60 / 71
60話
しおりを挟む
もんどりうって倒れた尻の痛みを押さえつけながら振り返ると、そこにいたのは敵チームのキーパー岸本先輩だった!
ここはハーフウェイライン付近、まだ2年チームの陣地にも差し掛かっていない場所だ。岸本先輩がここまで出てくるとはまるで予想もしていなかった!
岸本先輩は生粋のゴールキーパーではない……それどころかほとんどキーパーの経験などないだろう。それが逆にこれだけ大胆な飛び出しを可能にしたのかもしれない。
「正洋!」
不意に声が掛かった。
太一の声だ!なぜか俺は確信した。
太一が最後尾からここまで届くような大声を出すことなど、信じがたいことではあるのだが……それは間違いなく太一の声だった。
一瞬呆然としていた俺はその声に正気を取り戻すと、ルックアップして現状をもう一度把握する。
たしかにボールはピッチ外に出ていたが、まだ2年チームのディフェンスは戻り切れてはいなかった。リスタートを素早くすれば再びチャンスになるかもしれない。
俺は素早く再開するためにボールに飛び付き、スローインの体勢を取った。
……だが、味方の1年チームの上がりはそれ以上に遅いものだった。
先ほどまで決定的なピンチだった状況を考えれば仕方のないことだが……こんな時快足を飛ばしてくる吉田が居れば、などと一瞬だけ思った。無論そんなたらればを考えても今は何の意味もない。
スライディングでディフェンスした岸本先輩も、背中を向けて自陣のゴールに慌てて戻っていくのが見えた。
(……!)
その姿を見て俺は一つのアイデアが浮かび、それが果たして実現可能なプレーなのか……などと検討する前に実行していた。
頭上にボールを持ちスローインの体勢を取っていた俺は、そのボールを岸本先輩の背中にぶつけたのだ!
驚いた岸本先輩が振り返る。まるで幽霊にでも出くわしたかのような不可解と恐怖が入り混じった表情だった。
その表情を見て俺はほんの少し嬉しくなる。……本当に俺も性格が悪くなったものだ。言うまでもなくそれは全部太一のせいだ。
岸本先輩の背中に当たったボールは、従順な子犬のように俺の足元に戻ってきた。
ここまでのプレーが狙い通りに出来ていた俺にとっては、ハーフウェイライン付近から無人のゴールに流し込むという仕事が、さして難しいものとは思わなかった。ただただ岸本先輩にぶつけないように……それだけを意識してインフロントでボールを蹴る。
足に残っている確かな感触が100%狙い通りのキックが出来たことを教えてくれる。
ふわりと弧を描いたボールは緩やかな内巻きのカーブを描きゴールに吸い込まれていった。
同点だ。
少し補足をしておくと、サッカーでフリーキック・コーナーキック・スローインといったセットプレーでは、セットプレーを蹴った(投げた)本人が続けてもう一度ボールに触ることは反則になる。
しかしセットプレーを行った本人以外の誰かがボールに触った後ならば自由にプレーして良い。
味方の上がりを見込めない状況だった俺は、一度敵チームの岸本先輩にボールを当ててからマイボールを確保し、そしてシュートを決めた……ということだ。
まさか俺からそんなアイデアが出てくるとは思いもしなかった。
数秒前の自分のプレーを思い出すと……俺の手は震えていた。
ここはハーフウェイライン付近、まだ2年チームの陣地にも差し掛かっていない場所だ。岸本先輩がここまで出てくるとはまるで予想もしていなかった!
岸本先輩は生粋のゴールキーパーではない……それどころかほとんどキーパーの経験などないだろう。それが逆にこれだけ大胆な飛び出しを可能にしたのかもしれない。
「正洋!」
不意に声が掛かった。
太一の声だ!なぜか俺は確信した。
太一が最後尾からここまで届くような大声を出すことなど、信じがたいことではあるのだが……それは間違いなく太一の声だった。
一瞬呆然としていた俺はその声に正気を取り戻すと、ルックアップして現状をもう一度把握する。
たしかにボールはピッチ外に出ていたが、まだ2年チームのディフェンスは戻り切れてはいなかった。リスタートを素早くすれば再びチャンスになるかもしれない。
俺は素早く再開するためにボールに飛び付き、スローインの体勢を取った。
……だが、味方の1年チームの上がりはそれ以上に遅いものだった。
先ほどまで決定的なピンチだった状況を考えれば仕方のないことだが……こんな時快足を飛ばしてくる吉田が居れば、などと一瞬だけ思った。無論そんなたらればを考えても今は何の意味もない。
スライディングでディフェンスした岸本先輩も、背中を向けて自陣のゴールに慌てて戻っていくのが見えた。
(……!)
その姿を見て俺は一つのアイデアが浮かび、それが果たして実現可能なプレーなのか……などと検討する前に実行していた。
頭上にボールを持ちスローインの体勢を取っていた俺は、そのボールを岸本先輩の背中にぶつけたのだ!
驚いた岸本先輩が振り返る。まるで幽霊にでも出くわしたかのような不可解と恐怖が入り混じった表情だった。
その表情を見て俺はほんの少し嬉しくなる。……本当に俺も性格が悪くなったものだ。言うまでもなくそれは全部太一のせいだ。
岸本先輩の背中に当たったボールは、従順な子犬のように俺の足元に戻ってきた。
ここまでのプレーが狙い通りに出来ていた俺にとっては、ハーフウェイライン付近から無人のゴールに流し込むという仕事が、さして難しいものとは思わなかった。ただただ岸本先輩にぶつけないように……それだけを意識してインフロントでボールを蹴る。
足に残っている確かな感触が100%狙い通りのキックが出来たことを教えてくれる。
ふわりと弧を描いたボールは緩やかな内巻きのカーブを描きゴールに吸い込まれていった。
同点だ。
少し補足をしておくと、サッカーでフリーキック・コーナーキック・スローインといったセットプレーでは、セットプレーを蹴った(投げた)本人が続けてもう一度ボールに触ることは反則になる。
しかしセットプレーを行った本人以外の誰かがボールに触った後ならば自由にプレーして良い。
味方の上がりを見込めない状況だった俺は、一度敵チームの岸本先輩にボールを当ててからマイボールを確保し、そしてシュートを決めた……ということだ。
まさか俺からそんなアイデアが出てくるとは思いもしなかった。
数秒前の自分のプレーを思い出すと……俺の手は震えていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ほつれ家族
陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。
イルカノスミカ
よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。
弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。
敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる