずガッツポーズを取る!
これで同点だ!いよいよ勝負は振り出しに戻ったのだ!
「おい、ふざけんなよ!あんなのアリかよ!?」
一際大きな声がしたので振り向くと中野先輩が審判の武井さん猛烈な抗議をしていた。
武井さんは困ったような表情を一瞬浮かべたが、首を横に振り中野先輩の抗議を却下した。
まあ中野先輩の気持ちも分からなくはないが、これは間違いなくルール上問題の無いゴールだ。……怒られても仕方ないくらいのギリギリのプレーなのは間違いないだろうが。
「何でだよ!……アンタ今井のツレだから、1年チームの味方なのかよ?」
なおも納得のいかない中野先輩は、武井さんと今井キャプテンとの関係性にまで言及し出した。これは流石に言い掛かりという他ないだろう。
「……良いって、中野。もう一点取れば良いだけだろ?」
怒りの収まらない中野先輩の肩を抱き、なだめたのは翔先輩だった。
翔先輩に言われては……という姿勢をありありに、中野先輩も抗議をやめて自分のポジションに戻っていった。
中野先輩の抗議の凄まじさに同点の喜びも半減させられた俺たちも、ハッと我に返る。
「まだ同点だぞ!」
後ろから今井キャプテンからのゲキが飛ぶ。
……そうだ、3-3の同点。試合はここからが本当の勝負と言って良い。
固まって喜び合っていた俺たちも一瞬だけうなずき合い、自陣に急いで戻ってゆく。
ハーフウェイライン付近で中野先輩・翔先輩とすれ違う。2人は試合再開を急ごうと、すでにボールをセットしていた。
中野先輩の鋭い視線が俺に突き刺さる。
一瞬怯みかけるが……俺は何も反則行為をしたわけではないのだから、と思い直し真っ直ぐにその視線を受け止める。別に試合が終わった後なら殴られても構わない。そんな気持ちだった。
対する翔先輩は何やら薄っすらと笑っていた。どこか歪んだ肩頬を釣り上げたような苦笑。いつもクールな翔先輩のそんな表情は今まで見たことがなかったし、あまり見たくはなかった表情な気がする。……だがそんな表情を引き出したのも俺のプレーなのだ。それを俺は受け止めなければならないだろう。
何も言わず表情で語ると思われた翔先輩だったが、おもむろに口を開いた。
「おい、吉川。お前たかだかこんな部内のミニゲームで何をそんなにムキになってるんだよ?……そもそもこのゲームに勝ったからって、俺らが約束をきちんと守る保証なんてないだろ?」
苦笑しながら放たれた一言はこのゲームの自体意味を疑うものだった。
だがまあ……言われてみれば、たしかにその通りだ。
部活なんて、サッカーなんて、強制されてやるものじゃない。
『1年チームが勝ったら2年は部活に戻ってしっかりとサッカーに励め!』なんていうこの試合の前提条件は、そもそも本来は何の意味もない。
俺たちが勝ったところで先輩たちが本当に部活に戻ってくる保証はないし、仮に戻ってきたとしても、強制されてサッカーをして一体何が楽しいのだろう?何の意味があるのだろう?
だから翔先輩の言うことは一理あるどころか、大いにもっともな言葉だった。
だけど俺の口から出た返答は、そんな気持ちとは真逆のものだった。
「……じゃあアンタはそれで良いのかよ?」
一瞬にして場が凍り付いていくのが、ひしひしと伝わってくる。
俺が先輩に対してこんな口の利き方をしたことは今まで一度だってなかったからだ。
ヤバイ!……何とか冗談にして今の一言をなかったことに出来ないものだろうか?
だが、そんな考えとは真逆に俺の口調は……俺の意志とは関係なく激しさを増していった。
安東と高島が俺の元に駆け寄ってきた。
俺も思わずガッツポーズを取る!
これで同点だ!いよいよ勝負は振り出しに戻ったのだ!
