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46話
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「太一、ライン上げるぞ」
「あ、そうなの。オッケー」
俺は後方にいた太一にそう声をかけたが……返ってきたのは相変わらずのふわふわした声だった。
俺はこの試合に没頭するうちに、アドレナリンが出てきている自分を感じていたが、太一はまるでいつもと変わらない様子だった。一体アイツの精神はどうなっているのだろうか?
吉田の投入によって前線からのプレスが効いていた。そして2年チームはポジショニングと運動量の怠慢さから、2トップと後ろの距離が空いてきていた。
ここで勝負をかけるしかない!……と俺は判断して太一にラインを上げる旨を伝えたのだった。
俺たちの守備の安定は、後ろまでしっかり戻って陣形を整えた上でのものだった。だが、現状は2点負けているわけだ。リスクを冒してでも点を取りにいかなければならないし、それは相手が混乱している今なのだ!
点を取るためのリスクを冒す方法は色々考えられる。一つは単純に守備の人数を減らし攻撃の人数を増やすことだが……これはボールを取られた時のリスクが大き過ぎる。俺たちが選んだのは「ボールを奪う位置を高くする」ということだ。前線からプレスをかけている吉田に後ろの守備陣も連動して、出来るだけ高い位置でボールを奪おう、という狙いだ。守備が機能してきている……という現状を考えればリスクは比較的少ないかもしれないが、それでもリスクを上げることには違いない。
サッカーは常に攻撃と守備とが表裏一体だ。攻撃のために守備をするとも言えるし、守備のために攻撃をするとも言える。だから相手のゴールに近い位置でボールを奪うことが出来れば、相手の守備陣は整う前に攻撃することができ、チャンスは大きくなるのだ。
「前半、あと1分ね」
審判の武井さんから声がかかった。
俺たちは、先ほどから何度か前線でボールを奪うことに成功し決定的なチャンスを作ってはいたが、まだ得点には至っていなかった。
(……マズイ流れかもしれないな)
運のような非科学的な要素を俺は信じてはいなかったが、サッカーをしていると「目に見えない流れ」のようなものは信じざるを得なくなる時がある。まあ、それは人の気持ちが作り出しているものなのかもしれないが。
チャンスを外し続けていると、有利に進めていても相手に一発のチャンスをものにされ負けてしまう……というのはサッカーでは非常に多い展開だ。だから何としても良い流れが続いているうちに1点をもぎ取っておかなければならなかった。逆にカウンターを食らい2年チームに3点目を取られてしまえば、勝機はほとんどなくなってしまうだろう。
「吉川、打て!」
安東からバックパスが戻ってきた。俺はほぼフリー、安東からのパスも弱めの「ダイレクトでシュートを打て!」という言葉がボールに書かれているかのような優しいパスだった。焦りが強くなってしまいそうになる状況でこのパスを送れることが、安東の冷静さと技術を物語っている。絶好のチャンスだ。
前線からのプレスが効いていた。こちらの右サイド奥で吉田がガチャガチャっと相手と混戦になり、こぼれてきたボールを拾った安東からのパスだった。
俺の前のディフェンスには高野先輩がいたが、まだ詰め切れてはおらずシュートを阻めるような距離ではない。俺は迷わずダイレクトで得意の右足を振り抜いた。
(よし!)
打った瞬間に入った!と思った
絶好のチャンスだと力んでシュートをふかしてしまう……ということは一般的に非常に多いのだが、足がボールに当たった時の感触が非常にスムーズで100%思い通りのキックが出来た。ゴール逆サイドのサイドネット目掛けた低い弾道のシュート、俺としては完璧なシュートだった。
……だが、あろうことか、渾身の俺のシュートは相手GKの岸本先輩に防がれてしまった。
まさかの横っ飛びのナイスセーブだった。キーパーなんて、ほとんどやったことないであろう岸本先輩がなぜんそんなナイスセーブが出来たのか……俺としては小一時間問い詰めたい気分だった。
だが……弾かれたボールの先に詰めていたのは、こちらのチームの竹下だった!
倒れている岸本先輩の上を冷静にトーキックで抜くと、ボールはゴールネットを揺らした。
「あ、そうなの。オッケー」
俺は後方にいた太一にそう声をかけたが……返ってきたのは相変わらずのふわふわした声だった。
俺はこの試合に没頭するうちに、アドレナリンが出てきている自分を感じていたが、太一はまるでいつもと変わらない様子だった。一体アイツの精神はどうなっているのだろうか?
吉田の投入によって前線からのプレスが効いていた。そして2年チームはポジショニングと運動量の怠慢さから、2トップと後ろの距離が空いてきていた。
ここで勝負をかけるしかない!……と俺は判断して太一にラインを上げる旨を伝えたのだった。
俺たちの守備の安定は、後ろまでしっかり戻って陣形を整えた上でのものだった。だが、現状は2点負けているわけだ。リスクを冒してでも点を取りにいかなければならないし、それは相手が混乱している今なのだ!
点を取るためのリスクを冒す方法は色々考えられる。一つは単純に守備の人数を減らし攻撃の人数を増やすことだが……これはボールを取られた時のリスクが大き過ぎる。俺たちが選んだのは「ボールを奪う位置を高くする」ということだ。前線からプレスをかけている吉田に後ろの守備陣も連動して、出来るだけ高い位置でボールを奪おう、という狙いだ。守備が機能してきている……という現状を考えればリスクは比較的少ないかもしれないが、それでもリスクを上げることには違いない。
サッカーは常に攻撃と守備とが表裏一体だ。攻撃のために守備をするとも言えるし、守備のために攻撃をするとも言える。だから相手のゴールに近い位置でボールを奪うことが出来れば、相手の守備陣は整う前に攻撃することができ、チャンスは大きくなるのだ。
「前半、あと1分ね」
審判の武井さんから声がかかった。
俺たちは、先ほどから何度か前線でボールを奪うことに成功し決定的なチャンスを作ってはいたが、まだ得点には至っていなかった。
(……マズイ流れかもしれないな)
運のような非科学的な要素を俺は信じてはいなかったが、サッカーをしていると「目に見えない流れ」のようなものは信じざるを得なくなる時がある。まあ、それは人の気持ちが作り出しているものなのかもしれないが。
チャンスを外し続けていると、有利に進めていても相手に一発のチャンスをものにされ負けてしまう……というのはサッカーでは非常に多い展開だ。だから何としても良い流れが続いているうちに1点をもぎ取っておかなければならなかった。逆にカウンターを食らい2年チームに3点目を取られてしまえば、勝機はほとんどなくなってしまうだろう。
「吉川、打て!」
安東からバックパスが戻ってきた。俺はほぼフリー、安東からのパスも弱めの「ダイレクトでシュートを打て!」という言葉がボールに書かれているかのような優しいパスだった。焦りが強くなってしまいそうになる状況でこのパスを送れることが、安東の冷静さと技術を物語っている。絶好のチャンスだ。
前線からのプレスが効いていた。こちらの右サイド奥で吉田がガチャガチャっと相手と混戦になり、こぼれてきたボールを拾った安東からのパスだった。
俺の前のディフェンスには高野先輩がいたが、まだ詰め切れてはおらずシュートを阻めるような距離ではない。俺は迷わずダイレクトで得意の右足を振り抜いた。
(よし!)
打った瞬間に入った!と思った
絶好のチャンスだと力んでシュートをふかしてしまう……ということは一般的に非常に多いのだが、足がボールに当たった時の感触が非常にスムーズで100%思い通りのキックが出来た。ゴール逆サイドのサイドネット目掛けた低い弾道のシュート、俺としては完璧なシュートだった。
……だが、あろうことか、渾身の俺のシュートは相手GKの岸本先輩に防がれてしまった。
まさかの横っ飛びのナイスセーブだった。キーパーなんて、ほとんどやったことないであろう岸本先輩がなぜんそんなナイスセーブが出来たのか……俺としては小一時間問い詰めたい気分だった。
だが……弾かれたボールの先に詰めていたのは、こちらのチームの竹下だった!
倒れている岸本先輩の上を冷静にトーキックで抜くと、ボールはゴールネットを揺らした。
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