「おい、ふざけんなよ!あんなのアリかよ!?」
一際大きな声がしたので振り向くと中野先輩が審判の武井さん猛烈な抗議をしていた。
武井さんは困ったような表情を一瞬浮かべたが、首を横に振り中野先輩の抗議を却下した。
まあ中野先輩の気持ちも分からなくはないが、これは間違いなくルール上問題の無いゴールだ。……怒られても仕方ないくらいのギリギリのプレーなのは間違いないだろうが。
「何でだよ!……アンタ今井のツレだから、1年チームの味方なのかよ?」
なおも納得のいかない中野先輩は、武井さんと今井キャプテンとの関係性にまで言及し出した。これは流石に言い掛かりという他ないだろう。
「……良いって、中野。もう一点取れば良いだけだろ?」
怒りの収まらない中野先輩の肩を抱き、なだめたのは翔先輩だった。
翔先輩に言われては……という姿勢をありありに、中野先輩も抗議をやめて自分のポジションに戻っていった。
中野先輩の抗議の凄まじさに同点の喜びも半減させられた俺たちも、ハッと我に返る。
「まだ同点だぞ!」
後ろから今井キャプテンからのゲキが飛ぶ。
……そうだ、3-3の同点。試合はここからが本当の勝負と言って良い。
固まって喜び合っていた俺たちも一瞬だけうなずき合い、自陣に急いで戻ってゆく。
ハーフウェイライン付近で中野先輩・翔先輩とすれ違う。2人は試合再開を急ごうと、すでにボールをセットしていた。
中野先輩の鋭い視線が俺に突き刺さる。
一瞬怯みかけるが……俺は何も反則行為をしたわけではないのだから、と思い直し真っ直ぐにその視線を受け止める。別に試合が終わった後なら殴られても構わない。そんな気持ちだった。
対する翔先輩は何やら薄っすらと笑っていた。どこか歪んだ肩頬を釣り上げたような苦笑。いつもクールな翔先輩のそんな表情は今まで見たことがなかったし、あまり見たくはなかった表情な気がする。……だがそんな表情を引き出したのも俺のプレーなのだ。それを俺は受け止めなければならないだろう。
何も言わず表情で語ると思われた翔先輩だったが、おもむろに口を開いた。
「おい、吉川。お前たかだかこんな部内のミニゲームで何をそんなにムキになってるんだよ?……そもそもこのゲームに勝ったからって、俺らが約束をきちんと守る保証なんてないだろ?」
苦笑しながら放たれた一言はこのゲームの自体意味を疑うものだった。
だがまあ……言われてみれば、たしかにその通りだ。
部活なんて、サッカーなんて、強制されてやるものじゃない。
『1年チームが勝ったら2年は部活に戻ってしっかりとサッカーに励め!』なんていうこの試合の前提条件は、そもそも本来は何の意味もない。
俺たちが勝ったところで先輩たちが本当に部活に戻ってくる保証はないし、仮に戻ってきたとしても、強制されてサッカーをして一体何が楽しいのだろう?何の意味があるのだろう?
だから翔先輩の言うことは一理あるどころか、大いにもっともな言葉だった。
だけど俺の口から出た返答は、そんな気持ちとは真逆のものだった。
「……じゃあアンタはそれで良いのかよ?」
一瞬にして場が凍り付いていくのが、ひしひしと伝わってくる。
俺が先輩に対してこんな口の利き方をしたことは今まで一度だってなかったからだ。
ヤバイ!……何とか冗談にして今の一言をなかったことに出来ないものだろうか?
だが、そんな考えとは真逆に俺の口調は……俺の意志とは関係なく激しさを増していった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
リストカット伝染圧
クナリ
青春
高校一年生の真名月リツは、二学期から東京の高校に転校してきた。
そこで出会ったのは、「その生徒に触れた人は、必ず手首を切ってしまう」と噂される同級生、鈍村鉄子だった。
鉄子は左手首に何本もの傷を持つ自殺念慮の持ち主で、彼女に触れると、その衝動が伝染してリストカットをさせてしまうという。
リツの両親は春に離婚しており、妹は不登校となって、なにかと不安定な状態だったが、不愛想な鉄子と少しずつ打ち解けあい、鉄子に触れないように気をつけながらも関係を深めていく。
表面上は鉄面皮であっても、内面はリツ以上に不安定で苦しみ続けている鉄子のために、内向的過ぎる状態からだんだんと変わっていくリツだったが、ある日とうとう鉄子と接触してしまう。
私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜
赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。
これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。
友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!
私の守護者
安東門々
青春
大小併せると二十を超える企業を運営する三春グループ。
そこの高校生で一人娘の 五色 愛(ごしき めぐ)は常に災難に見舞われている。
ついに命を狙う犯行予告まで届いてしまった。
困り果てた両親は、青年 蒲生 盛矢(がもう もりや) に娘の命を護るように命じた。
二人が織りなすドタバタ・ハッピーで同居な日常。
「私がいつも安心して暮らせているのは、あなたがいるからです」
今日も彼女たちに災難が降りかかる!
※表紙絵 もみじこ様
※本編完結しております。エタりません!
※ドリーム大賞応募作品!
片翼のエール
乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」
高校総体テニス競技個人決勝。
大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。
技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。
それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。
そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる